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スゴロク スゴくロクでもないゲーム  作者: 沖光峰津
新章 新たなるゲーム
109/158

第百九話 「花より団子」

 ダンジョンイベントを無事にクリアした秀樹たちは各自300ポイントを貰って15マス進んで59マス目にある小さな町で今日の昼からと明日一日の二日間が休みとなる。

 一緒にクリアした中津たちやトラ男のギリーとカバ男のバッグスも一緒である。


 町へと続く小道まで天使ヘカロが空間魔法で送ってくれた。


「ゲームも中盤だ。ゆっくりと休むといい」

「中津やギリーさんたちとたっぷり遊びますよ」


 笑顔でこたえる秀樹の近くで中津がニヤッと悪い顔で口を開く、


「今日と明日は休戦だな、今回は敵じゃなかったからな」

「厭なこと言うなぁ~、今回だけじゃなくてこのゲームは全部敵じゃ無いだろ、そりゃ戦うイベントなら戦うけどさ」


 顔を顰める栄二の隣で恒夫が東條に向き直る。


「そうだ。敵じゃ無い、東條は俺の女王様だからな」

「誰がヘンタイの女王様だ!! 」

「うへへぇ~~、怒った顔が堪らんぜ」


 東條に怒鳴られて嬉しそうに体をくねらせる恒夫の頭が後ろからガシッと掴まれる。


「怒った顔が好きにゃのか? じゃあ、今のあたいも堪らんぞ」

「ひぃ! 」


 頭を掴む腕を押さえながら振り返るとニタ~ッと不気味な笑いをしたラグが立っていた。


「ちっ、違うから……冗談だから……ラグはいつでも堪らないから、普段から綺麗で美人でサイコーだから………… 」

「言い残すことはそれだけか? んじゃ、残った毛と一緒にお仕置きしてやんぞ」

「ちょっ……毛だけは勘弁してくれ」


 ぐぐっと力を入れるラグの手を必死に押さえながら恒夫が秀樹に手を伸ばす。


「助けてくれ、俺のヘンタイ冗談が通じねぇ」

「俺にラグちゃんを止められるわけないだろ勘弁してくれ」


 ニヤニヤ笑う秀樹の横に意地悪顔の東條が並ぶ、


「全部引っこ抜いて貰いなさいよ、新しいのが生えるかも知れないわよ」


 スギナがパチンと音を鳴らして手を叩く、


「名案じゃな、植物も傷んだ葉を落とした方が成長するからのぅ」


 優等生の東條とは気が合うのかスギナも悪戯っ子のような笑顔だ。

 恒夫がバッと振り返る。


「傷んでないから、不摂生の十六年を生き残った大事な毛だから、砂漠に浮ぶオアシスだから」

「そんなに大事なら落とさないように全部抜いて保管しとけばいいじゃない」


 恒夫がまたバッと向き直る。


「現状維持だ! 毛が大事なんじゃなくて生えてる頭が大事なんだ…… 」


 東條に怒鳴るとラグに卑屈な目を向ける。


「だから勘弁してくれ……肉でも何でも奢るから、食べ放題でもショッピングでも何でも奢るから………… 」

「肉! そだ。肉食い放題だぞ」


 ラグが耳と尻尾をピンッと立てた。


 ショッピングと聞いてそれまで黙って成り行きを見ていた菜穂の目が光る。


「その辺でいいじゃない、それよりシャワー浴びたいから早くホテル探しましょうよ」

「だな、ゆっくり休める宿探そうぜ」


 頷くと秀樹はトラ男のギリーとカバ男のバッグスに向き直る。


「ギリーさんとバッグスさんも俺たちと同じホテルに泊まりましょう、この町にいる間は恒夫が全部奢るので任せてください」

「そうだね、助けて貰ったんだから遠慮しなくてもいいですよ、お金は恒夫くんがイカサマサイコロで稼いでくれるから心配無いですからね」


 恩人である二人には菜穂も丁寧な口調だ。

 恒夫の頭から手を放すとラグが二人の前に立つ、


「トラとカバ、遠慮しにゃくていいぞ、お前ら凄いからにゃ気に入ったぞ」

「ギリーさんとバッグスさんって言え」


 慌ててラグを押さえる恒夫を見てバッグスが大笑いする。


「がはははっ、面白い猫ちゃんだ。お前らのことは俺たちも気に入ってるがカバはないぞ、バッグスとギリーって呼べ」

「すみません、ちゃんと言っておきますから」

「トラとカバの方が呼びやすいぞ……わかったぞ、今度からギリーとバッグスって呼ぶぞ」


 ペコペコ頭を下げる恒夫の横でラグがふて腐れたように言った。

