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スゴロク スゴくロクでもないゲーム  作者: 沖光峰津
新章 新たなるゲーム
106/158

第百六話

 広間の左では無表情のスギナと昆虫人間たちが一進一退の戦いを繰り広げていた。


「ギハハッ、今度こそその頭噛み砕いてやる」


 カミキリムシ男が突進してくる。


「ギシシッ、じゃあ俺は上からぺっしゃんこにしてやるぜ」


 バッタ男がジャンプしてスギナの上から踵落としを喰らわせようと降りてくる。

 スギナが右手を前に出し左手を上げた。


「操蔓! 打根」

「操蔓! 束縛樹」


 右手から伸びた太い根っこがカミキリムシ男に向かい、左手から伸びた細い蔓がバッタ男を捕らえようと伸びていく、


「ギハハハッ、当たるかよ」


 手前で立ち止まるとカミキリムシ男が太い根っこを叩き落とした。


「ギシシシシッ、こんなもので捕まるか」


 降りてきていたバッタ男が羽を広げて滑空するように飛んで蔓を避ける。

 昆虫人間の見事な連係プレーを無表情のスギナが淡々と処理していた。

 少し離れて見ていたコガネムシ男が蝶女に振り向いた。


「二人ではダメだな、我らが仕留めるぞ」

「オッケーよ」


 蝶女が羽ばたいて宙に浮く、その下でコガネムシ男が魔法の杖を振った。


「ウォーターニードル」


 コガネムシ男の放った水の針をスギナが左に走って避ける。


「ハラペーニョファイヤー 」


 上から蝶女が炎で攻撃する。


「繰蔓! 三重壁」


 スギナが片手を上げて蔓の壁を作って炎を防ぐ、正面に回ったコガネムシ男が魔法の杖を向けた。


「ファイヤーニードル」


 走って避けようとしたスギナが足を止めた。

 それまで無表情だった顔に焦りが浮んでいる。


「くっ! させるか、繰蔓! 五重壁」


 もう片方の手で蔓の壁を作るとスギナは避けずに正面から炎の針を受けた。


「なんだ? なんで横に避けない? 」


 羽を広げて飛んでいたバッタ男がスギナの後ろにある恒夫の入った蔓の塊に気付いた。


「ギシシッ、そういう事か」


 バッタ男がコガネムシ男の左に降りる。


「あの人間の入った草の塊を狙え、あのチビあれを庇って戦ってるぜ」

「フフフッ、それは面白い」

「あの人間まだ生きてるのね」


 蝶女も降りてきて互いの顔を見てニヤッと愉しそうに笑った。

 バッタ男がジャンプしてカミキリムシ男の脇に降りる。


「さっきと同じ戦法だ。俺が上からお前が下からだ」

「ギハハハッ、了解した」


 カミキリムシ男がスギナに向かって突進するのを見てバッタ男もジャンプする。


「性懲りもなく…… 」


 険しい顔で呟くとスギナが正面と上に手を構える。


「操蔓! 打根」

「操蔓! 束縛樹」


 太い根っこがカミキリムシ男の突進を妨げ、細い蔓がバッタ男を捕らえようと伸びた。


「タバスコファイヤー 」


 コガネムシ男が魔法の杖を振るがスギナにではない。


「なに! 繰蔓! 」


 カミキリムシ男とバッタ男を相手にしながらスギナが足でトンッと地面を踏みつけた。

 グルグル巻にしていた蔓が伸びて恒夫の入った塊を持ち上げていく、その下を炎が通り蔓が焼けて恒夫の入った塊が外れて床に転がった。


 飛んでいた蝶女が恒夫の入った蔓の塊に手を向ける。


「ファイヤーニードル」

「恒夫! 」


 叫ぶと同時にスギナが蔓を伸ばす。

 炎の針が伸ばした蔓に突き刺さるが恒夫は無事だ。

 コガネムシ男が目をギラッと光らせる。


「クククッ、いいぞ、やはりその人間を庇ってる」

「ギシシシシッ、四人同時に掛かれば避けられないぜ」

「アハハハハッ、お荷物持っていつまで逃げ切れるかしらねぇ」


 バッタ男と蝶女が勝ちを確信して大笑いだ


「彼奴ら恒夫を……戦えんものまで狙うというんじゃな、道理が無いというんじゃな」


 スギナの顔からまた感情が消えた。


「お主ら処置無しじゃ」


 無表情のスギナが床に両手をついた。


「妖蔓! 屁屎葛へくそかずら! 」


 床の彼方此方から細い植物の蔓が生えてきて昆虫人間たちを取り囲む、


「ギシシシシッ、こんなものに捕まるかよ」

「ギハハッ、俺たちを嘗めているのか? 」


 ジャンプして避けるバッタ男の下でカミキリムシ男が蔓を引っこ抜いていく、


「焼き払え、また邪魔が入る前にチビを殺るぞ」

「オッケー、さっさと終わらせて宝玉を探しに行きましょう」


 コガネムシ男の隣で蝶女が腕を振る。


「タバスコファイヤー 」


 蝶女の放った炎が植物の蔓を焼いていく、植物から出た煙が昆虫人間たちを包み込む、不思議な事に煙は蔓の生えていた範囲にしか広がらない。


「ギシシッ……ぐぅぅ……体が痺れる」


 羽を広げて飛んでいたバッタ男が落ちてきた。


「なんだ? 力が入らん…… 」


 蔓を引っこ抜いていたカミキリムシ男がふらついて片膝をついた。


「目眩が…… 」


 蝶女がふらついてコガネムシ男に寄りかかる。


「なっなに!? これは……毒か…… 」


 コガネムシ男がふらつきながらも足を踏ん張って耐えるとスギナを睨んだ。


「そうじゃ、本来の屁屎葛は臭いだけじゃが儂のは違うぞ、神経毒が入っておる」

「我らが火を使うのを予想して毒草を使ったのか…… 」


 スギナの向かいでコガネムシ男の顔が引き攣っていく、


「お主と蝶は火を使う魔法が得意みたいじゃからな、じゃから煙になっても効き目のある毒を使ったのじゃ」


 スギナがゆっくりと歩いてくるがコガネムシ男も蝶女も痺れて動けない。


「先程、心はコロコロ変ると言ったじゃろ、お主らも女エルフに唆されて悪に染まった。そう思っておった。じゃが違っておったようじゃ、お主らは殺しを楽しんでおる。綺麗事は止めじゃ、儂の心もコロコロ変わる。今は悪に染まっておる。お主らだけは許せん、儂の大事なものを傷付けた。じゃからお主らは許す事が出来ん」

