第百七話 「無敵札」
広間の左、恒夫から見てピラミッドに続く石畳の向こう側では秀樹と菜穗がモグラ男のベベベとジジジと戦っていた。
「モフフフフッ、おらのパンチを受けてみるだで」
怪力能力を貰ったベベベが菜穂に拳を振り下ろす。
「水の結界、ウォータードロップアーマー 」
防御魔法を出した菜穂が吹っ飛んで転がった。
「低級魔法じゃ防げないなんて、なんて馬鹿力なのよ」
立ち上がった菜穂にベベベが腕を向ける。
「ハラペーニョファイヤー 」
「くぅっ! 」
歯を噛み締めて菜穂が耐える。
魔法の鎧が防いでくれるので無傷だが炎の熱さはある程度は感じるのだ。
近くでは秀樹がジジジと戦っていた。
「ちょこまかと動きやがって」
秀樹が魔法の銃をぶっ放すがジジジは俊足の能力を使って簡単に避けていく、
「モググググ、そんなもの当たらないだど」
楽しそうに笑いながらジジジが突っ込んでくる。
「おらの爪で引き裂いてやるだで」
「プラズマガード」
秀樹がバチバチと雷光をあげる電気の壁を作るとジジジがさっと避けて後ろに回った。
「ぶっ飛ばしてやるだで」
ジジジの平手打ちが秀樹に直撃だ。
「ぐは~~っ 」
呻きを上げて秀樹が吹っ飛ばされた。
「くそっ、さっきまでは穴に隠れてた癖しやがって…… 」
愚痴る秀樹の向かいでジジジがニヤッと不気味に笑う、
「今のおらたちは無敵だど、穴に潜る必要はないだで、お前ら皆殺しだど」
無敵札を使ってから立場は完全に逆転していた。
戦いの音が聞こえるほどの少し離れた通路でスギナがラグを治療している。
「何しに来たんにゃ? 裏切り者のツネの手なんか借りなくても一人で逃げられたぞ」
強がって口を尖らせるラグをマジ顔のスギナが正面で見据えた。
「道に迷ったのは動く壁のトリックじゃ、恒夫は裏切ってなどおらん、身を挺して儂を助けてくれた。今はお主を助けるために命懸けで囮になったんじゃぞ、それでも信用できんのか?」
ラグの目に涙が浮かぶ、言われなくともわかっている。
二人が助けに来なければ確実に殺されていたのだ。
「 ……ツネ……あたいが間違ってたぞ」
「間に合ってよかった。恒夫が心配しておったぞ」
スギナがラグの頭をポンポン叩いた。
「もっと早く治らにゃいのか? ツネを助けに行くんだぞ」
「自身で動けんくらいに大怪我じゃぞ、あと七分は掛かる」
「三分で治すにゃ、早くしにゃいとツネが殺されちゃうぞ」
スギナが撫でるようにポンポンしていた手でペシッとラグの頭を叩く、
「治るか! 死んでもおかしくない大怪我なんじゃぞ、恒夫なら大丈夫じゃ、栄二も援護にきておる。彼奴ら二人は考えて戦うからの、大丈夫じゃ、じゃから安心せい」
「わかったにゃ、でも出来るだけ早く頼むぞ」
悪いと思っているのか、栄二もいるので安心したのか、ラグが素直に従った。
柱に隠れながら恒夫が魔法銃をぶっ放す。
「そこね! 」
フィフィがさっと姿を消すと恒夫が隠れていた柱の前に現われた。
「居ない……まったく、逃げるのは速いのね」
辺りを探すが恒夫の姿は見えない、そこへ魔法の弾が飛んでくる。
「そんな玩具、私には効かないわよ」
フィフィが高速で動いて姿を消す。
同時に柱の周りが炎に包まれる。
炎魔法の弾、ヒ弾だ。
「恒夫、大丈夫かい? 」
「生きてるぜ、援護サンキューな」
心配そうに訊く栄二に大声でこたえると恒夫が続ける。
「俊足で姿を消すのは厄介だが魔法が低級だけでよかったぜ」
