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スゴロク スゴくロクでもないゲーム  作者: 沖光峰津
新章 新たなるゲーム
114/158

第百十四話 「港町」

 小さな町に通じる小道でヘカロと別れる。

 暫く歩くと小高い丘から海が見えた。


「港町じゃな、小さいが活気がありそうじゃぞ」

「海だぞ、美味しい魚が食えるにゃ」


 左右で楽しそうな顔をするスギナとラグを見て恒夫が溜息をつく、


「二人とも元気だな、俺は普段のイベントより疲れてくたくただ」


 直ぐ後ろにいた栄二が声を出して笑う、


「あははははっ、恒夫は擽られてたしね、でも僕もゆっくり休みたいよ、なんか今回は精神的に疲れたよね」

「だな、今日と明日はホテルでゆっくりしようぜ」


 秀樹が同意する横で菜穂が小さく手を上げる。


「賛成、ベッドに転がってダラダラ過ごしたいわね」


 前を歩くラグがバッと振り返る。


「にゃに言ってんだ。海だぞ海、魚食いに行くぞ、海で遊ぶぞ」

「海で遊ぶか…… 」


 スギナが足から根を伸ばして3メートルほど高くなる。


「向こうの砂浜でみんな遊んでおるの、泳げるようじゃぞ」

「ほんとか? 泳げるんだにゃ」


 満面の笑みを浮かべたラグが秀樹たちを見回す。


「水着買って泳ぐぞ、氷のプールじゃ泳げにゃかったからにゃ」

「俺はパス、泳ぐなんて疲れるだけだ」


 速効で反対する恒夫の後ろで秀樹が呟いた。


「海か……クロエと一緒だったら楽しいだろうな」

「本当だね、ネピアと一緒に海で遊びたいね」


 秀樹と栄二の顔がにやけていく、クロエやネピアを思い出したからだけではない、ラグや菜穂の水着姿を想像したのだ。


「今日と明日は休んで三日目にたっぷり遊ぶってのはどうだ? 」

「いいね、遊び疲れても最後の一日でゆっくり休めるからね」


 我慢比べで精神的に参っているが可愛い菜穂とラグとスギナの水着が見れるというスケベ心が勝った。


 伸ばしていた根っこを収容してスギナが元の背丈に戻る。


「お主らの疲れは精神的なものじゃ、体は儂が治したのじゃからな、じゃから海で遊んで発散する事で精神の疲れが取れるはずじゃぞ」

「だな、俺も海で遊ぶのに賛成だ」

「今日ゆっくり休めるなら僕も賛成だよ」


 賛成に回る二人を恒夫がじとーっと見つめる。


「じゃあ、お前らだけで遊びに行けよ、俺はホテルで寝るからな、海で遊ぶより夜中にお姉様の店で遊ぶ方がスッキリするぜ」


 怖い顔をしたラグが恒夫の腕にしがみつく、


「にゃに言ってんだ。リーダー命令だぞ、今から爺みたいじゃ困るぞ、そんにゃんじゃあたいと一緒に色々な国の旅が出来にゃいぞ」

「爺で結構、俺は余計な体力は使わない主義なんだ」

「爺はハゲ頭だけでいいぞ、にゃ~にゃ~、一緒に海に行くぞ、ツネと一緒に海行きたいぞ」


 怒ると逆効果だと考えたのかラグが甘える作戦に出た。

 ひねくれ者の恒夫の事が少しわかってきた様子だ。


「その代わり今日と明日は休んでいいぞ、肉食い放題はちびっ子と二人で行くぞ、ツネの休む邪魔はしないぞ、だから海行って遊ぶぞ、にゃ~にゃ~、一緒に海行くぞ」


 腕にしがみつくラグを見て恒夫が溜息をつく、


「約束だぞ、今日と明日はゆっくり休むからな」

「うにゃ! じゃあ、海に行くんだにゃ」


 パァ~ッと顔を明るくするラグに恒夫が頷いた。


「秀樹と栄二と菜穂がいいなら俺もいいよ、でも一人でも反対があるなら俺も絶対反対だ」

「やったぁ~~、秀樹と栄二はいいだろ、あとは菜穂だけだぞ」


 ラグがサッと振り向くと期待顔で菜穂を見つめる。


「私も疲れてるから海は一寸嫌だな、良いホテルでゴロゴロ過ごす休日も良いものよ」


 今一乗り気でない菜穂をスギナが見上げる。


「装備は一通り揃っておる。我慢比べイベントでは使わんかったからの、じゃから武器の心配は無い、武器屋にも薬屋にも行く必要は無い、戦いを忘れて遊ぶには丁度良い町じゃ、水着やサンダルにレジャーシートなど買い物してゆっくり休むのには反対か? 海で遊ぶのに付き合うなら、お主の買い物にも付き合ってやるぞ、荷物持ちの男も居るしの」