「大事なもの? 人間がか? 人間など身勝手な生き物だ」


 無表情で見据えるスギナにコガネムシ男が吐き捨てるように言った。


「お主の言う通りじゃ、人間全体については儂も同じ意見じゃ、じゃが個々は違う、恒夫や秀樹に栄二のように温かな心を持っておる者も沢山おる。儂は恒夫が大好きじゃ」

「人間など他を利用する事しか考えていない、恒夫とか言う人間も同じだ。だから俺たちは逆に人間を利用してやるんだ」


 無表情だったスギナの顔に怒りが浮かぶ、


「これ以上話しても平行線じゃ、恒夫と同じ苦しみを味わうがいい」


 痺れて動けない昆虫人間たちにスギナの蔓が迫っていく、


「なっ、何をするつもりだ」


 コガネムシ男の顔に初めて怯えが浮かんだ。


「お主ら虫が草を食うように儂ら植物も虫を糧にするものがおる」


 スギナがサッと手を振った。


「妖蔓! ハエトリソウ」


 床から大きな植物が生えてきた。

 食虫植物のハエトリソウだが桁違いに大きい、虫を挟む葉が2メートルを超えている。

 何本も生えているハエトリソウの中で一際大きいのが蝶女に迫る。


「いや! 助けて……お願い」


 懇願する蝶女をハエトリソウがバクッと咥えた。


「ギャァアァ~~ 」


 絶叫を上げる蝶女を間近で見たコガネムシ男の顔が真っ青だ。


「俺が悪かった助けて……ぎゃあぁあぁ~~ 」


 ハエトリソウがバクッとコガネムシ男に噛みついた。


「ヒィイィ~~、止めろ、止めて…… 」

「助けてくれ、家来になる。なんでも言うことを利くから…… 」


 手を伸ばして助けを乞うカミキリムシ男とバッタ男の背後からハエトリソウが被さった。


「ガギャギャ~~、ギヒヒィイィ~~ 」


 断末魔の声に背を向けるとスギナは恒夫の元へと向かう、


「恒夫……お主の御陰で儂は無傷じゃ、植物は火に弱い、お主がおらなんだら只では済まなかったろう、ありがとうじゃ」


 恒夫の入った蔓の塊を愛おしそうに撫でると両手を蔓の中へと突っ込んだ。


「直ぐに治療してやるからの、お主の治癒能力と儂の治療で直ぐに治るはずじゃ」


 スギナが抱き付くように蔓の塊に身を寄せた。

 そこへラグがやって来る。


「勝ったのか、何してるにゃ? 」

「恒夫の治療じゃ」


 半獣姿のラグを見てもスギナは顔色一つ変えない。


「恒夫……ほっとけばいいにゃ、ツネは裏切り者だぞ」


 一瞬何とも言えない表情をしてラグが口を尖らせた。

 スギナがマジ顔でラグを見上げる。


「裏切ってなどおらん、儂に代わって炎に包まれたんじゃぞ」

「どっちでもいいにゃ、ツネにゃんて放っておいても治るにゃ、あたいは秀樹の援護に行くぞ」


 ぷいっとそっぽを向くとラグはバッと飛び跳ねるようにして離れていった。




 広間の右でリザードマン三人組とモグラ男のベベベと戦っている秀樹たちは苦戦していた。


 リザードマンのリーダーである剣士と戦っている秀樹が辛そうに息をつく、


「くそっ、中級魔法も剣で弾きやがる」


 そこへリザードマンが魔剣を構えて向かってくる。


「ヤバい! くそったれが」


 秀樹が魔法銃をぶっ放すとリザードマンがバッと後ろに跳んで避けた。

 バッと床に炎が広がる。

 炎魔法のヒ弾だ。


「魔法銃が邪魔だな、中級魔法だけならとっくに倒しているものを」


 炎の向こうでリザードマンのリーダーが隙を窺うように睨んでいる。


 神様に剣術力と魔剣を貰ったリザードマンはRPGで言えば勇者ポジションだ。

 中級魔法で攻撃しても魔剣で弾いて防がれる。

 秀樹は魔法銃を使うことで二つの魔法を同時に使うことが出来るのでどうにか戦えているという状況だ。



 少し離れた所で菜穂がモグラ男ベベベとリザードマンの二人を相手に戦っている。


「ファイヤーニードル」