 ギリーがニヤッと白い歯を見せて笑う、


「変におべっか使われるよりマシか……ラグって言ったな、同じ猫科だから許してやるよ」


 トラそのものといった迫力ある顔だがギリーは案外優しいのだと秀樹は思った。



 ラグが恒夫の腕を引っ張る。


「んじゃ肉食いに行くぞ」


 反対側の手をスギナが握る。


「儂は甘い物も食べたいぞ」

「好きな物食べていいよ、ダンジョンじゃ碌な物食べなかったからな」


 二人に挟まれて恒夫が歩き出す。

 三人の背に菜穂が声を掛ける。


「先にホテルを探すのよ」


 秀樹がギリーとバッグスに振り返る。


「じゃあ行きましょうか、シャワー浴びてから飯食いに行きましょう」

「がははっ、御馳走になるぜ」

「厄介になるぞ、戦い以外は苦手でな、正直言って助かる」


 バッグスとギリーが秀樹に続いて歩き出す。

 秀樹と並んで歩いていた栄二が中津に声を掛ける。


「中津たちも一緒のホテルにしようよ、東條さんがイカサマサイコロ持ってるから困ってないだろうけどこの町は僕たちが奢るよ」

「そうだった。奢って貰うって約束だったな」


 プライドの高い中津も栄二には素直だ。


「お金には困ってないけどヘンタイほど旨く稼げないからね」

「俺も賛成だ。色々話しも聞きたいしな」


 東條と佐伯を連れて中津が歩き出す。

 妖狐のモミジとカエデも異存は無い様子で黙って後に続いた。


「二日後、ここに迎えに来る」


 愉しそうに微笑みながら飛び上がるとヘカロが空へと消えていった。



 高級ホテルに宿を取る。

 小さな町なので高級といっても大きな町と比べると中級程度の規模である。

 ふかふかのベッドと大きなフロがあるのでラグが決めた。

 熱いお湯が出るので菜穂と東條も文句無しだ。

 普段は男共の意見は訊かないのだがマッサージが欲しいというギリーとバッグスの意見も聞いて専属のマッサージ師がいるこのホテルに決めた。


 部屋割りは秀樹と栄二と恒夫、ラグとスギナと菜穂の二部屋だ。

 大きなスイートルームなので三人でも充分である。

 ギリーとバッグスも二人で一部屋だ。

 中津たちも男と女に分かれて二部屋である。

 つまり全部で五部屋だ。

 一部屋一泊三十万ギギルもする高級ホテルだ。

 五部屋二泊で三百万ギギルである。


 カウンターで受付と話す秀樹の背を恒夫がポンッと叩く、


「支払いは任せたぜ、俺は手持ち五百万しかないからな、これはカジノの元手だからな」

「了解だ。お前に貰った二千万丸々残ってるからこの町は全部俺に任せてくれ」


 秀樹がスギナを呼んだ。


「スギナちゃん、俺の荷物を出してくれ、金の入ってるリュックだ」

「なんじゃ秀樹が払うのか? 」


 不思議そうなスギナに恒夫がとぼけ顔で話す。


「俺が三百も出したらカジノで増やすのに手間取るからな」

「そういう事か」


 納得したのかスギナが全員の荷物を入れている妖瓢箪を着物の懐から出す。

 瓢箪をポンポンと叩くと秀樹のリュックが出てきた。


 同じイカサマサイコロを持つので気になるのか会計する様子を見ていた東條がやってくる。


「何それ? 」


 興味津々な顔で訊く東條にスギナが得意顔で妖瓢箪の説明をした。


「荷物を入れられるの? なんて便利なの、私でも使えるなら一つ欲しいな」


 物欲しそうな東條をスギナがじっと見つめる。


「人間でも扱えるがやらんぞ」

「あははっ、そうだよね、ごめんね…… 」


 残念そうな東條を見て恒夫が横から口を挟む、


「俺からも頼むよ、使えるのなら一つやってくれないか? 荷物運びに便利だからな」


 スギナが恒夫を見上げて大きな溜息をついた。


「やらんぞ、悪用されると困るからのぅ……じゃが貸すのならよいぞ、ゲームが終わるまでの間なら貸してやろう」


 東條の顔がパッと明るくなる。


「本当? ありがとうスギナちゃん」

「こっちへ来い、使い方を教えてやろう」


 東條を連れてスギナがカウンターから離れていった。

 秀樹が恒夫の肩を掴む、


「いいとこあるじゃねぇか」

「今回は敵じゃないんだろ? なら協力くらいしてやるさ」


 ニヤッと笑う秀樹に恒夫がとぼけ顔でこたえた。