 買い物という言葉に菜穂が反応する。

 根っからのショッピング好きだ。


「賛成ぇ~~、港町なら可愛いアクセとかいっぱいありそうだよね、可愛い水着とビーサン買って遊ぼうよ、日焼けもしたいし、海で遊ぶなんて久し振りだよ」


 前言撤回した菜穂を見て恒夫がガクッと項垂れた。

 反対すると考えて海に行く条件に菜穂を加えたのだ。


 恒夫を見上げてスギナがにんまりと笑った。


「残念じゃったの、お主の考えなどお見通しじゃ」

「スギナちゃんがいるの忘れてた。ラグだけだったら旨く行ったのにな」


 落ち込む恒夫の薄い頭にラグが手を伸ばす。


「約束だからにゃ、破ったら毛を毟ってからこちょこちょの刑だぞ」

「わかったからモシャモシャするの止めろ、なんで罰が増えてるんだ? こちょこちょは勘弁してくれ」

「にゃっひっひっひっひ、ツネは殴っても効かにゃいからにゃ、こちょこちょという弱点が見つかって良かったぞ」

「勘弁してくれ…… 」


 ニタリと悪い顔のラグを見て恒夫が厭そうに呟いた。


「んじゃ出発だぞ、ふかふかのベッドとお湯の出るホテル探すぞ、海が見える一番高いところに泊まるからにゃ」


 元気なラグを先頭に秀樹たちが小さな町へと入っていった。



 海に近い高級ホテルに宿を取る。

 直ぐ前が砂浜で水着姿で出入りできる観光ホテルだ。


「うわぁ~綺麗ねぇ~~ 」

「ほぅ、いい眺めじゃな、高いだけはあるのぅ」

「うみぃ~、海~~、早く泳ぎたいぞ、水着買いに行くぞ」


 7階建ての最上階のスイートルームで菜穂とスギナとラグが歓声をあげた。

 手の届きそうな所に白い砂浜、その向こうにコバルトブルーの海が広がっている。


「にゃ~にゃ~、水着買いに行くぞ、ホテルの売店に売ってるぞ」

「慌てる事無いわよ、海は逃げないわよ」


 はしゃぐラグを宥めると菜穂は窓際に置いてあるソファに腰掛けた。


「ふかふかで気持ちいいわ、このまま海を見ながら少し休もう」


 隣りにスギナが座る。


「いいのぅ、ワインでも飲みながらゆっくりしたいの」

「晩御飯は部屋で食べようか? ここで夕日を見ながらさ、私はお酒は無理だからジュースで付き合うわよ、トロピカルなソーダとかね」


 うっとりとした目で海を見ながら菜穂が言うとスギナが直ぐに賛成する。


「そうじゃな、男共は疲れてくたばっておるじゃろうから儂ら女だけでパーティーでもするかの、女子トーク炸裂じゃ」


 ふざけるスギナを見て菜穂が楽しそうに声を上げて笑う、


「あははっ、一応秀樹くんたちにも声掛けようよ」


 ソファに座る二人の間に後ろからラグが顔を出す。


「うにゃ! そんな事より海で遊びたいぞ、水着買いに行くぞ」

「海は明日じゃ、直ぐに日が暮れるぞ、今日はゆっくり休んで明日買い物して水着を買って明後日みんなで泳ぐのじゃ」

「早く泳ぎたいぞ、あたい海は初めてだからにゃ、村じゃ池と川しか無かったからにゃ」


 わくわく顔のラグを見てスギナが弱り顔で続ける。


「泳ぐのは明後日じゃと秀樹たちと約束したじゃろ、そんなに泳ぎたいのじゃったら明日買い物が終わった後で儂が少し付き合ってやる。じゃから今日は我慢するのじゃ」

「にゅぅぅ……わかったぞ、もう夕方だからにゃ、今日は諦めるぞ、その代わり晩御飯食い放題するぞ」


 プクッと頬を膨らませてラグが頭を引っ込めた。