 床に空いた穴から現われたリザードマンが菜穂の背後で魔法攻撃だ。


「水の結界、ウォータードロップアーマー 」


 菜穂が火の針を水の鎧で防ぐ、


「モグラ叩きにトカゲが出てくるんじゃないわよ」


 愚痴る菜穂の左からベベベが襲い掛かる。


「モフフフフッ、ぶっ殺してやるだで」


 菜穂が咄嗟に魔法の杖を向ける。


「ウォーターニードル」


 水の針が無数に飛んでいくとベベベがサッと床に潜って消えた。


「また潜った……くそっ、2匹相手じゃ低級魔法でも疲れるわね」


 床に掘った穴を使って隠れながら攻撃してくるベベベとリザードマンの連係攻撃に菜穂の疲労が溜まっていく。



 栄二は影マントで姿を消しながら残りのリザードマン一人と戦っていた。


「何処にいやがる! 近付けば気配でわかるんだが…… 」


 キョロキョロ見回すリザードマンの後ろで銃声がした。


「おおぅ! 」


 体を反らして避けたリザードマンの足下にバチバチと雷光が走る。

 電気魔法のデン弾だ。


「また避けられた……近付くと見つかるし離れて撃っても避けられる。厄介な相手だよ」

「そこか! 」


 栄二の声のする方へリザードマンが腕を振る。


「ハラペーニョファイヤー 」


 炎が広がるが何の反応も無い、栄二は既に逃げた様子だ。


 影マントで姿を消した栄二とリザードマンの戦いは膠着していた。

 聴覚や嗅覚の優れた獣人と違いリザードマンは近付かない限り見つかることはない、だが栄二の攻撃も全て避けられている。

 反射神経の良いリザードマンは銃声を聞いて直ぐに反応して攻撃を避けてしまうのだ。

 近くからなら当てることも出来るだろうが近付くと気配を察知されて逆に攻撃されるので栄二は迂闊に近付けない。



 秀樹の元へラグがやって来る。


「なっ! ラグちゃんかよ」


 半獣姿を見て驚く秀樹の前でラグが口元をニヤッと愉しそうに歪めた。


「そのトカゲあたいに任せろ、菜穂が2匹相手で苦戦してるから秀樹はそっちに行くにゃ」

「菜穂が……いいけど、あのリザードマンは剣士だぜ、氷の魔剣を持ってるから気を付けろ」

「任せろ、トカゲは苦手だけどリザードマンは平気だぞ」


 秀樹と交代してラグがリザードマンの正面に立つ、


「猫女か……フィフィはどうした? 倒したのか? 」


 顔を顰めるリザードマンのリーダーを見てラグがとぼけ顔で口を開く、


「女エルフならモグラと一緒に逃げたぞ」

「何だと! 我らとの約束はどうなる? 」

「そんにゃ事知るか、それより好き勝手やってくれたケリはきっちりつけてやんぞ」


 怒鳴るリザードマンにラグも大声で返した。


「くく……くははははっ」


 大声で笑い出すとリザードマンが続ける。


「フィフィがいなくても同じ事だ。要はお前らから宝玉を奪えばいいんだからな」

「にひひひひっ、取れるものにゃら取ってみろ、あたいを倒したらくれてやるぞ」


 大声で笑い返すラグの前でリザードマンから笑みが消えた。


「そうさせて貰おう、死んで貰うぞ猫」


 リザードマンが魔剣を振った。


「にゃっと! 」


 跳んで避けたラグの直ぐ脇をスッと流れるように霜柱が立った。


「おおぅ、氷だぞ、氷の剣だったにゃ」


 ラグは驚くと言うより喜んでいる。


「はしゃいでいられるのも今のうちだ」


 リザードマンがダダッと近付くとラグの正面から魔剣を振り降ろす。

 切ったと思った瞬間、ラグの姿が消えた。


「はしゃいでるんじゃないぞ、余裕だぞ」


 後ろに現われたラグを見てリザードマンがバッと跳んで離れる。


「なっ、なにが…… 」


 リザードマンは何が起ったのかわからずラグを睨み付ける。


「この姿ににゃったあたいにトカゲが追いつけるはずにゃいぞ、お前を倒してその魔剣あたいが貰うぞ」