 この世界では先払いが常識なので纏めて秀樹が払う、それを見てギリーが顔を顰める。


「三百万かよ、初めに貰った金全部だぜ」

「がははっ、こんなホテル初めて泊まるぞ」


 バッグスが笑いながらジロリと恒夫を見る。


「贅沢だよな、けど高い宿は安心して寝れるからさ、ここまで高級なホテルじゃなくてもいいんだけど死にそうになったから今日は特別だ。それに金には困ってないからさ」


 恒夫がポケットからイカサマサイコロを取りだして二人に見せる。


「何だそれ? 」


 興味津々な顔のバッグスの前で恒夫が部屋の鍵を受け取る。


「向こうで話すよ、先行ってるぞ秀樹」


 会計を秀樹に任せると恒夫はギリーとバッグスを連れてカウンターから離れた。

 周りに人がいないのを確認してから恒夫が二人に説明した。


「イカサマサイコロか、成る程なそれでカジノで勝ったんだな」

「それで勝てるのか? そんな便利なら俺も貰えばよかったぞ」

「3回に一度くらいでハズレが出るから扱いは結構面倒ですよ」


 驚く二人に恒夫が付け足す。


「がさつな俺たちじゃ旨く扱えそうもないな」

「がははっ、バレてカジノを叩き出されるぜ」

「そういう訳だから遠慮無しで奢らせてください」


 大笑いするバッグスを見て恒夫も釣られて笑った。



 秀樹に部屋の鍵を貰ったラグが駆けてくる。


「ツネぇ~~、宿も決まったし飯にするぞ」


 ギリーやバッグスの前でも平気で抱き付いてくるラグを恒夫が鬱陶しそうに引き離す。


「飯は後だ。二日もダンジョンにいたんだぞ、先に風呂入って服を着替えろ、我慢できないならホテルのカフェで何か食べてろ」

「えぇ~~、肉食い放題が先だぞ、にゃ~、にゃ~~、肉食いに行くぞ」

「だから風呂に入った後だって言ってるだろ…… 」


 じゃれるラグを引き離そうとするが獣人の腕力には敵わず恒夫は簡単に腕を取られて抱き付かれる。

 フィフィとの戦いを終えてから以前に増して『にゃ~、にゃ~ 』と甘えるようになっていた。

 命懸けで守ってくれた恒夫のことが本気で好きになった様子だ。


 そこへ同室のスギナと菜穂がやってくる。


「何をやっとるんじゃ? 遊んでないで鍵を渡さんか、儂らが部屋に入れんじゃろが」


 じろっと睨むスギナに恒夫が助けて貰おうと手を伸ばす。


「飯は後でって言ってるのにラグが利かないんだ」

「まったく…… 」


 スギナは溜息をつくと視線を恒夫からラグに移す。


「自慢の耳が汚れとるぞ、出来るリーダーは身嗜みも整えるものじゃぞ、中津たちもいるのじゃからな、ちゃんと風呂に入って良い女を見せるのじゃ」

「私も先にシャワーを浴びたいわね、汚れた格好じゃ高級店に入れないわよ」


 スギナの隣で菜穂も呆れ顔だ。

 ラグがさっと恒夫から離れる。


「耳汚れてるにょか? んじゃ風呂に入るぞ、その後で美味しい店で食べ放題するからにゃ」


 猫耳をワシャワシャと手でブラッシングしながらラグが言った。

 恒夫がやれやれという様子でギリーとバッグスに振り返る。


「ギリーさんとバッグスさんも風呂に入ってマッサージをして貰ってから飯って事でいいですよね? 酒飲むんでしょ? 酔っ払ってたらマッサージ呼べませんよ」

「そうだな、了解した」

「がははっ、女もいるから身嗜みは整えないとな」


 話しながら恒夫がギリーに部屋の鍵を渡す。


「まだ晩飯には早いし俺たちも少し休みたいので三時間後にロビーで待ち合わせってことで」

「了解した。三時間後だな」

「がはははっ、風呂とマッサージに少し昼寝して丁度だ」


 わかったと言うように手を振るとギリーとバッグスは部屋へと歩いて行った。

 中津と話をしている秀樹の元へと恒夫が歩いて行く、


「晩飯は三時間後にロビーで待ち合わせってことで少し休もうぜ」

「今から三時間後だな、んじゃ部屋行ってゆっくりするかな」


 秀樹が大きく伸びをする横で佐伯がわかったと言うように軽く手を上げた。


「遠慮なく御馳走になるぜ」

「中津にも言っといてくれよ、俺は今からシャワー浴びて直ぐにカジノに行って二時間ほど稼いでくるから後は任せたぞ、今晩はギリーさんや中津たちと騒ぐからカジノに行けないからな」


