第百十話
三時間ほどが経ちホテルのロビーに秀樹たちが集まり始めた。
「ふあぁ~~ぁ、よく寝た」
大きな欠伸をしながら佐伯がやって来た。
「おはよう、中津はまだ寝てるの? 」
笑いながら訊いた栄二の前で佐伯が首を振る。
「んにゃ、便所行ってる。恒夫は? 」
「まだ戻ってきてない、自分から三時間後だって言ったくせに…… 」
ソファに座る秀樹が怒り口調でこたえた。
「あははっ、心配無いよ、戻ってこなかったら迎えに行けばいいんだからさ、カジノ一軒しかないから直ぐに見つかるよ」
宥めるように言う栄二の隣に佐伯が腰掛ける。
「ギリーさんも来てないからまだいいだろ、東條さんたちは? 」
「女子会してるよ、そこのカフェだからギリーさんたちが来たら呼びに行けばいいよ」
「女子会か……どんな話ししてるんだろな? 」
「気になるよな、学校じゃドラマとかバラエティーとかテレビの話しよくしてるけど」
向かいに座る秀樹も興味津々と言った顔だ。
「聞いたらがっかりするぞ、女が集まると悪口大会が始まるぜ、その他はドラマの話しに芸能人、好きなタイプの男や服にアクセと食い物の話しだぞ」
いつから聞いていたのか中津が秀樹の隣に座った。
「あはははっ、何となく想像できるね」
「モテモテの中津が言うなら信用できるな」
楽しそうに笑う栄二の向かいで秀樹もうんうん頷いた。
「俺たちも今女子の悪口言ってるしな」
佐伯の一言でその場がどっと湧いた。
暫くしてラグたちがやって来た。
「おぅ、みんな集まってるにゃ……ツネが居にゃいぞ」
元気よく手を上げたラグの顔が曇っていく、
「そうだぜ、後でお仕置きしてくれよ」
思い出したのかムッとする秀樹の前でラグがニヤッと悪い顔で笑った。
「まったく仕方にゃいにゃ、後で頭ワシワシしてやるぞ」
「あはははっ、もう戻ってくると思うからさ、ギリーさんたちが来る前に戻ってきたら勘弁してやってよ」
乾いた声で笑いながら栄二が必死にフォローする。
「一寸くらい遅れてもいいだろ、女子会楽しんだんだろ? 」
中津が味方に付く、妹を助けて貰った恩を感じているのか栄二に対してはいつも優しい。
ソファに座る秀樹たちを東條が見回す。
「貴男たちも楽しそうじゃない? 」
並んで置いてあるソファにスギナが座る。
「どうせ儂らの悪口でも言っておったんじゃろ」
「男が集まると女の話かバカな話しのどっちかだからね」
菜穂がスギナの隣に座る。
その向かいにラグがドカッと座った。
「トラとカバもまだ来てにゃいのか? あいつら爆睡してんじゃにゃいだろうにゃ」
「恒夫もまだか……カジノに夢中で忘れてるんじゃないでしょうね」
隣に座った東條にラグがバッと振り向いた。
「そだぞ、やっぱあたいが一緒に行けばよかったぞ、二人で大勝ちしてやったのににゃ」
「お主が行ったら勝ちが半減するじゃろが、心配せんでもよい、恒夫は約束を守る男じゃからな、儂が認めた男じゃからな」
顔を顰めるスギナを見て少し離れた所に座っていたモミジが楽しそうに微笑んだ。
「山神であるスギナ様が気に入るなんてどんな男なのでしょうね」
「ヘンタイとか言ってなかったか? 恒夫って男」
隣でカエデが怪訝な顔でモミジを見つめた。
「人間の雄はみんなヘンタイですよ、あなたも佐伯と寝たからわかるでしょ」
「まぁな、俺たちの交尾と違ってヘンタイって言うのはわかるけどさ……気持ち良すぎてダメになりそうだからな」