「本当だね、中級魔法なら無敵札の効果で上級魔法並みになるからこの辺り一面焼き払われていたよね」
二人の会話にフィフィが聞き耳を立てる。
「恒夫くん、隠れてばかりじゃつまらないわよ、出てきて一緒に遊びましょうよ、女王様が好きなんでしょ、たっぷり苛めてあげるわよ」
「鞭でぶたれるのは好きだけど振動波はごめんだぜ」
恒夫のとぼけ声を聞いてフィフィがニッと口元を緩める。
「うふふっ、そうなの、出てこないのね……じゃあ、隠れてる柱全部ぶっ壊してあげるわよ」
フィフィがスッと姿を消した。
「振動波! 」
恒夫が隠れている後ろの柱が崩れていった。
「あれっ、この柱だと思ったのに……まぁいいわ、全部壊しましょう」
「やべぇ、無差別かよ」
恒夫はダダッと走ると他の柱の影に隠れる。
フィフィが近くの柱を順番に壊していく、恒夫と栄二は戦うというよりも逃げ回っていた。
「くそっ、もう少しなのに」
隠れる柱が少なくなり焦る恒夫の前に影マントを脱いだ栄二が姿を現わした。
「僕が囮になるからどうにか当てられないかな」
「そうだな、一か八かやってみるか」
互いを見て頷くと栄二がバッと走って柱を出た。
「そんな所に隠れてたのね」
フィフィが声と同時に栄二の左に現われた。
「振動波! 」
「あうぅっ 」
頬を殴られて栄二が吹っ飛んでいく、振動波のパンチだ。
普通なら脳をやられて死んでいるが栄二は不死身能力を持っているので気絶だけで済んだ。
栄二を殴る瞬間を狙って恒夫が魔法銃をぶっ放す。
「水の結界、ウォータードロップアーマー 」
栄二を殴ったのとは反対側の手で防御魔法を出して攻撃を防いだ。
「くそっ、同時に使えるの忘れてたぜ」
悔やむ恒夫の前にフィフィがスッと姿を現わした。
「私のものにならないなら死になさい」
やられる……、恒夫が観念したその時、名を叫びながらラグがフィフィに殴りかかる。
「ツネぇ~~ 」
「ぐぅ…… 」
ラグのパンチを受けてフィフィが歯を噛み締めるが直ぐに声を出して笑い出す。
「あははははっ、効かないわよ、本当に無敵だわ」
「にゃに!? あたいのパンチ受けて平気にゃのか…… 」
驚くラグの手を取って恒夫が逃げ出す。
「あと二分ほどだ。それまで戦うな、スギナちゃんは? 」
柱の陰に入ると栄二を治して貰おうと思って訊いた。
「ちびっ子は秀樹の援護に行ったぞ、2匹のモグラも無敵だからにゃ」
「そうか……俺は栄二を治療するからフィフィの相手は頼んだぞ」
「わかったにゃ、あの女はぶっ飛ばさにゃいとあたいの気が晴れにゃいぞ」
今にでも飛び出しそうなラグを恒夫が止める。
「あと三分待て、二分ほどで無敵札の効力が切れるはずだから」
「わかったぞ、ツネオ……ごめんにゃ」
「誤解されるような俺が悪いんだ。俺も謝るからこれでチャラだ」
抱き付いてきたラグの頭を恒夫が撫でた。
「ちょこまかと…… 」
フィフィが隠れている恒夫とラグを探す。
「そろそろ切れる時間だろ」
柱の陰からバッと出ると恒夫が魔法銃をぶっ放す。
「そんなものが……くそっ、時間切れか」
バッと跳んでフィフィが避けた。
そこへラグが殴りかかる。
「よくもやってくれたにゃ」
「なっ……ぐはっ! 」
フィフィが吹っ飛ばされて床に転がった。
殴られた頬を擦りながらフィフィが起き上がる。
「くそっ、ジジジ、もう一枚使いなさい」
「フィフィ様わかりましただど」
反対側で戦っていたジジジが大声でこたえると無敵札を掲げた。
「無敵札よ、おらたちに力をくれだど」