 栄二と話している中津をちらっと見ると恒夫は部屋へと向かって歩き出す。



 少し歩いた恒夫の腕をスギナが引っ張る。


「ラグは儂に任せておけ、ホテルのカフェで甘い物でも食って待っておるからな」

「いいわね、疲れた体がケーキを欲しがってるわよ」


 隣を歩きながら菜穂が賛成だ。

 近くで話を聞いていたのか東條がヒョイッと顔を覗かせる。


「夢の世界じゃ太らないから好きなだけ食べられるってのがいいわよね」

「お主らも来るか? 」


 スギナが言うと東條の後ろに居た妖狐のモミジがペコッと頭を下げる。


「スギナ様のお誘いなら御一緒させて貰いますわ」

「俺は酒の方がいいんだが……甘いのも好物だ」


 嬉しそうにニッと笑うカエデを見てスギナが頷く、


「では風呂に入ってカフェに集合じゃ」


 楽しそうな様子にラグが飛んできた。


「何の話ししてるにゃ? 」

「女子会の話しじゃ、女子だけでケーキを食いに行くのじゃ」

「おおぅ、あたいも行くぞ」


 ラグが猫耳と尻尾をピンと立たせて手を上げた。


「当然じゃ、ラグはリーダーじゃからの、金は秀樹が出すから遠慮無しじゃ」


 先程まで肉肉と煩かったラグを見て恒夫が溜息をつく、


「任せたよスギナちゃん、二時間ほどしたら戻るから」


 花より団子かよ……、

 うんざりした顔で女たちを一瞥すると恒夫は部屋へと歩いて行った。



 大浴場へは行かずに部屋のシャワーを浴びる。

 恒夫が着替えていると秀樹と栄二がやって来た。


 秀樹はリビングルームにある大きなソファにドカッと座ると手に持っていた瓶ジュース2本をテーブルに置いた。


「もう行くのか? 一時間ほど寝たらどうだ? 」

「余り無理しないでね、みんなに奢るくらいならこの前貰った二千万あれば充分だよ」


 向かいに座る栄二も瓶ジュースを持っている。

 恒夫が鏡を見ながら薄い頭を整える。


「今日と明日しかないからな、夜はギリーさんたちと宴会で潰れるし、空いた時間に出来るだけ増やしておきたい」


 秀樹が売店で買った瓶のサイダーを開けると恒夫に差し出す。


「そんなに稼がなくてもいいぞ、装備は揃ってるし買うものは魔法の弾くらいだぜ」

「わかってる。魔法の弾100発ほど買っとこう、それとな、ギリーさんとバッグスさんに少し渡したいんだ。前に渡した百万ギギルがそろそろ無くなる頃だと思うからな、あの二人もラグと同じでよく食うんだ。仲良くしておいて損は無いからさ」