「倒すだと、ふざけるな! 」


 リザードマンがラグ目掛けて連続で剣を振る。


「神様に力を貰っただけあるにゃ、剣の速さはクロエより速いぞ、でも相手が悪かったにゃ、剣を避けるのは得意中の得意だぞ」


 紙一重で避けながらラグがリザードマンの左へ回り込む、


「招き猫、キツツキパァ~ンチ! 」


 左手をくるっと回しリザードマンの気を掴むと右手でパンチを繰り出す。

 気を掴まれてバランスを崩したリザードマンは避けられない。


「グハァ~~ 」


 呻きを上げて吹っ飛んで転がったリザードマンにラグが近付いていく、


「氷の剣は貰うぞ、お前が勝ったら宝玉をやる約束だっただろ、あたいが勝ったんだから剣は貰っていくからにゃ」


 ラグは気絶しているリザードマンから奪うように剣を取った。



 疲れた体に気合いを入れると秀樹が走る。


「猫耳少女から妖怪猫女って感じだったなラグちゃん、栄二が好きそうだぜ」


 半獣姿のラグを思い出して通路の前で恒夫を監視している栄二に振り向く、


「なん!? 栄二も恒夫も居ない」


 何処へ行ったのかと広間を見回す秀樹の目にモグラ男のベベベとリザードマンが戦っているのが見える。

 その近くで残りのリザードマン一人が誰も居ない壁際に向かって炎魔法を放っているのが見えた。


「あいつ何やってんだ? 」


 訝しむ秀樹にポンッという聞き覚えのある魔法銃の発射音が聞こえた。


「魔法銃? 栄二か、影マントを使って戦ってるんだな」


 ピンときた秀樹が壁際にいるリザードマンに向き直る。


「ハラペーニョファイヤー 」


 秀樹の放った魔法の炎をリザードマンが飛び跳ねて避ける。


「貴様! 」


 気付いて怒鳴るリザードマンに秀樹が左手に持っていた魔法銃を向けた。

 ポンッという軽快な音を立てて弾が飛んでいく、さっと避けたリザードマンの足下に雷光が走る。

 電気魔法のデン弾だ。


「グワァアァ~~ 」


 リザードマンが炎に包まれた。

 秀樹の攻撃を避けた所へ栄二の魔法銃が直撃したのだ。


「水の結界…… 」


 慌てて水魔法で炎を消そうとするリザードマンに秀樹が魔法の杖を向ける。


「タバスコファイヤー 」

「ギャアァアァ~~ 」


 リザードマンが絶叫上げて崩れていった。


「助かったよ」


 秀樹の左で影マントから栄二が姿を現わした。


「ごめん秀樹、恒夫が…… 」

「話しは後だ。菜穂を援護に行くぜ」


 事情を話そうとする栄二を止めて秀樹は菜穂の元へと急いだ。



 床に空いた穴を使って巧みに攻撃してくるベベベとリザードマンに菜穂は振り回されて防戦一方になっていた。


「モフフフフッ、動きが鈍ってきただで」

「所詮は人間、我らの敵ではないわ」


 穴の中から顔を出して嘲笑う二人の7メートルほど後ろで秀樹と栄二が魔法の杖と魔法銃を構えた。


「プラズマボール! 」

「所詮人間で悪かったな」


 秀樹の魔法と栄二の魔法銃の弾がベベベとリザードマンに飛んでいく、


「うおぅ! 」

「危ないだで、いつの間に来たんだど」


 二人が穴に潜って避けた。


「秀樹くん、栄二くんも…… 」


 嬉しそうに名を呼ぶ菜穂に二人が駆け寄っていく、


「他のリザードマンたちはやったの? 」

「リーダーはラグちゃんが戦ってる」

「もう一人は僕と秀樹で倒したよ」


 元気にこたえる二人を見て少し疲れの浮んだ菜穂が頷く、


「そう、じゃあ私も頑張らなくっちゃね」


 無理に笑顔を作ると菜穂が続ける。


「上級魔法を使うから少し時間を稼いで頂戴、あいつら穴の中に隠れるのよ、リザードマンは中級魔法使いだから中級魔法じゃ効かないのよ、低級魔法は穴まで焼き尽くせないし、上級魔法で蒸し焼きにしてやるわよ」