「ふふふっ、力に溢れていますからね人間は」
「それを利用して俺たち妖狐一族も安泰って事だな」
「そういう事です。敵対するのではなく共存していくのです。頭の悪い他の妖怪には理解できないでしょうがね」
モミジがフッと顔を上げる。
同時にラグがサッと振り向く、
「戻ってきましたよ」
「ツネぇ~~ 」
ロビーに入ってくる恒夫を見てラグがバッと駆け出した。
階段を降りてくるギリーとバッグスにスギナが気付いた。
「向こうも来たようじゃな」
「よかった。恒夫もギリーさんたちもピッタリだよ」
「んじゃ行くか」
安堵する栄二の向かいで秀樹が立ち上がった。
申し訳なさそうに顎を掻きながらギリーがやって来る。
「少し遅れたようだな、済まない」
「がははっ、マッサージが気持ち良くてよ、マジで寝てたぜ」
隣でバッグスが豪快に笑い飛ばす。
足をぶらぶらさせて座っていたスギナがソファからポンと飛び降りる。
「丁度じゃぞ、恒夫も今来た所じゃからな」
「よかった。御馳走になるのに待たせたら失礼だからな」
「がはははっ、それを聞いて安心した」
Aクラスのスギナには一目置いているのかギリーとバッグスの言葉も丁寧だ。
薄い頭を掻きながら恒夫がやって来る。
「悪い、悪い、VIPルームの金持ちが放してくれなくて遅れた」
「遅いぞ、お前は…… 」
文句を言おうとした秀樹をスギナが手で制する。
「いくら勝ったんじゃ? 」
「元手と合わせて千六百ほどだ」
「二時間ほどで五百万を3倍じゃな、流石恒夫じゃ」
褒めるスギナの後ろで秀樹が怖い顔で睨んでいる。
「悪かった。次から気を付けるからさ」
ムスッと怒っている秀樹に恒夫が顔の前に手を立てて謝った。
「しゃあねぇな、金は必要だからな」
誰のために恒夫が頑張っているのかわかっているので怒るに怒れない。
「間に合ったんだから許してやんぞ」
恒夫の薄い頭をポンポン叩くとラグがその場の全員を見回す。
「んじゃ肉食べ放題飲み放題に出発するぞ」
元気なラグを先頭にホテルを出て行った。
ホテルから少し離れた店で夕食だ。
高級店ではないがラグが美味しいと言った通り間違いの無い店だった。
お互い今までやったイベントや戦った敵の話などをして盛り上がる。
「魔族か、そりゃ凄ぇな」
「がはははっ、逃げて正解だ。あれとまともにやるなんて俺たちでも御免だ」
恒夫とラグが障害物競走イベントで長髪の魔族ハオロと相対した話しにギリーとバッグスも興味津々だ。
「流石恒夫だな、普通は逃げるぜ、逃げれなくても逃げるぜ」
「魔族が土下座で見逃してくれるなんて思わないからな」
驚く佐伯の隣で中津も感心して唸る。
「一か八かに賭けたんだ。それでダメなら無敵札使って逃げるつもりだったからな」
「あたいにょ命の恩人だからにゃ、ツネはやるときはやる男だぞ」
薄い頭を掻いて照れる恒夫にラグが抱き付いて自慢気だ。
「やるのが土下座っていうのが恒夫らしいけどな」
秀樹の言葉で全員大笑いだ。
一息ついたのを見計らって菜穂が口を開く、
「イベントの話しで思い出したけどみんなは今何ポイント持ってるの? 」
勝ちに拘る菜穂は他人の得点に興味津々だ。
「菜穂失礼だろ」
窘めようとした秀樹の前に恒夫が腕を伸ばす。
「そうだな、他人のポイントが気にならないって言ったら嘘になるな、天使さんは教えてくれないしな、俺は今回のダンジョンクリア300ポイントを足して870だ」
文句の一つも言うと思った恒夫が真っ先に口火を切ってくれた。
