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スゴロク スゴくロクでもないゲーム  作者: 沖光峰津
新章 新たなるゲーム
105/158

第百五話

 広間の左で戦っていたスギナが地面に潜ったジジジを木の根っこを使って縛り上げた。


「土の中では有利ではなかったのか? 」

「グモモ……床下一面に根っこが生えてただで、お前がやったんだど」


 木の根でグルグル巻にされて悔しがるジジジを見てスギナがニヤッと悪い笑みだ。


「どちらが有利かわかったじゃろ、モグラは所詮穴を掘って住処にしておるだけじゃ、じゃが植物は土を生命の糧としておる。土と水と光じゃ、植物は無から生を産むんじゃ、お主ら動物には出来んことじゃ、それ故、土を掘るだけのお主ら動物より土のことはよく知っておるぞ」

「ググモグゥ……おらをどうするつもりだで? 」


 顔を強張らせるジジジをスギナがマジ顔で見下ろす。


「二度目じゃからな、お仕置きでは済まさんぞ」


 止めを刺そうとジジジに手を伸ばしたスギナがバッと後ろに跳んだ。


「ファイアーニードル」

「繰蔓! 笹林」


 飛んできた炎の針を床から生えた笹で出来た壁が防いだ。


「ギシシシシッ、ガキのくせに中々やりおる」

「だが所詮草だ。草など我らで食い殺してやろうぞ」


 広間に繋がる通路からコガネムシとバッタに似た昆虫人間が出てきた。


「お主らか…… 」


 スギナが言葉を止めてサッと後ろに手を回す。


「操蔓! 打根」


 手から伸びた太い根っこを蝶のような昆虫人間がひらりとかわす。


「ウフフッ、反射神経は鋭いようね」

「ギハハッ、いいぞ、こっちは終わった」


 スギナがくるっと振り向くとカミキリムシのような昆虫人間がグルグル巻にしてたジジジを助けていた。


「貴様ら女エルフと手を組んだのじゃな」


 険しい顔で見回すスギナを見てリーダーらしきコガネムシ男がニヤリと笑う、


「宝玉をくれると言うんでな、宝箱は三つ見つけたんだが全てハズレで困っていた所だ」


 通路から歩いてくるとジジジを助けたカミキリムシと蝶と合流する。


「ギシシシッ、お前を倒せば宝玉が手に入る。ダンジョンを探し回るより楽だぞ」


 バッタ男が牙をギシギシ鳴らして笑った。

 スギナがサッと両手を振る。


「繰蔓! 笹刃」


 笹の葉で出来た刃が無数に飛んでいく、


「炎の結界、セラノブロック」


 蝶女が炎の壁で防いで仲間を守る。


「ハラペーニョファイヤー 」


 コガネムシ男の手から炎が吹き出す。


「繰蔓! 三重壁」


 蔓で出来た壁で炎を防ぐスギナの右からカミキリムシ男が突っ込んできた。


「鉄砲虫パンチ! 」

「なんの!! 」


 身を捻って避けたスギナの上からバッタ男が降ってくる。


「首切りキック! 」

「なん!? 」


 必死で体を反らしたスギナの左腕にバッタ男の足がぶち当たった。


「くぅぅ…… 」


 伸ばしていた蔓や根を全て切るように離すとスギナがバッと後ろに跳んで間合いをとる。


「魔法使いが二人に怪力に俊足か……一人一人なら大した敵ではない、じゃがお主ら四人は見事な連携じゃ」


 リーダーのコガネムシ男が感心した顔で口笛を吹く、


「ピュ~、流石Aクラスだな、あの攻撃だけで我らの能力を計るとはな」

「ウフフフッ、私とリーダーは中級魔法使いよ、後の二人は能力は合っているわ、でもアイテムまでわかるかしら」