「了解した。でも菜穂が上級魔法を使う前にやっつけるかも知れないぜ」

「いいわよ、その方が楽だし、さっきから連続で魔法使ってクタクタよ」


 おどける秀樹に菜穂が可愛い笑みを見せた。


 少し下がって気力を溜める菜穂に代わって秀樹と栄二がベベベとリザードマンに対峙する。


「リーダーとヘイルはどうした? 」


 穴から顔を出して訊くリザードマンの後ろに影が立つ、


「リーダー? トカゲのボスなら弱かったぞ」


 リザードマンのリーダーから奪った魔剣をブンブン振りながらラグがニヤッと笑った。


「リーダーの剣が……くそっ! 」


 リザードマンがさっと穴に潜って逃げる。


「あっ、逃げられたぞ、せっかくこの剣の切れ味を試そうと思ってたのににゃぁ」


 残念顔のラグを見て栄二がパァ~ッと顔を明るくする。


「ラグさん、その姿は? 」

「うにゃ? これか? 少し本気を出したからにゃ、でももう少しの所で女エルフに逃げられたぞ、モグラさえいにゃかったら勝てたんだけどにゃ」

「そうなんだぁ~、でも格好いいよ、獣人って感じだよね」


 人外好きな栄二は嬉しそうな満面の笑みだ。


「格好いいにょか? あたいは毛が生えて暑苦しくて好きじゃないぞ」


 複雑な顔でこたえるとラグが秀樹に向き直る。


「こいつら任せたぞ、あたいは菜穂と見てるぞ」


 言うが早いか菜穂の元へと走って行った。


「菜穂に見せに行ったんだな」

「好きじゃ無いって言ってたけど楽しそうだよね」


 驚く菜穂の前で楽しそうなラグを見て秀樹と栄二が顔を見合わせて笑った。

 近くの穴から顔を出したベベベが魔法攻撃だ。


「ファイヤーニードル」


 油断していた二人に炎の針が突き刺さる。


「あちっ、あちちちっ、ぐあぁ~~ 」

「いたっ、あつっ、うわぁあぁ~~ 」


 苦しむ二人を見てベベベがニヤッと笑いながら口を開く、


「二人倒しただで、残りは女と猫だど」


 苦しんでいた秀樹と栄二がピタッと動きを止めた。


「何喜んでんだモグラちゃん」

「低級魔法は効かないよ、魔法の鎧着てるからね」


 二人が魔法の杖と魔法銃を向ける。


「プラズマボール! 」

「僕はヒ弾だ」


 電気の塊と炎魔法にベベベが慌てて潜って逃げる。


「汚いぞ貴様ら、四人がかりで卑怯だろうが」


 反対の穴からリザードマンの大声が聞こえた。


「何言ってんのよ、貴方たちさっきは私相手に二人掛かりで攻撃してきたじゃないの」


 魔法の杖をしっかりと握った菜穂が歩いてきた。

 準備万端整ったという様子の菜穂に秀樹と栄二がその場を譲る。


「モグラが出てきたら始末は任せるわよ」


 菜穂が魔法の杖を床に空いた穴の一つに向ける。


「フラッシュオーバーファイヤー 」


 上級魔法の炎が穴に流れていく、直ぐに他の穴から炎が吹き出す。


「ひぃ~~ 」


 飛び出してきたリザードマンに秀樹が魔法の杖を向けた。


「プラズマスラッシュ! 」


 バチバチと雷光をあげる電気の刃がリザードマンを上下二つに割った。


「ギャアァアァ~~ 」


 断末魔の叫びを上げてリザードマンが転がった。

 少し離れた穴からベベベも飛び出してきた。


「モグラは私がやるわ」

「あぶにゃい! 」


 前に出た菜穂をラグが後ろから抱えて飛んだ。

 菜穂の立っていた床が崩れ落ちていく、


「モググググッ、もう少しだっただど」

「べべべ、今のうちに逃げなさい」


 離れた所に空いた穴からモグラ男のジジジと女エルフのフィフィが顔を出した。