「恒夫くん…… 」
嬉しそうに恒夫を見つめながら菜穂が続ける。
「私は今回の300を足して625だよ、たぶん低いと思うから気になってさ、言いたくない人は言わなくてもいいよ、自分がどの辺りなのか知りたいって思ったの…… 」
ちらっと菜穂を見てスギナが口を開く、
「そうじゃな、余所が気にならんと言えば嘘になるのぅ、儂は今回のを足して1010じゃ」
ピュ~~、ギリーが口を鳴らした。
「流石Aクラスだな、俺は930だ」
「がははっ、負けだ。Aクラスには勝てんな、俺は910だ」
バッグスが楽しそうにビールを飲みながら大声で笑った。
「にゃひひひひっ、あたいの勝ちだぞ、あたいは960だからにゃ」
恒夫の横で自慢気に胸を張るラグを見てギリーが大袈裟に驚く、
「凄いな子猫ちゃん、まさか負けてるとは思わなかったぞ」
「がはははっ、やるじゃねぇか、口だけじゃ無く力もあるんだな、見直したぜ」
「にゅへへへっ、にゃんたってチャトラン族の戦士だからにゃ」
二人に褒められてラグが照れまくって恒夫の背をバンバン叩く、
「いてっ、痛いから……いててっ、いつもより痛いから、加減してくれ…… 」
恒夫がマジで痛そうに体をくねらせるがラグはお構いなしでバンバン叩くのを止めない。
酒を飲んでいるので力の加減が緩くなっている。
ギリーとバッグスはもちろん、ラグとスギナにモミジとカエデが酒を飲んでいた。
秀樹たちや中津たちは飲んでいない、全員高校生だが異世界なので飲んでも誰も叱る者はいないのだが酒は飲まない。
実質的なリーダーである秀樹と中津は酔って醜態をさらさないように飲まない、プロサッカー選手を目指す佐伯は体調管理は元より経歴に傷を付けるようなことはしない、東條と菜穂と栄二は今はまだ酒には興味が無い、恒夫は飲めるのだがハイペースで飲んでいるラグを見て飲むのは止めた。
酔ったラグの面倒を見るつもりだ。
ギリーたちが話したので抵抗が無くなったのか中津たちも次々と教えてくれた。
中津が720ポイントで佐伯が740、東條が680、妖狐のモミジが820、カエデが810である。
栄二が大きな溜息をつく、
「みんな凄いな、やっぱ僕が一番低いや、僕は560しかないよ」
「仕方ないだろ、バッドイベントで引かれたからな、俺は670だ」
秀樹が慰めるように栄二の背をポンッと叩いた。
「がははっ、バッドじゃ仕方ないな」
「中盤以降はポイントも大きくなる。頑張れば直ぐに取り戻せるぞ」
大笑いするバッグスの隣でギリーが優しい笑みを見せた。
「ありがとうギリーさんバッグスさん、二人に言われるとやる気が出てくるよ」
二人に慰められて栄二の顔が明るくなる。
「そうじゃの、今宵はゲームのことは忘れて飲み明かそうぞ」
頬を桜色に染めたスギナがビールの入ったコップを持ち上げる。
「おおぅ、あたいがやるぞ」
ラグもカクテルの入ったコップを突き上げるように伸ばす。
「カンパァ~~イ!! 」
カチャカチャとコップを鳴らしてみんなで乾杯だ。
宴は明け方まで続いた。
普段は寝ているかカジノに行っている恒夫も今日は楽しそうに満面の笑みだ。
翌日、昼前に起き出した恒夫がシャワーを浴びて服を着替える。
「んあぁ……カジノか? 今日くらい休めよ」
秀樹がベッドの上で目を擦りながら着替える恒夫を見上げた。
明け方まで宴会に付き合って疲れたのだろう、栄二は反対側のベッドで爆睡している。