 自分たちの力に自信があるのか蝶女が愉しそうに笑った。


「ギシシシシッ、俺はバッタのジャンプ力に怪力を貰った。俺のキックでぺしゃんこにしてやるぜ」

「ギハハハッ、俺の牙で噛み殺してやるぞ、俊足を貰った俺を避けられるかな」


 バッタ男に対抗するようにカミキリムシ男が大声で言った。


「厄介な相手じゃな、じゃが勝ちを見るにはまだ早いぞ」


 スギナの目がギラッと光った。


「操蔓! 束縛樹」


 スギナが床に両手をつくと昆虫人間たちの足下から蔓が生えてくる。


「ギシシッ、こんなもので捕まるかよ」

「ギハハッ、俺たちをバカにするな」


 バッタ男がジャンプして、カミキリムシ男はサッと横に走って蔓を避ける。


「タバスコファイヤー 」


 コガネムシ男が自分と蝶女の足下から生える蔓を焼き払う、


「ウフフフフッ、所詮草ね、簡単に燃えるわ、草が虫に敵うわけないのよ、草は虫の餌よ、おとなしく食べられなさい」


 蝶女が羽ばたいて浮き上がると同時に魔法を使う、


「プラズマスラッシュ! 」

「繰蔓! 五重壁」


 スギナは右手で蔓の壁を作ると左手をサッと後ろに回す。


「操蔓! 打根」

「ギハハッ、こんなもの」


 後ろから襲い掛からんとしたカミキリムシ男が飛んできた太い根っこを自慢の顎で噛み砕く、


「タバスコファイヤー 」


 コガネムシ男が出した魔法の炎が前から迫るがスギナは上から飛んでくる電気の刃と後ろから来るカミキリムシ男を防ぐので手一杯だ。


「繰蔓! 毬栗」


 スギナが足でトンッと床を叩くと蔓が伸びて体を覆う、トゲトゲの殻に包まれたその姿はイガの付いた栗そのものだ。


「ギシシシッ、やるじゃないか」


 ジャンプして羽を広げて上から様子を伺っていたバッタ男が感心するように呟いた。

 飛んでいた蝶女がコガネムシ男の横に降り立つ、


「術は足でも使えるのね、フィフィからは聞いていないわよ」

「フィフィの知らない情報なのか、それとも我らを謀っているのか」


 バッタ男が二人の前に降りてくる。


「ギシシシシッ、俺たちを裏切ったなら女エルフも殺すだけだ」

「ギハハッ、そうだ。バッタの言う通りだ」


 いつの間に来たのかカミキリムシ男が蝶女の横にいた。


「お主ら女エルフを信じてないようじゃな、なら何故手を貸すのじゃ? 」


 毬栗からスギナが出てくると続ける。


「儂らが持っておる宝玉は一つじゃぞ、女エルフに協力してもお主らの分は無いぞ」


 コガネムシ男がニヤリと口元を歪めた。


「人間が居るだろ、その人間なら宝玉を簡単に見つけられるとか」

「ウフフッ、宝玉を探せる人間、何かと便利そうだから私たちの奴隷として仲間にするのよ」


 恋人同士なのか蝶女がコガネムシ男の肩に顎を乗せて愉しそうに笑った。

 スギナの顔が険しく変る。


「成る程のぅ、宝玉と言うよりも恒夫が狙いなんじゃな」

「ギシシッ、宝玉さえ手に入ればダンジョンなどモグラ男の穴を使って出られるからな」


 愉しげに笑うバッタ男を見てスギナが口を開く、


「そういう訳か、恒夫を使って宝玉を探し出し、後はモグラに穴を掘らせて迷路を抜ける魂胆じゃな」

「そういう事だ。おとなしく宝玉と恒夫とかいう人間を渡せ、そうすればこんな穴の中で死ななくてもすむ」


 コガネムシ男を見てスギナがニヤッと笑う、


「女エルフの甘言に乗るバカ虫などに負けるわけなかろう」

「ギハハハハッ、言うじゃねぇか、ぶっ殺そうぜ」