「フィフィ様、ありがとうだど」


 ベベベは礼を言うと新しい穴を掘って消えていく、


「くそっ、タバスコファイヤー 」


 ラグに抱えられたままで菜穂が魔法を使う、


「リザードマンと昆虫人間が簡単にやられるとは予定外でした。今回は私たちの負けです。でも覚えてらっしゃい、次は必ず貴方たちを倒すわよ」


 捨て台詞を吐いてフィフィが穴の中へと逃げていく、


「にゃにゃ? 彼奴ら逃げるぞ」


 追いかけようとするラグの腕を菜穂が掴んだ。


「待って、一人じゃ危険よ、私も行くわ」

「俺たちも行くぜ、卑怯なことばかりしやがって許せん」

「そうだよ、恒夫だって騙されたに決まってるよ」


 怒り顔の秀樹と栄二を見てラグが頷いた。


「わかったぞ、みんなで追うぞ、今なら匂いで追いつけるぞ」


 広間の奥、三つある通路の左側をラグが指差した。


「向こうの道だぞ、女エルフはあたいに任せろ、モグラは秀樹たちに任すぞ」

「了解だぜ」


 ラグを先頭に秀樹たちが左の通路に消えていった。



 恒夫を包む植物の蔓がビクッと揺れた。


「治ったようじゃな、二十分掛かっておらん、治癒能力を貰っただけはあるの」


 バリバリと皮を剥くようにして蔓を破ると恒夫が起き上がる。


「ここは? スギナちゃん……よかった」


 脇にしゃがんで伺っていたスギナに恒夫が抱き付く、


「恒夫、礼を言うぞ」


 幼女姿のスギナがお姉さんのように恒夫の背をポンポン叩いた。

 照れるような笑みを見せて恒夫が離れる。


「みんなは? ラグや秀樹たちは? 」

「逃げたフィフィとモグラを追っていきおった」

「よかったぁ~、みんな無事なのか、俺たちも追おう、俺が裏切ったなんて姑息な事を考えるヤツだ。みんなが心配だ」


 自身の事よりラグたちを心配する恒夫の向かいでスギナの表情が緩んでいく、


「今のラグなら大丈夫じゃと思うが……お調子者じゃからな、じゃが無理をするなよ、お主は病み上がりで気力も体力も無いという事を考えて動くのじゃぞ」

「うん、わかってるよ、でも…… 」


 恒夫の言葉をスギナの大声が遮る。


「でももへったくれもない、お主に何かあれば悲しむのはラグなんじゃぞ、儂だってお主が死ぬ所など見たくないからな」

「スギナちゃん……うん、気を付けるよ」

「わかればよいよい」


 優しく微笑むスギナを見て恒夫が嬉しそうに笑った。

 みんなを追って広間の反対側にある三つの通路の左側に向かう、


「待て! 」


 通路に駆け入ろうとした恒夫の腕をスギナが引っ張って止めた。

 ザザッと砂を噛む音を立てながら壁が動いている。


「なん!? 魔法か? 」

「魔法や術の気配は感じん、機械か何かの仕掛けで動いておるのじゃ」


 驚く二人の前で両側から動いてきた壁によって通路が完全に塞がれた。


「あっちも動いておるぞ」


 左に5メートルほど離れたところの壁が動いて新たな通路が出来ていく、


「隠し通路? 動く壁………… 」


 険しい顔をした恒夫が新しく出来た通路の前に歩いて行った。


「みんなが俺を疑った原因が分かったよ、動く壁のトリックだよ」

「動く壁のトリックじゃと? 」


 怪訝な顔で訊くスギナに恒夫がマジ顔で口を開く、


「何かの切っ掛けで壁が動いて通路が変化する。つまり迷路が作り替えられるんだ。イカサマサイコロを使って正しい道を進んでも通路が作り替えられたら迷って当然だ。イカサマサイコロは道が変る前の正しい道を指しているだけだ」