「悪い、起こしたか? 」
手早く着替えた恒夫が金の入った鞄を持つ、
「寝てろよ、今日も宴会だぜ、酔っ払ってラグも寝てるからその間に俺は一稼ぎ行ってくる。心配無い、二時間ほどしたら戻ってきて晩飯まで寝るからな、それに基本的に俺は戦いも料理も手伝わないからな、イベント中に休んでるみたいなもんだから体は平気だ……平気じゃ無いのは頭だけだな」
薄い頭をポンッと叩くと恒夫が部屋を出て行った。
「お前は充分やってくれてるよ、ありがとうな」
恒夫が消えたドアに礼を言うと秀樹は目を閉じた。
今晩も宴会だ。
命懸けのゲームだ。
たまにはいいと秀樹は思った。
三時間ほどして恒夫が帰ってくる。
同時に秀樹と栄二が起き出した。
「四千七百万勝ってきたぜ、魔法の弾100発一千万とギリーさんとバッグスさんに二千万、次の資金に一千万、合わせて四千万引いて残り七百万でお前ら遊んでこい、俺は寝るからな、晩飯まで起こすなよ」
一方的に言い終わると恒夫がベッドに倒れ込む、
「七百万も多いよ、遊ぶなら百万あれば充分だよ、恒夫…… 」
金の入った袋を受け取った栄二が恒夫の顔を覗き込むと既に寝息を立てていた。
秀樹が栄二の肩に手を掛けて引っ張る。
「寝かせてやれ、何だかんだ言って今回一番頑張ったのは恒夫だと思うぜ」
「うん、そうだね……そうだ! 遊ぶのに百万引いて残りで恒夫に魔法の鎧を買おうよ、持ってないの恒夫だけだよ」
パッと思い付いたように言った栄二を見て秀樹もうんうん頷いた。
「ナイスだ。俺たちと同じ中級魔法を防ぐ鎧なら五百万あれば買えるからな、じゃあ早速買いに行こうぜ」
「今日の予定は決まったね、魔法の弾と鎧を買ってラグさんたちのショッピングに付き合って夜はギリーさんと中津と宴会だよ」
「二日続けて宴会ってのが一寸嫌だがな」
「そうだね、でもいい思い出になるよ」
苦笑いする秀樹を見て栄二が楽しそうに微笑んだ。
バンッと乱暴にドアが開く音がして秀樹と栄二の間を何かが通り抜けた。
「なん!? 」
何が起ったのかと振り返る二人の目に寝ている恒夫に跨がるラグが映った。
「うにゃ! ツネ起きるにゃ、遊びに行くぞ」
「なっ……ラグちゃんか、吃驚したぜ」
驚く秀樹に構わずラグが恒夫の上で体を揺する。
「にゃ~、にゃ~、ツネぇ~~、早く起きるにゃ、遊びに行っていっぱい食うぞ、にゃ~、にゃ~、ツネぇ~~ 」
「ノックぐらいせんか、親しき仲にも礼儀ありじゃぞ」
呆れ顔のスギナが入ってきた。
その後ろに菜穂が居る。
「恒夫くんまだ寝てるの? 」
男の部屋に入るのは気が引けるのか菜穂はスギナの後ろから様子を伺うようにしている。
恒夫に跨がったままラグが振り返った。
「そうだぞ、まだ寝てるぞ、寝過ぎでハゲてるんだぞ」
不満顔でプクッと頬を膨らませるラグに秀樹が弱り顔で声を掛ける。
「寝かしてやってくれ、さっき帰ってきたばかりだ」
「そうだよ、今日は勘弁してやってよ」
どうにかラグを宥めようと栄二が拝むように頼んだ。
スギナが顔を曇らせる。
「なんじゃ、またカジノに行っておったのか? 」
「うん、世話になったギリーさんたちに渡したいからって」
「まったく此奴は…… 」
栄二の持つ金の入った袋を見て溜息をつくとスギナがラグに向き直る。
「夕食まで寝かせてやるのじゃ、儂らは買い物でも行くとしようぞ、必要なものを買うために恒夫が頑張ってくれたのじゃからな」
買い物と聞いて菜穂が後ろからヒョイッと顔を出す。