 豪快に笑うカミキリムシ男の目が怒り猛っていた。

 蝶女が羽を広げて宙に舞う、


「ハラペーニョファイヤー 」


 低級魔法の炎をスギナが飛び退いて避ける。


「プラズマボール! 」


 着地したスギナにコガネムシ男が放った電気の塊が飛んでくる。


「繰蔓! 三重壁」


 右手で壁を作って電気の塊を塞ぎながら左手を空へと向ける。


「繰蔓! 笹刃」


 ジャンプして飛び掛からんとしたバッタ男と宙を舞っていた蝶女に笹の葉で出来た刃が飛んでいく、


「霧の結界、ミストガード」


 蝶女が結界魔法で笹の刃を防ぐ、バッタ男は羽を広げて蝶女の後ろについて避けていた。


「ちょこまかと……ギシシッ、チビだからな」


 長時間飛んでいられないバッタ男が着地して愉しそうに笑った。

 後ろから襲い掛からんとしたカミキリムシ男へスギナが右手を向ける。


「操蔓! 打根」


 技を出そうとしたスギナの足下が崩れ落ちていく、


「なんじゃ…… 」

「モグググッ、おらを忘れてるだで」


 モグラ男ジジジの掘った大穴に足を取られたスギナの頬へカミキリムシ男のパンチがクリーンヒットした。


「ぐはぁ~~ 」


 仰け反るようにしてスギナが吹っ飛んで転がった。


「プラズマスラッシュ! 」


 倒れたスギナに蝶女の出した電気の刃がぶち当たった。


「あっ、あぐぅ…… 」


 右肩と腹部に電気の刃が突き刺さってスギナが苦しげに呻いた。


「ギシシシッ、いいぞ、止めは俺が刺してやる」


 バッとジャンプしたバッタ男がスギナ目掛けて上空から踵落としのようにケリを入れた。


「ぐぐ…… 」


 短く呻くとスギナは床にめり込むようにして動かなくなった。



 戦いを見ていた栄二が不安顔で呟いた。


「くそっ、リザードマンと昆虫人間がなんで出てくるんだよ」

「手を組んだか……いや、フィフィさんに利用されているのかな」


 スギナの蔓でグルグル巻にされて床に倒れていた恒夫が思案顔だ。


「栄二、こんなところで…… 」


 相談しようと身を起こそうとした恒夫がグルグル巻の蔓が緩んでいるのに気付く、


「蔓が緩んでる……スギナちゃんがやられてるんだ」


 身を捩って体に巻き付く蔓から恒夫が這い出す。


「勝手に動かないで、見張っていろって命令だからね」


 グルグル巻の蔓から抜け出した恒夫に栄二が魔法銃を向けた。


「撃ちたきゃ撃てよ、お前に撃たれるなら文句言わないぜ」


 正面を向いて恒夫が両手を広げた。


「でもな、今は勘弁してくれ、スギナちゃんが危ない、秀樹たちだって、今は俺に構うより秀樹たちを助けるのが先だろ、トカゲや虫どもからみんなを守るのが先だぜ」


 くるっと背を向けると恒夫がスギナの元へと駆けていく、


「わかった。僕は秀樹たちの援護に行くよ、でも裏切ったら本当に僕が撃つからね」

「ああ、後ろからでも撃ってくれ、俺は裏切っちゃいない」


 マジ顔で言う栄二に振り返らずに恒夫が後ろ向きで手を振った。



 ヨロヨロと起き上がったスギナにカミキリムシ男が殴りかかる。


「操蔓! 」


 スギナは蔓を伸ばして天井に突き刺すとぶら下がるようにしてパンチを避けた。


「焼け死ね、タバスコファイヤー 」


 着地するスギナを狙ってコガネムシ男が炎で攻撃だ。


「繰蔓! 五重壁」


 ふらつきながらも蔓の壁を作って炎を防ぐ、


「ギシシッ、これは避けきれるか! 」