「食い放題か……じゃあ夕日の食事は諦めてホテルのバイキングでも行こうか? 」


 拗ねたラグに気を使ったのか菜穂が優しい声だ。


「仕方ないの、ここはラグに譲ってバイキングでよいぞ、夜の海を見ながら寝酒を嗜むとしようかの」

「んじゃ、シャワー浴びたら食い放題行くぞ」


 ニパッと満面の笑みをしてラグが元気に言った。



 騒がしい女たちの部屋と違い秀樹たちのいる隣の部屋は静かだ。


「綺麗な海だなぁ~~、沖縄は行った事あるけど同じくらい綺麗だよ」


 窓際に立って栄二が感動した声を上げている。

 秀樹と恒夫は居ない、寝室でベッドに転がっている。


「ねぇ、秀樹と恒夫もおいでよ、綺麗だよ海」


 二人からは返事が無い、


「入ってきて直ぐに寝るんだから……こんなホテルにネピアと泊まったら最高だろうな」


 ネピアという言葉に秀樹が反応する。


「んぁ、そんなに綺麗なのか? 」


 奥の寝室で秀樹がベッドから身を起こす。


「うん凄く綺麗だよ、もう直ぐ日が暮れるから見といた方がいいよ」

「どれ、明日泳ぐかもしれんから見とくか」


 立ち上がる秀樹を寝転がった恒夫が見つめる。


「泳がないからな、明後日って約束だろ」

「ラグちゃんが我慢できると思うか? 無理矢理連れて行かれる方に賭けるぜ」


 ニヤッと意地悪顔で笑う秀樹に恒夫がくるっと背を向けた。


「俺は行かないからな、捕まってもラグが泳いでる間に逃げてやるからな」

「カナヅチじゃないんだろ? 学校じゃ泳いでたよな」


 余りに嫌がる恒夫を見て秀樹が不思議そうに訊いた。

 恒夫がまたくるっと向き直る。


「走るのと違って泳ぎは得意だぞ、何キロでも泳げるからな」


 そこへ栄二がやって来る。


「中学の時も水泳の授業は真面目にしてたよね」

「汗かきだから走ったりするのは厭なんだよ、だからマラソンとかサッカーは嫌いだ。水泳やバスケとかは普通にやってるだろ」


 秀樹がまたニヤッと意地悪に笑う、


「河童だな、恒夫は人間じゃなくて河童だったんだよ、ハゲじゃなくて皿だったんだな、皿が割れると困るから走るのが厭なんだぜ」

「あははははっ、河童か、うん納得した」


 大笑いする二人を見て恒夫がバッと身を起こす。


「皿でもないしハゲでもねぇからな」

「ツネぇ~~ 」


 怒鳴ると同時にラグの声が聞こえた。


「やべぇ! 俺は寝てるって言ってくれ」


 恒夫がバッと布団に潜り込む、


「うにゅ? みんないないぞ」


 ノックもせずに部屋に入ってきたラグを見て栄二も慌ててベッドに転がった。

 三つ並んだベッドの右が恒夫で真ん中が秀樹でドアに近い左が栄二だ。


「にゃんだ寝てるぞ」


 寝室にいる三人を見つけてラグが呆れ声だ。


「ノックしてから入らんか、失礼じゃぞ」

「お邪魔しまぁ~す。秀樹くんたちは? 」


 後ろからスギナと菜穂も入ってきた。


「にゃ~、にゃ~、ツネぇ~、起きるぞ」


 ラグが体を揺するが恒夫は寝たふりをして動かない。


「なんじゃ、本当に寝ておったのか? 」

「秀樹くんたちも寝てるの? 疲れてるのは分かるけど早すぎない? 」


 ベッドの上の三人を見てスギナと菜穂も呆れ顔だ。

 ラグがバッと飛び乗って恒夫の上に跨がった。


「起きろぉ~、ツネオ、起きるぞ、食べ放題行くぞ、にゃ~、にゃ~、起きろぉ~~ 」


 跨がったまま体を揺するが恒夫は身を堅くして動かない。