「また使うのかよ、3枚しかない必殺技だろうが」
発動して白く光る無敵札を見て恒夫が愚痴るように言った。
秀樹の元へ駆け付けたスギナが思わず叫ぶ、
「しもうた!! 次を使う前に始末する予定じゃったのに」
「くそっ、もう十五分無敵かよ」
吐き捨てる秀樹にスギナが振り向く、
「此奴は儂がやる。お主は菜穂と協力してもう1匹のモグラを頼む」
「了解した。こいつは無敵札の他は俊足能力を持ってるだけでたいしたことないからな、俺でもどうにか戦えたからな」
「謙遜するな、獣人と渡り合えるだけでも凄いものじゃぞ」
「あははっ、スギナちゃんに褒められると嬉しいぜ、じゃあ任せたよ」
嬉しそうに笑うと秀樹は菜穂の元へと急いだ。
無敵のベベベ相手に菜穂は苦戦していた。
「流石に魔法の使い過ぎね」
肩で息をつく菜穂を見てベベベがニタリと不気味に笑う、
「モフフフフッ、さっきから上級魔法は疎か中級魔法も使ってないだで、限界にきてるだど」
「何言ってんのよ、あんたなんか低級魔法で充分よ」
菜穂は強がるが苦痛に顔が歪んでいる。
「モフフッ、これでも喰らえ」
ベベベが崩れた煉瓦を投げ付けると同時に腕を向けた。
「ファイヤーニードル」
煉瓦を避けるのに必死で一歩遅れた菜穂に炎が迫る。
「菜穂! 」
駆け付けた秀樹も間に合わない。
その時、菜穂の前に水の壁が現われて炎を防いだ。
「モフフ……誰だ!! 」
ベベベの顔から笑みが消えた。
「秀樹、モグラ叩きか? 俺たちも混ぜてくれよ」
広間の奥、ピラミッドの横にある通路から中津と佐伯と東條が出てきた。
「中津! 佐伯と東條さんも…… 」
秀樹がパッと顔を明るくする。
菜穂の向かいでベベベが中津たちに向かって腕を振った。
「邪魔をするな人間どもが……ハラペーニョファイヤー 」
中津が魔法の杖を上げる。
「プラズマガード」
バチバチと雷光をあげる壁に炎が吸い込まれて消えていく、
佐伯がフッと浮かび上がると菜穂の前に飛んできた。
「秀樹、この娘連れて少し休んでろ、お前らもう限界だろ」
魔剣を抜きながら言った。
佐伯は不死身能力に魔剣と天使の羽を持っている俊足の剣士だ。
「そのモグラは俺たちに任せてくれ、お前は東條さんとその娘と一緒に休んでろ」
中津がベベベを挟むように後ろに立つ、東條が秀樹へ駆け寄ってくる。
「治癒してあげるわよ、怪我してなくても体力と気力が少し戻って戦えるようになるからね、そっちの緒方さんだっけ? 貴女も来なさい」
東條が優等生らしい口調で言うと菜穂が顔を顰める。
「私は負けてないわよ、まだ戦えるんだから…… 」
「菜穂、ここは甘えようぜ、何があるかわからないんだぜ、無理は止めようお互いにな」
「わかったわよ、無理して負けたらバカみたいだしね」
渋々従う菜穂を見て微笑むと秀樹が中津に向き直る。
「そのモグラは無敵札使って無敵になってる。あと十三分ってところだ。気を付けて戦えよ」
「無敵のモグラか厄介な相手だな、だが俺と佐伯なら負けないぜ」
余裕に笑う中津を見て秀樹はフッと笑うと菜穂と東條と一緒に離れていった。
フィフィと戦う恒夫とラグも苦戦していた。
「くそっ、栄二を治しに行きたいがラグ一人じゃ無理だ」
愚痴る恒夫の前でラグとフィフィが戦っている。
「ヒュンヒュンキィ~ック! 」
怪力を込めたラグのキックが当たるがフィフィは平然としている。
「うふふっ、効かないわよ、今の私にはどんな攻撃も効かないのよ」
笑いながら手をラグに向ける。
「ハラペーニョファイヤー 」