 上からバッタ男のキックが迫る。

 バッと横に跳んで避けたスギナの足下に蝶女が口から何やら吐き付けた。

 容赦の無い攻撃をどうにか避けていたスギナの動きがピタッと止まった。


「なん!? しまった! お主、魔法だけではなかったのじゃな」


 スギナの足下で接着剤のようなものが固まっていた。


「粘着液よ、本来は幼虫が繭を作る時に使うものだけど今の私も少しなら使えるのよ」

「くそっ、こんなもので…… 」


 もがくスギナを見て愉しそうに笑いながら蝶女が続ける。


「ウフフフッ、無駄よ、空気に触れると瞬時に固まって簡単には取れなくなるからね」

「よくやった。動きを止めれば只のチビだ」


 コガネムシ男が蝶女の隣りに立つ、バッタ男とカミキリムシ男もスギナを囲んだ。


「うぬら調子に乗るなよ」


 先程受けたダメージがまだ残っているのか苦しげな顔でスギナが睨み付ける。


「ギシシシシッ、強がっても息が上がってるぜ」

「ギハハハッ、止めは俺に任せろ、頭を噛み砕いて食ってやるぜ」


 カミキリムシ男が大きな牙をガチガチ鳴らしながらスギナに近付く、


「逃げてもいいわよ、逃げられるのならね、アハハハハッ 」

「術を出してみろよ、その場で丸焼きにしてやるぜ」


 大笑いする蝶女の隣でコガネムシ男が魔法の杖をスギナに向けた。


「こんなもので儂を捕らえたと思うなよ」


 足に付いた粘着液をどうにか外そうとスギナがもがく、


「頭を噛み砕いて殺してやる。動くと痛いだけだぞ」


 止めを刺そうとカミキリムシ男の大顎がスギナの頭に迫る。


「スギナちゃん! 」


 叫びと同時に銃声が聞こえてカミキリムシ男が炎に包まれた。

 恒夫だ。

 魔法銃のヒ弾、炎魔法だ。


「グエェ~~ 」


 悲鳴を上げるカミキリムシ男に蝶女がサッと魔法の杖を向けた。


「水の結界、ウォータードロップアーマー 」


 カミキリムシ男の体を魔法の水が包み込み炎を消していく、


「なん? 足が…… 」


 もがいていたスギナの足が粘着液から離れた。


「熱に弱いんじゃな、恒夫の魔法銃の熱で外れたんじゃな」


 魔法の銃を握り締めた恒夫が駆け寄る。


「スギナちゃん、俺も戦うよ、戦って証明してやる。俺は裏切ってないってな」

「止めろ恒夫、お主の叶う相手ではない」


 来るなと手を突き出すスギナにコガネムシ男が魔法の杖を振る。


「タバスコファイヤー 」

「スギナ!! 」


 炎の塊がスギナに触れる瞬間、恒夫がスギナを突き飛ばす。


「がっ、ぐああぁあぁーーーっ 」


 あっと言う間に恒夫の体が炎に包まれた。

 魔法の炎だ。

 轟々と燃える炎に叫びさえ掻き消されていく、


「恒夫! 操蔓! 蓬巻よもぎまき


 スギナの手から伸びた植物の蔓が火を消しながら恒夫の体を包み込んでいく、


「恒夫……お主は裏切ってなどおらん、お主は不死身ではないんじゃぞ、全身を焼かれるなど恐怖でしかない、それを厭わず火に飛び込んできおった。裏切っておる者がこんな事をする訳がない、命懸けで儂を助けてくれたのじゃからな……そこで休んでおれ」


 植物に包まれて繭のようになっている恒夫を見て慚愧に顔を歪ませていたスギナがバッと振り向いた。


「お主ら、本気で殺す気じゃったな……儂は出来るのなら殺めたくはない、命は尊いものじゃと思っておる。心はコロコロ変わるものじゃ、善にも悪にも簡単に染まる。じゃから少々の悪さをしても殺したりはせん、じゃがお主らは許せん」