「成る程のぅ、一定間隔で動くのか、道を通った人数で動くのか、原因はわからんが壁が動いて道が変化するのじゃな」


 納得した様子で頷くスギナの前で恒夫の顔が悔しげに歪んだ。


「くそっ! こんな簡単なトリックでみんなに疑われるなんて……そんなに信用無いのか俺って………… 」

「儂は別に疑ってはおらんぞ、お主が裏切るなど思ってはおらん、道に迷った事が気になっておっただけじゃぞ、トリックが分かるまで説明がつかなんだからのぅ」


 慌てて言い訳するようなスギナを見て恒夫の顔に笑みが浮かぶ、


「疑われても仕方ないよな、俺はバカだし、頼りないしさ、フィフィさんにへろへろしてたのは本当だしな」

「そんな事はないぞ、お主は危険を顧みずに仲間を守る信頼できる人間じゃ、儂はお主が大好きじゃ」


 赤い顔をしたスギナが熱い目で恒夫を見つめた。


「あははっ、俺もスギナちゃんは好きだよ、ラグもさ、この世界が好きだよ」


 誤魔化すように笑う恒夫の正面にスギナが立つ、


「そうではない、儂が言っておるのは…… 」

「早くみんなを追わないと、フィフィさんは何するかわからないからな」


 スギナの言葉を遮ってイカサマサイコロを振る。3が出た。


「3だから真ん中だ。ハズレじゃなきゃ直ぐに追いつけるぜ」


 顔を上げた恒夫の目にプクッと膨れたスギナが映る。


「恒夫なんて知らん、どうせ乳がデカいのが好きなんじゃろ」

「デカいのって……確かに俺もおっぱい星人だけど大きさは関係ないからな、スギナちゃんの事は俺も好きだけど今はみんなが心配だからな……だから行くよ」


 恒夫は真ん中の通路に駆け込むと暫くして止まって振り返る。


「スギナちゃん機嫌直してよ、一人じゃ行けないからさ、スギナちゃんが頼りなんだからな」


 情けない声を出す恒夫を見てスギナがニッと悪戯っ子のように笑う、


「仕方ないのぅ、恒夫は一人じゃ何もできんからな、儂がおらんとダメじゃからな」


 笑顔で駆けてきたスギナを連れて恒夫は先を急いだ。



 暫く進むと銃声や爆音が聞こえてくる。


「ラグたちだ」

「奴らを見つけて戦っておるようじゃな」


 恒夫とスギナが走って行くと大広間で秀樹たちとフィフィたちが戦っていた。


 学校の運動場のように広い場所に円い柱が幾つも建っていて奥にピラミッドのような建物がある。まるで神殿のような空間だ。

 ピラミッドへ続く大理石で出来た石畳の右でラグとフィフィが、左で秀樹たちとモグラ男たちが戦っていた。


 ラグと戦っていたフィフィが恒夫たちに気付いた。


「ここまでね、Aクラスのチビが来た」

「余所見してんにゃ! 」


 バッと飛び掛かるラグを見て恒夫が驚く、


「ラグか……あの姿は猛獣モードか? 」

「猛獣モードの手前じゃな、まだ野生より理性が勝っておるから話しが通ずる。エルフはラグに任せてもよいじゃろ、儂はモグラを素早く片付けてくるとしよう」


 恒夫の腕をポンポン叩くとスギナは左で戦う秀樹たちの元へと行こうとした。

 その時、フィフィが大声を出した。


「ジジジ、あれを使いなさい」


 秀樹たちの足下に幾つも空いた穴の一つからジジジが顔を出す。


「フィフィ様、わかっただど」


 返事をするとジジジが何かを持った手を上げた。


「無敵札よ、おらたちに力をくれだど」


 掲げ持つ無敵札が眩しい光を上げた。


「なに! 無敵札かよ」


 恒夫が思わず叫んだ。


「にゃにが無敵札だ」


 爪を伸ばしたラグがフィフィに飛び掛かる。

 フィフィの胸にラグの鋭い爪が食い込んだように見えた。

 次の瞬間、フィフィの体が光った。


「あははははっ、なんともないわよ、子猫ちゃんの爪が刺さったはずなのに痛くも何ともないわ、無敵よ、今の私たちは無敵なのよ」


 大声で笑いながらフィフィがラグの腕をぐっと掴んだ。


「ウォータースピア」

「ぎゃん! 」


 水の槍に貫かれたラグが短い悲鳴を上げて仰け反って倒れ込む、


「がっ、がはっ…… 」


 横たわって苦しげに吐くラグにフィフィが微笑みながら腕を向ける。


「焼き猫がいい? それともミンチになるまで切り刻みましょうか」

「にゃ……嫌にゃ………… 」


 ラグの顔が恐怖で引き攣っていく、


「ラグに手を出すな! 」


 フィフィが振り返ると魔法銃を構えた恒夫がいた。


「恒夫くん? 生きていたのね」


 避けられないほどの間近で魔法銃を向けられてもフィフィは笑顔だ。


「丁度よかったわ、今この猫を殺すところよ、あの人間たちも直ぐに殺してあげるわ、そしたら恒夫くんは一人になる。誰にも遠慮なく私たちのチームに入れるでしょ、」

「ふざけるな! ラグを殺させるか、撃つぞ、ラグから離れろ」


 無敵になった余裕だろう、魔法銃を握り締める恒夫にフィフィは怯みもしない。


「今の私には上級魔法も効かないわよ、無敵なのよ、魔族ですら今の私たちは倒せない、私の事は嫌いじゃないんでしょ? 恒夫くん可愛いから本当に何でもしてあげるわよ、抱きたいのなら抱かせてあげるわよ、どんなプレイでもオッケーよ、だから組みましょうよ」