「魔法の弾を買ってその後ショッピングしましょうよ、昨日食堂で美味しい店があるって聞いたわよ、パパパフェとクリンクリンが美味しいらしいわよ」
クリンクリンはアイスクリームに似た食べ物でパパパフェはパフェに似た食べ物だ。
ラグの猫耳と尻尾がピンッと伸びた。
「クリンクリンにゃ、冷たくてあたい好きだぞ」
跨がっていた恒夫からバッと飛び降りるとスギナと菜穂の手を掴む、
「早く行くぞ、クリンクリンとパパパフェの食べ放題だぞ」
恒夫のことなどすっかり忘れたラグに引っ張られるように菜穂とスギナが部屋を出て行く。
ベッドで丸まって寝ている恒夫を秀樹と栄二が見つめる。
「ラグさんって恒夫のこと本当に好きなのかな? 」
「少なくとも恒夫より肉とアイスが好きなのは確かだぜ」
互いの顔を見て苦笑いすると栄二と秀樹も三人の後を追って部屋を出て行った。
小さな町に三軒あった武器屋を回って魔法の弾100発と中級魔法を6回防ぐ魔法の鎧を買った後は菜穂たちのショッピングに付き合って日が暮れる。
夜は恒夫を起こすと中津やギリーたちを誘ってまた明け方まで宴会だ。
たっぷり遊んで休みが終わる。
翌日の昼前、天使たちが待つ町外れにみんなで行った。
「少ない休みだったが有意義に使えたようだね」
「はい、今までで一番楽しい休みでしたよ」
笑顔で迎えるヘカロに秀樹が元気にこたえた。
「俺はいつもより眠い」
「おやおや、しっかりしてくれよ、ここからが本番だよ」
大きな欠伸を掻く恒夫を見てヘカロが戯ける。
「秀樹たちに言ってください、戦いは任せてあるんだ」
「ふふっ、恒夫くんは恒夫くんのやり方で戦っているって事だね」
「まぁ、そんなとこです」
とぼける恒夫を見てヘカロが愉しそうに目を細めた。
ギリーが恒夫の背中を軽く叩いた。
「じゃぁな、面白かったぞ」
「がははっ、飯旨かったぞ、また頼んだぞ」
担当天使の元へと歩いて行くギリーとバッグスを恒夫が慌てて呼び止める。
「待って下さい」
何か用かと二人が足を止めて振り返る。
「がはははっ、何だ? 何か忘れ物か? 」
恒夫が一千万ギギルの入った袋を二つ差し出す。
「持っていってください、イカサマサイコロで儲けたから遠慮無しです。ギリーさんとバッグスさんにはこの先も助けて貰うかも知れないから、もちろん戦闘イベントとか競い合うのは別ですよ、ダンジョンみたいに協力できるのは力を借りたいです」
「金か…… 」
戸惑うギリーに恒夫が無理矢理袋を渡す。
秀樹が恒夫の隣りに立つ、
「恒夫がイカサマサイコロを使うのが旨いから金には不自由してません、持ってって下さい、無敵のギリーさんとバッグスさんも空腹には負けるでしょ」
フッと笑うとギリーが頷く、
「正直助かる。遠慮なく貰っておくぞ」
「がはははっ、手持ちは殆ど使って二十万ほどしか残ってなかったところだ」
隣でバッグスが袋を受け取って大笑いだ。
ギリーが改まって恒夫と秀樹を見つめた。
「協力するというのは俺も賛成だ。恒夫や中津は信用できそうだからな」
「がははっ、頭も良いから戦闘以外のイベントじゃこっちも助かるってことよ」
バッグスが嬉しそうに金の入った袋をポンポン叩いた。
「また会おう、楽しみにしておくぞ」
強面の虎の顔を崩すとギリーが白い牙を見せてニッと笑った。
「またラグやスギナちゃんと酒を飲んでやって下さい、俺たちは飲めないから付き合ってくれると助かります。バッグスさんは金があるからってカジノに行っちゃダメっすよ、カジノなんてアイテム無しじゃ絶対に勝てないように出来てるんですからね」