「成る程の、狸じゃな」


 スギナがドアの近くにあるベッドで寝ている栄二の頬を指で突いた。

 そっと目を開けると栄二がおべっか笑いをする。


「狸ってにゃんだ? 」


 恒夫を起こすのも忘れてラグが訊いた。


「狸寝入りの事よ、そうよね」


 代わりにこたえる菜穂を見てスギナが頷く、


「そうじゃ、狸寝入りじゃ、此奴ら寝たふりをしておるんじゃ、ラグが大声で入ってきたので慌ててベッドに飛び込んだのじゃろう」

「寝たふり……んじゃ起きてるんだにゃ」

「そういう事じゃ、恒夫を見てみい、動くまいとして全身の筋肉が硬直しておる。本当に寝ておるなら殆どの筋肉は緩んでおるはずじゃ」


 恒夫に跨がったラグがじっと見つめる。

 鋭い視線を感じても恒夫は目を閉じたままだ。


「にゅふふっ、そんにゃに眠いのにゃら永久に寝させてやるぞ」


 指をワキワキさせながらラグがニターッと悪い顔で言った。


「こちょこちょの刑だぞ」


 恒夫の脇や首筋にラグが手を伸ばす。


「ひぃーっ、止めてくれ」


 悲鳴を上げて恒夫が身を起こす。


「お前の負けだ」

「おとなしく食べ放題行くしかないね」


 スギナに見破られて直ぐに起きていた秀樹と栄二が笑いながら見ていた。


「わかったよ、起きればいいんだろ」

「にゃひひひひっ、こちょこちょは本当に効果あるぞ」


 楽しそうに笑いながらラグがバッとベッドから飛び降りる。


「んじゃバイキングの食べ放題行くぞ」


 元気なラグを先頭に部屋を出て行った。


 ホテルのレストランで夕食を取るとその日は約束通りラグもおとなしくして一日が終わる。



 二日目、朝早くにラグが起こしに来た。


 普段なら疲れていてもカジノへ行く恒夫だが我慢比べイベントは余程こたえたのか昨日は部屋でゆっくりと休んでいた。


「ツネぇ~~、起きるぞ、朝だぞ、水着買いに行くぞ」

「ううぅ……あと一時間…… 」


 布団を被って丸まる恒夫の隣のベッドで秀樹が大きく伸びをして身を起こす。


「うっ、うぅ~~ん、ラグちゃんおはよう」

「おぅ、秀樹、おっはぁ~~だぞ」


 元気に挨拶するとラグが恒夫の上に跨がった。


「ツネぇ~、起きるぞ、秀樹も起きたぞ、栄二は早起きで鍵を開けてくれたぞ、にゃ~にゃ~、早く起きるぞ、ツネだけだぞ」


 そこへ栄二がやってくる。


「おはよう秀樹」

「おっす。早いなぁ」


 眠そうな秀樹を見て栄二が苦笑いしながら口を開く、


「早起きじゃなくて、ラグさんがどんどんドアを叩くから目が覚めたよ」


 ドアを壊しそうな勢いのラグに慌てて起きた栄二が鍵を開けたのだ。


「ははは……それはご苦労さん」


 大きく伸びをすると秀樹が立ち上がる。


「昨日ゆっくり休んだから大分楽だな」

「そうだね、元々体はスギナちゃんや恒夫が治癒してくれたからね、一晩寝ると気持ちもスッキリだよ」


 二人が恒夫に振り返る。


「昨日はカジノに行ってないから恒夫もゆっくり休めただろ」

「御飯食べた後からずっとベッドに転がってたよね」


 跨がったラグが体を前後に揺すって起こそうとするが恒夫は布団に潜ったままだ。


「うにゅにゅ……何で起きにゃいんだ? 秀樹と栄二は起きてるぞ、にゃ~にゃ~、ツネぇ~、さっさと起きて飯食って買い物行くぞ、水着とビーチサンダルとデカい浮き輪買いに行くぞ」