向かってくる炎をラグが跳んで避ける。
その後ろにフィフィが姿を現わした。
「振動波! 」
「んにゃろ! 」
体を捻って避けるラグにフィフィが反対側の手を向けた。
「ウォーターニー…… 」
術を唱える前に恒夫が魔法銃で援護する。
「うふふっ、恒夫くんを忘れていたわ」
魔法を止めるとフィフィがフッと姿を消した。
「恒夫! 」
着地したラグがバッと振り返る。
「さよなら、恒夫」
後ろに現われたフィフィが恒夫を攻撃しようと腕を上げたその時、フィフィが吹っ飛んで転がった。
「ガハハハッ、何だ? 女エルフか? 俺の風パンチは遠距離じゃ手加減出来んからな」
聞き覚えのある声に恒夫がバッと振り返る。
「恒夫、生きてるか? 」
奥にあるピラミッドの横から炎虎のギリーと風河馬のバッグスが現われた。
「ギリーさん、バッグスさん」
大声で名前を呼ぶ恒夫の元にラグが駆けてきた。
「にゃんだ? おおぅ、前に会ったトラとバカだにゃ」
「誰がバカだ猫女、俺様はカバだ。最強の水陸両用獣人、風河馬のバッグス様だぜ」
「にゃははっ、そうとも言う、でもツネを助けてくれて礼を言うぞ」
じろっと睨むバッグスを見てもラグは動じない。
炎虎のギリーが恒夫とラグの前に立った。
「恒夫には借りがあるからな、ここは俺たちに任せてくれ」
「ガハハハッ、また奢って貰う約束してるしな」
フィフィを挟んで向こうに風河馬のバッグスが立つ、
「ギリーさん、ありがとうございます。バッグスさん、幾らでも奢りますよ」
二人を見て恒夫の顔に安堵が広がる。
「にゃに言ってんだ。あの女はあたいが倒すんだぞ」
トラそのものといった顔をした強面のギリーにラグが突っ掛かる。
「わあぁぁ~、ギリーさんごめんなさい、ラグは俺の護衛をしてくれ、栄二を治しに行きたいからな」
恒夫が慌てて止めるのを見てギリーがニッと牙を見せて笑った。
「度胸がある女は好きだぜ、だがここは俺たちに任せてくれ、オークや大グモに大ムカデ相手じゃ戦った気にもなりゃしねぇ、あのエルフ無敵なんだろ? 暴れるのに丁度いいからな」
「あと十二分ほどは無敵です。本当にどんな攻撃も効かないから気をつけてください。それとあの女エルフは素早くて姿を消す事が出来ます。振動波って物を破壊するパンチと低級魔法が武器です。今は無敵札の効果で魔法能力が上がって中級魔法レベルになっています」
恒夫が簡潔に情報を伝えるとギリーがわかったと言うように手を振った。
「ガハハハッ、要は当たらなきゃいいんだろ、俺より素早いのか試してやるぜ」
向こう側でバッグスが大笑いだ。
風河馬というだけあって速さには自信があるのだろう。
ラグを連れて恒夫が倒れている栄二の元へと向かう、それを見たフィフィがさっと姿を消した。
同時にバッグスの姿が消えた。
「あうぅ…… 」
恒夫を攻撃しようとしたフィフィが床に転がった。
「速い? 俺からしたら止まって見えるぜ」
恒夫の前にバッグスがスッと姿を現わした。
「にゃん!? あたいも目で追うにょがやっとだぞ、半獣じゃ追いつけにゃいほど速いぞ、お前凄いにゃ、バカみたいに速いからバカカバって言うんだにゃ」
「わあぁあぁ~~、風河馬だから、風河馬のバッグスさんだからな」
驚いているのかふざけているのかわからないラグを恒夫が必死で押さえ込む、
「ガハハッ、面白い猫だな、恒夫の仲間じゃなかったらぶん殴ってるところだぞ」
「済みません、ほんと、済みません」
ラグの代わりに恒夫がペコペコ謝る。