とぼけ顔でこたえる恒夫の左右で秀樹と栄二がペコッと頭を下げた。
「また会いましょう、俺たちもどうにか生き抜いて見せますよ」
「ギリーさんとバッグスさんもお元気で」
三人の後ろからラグがひょこっと顔を出した。
「じゃあにゃ、トラとカバも死ぬにゃよ」
遠慮の無いラグに恒夫や秀樹が焦ってドキドキだ。
じろっと見た後でギリーがフッと口元を緩める。
「フフッ、お前も死ぬなよ」
「がはははっ、また飲もうぜ猫ちゃん」
バッグスが楽しそうに大声で笑った。
二人のことをトラとカバなどと呼んでも怒られないのはラグくらいのものだ。
「にゅははっ、今度は負けにゃいからにゃ、酔い潰してやるからにゃ」
屈託の無い顔で笑うラグにじゃあなと言うように手を振るとギリーとバッグスは担当天使の元へと歩いて行った。
「怖いもの知らずかよ」
「ある意味無敵じゃな」
顔を顰める恒夫と並んでスギナが呟いた。
秀樹が中津たちの元へと歩いて行く、
「死ぬなよ、一緒に本戦行こうぜ」
秀樹の差し出した手を中津が握る。
「俺たちの心配より自分の心配してろ、こっから先が本番だぜ」
握手する二人を見て栄二が嬉しそうに口を開く、
「大丈夫だよ、何たって前回優勝チームだからね」
佐伯が栄二の胸をポンッと叩いた。
「油断大敵だぞ、次に会うのを楽しみにしてるぞ、恒夫もな」
振り向きもせずに軽く手を振る恒夫は妖狐のモミジとカエデを見てでれ~っとしている。
「お前らなんかどうでもいいがモミジさんとカエデさんには何度でも会いたい、俺の女王様になってくれねぇかなぁ~~、東條も居るし中津のチームに入れれば最高だよな」
近くで菜穂やラグと話をしていた東條がバッと振り返る。
「恒夫なんかいりません! ヘンタイをチームに入れるくらいなら私は出ていくからね」
「あははっ、私は恒夫くんの好みじゃなくて安心だよ」
笑う菜穂の横を通ってラグが恒夫に飛び掛かる。
「ツネ! 浮気は毛を毟るって言ってるよにゃ」
ガシッと頭を掴まれて恒夫が叫びを上げる。
「ひぅっ! ちっ、違うから……浮気じゃないから……謝るから………… 」
モミジとカエデと話していたスギナが溜息をつく、
「まったくしょうのないやつじゃ」
モミジが愉しそうに微笑みながらスギナを見つめる。
「ふふふっ、面白い人ですね、切れ者ですね」
「俺は結構好きなタイプだぜ、中津より先に会っていたら仲間になったかもな」
カエデがニッと意味ありげに笑った。
「切れ者じゃと? 恒夫はヘンタイのバカ者じゃ、じゃが儂の大事な仲間じゃからな」
とぼけ顔で言うスギナの目が笑っていない、
「うふふふっ、存じておりますよ、スギナ様の大事な人を誘惑したりしませんわ」
「でもよ、恒夫から誘ってきたら俺は断らないぜ、仲間にするかもな」
優しい顔で微笑むモミジの隣でカエデがニヤッと悪い顔だ。
「その時はその時じゃ、じゃが儂の本来の姿を見せれば済む話しじゃ、恒夫は年上好みじゃからのぅ」
「ふふふっ、参りました。スギナ様には敵いませんわ」
愉しそうに笑うモミジに釣られるようにスギナも笑顔になる。
ラグが恒夫の後ろからおんぶするように抱き付くと薄い頭をガシガシ弄る。
「浮気は毛抜きだからにゃ、ツネは毛は少にゃいくせに気は多いんだぞ」
「ひぃいぃ~~、助けてくれ、勘弁してくれぇ~~ 」