 スギナの顔から感情が消えた。

 同時に人の気配も消える。

 まるで気配を感じさせない植物のようである。



 広間の中央で戦っていたラグがすっと動きを止めた。


「にゃんだ? トカゲと虫どもがにゃんでちびっ子と秀樹と戦ってるんだ? 」


 不思議そうなラグを見てフィフィが高笑いする。


「あははははっ、リザードマンも昆虫人間も私の仲間よ、子猫ちゃんたちには勝ち目は無いって事よ」

「そういう事か……んじゃ、さっさとお前を倒して秀樹たちの援護に行くぞ」


 ニヤッと悪戯っ子のように笑うとラグの姿が変わっていく、手足に毛が生えて鼻先も少し前に突き出した。

 身長は変わらない、猫と少女が混じった半獣姿だ。


「なっ!? 猛獣モードになれるの」


 驚くフィフィの前で半獣姿のラグが牙を見せて笑う、


「にゃははははっ、お前如きに猛獣モードを使うわけにゃいだろ、これは猛獣モードの手前だぞ、この姿はまだ理性があるからにゃ、降参するなら今のうちだぞ」

「誰が降参なんかするか! どっちが有利かわかっているの! 」


 怒鳴るフィフィの前でラグの姿がフッと消えた。


「なっ、なに…… 」


 キョロキョロして辺りを探すフィフィの後ろにラグがすっと現われた。


「ここだぞ」

「ひぃっ! 」


 フィフィが姿を消して全力で走って逃げる。


「お前遅いにゃ」


 姿を消して走っているフィフィの左から声が聞こえた。


「どこだ? 何処にいる? 」


 姿が見えないくらいに早く動いているフィフィの目にラグの姿が映らない。


「グリグリパァ~ンチ! 」


 左を探すフィフィの後ろ、つまり右からラグのパンチが飛んできた。


「ぐはぁ~ 」


 呻きをあげてフィフィが床に転がった。


「がっ、がはっ……バカな、元から足の速い私が俊足の力を貰って最高のスピードを手に入れたはずなのに………… 」


 唾と血を吐きながら上半身を起こしたフィフィの前にラグがすっと現われた。


「速いってにゃんだ? エルフのスピードなんて本気を出した獣人の何分の一だ? 神様に俊足を貰ってやっとそこらの獣人クラスだぞ、あたいをそこらの獣人と一緒にするにゃよ、チャトラン族はパワーは無いが素早さなら獣人でもトップクラスだぞ」