二人に構わずバッグスが後ろに向き直る。
「チッ、生きてやがる。目一杯殴ったんだがな」
「ほう、バッグスのパンチを受けて生きてるなんてマジで無敵らしいな」
ムクッと起き上がるフィフィを見てギリーが感心したように頷いた。
「くっ……なんでだ。お前たちほど強い獣人が何で人間などの味方をする」
フィフィがキッと怖い目でギリーを睨み付ける。
ギリーが顎を掻きながら口を開く、
「何故って、恒夫は友達だ。困っているところを助けて貰って一緒に飯を食い酒を飲んだ」
「ガハハハハッ、恒夫は面白いからな、人間にしとくのが勿体無いくらいだぜ」
大笑いするバッグスにフィフィが向き直る。
「助けて貰って飯を食ったから友達だと……面白いからだと……これだから単純な獣人は嫌いなのよ」
フィフィはスッと姿を消すとピラミッドの近くにまで移動した。
距離を取ったフィフィを見て恒夫はラグの腕を引っ張って栄二の元へと駆け付けた。
モグラ男ジジジと戦っていたスギナが感心したように頷いた。
「ほぅ、本当に無敵なんじゃな、儂の操蔓も繰蔓も効かん」
「モググッ、今のおらならAクラスも怖くないだで、ぶち殺してフィフィ様に褒めて貰うだど」
余裕に笑うとジジジがバッと床下に潜った。
俊足能力を貰ったジジジは潜るのも速い。
「モグラ叩きじゃな、儂は得意じゃが無敵じゃと幾ら叩いても点にはならんのぅ」
スギナが両手を構える。
ジジジがバッと左から現われた。
「操蔓! 打根」
スギナが伸ばす根っこよりも速くジジジがさっと潜っていく、次の瞬間、スギナの足下が崩れた。
「操蔓! 」
近くの柱に蔓を伸ばすと飛ぶように崩れていく床から逃れる。
奥のピラミッドの階段に座って妖狐のモミジとカエデがそれを見ていた。
「流石スギナ様、私たちが手を貸すまでもありませんね」
「でもよぉ、Aクラスにしては動きが鈍くないか? 」
丁寧な口調のモミジにカエデが乱暴な口調で訊いた。
「スギナ様は植物系ですからね、光の少ないところでは何か支障があるのかも知れませんね」
「ふ~ん、そんなものかねぇ~、でもさ、あれくらいなら俺たちでも倒せるんじゃないかな」
軽口を叩くカエデをモミジがキッと怖い目で見つめた。
「相手をみくびってはいけませんよ、スギナ様が幼女の姿になっているのは何故だか考えてみなさい」
「あれだろ、あの姿の方が動きやすいからって言ってたぜ、俺らと同じで一番やりやすい姿をとってるんだろ? 」
ケロッとした顔で言うカエデの前でモミジが呆れたように息をついた。
「それもあるでしょうが、力をセーブするためというのが真実ですよ、大きな力を持っていると悟られると魔族や他のAクラスから目を付けられます。スギナ様は戦いを好まないようなので敢えてあの様な姿をしているのでしょう、あの姿なら敵を油断させる事も出来ますからね」
「成る程な、今戦ってるモグラも目の前の相手がどれほど恐ろしいのか全くわかってない感じだからな」
大きく頷くとカエデがスギナとジジジの戦いに目を向けた。
床に空いた多数の穴から姿を出しては攻撃してくるジジジに対してスギナは蔓や根っこを伸ばしてそれこそモグラ叩きのような戦いを繰り広げていた。
「切りが無いのぅ、後五分ほどで無敵札の効果が切れるか……じゃが、最後の1枚を使われるのは面白くないのぅ」
スギナの目がギラッと光った。
「妖蔓! ヒカゲタケ」
床から灰色のキノコが生えてきた。
攻撃しようと穴から出てきたジジジが大きな手の鋭い爪でキノコを切り倒す。