逃げ回る恒夫を見て秀樹や中津たちが大笑いだ。
一緒になって笑っていたヘカロがサイコロを取りだした。
「そろそろ行こうか? 」
秀樹の顔がマジになる。
「はい」
元気よく返事をする秀樹の肩を中津がポンッと叩く、
「また飯食おうぜ」
中津たちが担当天使の元へと歩いて行った。
「よっしゃ、行くか」
秀樹が気合いを入れるように自分の頬をパシッと叩いて恒夫に振り返る。
「ラグちゃんサイコロ回してくれ、リーダー~~ 」
リーダーという声にラグの猫耳がピクッと反応した。
「うにゅん、わかったぞ、何たってあたいはリーダーだからにゃ」
恒夫からバッと離れるとラグが駆けてきた。
後ろで恒夫がヨロヨロと膝をつく、
「助かった……少し抜けたかな…… 」
薄い頭を気にする恒夫の背を栄二が叩く、
「今のは少し長かったね、これ以上やられると本当に抜けちゃうよ」
「毛を取るかお姉様を取るか……お姉様が取れるなら毛を取られてもいいんだがな」
汚れを払って恒夫が立ち上がる。
「毛が無くなったらお姉さんにも嫌われるかもよ」
「それが問題なんだよな、今でもモテないのにさ」
意地悪顔の栄二を見て恒夫が厭そうな顔になる。
サイコロを振ったラグが大声を出して手招く、
「ツネぇ~~、早くこっち来い、11だぞ、6と5の11で70マスへ行くぞ」
恒夫がわかったと言うように手をあげてこたえる。
「70マスか、やっと半分ってところだな」
「120マスだからね、前の30マスと比べると凄く長く感じるね」
栄二と恒夫が歩き出す。
ほぼ同時に中津たちが白い光に包まれて消えていった。
「中津も無事でよかったよ、モミジさんとカエデさんが居るから安心だし」
「綺麗だったよな、マジで女王様プレイをして欲しいぜ」
「あはははっ、ラグさんにマジで頭毟られるよ」
楽しそうに笑う栄二の横で恒夫が考え込む、
「ラグも美人なんだが……あと七年もしたらクロエみたいに俺好みのお姉様になりそうなんだがな、あの性格じゃ無理かな? 」
「恒夫は贅沢だよ、好いてくれてるのに手も出さないなんて」
「手なんか出せるか、そんな事したらマジで他のお姉様にちょっかい出せなくなるだろが、俺は年上のお姉様と…… 」
前からやって来るラグを見て恒夫が慌てて話しを止めた。
「ちょっかいが何にゃ? にゃんにちょっかい出すんだ? 」
「何でもない、次のイベントも頑張ろうって話してたんだ」
慌ててこたえる恒夫をラグがじとーっとした目で睨む、
「ほんとか? 姉様がどうとか言ってにゃかったか? 」
「あははっ、姉様じゃなくて寝不足だよ、寝不足で眠気がちょっかい出してくるけど頑張ろうって言ってたんだよ」
栄二が旨く誤魔化してくれてその場は収まる。
「遅いぞ、眠いのはわかるがしっかりしてくれよ」
睨む秀樹に恒夫がわかったと言うように手をあげてこたえる。
「ゲームも中盤でダレてきたかい? 」
心配そうなヘカロに栄二が慌てて向き直る。
「いえ、そんな事ありません、少し眠たいだけです。今も頑張ろうって恒夫と話してたところですから」
「う~ん、俺はダレダレだ。適当にやって早く寝たい」
隣で恒夫が欠伸をしながら言うのを見てヘカロが愉しそうに笑う、
「フフッ、その様子じゃ大丈夫だな、では行こうか」
天使の羽を広げるヘカロの前にラグがバッと出た。
「あたいが言うからにゃ、んじゃ、出発進行だぞ」
ラグの元気な声と共に白い光がみんなを包み込んだ。