「うう……あと一時間……一時間したら起きるから」


 布団の中から恒夫の声が聞こえた。


「一時間も待てにゃいぞ、直ぐに起きるにゃ、起きにゃいとこちょこちょの刑だぞ」


 ラグが体を揺するのを止めた。

 擽られるのが苦手な恒夫の様子を伺っている。


「あと一時間…… 」


 余程眠いのか恒夫は起きない。


「うにゅにゅにゅ……こちょこちょの刑だぞ」


 ラグがバッと布団を捲る。


「うにゃ! いないぞ」


 布団の下に恒夫の姿が無い、ラグが持ち上げている布団を秀樹が指差す。


「ラグちゃん、こっちに付いてるぞ」

「にゃにゃ、ツネが蓑虫みたいににゃってるぞ」


 持ち上げた布団に丸まってしがみつく恒夫がいた。


「恒夫、もう観念したら」


 呆れ声を出す栄二の隣にスギナが並ぶ、


「寝過ぎじゃな、寝過ぎで逆に怠くなっておるんじゃ」

「あっ、スギナちゃんおはよう、菜穂さんもおはよう」


 栄二が挨拶すると後ろにいた菜穂がペコッと頭を下げた。


「おはよう……秀樹くんもおはよう」


 遠慮無しのラグと違い恥ずかしいのだろう、着替えている栄二はともかく寝起きの秀樹を見てバツが悪そうだ。


「おう、早いな、悪ぃ、直ぐに着替えてくるぜ」


 菜穂の目を意識したのか着替えを持った秀樹が慌てて走り出す。


「ゆっくりでよいぞ、どうせ恒夫に時間が掛かる」


 逃げるように化粧室へと向かった秀樹に言うとスギナが恒夫に向き直る。


「ツネが起きにゃいぞ、こちょこちょの刑って言っても起きにゃいからにゃ、蓑虫ににゃってるぞ、無理に外すと布団が破けるからにゃ」


 珍しく弱り顔のラグを見て菜穂が吹き出す。


「あははっ、今日は優しいのね、いつもなら殴ってでも起こしてるでしょ」

「買い物して海で遊ぶからにゃ、ツネが怒るとダメだぞ、だから優しく起こしてやるんだぞ」

「これの何処が優しいんだ? 」


 しがみついていた布団から離れると恒夫がベッドの上に座り込む、


「おはよう恒夫」

「おはようじゃねぇ、叩き起こされたからな」


 笑顔の栄二に恒夫がムスッとしてこたえた。


「おおぅ、ツネが起きたぞ、あたいの優しさが伝わったんだぞ」

「悪意しか伝わってないからな」


 ムスッとしている恒夫を笑顔のスギナが見つめた。


「なんじゃ、起きたのか? 儂が優しく起こしてやろうとしたんじゃが」


 スギナの手から伸びている植物の蔓を見て恒夫がベッドから飛び起きた。


「起きてるから、バッチリ目が覚めてるから、おはようスギナちゃん」


 大声で言うとサッとラグの後ろに隠れた。


「うむ、おはよう」


 ニヤッと笑うとスギナが蔓を引っ込めた。

 着替えて歯を磨き終えた秀樹がやってくる。


「起きたか、さっさと着替えてこい、飯食って買い物行くぞ、今日一日は菜穂たちの買い物に付き合う約束だからな」

「しゃあねぇな、買い物だけだからな、海は明日だからな」


 立ち上がった恒夫にラグが抱き付く、


「でも時間あったら海行くぞ、買った水着が大丈夫か確かめるから少し泳ぐぞ」

「海は明日って約束だからな」


 恒夫が抱き付くラグを引き摺るようにして化粧室へと歩き出す。


「遊ぶのは明日だぞ、今日は水着を確かめるんだぞ」