 サイダーを受け取った恒夫が美味しそうに飲む前で秀樹が自分の分のサイダーを開ける。


「二人が仲間になってくれれば最強だな」


 サイダーを口に付ける秀樹の向かいで栄二がオレンジジュースの瓶を開けた。


「でも今六人だから無理だよ、1チーム六人までってルールだからね」


 ゴクゴクとサイダーを飲んでいた恒夫が瓶から口を離す。


「チームじゃなくても協力は出来るだろ、ダンジョンみたいにさ」


 飲みながら秀樹が頷く、


「だな、少なくとも敵にはならないって考えたら安心だぜ」

「そうだね、ギリーさんもバッグスさんも獣人の中じゃトップクラスだもんね」


 パッと顔を明るくすると栄二がオレンジジュースを飲み始める。

 恒夫が意地悪顔でニヤッと笑う、


「強いだけじゃなく義理堅いみたいだし信用できるからな、お前らと組んでなかったら仲間に入って貰うとこだぜ」

「またそんな事言う…… 」


 厭そうな顔をして栄二がオレンジジュースをテーブルに置いた。


「マジで一人で勝つつもりかよ、最低だぜ」


 向かいで秀樹がサイダーを叩き付けるようにテーブルに置いた。

 シュワシュワと音を立てる秀樹のサイダーを見つめながら恒夫がサイダーを飲み干した。


「にへへへっ、お前らに付き合って来ただけだが勝てそうなら話は別だろ、ラグやスギナちゃんを勝たせてやりたいしな、女に会いたいって不純な動機のお前らと違うしな」


 意地悪顔の恒夫に秀樹がニヤッと笑うと言い返す。


「へいへい、どうせ俺らは不純ですよ、恒夫みたいにハゲを治して貰うって壮大な願いじゃないですよ」

「ハゲじゃねぇ! そんな願いするか! 」


 怒鳴りながら金の入ったリュックを抱える。


「 ……ったく……、まぁ、何だ。お前らがネピアとクロエに会えるように協力はしてやるさ、サイダーごっそうさん」


 空の瓶をテーブルに置くと照れるように薄い頭を掻きながら恒夫が部屋を出て行った。

 秀樹と栄二が顔を見合わせる。


「ヘンタイのくせに格好つけやがって」

「やっぱ恒夫は優しいね」


 嬉しそうに微笑む栄二の向かいで秀樹が首を傾げる。


「何でヘンタイなんだろうな? 背が低いのはともかく頭が薄いのとヘンタイじゃなきゃ女子に嫌われたりしないのにな」


 栄二が思い出すように口を開く、


「中学で知り合ったときからヘンタイだったよね、ヘンタイでも面白いから友達になったけど」


 秀樹が同意するように頷いた。


「ヘンタイ紳士目指してるだけあって本当に人の嫌がることはしなかったからな」

「ヘンタイじゃなかったらいいのに……何でヘンタイなんだろうね」

「さぁな、ファッションヘンタイじゃなくて本物だからな」


 二人揃って恒夫の出ていったドアをじっと見つめた。



 秀樹たちの隣がラグたちの部屋だ。

 入ると同時にラグがダダッとベッドのある部屋に向かう、


「もう寝るの? 先にお風呂でしょ? 」


 ひょいっと覗く菜穂の目の前でラグがベッドに飛び込んだ。


「おおぅ、ふかふかだぞ、高いホテルはこれが気持ちいいんだぞ」

「安宿の洗ったかどうかもわからない布団じゃ寝れないわよね」


 布団に顔を擦り付けるラグを見て呆れる菜穂の隣でスギナがじとーっとした目だ。


「そのベッドはお主が使うんじゃぞ、風呂に入る前の汚れた体で飛び乗りおって…… 」


 三つ並ぶベッドの真ん中でラグがバッと顔を上げる。


「あたい端のほうがいいぞ、ここはちびっ子が使うんだぞ」

「なっ!? なんで儂なんじゃ? 」


 驚くスギナの隣で菜穂が叱るように声を上げる。


「じゃあ何で真ん中に飛び込むのよ」

「目の前にあったからにゃ、入って直ぐ見えたから体が飛んでたぞ」


 ニカッと笑いながらラグがベッドから飛び降りた。

 厭そうな顔をしてスギナが口を開く、


「じゃから何で儂なんじゃ、お主が飛び乗ったのじゃからお主が使え」

「にゃへへへっ、確かめてやったんだぞ、ふかふかかどうかベッドの具合を確かめたんだぞ、リーダーの役目だからにゃ、このベッドはふかふかで合格だぞ、だからちびっ子は安心して眠るといいぞ」