 フィフィがこれでもかという可愛い笑みを向ける。

 男なら誰でも見惚れてしまうような妖艶な笑みにも恒夫は見向きもしない。


「誰が組むか!! ラグに酷いことしやがって、腹黒いお前なんかよりラグやスギナちゃんのほうが可愛いに決まってるだろが! 」


 怒鳴る恒夫を見てフィフィの顔から笑みが消えた。


「私よりこのクソ猫が可愛いなんて……見る目の無い男など御免だわ」


 フィフィが倒れているラグに向き直る。


「そこでクソ猫が死ぬところを見ているといいわ、その後で貴方も殺してあげるから安心していいわよ」


 フィフィが魔法を使おうと手を伸ばす。


「なっ……何が? 」


 フィフィの動きが止まる。

 手足に植物の細い蔓が絡まっていた。


「儂を忘れては困るのぅ、ラグは返して貰うぞ」


 いつの間に近付いたのかスギナの右手から伸びた蔓がフィフィを捕らえ、左から伸びた蔓がラグを包み込むと運んでいく、


「フフッ、すっかり忘れていたわよ、炎の結界、ファイヤーアーマー 」


 フィフィの体から炎が吹き出し手足に絡まった細い蔓を焼き切っていく、隙をついて恒夫が魔法の銃をぶっ放した。


 バチバチと雷光を上げる電気の塊をフィフィが燃える手で叩き落とす。


「下級のプラズマボールなんて効くわけないでしょ」

「こいつは俺が引き受けた。スギナちゃんはラグを頼む」


 魔法の銃の弾を換えながら恒夫が言った。


「お主の敵う相手ではないぞ」

「今の俺じゃラグを治せない、治せたとして三十分は掛かるぜ、スギナちゃんなら十分あれば治せるだろ、それまで俺が時間を稼ぐよ」

「了解じゃ、少しの間任せたぞ」

「そうはさせないわよ」


 フィフィが振り向くが既にスギナとラグの姿は無かった。


「バカにして…… 」


 バッと前に向き直ると恒夫の姿も見えない。

 大きな柱の陰から銃声と共に炎の塊が飛んできた。


「クリスタルガード」


 フィフィが防御魔法で炎の塊を消滅させた。


「本当に私と戦う気なの? 謝って私の下につくなら許してあげるわよ」


 フィフィが辺りを窺う、幾つも建っている大きな柱の何処かに恒夫は隠れている。

 何もこたえない恒夫に業を煮やしたフィフィが両手を上げた。


「クリスタルニードル」


 無数の細い針が柱を粉砕していく、


「うわっ、うわぁあぁーっ 」


 崩れていく柱から恒夫が転がるように出てきた。


「見つけたわよ、じゃあ死になさい」


 フィフィが恒夫に腕を向ける。


「クリスタルアロー 」


 キラキラ光る透明な矢が恒夫に向かって行く、ポンッと軽い発射音が聞こえてバチバチと雷光をあげる弾が飛んできて透明な矢に当たって互いに消滅した。


「恒夫、大丈夫か」


 栄二だ。

 影マントを使っているらしく姿は見えない。


 隙を見て恒夫も近くの柱の陰へと入る。


「サンキュー栄二、秀樹たちは無事なのか? 」

「さっきまで余裕だったんだけどモグラが無敵になって苦戦してるよ、それでもどうにか互角に戦えてるから一人のラグさんが気になって見に来たんだ」

「そうか、助かったぜ、ラグは今スギナちゃんが治療してる。ラグとスギナちゃんが来るまで持ちこたえたら俺たちの勝ちだぜ」

「了解だよ、僕は死なないから囮なら任せてよ」

「無敵札の効果は十五分だ。それまで持ち堪えて彼奴ら倒そうぜ」


 二人の会話を聞いてフィフィが大声で笑い出す。


「うふふふふっ、私を倒す? 人間が? バカ者どもが! 私に叶うと思うなよ」


 フィフィがマジギレした。

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