「屁理屈こねやがって、ダメだからな」


 歩いて行く恒夫の背にスギナが言葉をかける。


「そうじゃな、色々買って確かめんとな、明日は思いっきり遊ぶんじゃからな、最後の一日はゆっくり休むからの、じゃからラグに賛成じゃ」

「そうね、実際に泳がないと分からない事もあるからね、遊ぶ計画も立てないとね」


 菜穂も賛成するのを聞いて恒夫が振り返る。


「お前らなぁ…… 」


 文句を言おうとした恒夫がスギナの手から覗いている植物の蔓に気が付いた。


「わかった。分かりました。明日遊ぶ下見だけだからな」


 ふて腐れて言うと抱き付くラグを引き摺って化粧室へと入っていった。

 秀樹と栄二が顔を見合わせてクスッと笑った。


「スギナちゃんには弱いな」

「みんな恒夫の扱いに慣れてきたね」


 化粧室から二人の話が漏れてくる。


「ビキニでもワンピでもツネの好きな色とか選ぶからにゃ、一緒に買いに行くからツネのはあたいが選んでやるぞ」

「俺は自分で選ぶからな、ラグに派手派手なパンツ選ばれたら嫌だからな」

「にゃははははっ、遠慮するにゃって、あたいが格好良いの選んでやるぞ」


 楽しそうな会話を聞いて栄二が羨ましそうに呟く、


「いいなぁ恒夫、何だかんだ言って仲いいよね、僕もネピアに会いたいよ」


 秀樹がポンッと栄二の背を叩く、


「会えるさ、そのためにゲームやってるんだぜ」


 スギナが二人を見つめる。


「儂らのチームならやれるじゃろう、じゃが今日と明日はゲームを忘れて楽しむのじゃ、心の休養じゃ」


 スギナを囲んで秀樹と栄二と菜穂が確認するように大きく頷いた。



 ホテルのレストランで朝食をとると町へと繰り出す。


「店がいっぱいあるぞ、浮き輪やサンダルがいっぱいだぞ」


 大通りに並ぶ店々を見てラグが大はしゃぎだ。


「流石港町ね、活気があるわね」

「漁港と言うより貨物の中継地みたいじゃな、観光地にもなっておって人で溢れておるのぅ」


 菜穂とスギナも浮かれているのが声で分かる。


「向こうに可愛い水着がいっぱいあるぞ」


 目の良いラグに引っ張られて恒夫が歩く、その後ろを秀樹たちが笑いながら続いた。


「おおぅ、この店にすんぞ、可愛い水着がいっぱいだにゃ」


 大通りにある大きな店の前でラグが止まった。


 店先にサメやシャチにワニに犬や猫の形をしたものまで様々な浮き輪が並べてあり店内には水着やサンダルなどが所狭しと置かれている。

 海で遊ぶものが一通り揃っている店だ。


「そうじゃな、先ずは水着とサンダルと海で遊ぶものを買うとしようかの」


 店先に置いてある浮き輪をポンポン叩きながらスギナが言った。


「その後はアクセや洋服を見て、お昼してから海だよね」


 ショッピング好きな菜穂に異存は無い。

 お昼と聞いてラグが振り返る。


「おおぅ、肉食い放題して海で遊ぶにゃんて最高だぞ」

「食い放題では無くて昼は控えめじゃ、満腹で暴れたらリバースするぞ」


 困り顔のスギナの隣で菜穂が楽しそうに笑い出す。


「あははっ、そうだよね、食べ放題は夕食でお昼は軽くグラングランでも食べようよ」

「それがいいのぅ、腹が減ったら屋台で何か買って食えばいい、海を見ながら砂浜で食うのも乙なものじゃぞ」