「余計な事しおって……まったく……まぁよい、それより風呂に行くのじゃ、大浴場じゃぞ」


 弱り顔のスギナが妖瓢箪を取り出す。


「そだぞ、風呂入ってケーキ食うんだぞ」


 ラグがバッと服を脱ぎ始める。


「わあぁ~、何してんのよ、部屋の風呂じゃないでしょ、大浴場でしょ」


 菜穂が慌てて止める。


「おおぅ、そうだったぞ、みんなで入るんだったぞ」


 脱ぎかけのシャツに引っ掛かって褐色の爆乳がブルンと揺れた。

 スギナが妖瓢箪から二人の荷物を取り出す。


「まったく……ほれ、着替えを持ってさっさと行くぞ、女子会じゃぞ、女子会」

「スギナちゃん嬉しそうね」


 覗き込むように見つめる菜穂の前でスギナがパッと顔を明るくする。


「わかるか? 長く生きとっても女子会など初めてじゃ、女子だけで集まって恋愛トークや愚痴を言い合うんじゃろ? 一度やってみたかったのじゃ」


 脱ぎかけのシャツを着直してラグが口を開く、


「そだぞ、楽しいからにゃ、女子だけで集まって戦闘トークと技を掛け合うんだぞ、血で血を洗う生死を賭けた会合、それが女死会だぞ」


 菜穂がバッと振り返る。


「何処の女子会だ! そんな事しません!! 」


 怒鳴る菜穂の前でラグが不思議そうに首を傾げる。


「うにゃ? チャトラン族の村ではしょっちゅうやってたぞ女死会、ガールズトークと一緒に技が炸裂するんだぞ、そんで毎回怪我人が出るんだぞ」


 スギナが泣き出しそうな顔で菜穂の腕を引っ張る。


「字が違っておるからの、そんな女子会は嫌じゃからの、怪我人が出る女子会なぞ御免じゃ」

「よしよし、わかってるわよ、バカ猫は放って置いて私たちだけで楽しく女子会しましょうね」


 泣きべそをかいた幼女のようなスギナの頭を菜穂が優しく撫でた。


「にゃははははっ、冗談だぞ、冗談、戦うよりケーキ食う方がいいぞ、んじゃ、さっさと風呂に行くぞ」


 誤魔化すように笑うとラグは着替えを持って部屋を出て行く、


「本気の目じゃったぞ」

「ラグの村じゃ本当にあるんじゃないの女死会」


 涙を拭うスギナの手を引いて菜穂も部屋を出て大浴場へと向かった。



 大浴場に着くとラグがババッと服を脱ぐ、羞恥心が無いのか、女子だけだからなのか、隠しもしないで素っ裸だ。


「フロフロお風呂ぉ~、温泉だぁ~~♪ ザァ~ザァ~お風呂ぉ~、温泉だぁ~~♪ 」


 服を脱ぎ捨てるラグをスギナと菜穂が怒鳴って止める。


「脱ぎっぱなしじゃなくて脱いだ服は籠に入れなさい」

「汚れた服は番号の付いた籠に入れて洗濯に出すんじゃからな、部屋で一つじゃ、儂らの分と一緒に洗濯じゃからな、無くさんようにきちんと籠に入れるのじゃ」


 脱ぎっぱなしで床に置いてあった服をプクッと頬を膨らませたラグが拾って籠に入れる。


「ふにゅ……菜穂とちびっ子は母ちゃんみたいだにゃ」

「誰が母親じゃ、お主のようなバカ娘は御免じゃぞ」

「本当よ、私たちが母さんじゃなくてラグが赤ちゃんでしょ」


 怒る二人に構いもしないで素っ裸のラグがダダッと走り出す。


「フロフロお風呂ぉ~、温泉だぁ~~♪ ザァ~ザァ~お風呂ぉ~、温泉だぁ~~♪ シャンプー染みても泣くんじゃにゃいぞ、擦り傷染みても我慢だぞぉ~~♪ ゴシゴシ洗う~、温泉だぁ~~♪ ブクブクお風呂ぉ~、温泉だぁ~~♪ 」