「モググググッ、こんなもの、おらの爪で一撃だど」
「ならばこれでどうじゃ? 妖蔓! サイギョウガサ」
スギナがまたキノコを生やすとジジジが笑いながら切り倒す。
「モグググッ、おらの爪は鉄でも切れるだで、木の蔓やキノコなど無いのと同じだど」
「流石じゃな、じゃがそろそろ効いてくる頃じゃぞ」
得意気に胸を張るジジジを見てスギナがニヤッと悪戯っ子のように笑った。
「なっ、なんだ……体が…… 」
「操蔓! 束縛樹」
ふらつきながら潜ろうとするジジジをスギナが蔓を伸ばして捕まえた。
あれほど手間取っていたジジジを簡単に捕まえるとスギナが口を開いた。
「俗に言うワライタケじゃ、幻覚を見ておる。無敵になったとはいえ頭の中は同じじゃろ、幻術に掛ければ倒したのと同じじゃ」
ジジジに話しているのではない、スギナの見つめる先からモミジとカエデが歩いてきた。
「幻覚ですか? それで動けなくなったのですね」
「モグラは夢の中って事か、後は止めを刺すだけだな」
ペコッと一礼するモミジの横でカエデがニヤッと厭な顔で笑った。
「止めなどいらんじゃろ、此奴は三日は正気に戻らん、イベントなど終わっておるからの」
カエデをじろっと見た後でスギナがモミジに向き直る。
「人の戦いを見物するなどあまり良い趣味とは言えんな」
優しい顔で微笑むとモミジがまた頭を下げた。
「そうですわね、でもスギナ様の邪魔をするのはもっと失礼だと思いましたので見学させて貰いましたわ」
「固い事言うなよ、敵じゃないんだからいいだろ、俺たち一応助けに来たんだぜ」
隣で狐耳をモシャモシャ掻きながらカエデが言った。
「まったく……まあ、恒夫たちを助けてくれたんじゃから文句は言えんな」
呆れるように言うとスギナがまだ戦っている秀樹たちを見つめた。
東條から治癒を受けている秀樹と菜穗が見つめる先で中津と佐伯がモグラ男のベベベと戦っている。
穴から身を出したベベベに佐伯が剣を振る。
「晴天雷切り! 」
バチバチと雷光をあげる雷の魔剣がベベベを切り裂く、
「モフッ、モフフフフッ」
ベベベが高笑いだ。
剣が通った後から直ぐに再生していく、無敵札の効果である。
「マジかよ、不死身の再生力より速いぜ」
「どけ佐伯! 俺に任せろ」
中津が魔法の杖を向けた。
「クリスタルアロー 」
透明な矢がベベベの胸を貫いた。
「ウギャァ~~、なんてな、そんなもの効かないだで、モフフフフッ 」
胸を押さえて苦しむ真似をして中津をからかった。
「くそっ、マジで無敵だ。あと何分だ秀樹! 」
中津がバッと振り向いた。
「あと五分ってところだな」
中津にこたえた後で秀樹が東條に向き直る。
「治癒はもういいぜ、ありがとうな」
準備運動でもするように肩を回しながら秀樹が立ち上がる。
「東條さんって言ったわね、ありがと、私もいいわ」
礼を言うと菜穂も立ち上がった。
「あのモグラは俺たちの敵だ。彼奴らの御陰で恒夫を疑っちまった。彼奴らだけは許さねぇ」
「本当よ、あいつの所為で私たち悪人みたいじゃない」
菜穂が魔法の杖を握り締めた。
「やれるの? 中津と佐伯くんの二人がてこずってるのに? 」
厭味な顔で訊く東條に秀樹がマジ顔を向ける。
「やれるかどうかじゃねぇ、やるんだよ! 」
「あれくらい倒せないとゲームに勝つなんて出来ないわよ」
やる気満々の菜穂と秀樹を見て東條がフッと微笑む、
「学校でオタ話してるより良い顔してるじゃない、じゃあ行きましょうか」