「わかったぞ、んじゃ、水着買うぞ」


 ラグを先頭にスギナと菜穂が店に入っていった。



 店先で栄二と秀樹が顔を見合わす。


「完全にゲームの事忘れてるよね」

「今日くらい、いいんじゃね? 」


 動物の形をしたデカい浮き輪を物色しながら恒夫が口を開く、


「だな、何度も死にそうになってるんだ。遊べるときに遊んどこうぜ」


 秀樹がニヤッと口元を歪めて恒夫の脇腹を突く、


「さっきまで海は明日って言ってた癖によぉ」


 手を払いながら恒夫がバッと振り返る。


「厭だって言っても無理矢理付き合わさせるんだろが」

「またまたぁ~、恒夫も楽しいくせにぃ~~ 」

「だから俺はホテルでゆっくりするかカジノに行ってる方がいいって言ってるだろが」

「強がんなよ、女の子と海で遊ぶなんてオタの俺たちからは想像できないよな」

「だから俺は違うって言ってるだろが、遊びたきゃお前らだけで遊べっての」


 からかう秀樹に恒夫が必死で言い返す。

 喧嘩になりそうな二人の間に栄二が入る。


「まぁまぁ、せっかく恒夫も行く気になってるんだから秀樹も言うの止めなよ」


 仲裁する栄二に秀樹がニヤつき顔のまま手を振った。


「へへっ、分かってるって、ラグちゃんと菜穂の水着楽しみだぜ」

「んんーっと、それは否定しない、ラグは凄いからな」


 先程までの言い争いを忘れたのか、厭らしい顔を見合わせて秀樹と恒夫が頷いた。

 先に入っていたラグが店から出てくる。


「ツネぇ~、にゃにやってんだ? 早く入れ、秀樹と栄二も水着買わにゃいと海で遊べにゃいぞ」


 恒夫の腕に手を回して引き摺るように店内へと入っていく、


「おっと、俺たちも海パン買わないとな」

「レジャーシートとパラソルにバスタオルも忘れないように買わないとね」


 秀樹と栄二が慌てて二人を追って店へと入った。



 広い店内の一角に水着売り場がある。


 通路を挟んで右が女性用で左に男性用が並んでいた。

 男性用の海水パンツが棚二つ分しか無いのと違い女性用の水着は棚がずらりと10も並んでいる。


 通路の直ぐ脇にビキニの棚がある。

 分かり易いように一番目立つビキニを通路側に置いているのだろう。


「おおぅ、ビキニがいっぱいだぞ」


 行き成り走り出したラグに腕を掴まれていた恒夫がよろけて転びそうになる。


「うぉう! ちょっ、慌てるな! 」


 足を踏ん張って体勢を整える恒夫の腕をラグがサッと放した。


「ビキニ、ビキニィ~ 」


 振り返りもしないでラグが一目散に駆けていった。


「フラれたな」

「ビキニと恒夫じゃビキニを取るよね」

「ニキビと恒夫でもニキビの方がマシだぜ」


 ニヤニヤ笑いながらからかう秀樹と栄二を恒夫がムッとした顔で睨み付ける。


「俺はニキビ以下かよ」


 後ろから歩いてきたスギナが恒夫の腕をポンッと叩く、


「ヘンタイという膿が溜まっとるからの」


 並んで歩く菜穂が大笑いだ。


「あはははっ、押したらビューってヘンタイが出てきそうだね、ニキビ以下も納得だわ」


 スギナと菜穂にも言われて恒夫の顔が何とも言えない厭そうな顔に変わっていく、