 バルンバルンと爆乳を揺らしながらラグが元気に大浴場へと入っていった。


「走るでない、転んでも治療してやらんぞ、それに温泉ではないぞ、大きなボイラーで焚いとるんじゃぞ」

「風呂好きの猫って珍しいわね」


 呆れ顔の菜穂と注意するスギナが続いて入っていく、


「でっけぇ風呂だぞ、んじゃ、いっちばぁぁ~~ん」


 飛び込もうとしたラグを植物の蔓がグルグル巻にする。


「掛け湯をせんか、汚れを落として入るのがマナーじゃぞ」


 睨むスギナの前でラグがくるっと体を捻って難無く蔓から抜け出す。


「おおぅ、そだぞ、泳ぐ前には体操だぞ」

「掛け湯じゃ! 体操してどうする? 」


 怒鳴るスギナの横で菜穂が呆れ顔で笑う、


「あははっ、デカい風呂でテンション上がるのはわかるけどね」

「まったく、お主は…… 」


 スギナが叱ろうとした時、先に湯に浸かっていた東條が後ろからラグの頭をポンッと叩いた。


「風呂で泳いじゃいけません、他の人の迷惑でしょ」

「おお、お主らも入っておったのか」

「うん、ダンジョンで汚れたからね、真っ先に風呂に入りたかったわよ」


 笑顔の東條の後ろ、湯気の向こうに妖狐のモミジとカエデが居た。


「はいスギナ様、先に頂いております」

「いい湯加減だぜ、後で背中流してやるよスギナ様」


 二人とも風呂は好きらしく微笑むモミジの隣でカエデがニッと満面の笑みだ。


「狐も居たんか? んじゃみんなで背中の流しっこするぞ」

「だから体を流しなさいって…… 」


 そのまま入ろうとするラグに菜穂が桶を使って湯を掛けた。


「うひゅひゅぅ~~、熱くて気持ちいいぞ」

「まったくバカ猫じゃ」


 隣で掛け湯をするとスギナが湯船に入っていく、


「スギナちゃんはお風呂のマナー知っているのね」


 胸を隠していたタオルを使って長い髪を束ねて入るスギナを見て東條が感心する。


「儂は四国生まれじゃからな、人間社会のマナーは知っておるつもりじゃ」

「へぇ、そうだったんだ。四国なんだ。モミジさんとカエデさんも日本だよ、二人は和歌山生まれだって、強い妖怪が仲間だから人間世界も安心だわ」


 ちらっと東條を見てスギナが口を開く、


「楽観じゃの、狐に化かされんように気を付けるんじゃぞ」


 向かいからモミジとカエデがやって来る。


「スギナ様も冗談が好きですね、手を組んだ以上は化かしたりなどしませんよ」


 にこやかなモミジの隣でカエデが鋭い目を向ける。


「俺たちは人間などに興味は無い、我ら妖狐一族が存続できればいい」

「それがお主らの願いか? 平凡じゃの、四国の山々を守りたいという儂と同じようなものじゃな、じゃが信じてよいのか? 」


 マジ顔で見つめるスギナの前でモミジが笑みを湛えたままこたえる。


「今更人間と争っても詮無き事、共存する方が得ですわ」


 スギナがマジ顔を崩した。


「成る程のぅ、利用すると言うことか……それはそれで良い生き方じゃの、その言が本当なら儂も一安心じゃ、お主らと争うのは避けたいからのぅ」

「山の神様が何で人間と組んでるのか知らないけどスギナ様を敵に回すのはこっちも御免だ」

「神様って…… 」


 バッと振り返る東條を見てスギナの顔が曇った。

 モミジが慌ててカエデを窘める。


「カエデ、迂闊なことはいけませんよ」

「まあよい、土着神など神といっても力のある妖怪じゃからな、このゲームを仕切っておる神とは別口じゃ、他の者には内緒じゃぞ」


 東條が慌てて頷く、


「うっ、うん、誰にも言わない……味方なら心強いわよ」


 モミジとカエデに向き直ると東條が続ける。


「二人のこともね、人間と敵対しないんだったら利用しても構わないわ、バカ男を誑かすくらいなら安心よ」


 ドキドキしながらも東條の顔に安堵が広がっていった。



 湯の掛け合いをしてじゃれていた菜穂とラグが入ってくる。


「にゃんの話しにゃ? ちびっ子と狐が悪戯の相談か? あたいも混ぜるにゃ、みんなでツネに悪戯するぞ」


 ラグの後ろから菜穂がヒョイッと顔を出す。


「なに? なに? 恒夫くんに悪戯するの? 私もやりたぁ~い」


 二人を見てスギナが大きな溜息をついた。


「悪戯などするわけないじゃろ、恒夫は儂らのためにカジノで稼いでおるんじゃぞ、彼奴もダンジョンで疲れておるじゃろうに…… 」


 東條が感心したように声を上げる。


「カジノに行ってるの恒夫? 元気ねぇ~ 」


 複雑な顔をしてスギナが振り返る。


「元気ではないぞ、彼奴は人のために力を出すタイプじゃ、ヘンタイじゃがそこは尊敬しておる。儂も恒夫に力を貸してやりたい、そう思ってチームに入ったのじゃ」


 ラグが後ろから抱くようにスギナに覆い被さる。


「そうだぞ、ツネは毛は無いけど力はあるんだぞ、あたいはそんなツネが大好きだぞ」

「まぁ、一緒におると面白いのは確かじゃな」


 覆い被さるラグの爆乳に挟まれるようにしてスギナが言った。


 二人の信頼しきった顔を見て東條の顔に優しさが広がっていく、