「行くって? 戦うのは俺と菜穂だけだぜ」
「いいから、いいから、一緒に来なさいってば」
東條が戸惑う二人の手を引っ張っていく、
「中津、佐伯くん、交代よ」
東條の大声に二人が振り返る。
「何言ってんだ俺たちの邪魔するなよ」
「もういいのか秀樹? 」
迷惑顔の中津と違って佐伯は安心顔だ。
怖い顔をした東條がまた大声を出す。
「いいから黙って聞きなさい、交代しなさい、男のメンツってヤツよ、わかるでしょ中津」
「何だよメンツって? 俺たち疲れ損かよ」
迷惑そうな中津の肩を佐伯がポンッと叩く、
「東條さん怒らせると怖いからな、ここは従おうぜ」
「わかったよ、まったく」
不服そうにこたえると中津が魔法の杖を仕舞った。
二人に代わって秀樹と菜穗がベベベの前に立つ、
「モフフフフッ、死にに来たのか? 手加減しないだで」
中津と佐伯より与し易いと思ったのかベベベが愉しそうに笑った。
「ほざいてろよ、あと二分で無敵じゃなくなるぜ」
秀樹が魔法の杖を構えた。
菜穂がバッと走って距離を置く、
「ハラペーニョファイヤー 」
秀樹の炎魔法をベベベが避けもせずに突っ込んでくる。
「ぐはぁ~~ 」
炎に包まれたベベベに殴られて秀樹が吹っ飛んだ。
「ぐうぅ…… 」
倒れた秀樹が苦しげに唸るが魔法の鎧を着ているので傷は殆ど受けていない。
「次はお前だで」
体に付いた炎をさっと叩いて消すとベベベが菜穂に向き直る。
その後ろから秀樹が倒れたままで魔法銃を撃った。
「モフフフフッ、低級魔法など効くわけないだで」
バチバチと雷光を上げる電気の塊が当たってもベベベは平然としている。
「お前から死にたいみだいだで、希望通り殺してやるだど」
倒れている秀樹にベベベが腕を向ける。
「ウォーターニードル」
ベベベの手から水で出来た針が無数に飛び出し秀樹の体に突き刺さる。
「くっ…… 」
秀樹が衝撃に歯を食いしばるが魔法の鎧が防いでくれているので体にはダメージはない。
「くそったれが! 」
気合いを入れるようにして秀樹が立ち上がる。
「まだ生きてるだど、しぶとい人間だで、こうなったら徹底的に痛めつけてやるだで」
単純なのかベベベは菜穂の事をすっかり忘れて秀樹に向かって行く、
「バカモグラなんかにやられるかよ」
秀樹がバッと逃げ出した。時間稼ぎだ。
「死ぬといいだで、プラズマボール! 」
ベベベがサッと手を振ると電気の塊が飛んでいく、
「炎の結界、セラノブロック」
秀樹は電気の塊を炎の壁で防ぐと透かさず魔法銃をぶっ放す。
「こんなもの効くか……うわぁ~~ 」
避けずに魔法銃の弾を受けたベベベが炎に包まれる。
「熱い、熱い……無敵の効果が切れただで、水の結界、ウォータードロップアーマー 」
ベベベが慌てて防御魔法で炎を消した。
「時間切れね、覚悟なさい」
菜穂が魔法の杖を構えるとベベベがさっと床に空いた穴に潜って消えた。
「無駄よ、秀樹くんが囮になってくれたから魔力を溜められたわよ」
ベベベが消えた穴に向かって魔法の杖を振り下ろす。
「フラッシュオーバーファイヤー 」
上級魔法の炎が全ての穴に繋がる通路を焼き尽くしていく、
「アジィ、アチチッ、熱い、アジィイィ~~ 」
炎に包まれたベベベが穴から飛び出してきた。
待ち構えていた秀樹が魔法の杖を振る。
「プラズマスラッシュ! 」
バチバチと雷光をあげる電気の刃がベベベの体を二つに割った。
「モギャアァアァ~~ 」
断末魔を上げてベベベが床に転がった。