「どうせヘンタイですよ、ビューってヘンタイ汁飛ばすから近付くなよな」


 菜穂が楽しそうに笑いながらスギナに振り向く、


「拗ねちゃったよ、恒夫くんはスギナちゃんに言われると傷付くみたいだね」

「なんじゃ、儂が悪いみたいじゃな」


 スギナは満更でもない様子だ。


 ラグが跳ぶようにして戻ってきた。


「お前ら何してんにゃ? 早く来るぞ、可愛い水着がいっぱいあるぞ」

「ハイハイ、直ぐに行くわよ」

「そうじゃな、ヘンタイニキビは放って置いて行くとするかの」


 ラグに連れられて菜穂とスギナが女性水着の棚へと向かう、


「スギナちゃんって結構毒舌だよね」

「だな、幼女姿に油断してると足下掬われるぜ」


 先程までからかっていた栄二と秀樹が同情的だ。


「まぁ何だ。気にすんな」

「冗談だよ、僕たちもスギナちゃんも本気で思ってないからね」

「気休めは止せ、どうせ俺はドヘンタイだからな」


 ふて腐れた恒夫がラグの元へ歩いて行った。



 通路の側の棚でラグが黄色い声を上げる。


「ビキニがいっぱいだぞ、もう全部買うしか……ツネに頼めば全部買えるよにゃ」


 キョロキョロ落ち着きなく見回すラグの頭を菜穂がポンッと叩く、


「落ち着きなさい、全部買ってどうするのよ、邪魔なだけでしょ、一つ二つあれば充分よ」

「うにゅ、毎日違うビキニを着るんだぞ」

「いや、毎日泳いだりしないから、今日と明日だけだからね」


 キラキラと目を輝かせるラグの向かいで菜穂が困り顔だ。

 スギナが奥の棚を指差す。


「向こうはワンピース水着じゃな、儂はワンピに決めとるからの」

「セパレートも向こうみたいね、可愛いのあるかな」


 少し驚いた顔でスギナが菜穂を見上げる。


「なんじゃ、菜穂はビキニを着んのか? 」

「ビキニはちょっと……恥ずかしいかな」


 苦笑いでこたえる菜穂を見てスギナが驚き顔で続ける。


「スタイルが良いからビキニじゃと思っとったぞ」

「あははっ、着てもいいけどラグには負けるからね」


 笑って誤魔化す菜穂にスギナがフッと微笑んだ。


「そうじゃな、バカ乳猫と比べられたら迷惑じゃな」


 菜穂がクスッと本心から楽しそうに笑う、


「男って胸ばかり見るからね」

「まったくじゃ、ペッタンコの魅力が分かっておらん」


 自分の胸を撫でるスギナを見て菜穂が大笑いだ。


「あははははっ、スギナちゃんに言い寄ってくる男は一寸、いや大分とヤバいよ」

「じゃな、儂もロリ男は御免じゃ」


 戯けてこたえるスギナを見て菜穂の笑い声が更に大きくなる。



 通路で見ていた栄二が呟く、


「何か楽しそうだね」

「女子トークってやつだな」


 秀樹の横で恒夫が厭そうに顔を顰める。


「俺にとって女子トーク=悪魔の会話以外の何物でもない」

「ハゲって呼ばれてるからな」


 ニヤつく秀樹の肩を恒夫がガシッと掴む、


「ああ、女どもは傍にいても遠慮無しだからな、女だろうと男だろうと面と向かって言われるのはいいがコソコソ言われるのはグサッとくるぞ」


 恨めしげな恒夫を見て秀樹と栄二は苦笑いするしかない。

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