「そんなのわかってるわよ、私も助けて貰ったから……ヘンタイじゃなかったら私ももっと優しくするんだけどな………… 」

「にゃははははっ、ダメだぞ、ツネは優しくするより苛めた方が喜ぶからにゃ、本物のヘンタイだぞ、でもそこが面白いんだぞ」


 ラグが笑う度に爆乳に挟まれたスギナの頭が上下する。

 弱り顔の東條が同意するように頷いた。


「それが厭なのよ、なんでヘンタイなのよ、ほんっとうにヘンタイだから認めたいのに認められないのよね」


 後ろで話を聞いていた菜穂が鼻を鳴らす。


「ふ~ん、恒夫くんって優しいんだ」

「基本的に悪人ではないのぅ、ヘンタイじゃがな」


 スギナが振り返ろうとするがラグの爆乳が邪魔で後ろを向けない。


「そんな事よりいい加減にデカい乳をどけんか」


 頭を挟むように肩に置かれている爆乳をスギナが両手でペシペシ叩く。

 東條が自分の胸と見比べる。


「凄いわね、何をどうしたらそんなに大きくなるのかしら」


 後ろに居た菜穂がやって来て東條と並ぶ、


「うん、私も結構自信あったんだけどあれには完敗だわ」

「何カップあるのかしら? 獣人だから筋力があるのか垂れてないし正直羨ましいわね」


 ラグの胸から自分の胸、隣りにいる菜穂の胸に視線を移して東條が呟くように言った。

 菜穂が自分の胸を両手で持ち上げる。


「Dの私の倍以上あるわよ、Gはあるんじゃない? 」

「負けた……菜穂さんも立派だわ」


 東條が落ち込む、同じくらいだと思っていたが並んで比べると菜穂の方が一回り大きかった。


 ラグが爆乳を揺らしながら大声で笑う、


「にゅははははっ、こんにゃのデカくて邪魔にゃだけだぞ、戦うのに役に立たにゃいぞ、でもツネもデカいにょが好きみたいだからにゃ、これでいいぞ」

「いい加減に離れんか! 」


 潜るようにしてスギナが爆乳から抜け出す。


「デカいだけのバカ乳じゃ、あの乳に遮られて養分が頭に回らんのじゃぞ」


 東條と菜穂の間に入るとスギナがプクッと頬を膨らませた。

 無理もない、幼児体型のスギナはペッタンコだ。

 ラグの爆乳だけでなく東條や菜穂の中くらいの胸も羨ましそうに見つめている。


 菜穂が誤魔化すように口を開く、


「まぁなんだ……スギナちゃんは小さいんだから仕方ないよね」

「そうよ、その体型で巨乳なら逆に引くわよ、スギナちゃんは今のままが一番可愛いわよ」


 不機厭なスギナを見て東條も慌てて乗ってきた。


「肉だ肉、肉をいっぱい食えばおっぱい大きくにゃるんだぞ、野菜の葉っぱ食ったら萎むんだそ、だから肉をいっぱい食うんだぞ」


 無責任に言うとラグが泳いですいーっと離れていった。


「肉か…… 」


 東條が自分の胸を持ち上げて呟いた。


「肉などラグより沢山食っておるわ、それにこの中で一番年上じゃぞ」


 スギナが拗ねた幼女のように泳いでいくラグを見つめた。

 見かねたのかモミジが話しに加わる。


「スギナ様は姿と同じように力を抑えていますからね」

「でも何で力を抑えてるんだ? スギナ様ならこんなゲーム寝ててもクリアできるだろ」


 隣で不思議そうにカエデが訊いた。

 スギナの膨れていた頬が萎んでいく、


「それが条件じゃからのぅ、本来の姿ではゲームに参加できんからの、魔族たちと同じじゃ」


 優しい顔で微笑んでいるがモミジの目がキラッと光る。


「ゲームの公平性を保つために力をセーブされているのですね」

「そんなところじゃ、儂が持っておらん力が手に入るから参加したんじゃ」

「成る程ね、俺たちと同じだ。本当に敵になる心配が無くて安心したよ」


 わかったと言うようにカエデが頷いた。


「それは儂も同じじゃ、人間と手を組むなどお主らが何を企んでおるのか警戒しておったが一先ず安心じゃ、中津たちの面倒は頼んだぞ」


 マジ顔で見つめるスギナにモミジがペコッと頭を下げる。


「お任せ下さい、此方も利があって組みましたから」

「他の妖怪よりも信用できるし中津も東條も頭が良いからな」


 任せろと胸を張るカエデの巨乳がぷるんと揺れた。

 それを見た菜穂が思わず口に出す。


「それにしてもモミジさんとカエデさんもおっきいわね」


 菜穂が言った後で仕舞ったというようにスギナを見る。


「そうそう、背中の流しっこしましょうか? 」


 どうにか話を逸らそうとする東條にスギナが向き直る。


「気を使わんでよい、本来の姿に戻れば儂もナイスバディじゃからな、もっともバカ猫のバカ乳には敵わんがな」


 スギナに釣られるようにその場の全員がラグを目で追う、


「ああ、あれは俺も無理だ。デカすぎて邪魔なだけだぜ」


 カエデが呆れるように呟いた。


「あれで強いんじゃから儂も吃驚じゃ」


 スイスイ泳ぐラグを見てスギナや菜穂に東條はもちろんカエデやモミジも楽しそうに声を出して笑った。

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