「これが獣人の本当の力か……私の俊足なんて効かないというの………… 」


 顔を引き攣らせたフィフィがサッと手を振った。


「ハラペーニョファイヤー 」


 間近からの魔法攻撃だ。

 避けることなど出来ないとフィフィの口元に笑みが浮ぶ、


「だから効かにゃいって言ってるぞ」


 直ぐ後ろから声がしてフィフィがバッと振り返る。


「あれを避けたの? まさか…… 」

「スピードはトップクラスだけどパワーはダメだにゃ、だからあたいは怪力を貰ったんだぞ」


 ラグが大きく腕を振る。


「キツツキパァ~ンチ! 」


 パンチの連打を受けながらフィフィが仰け反るようにして吹っ飛んでいった。


「ぐぅ……ぐがっ! 」


 転がったフィフィの直ぐ近くの床がボコッと音を立てて崩れた。


「フィフィ様ご無事ですか」


 スギナと戦っていたはずのモグラ男ジジジが現われた。


「ジジジ、よく来てくれました」

「フィフィ様此方に」


 抱きかかえるようにしてフィフィと穴の中に消えていった。


「にゃっ! 逃げたぞ」


 呆気にとられた様子のラグは鼻先が突き出た半獣姿と相俟って首を傾げる子猫のようだ。



 広間の右では秀樹と菜穗がリザードマン三人組とモグラ男ベベベ相手に苦戦していた。

 リザードマンのリーダーが横向きに剣を振る。


「うわっとっと…… 」


 バッと避けた秀樹のいた床に霜柱が一筋の流れのように立っている。


「氷の魔剣かよ、危ない物持ってやがるな」

「フフフッ、私は元から剣が得意でね、それに更に剣術力と魔剣を貰った。今の私に切れぬものなど無い」


 サッと剣を振るリザードマンの前で秀樹が魔法の杖を振った。


「プラズマガード」

「中級魔法で防げると思うなよ」


 バチバチと雷光をあげる電気の壁をリザードマンが切り倒す。


「マジかよ! 」


 叫ぶように大声を上げると秀樹が走って後ろに下がり距離を取った。

 少し離れた所では菜穂がリザードマン二人を相手にしていた。


「プラズマスラッシュ! 」

「ハラペーニョファイヤー 」


 前後からリザードマンが魔法攻撃だ。

 一人が中級魔法使いでもう一人が低級魔法と俊足を持っていた。


「水の結界、ウォーターフォール」


 菜穂は後ろから迫る電気の刃と前から迫る炎を上級魔法の水の壁で防いだ。


「二人相手でもどうにか戦えるけど……上級魔法の使い過ぎだわ」


 菜穂が肩で息をつきながら呼吸を整える。連携して魔法攻撃をしてくるリザードマンに対して上級魔法でガードしていたので疲れて当然だ。


 左右からリザードマンが攻撃してきた。


「タバスコファイヤー 」

「ウォーターニードル」


 菜穂がバッと魔法の杖を振る。


「電気の結界、プラズマシールド」


 上級魔法の電気の壁が中級魔法の炎と低級魔法の水の針を防いで消えた。


「おらを忘れてるだど」


 菜穂の直ぐ近くの床からモグラ男のベベベが現われた。


「ハラペーニョ…… 」


 魔法を唱えるモグラ男にバチバチと雷光をあげる電気の塊がぶち当たった。


「モゲェ~~ 」


 叫びながらベベベが穴に逃げていく、


「菜穂さん大丈夫? 僕も戦うよ」


 菜穂の直ぐ後ろから栄二の声が聞こえるが姿は見えない、


「栄二くんなの? 」


 戸惑う菜穂の背を栄二がポンッと叩いた。


「影マントで姿を消してるから、前にいるリザードマンは任せてよ、低級魔法と俊足でしょ、それなら僕でも勝てるよ」

「任せたわよ、倒さなくても引き付けてくれるだけでいいから、一対一じゃトカゲなんかに負けないからね」


 疲れ果てていた菜穂が栄二という援軍を得て力を奮い立たせた。

 二人の会話を聞いてリザードマンたちがキョロキョロと辺りを探る。


「援軍だと? 何処だ? 」

「くそっ、姿を消してやがる。気を付けろ」


 ポンッという軽い発射音に続けて前にいたリザードマンが炎に包まれた。


「グワァ~ァ~ 」


 叫びながら後ろに数歩下がると慌てて魔法を唱える。


「水の結界、ウォータードロップアーマー 」


 どうにか炎を消したリザードマンが俊足を使ってバッと走り出す。


「動いていれば狙われることもない」

「そう思うかい? 」


 どこかから声が聞こえて同時に魔法銃の発射音が続いた。


「うおぅ! 」


 足下に炎が広がりリザードマンがバッと跳んで避けた。


「魔法銃の弾は50発ある。まだたっぷり残ってるから狙わなくても幾らでも使えるよ」

「くそっ、どこだ出てこい卑怯者」


 キョロキョロ辺りを見回すリザードマンに電気の塊が飛んでいく、


「当たるか! 」


 リザードマンが慌てて横に跳んで避けた。


「卑怯? 女の子一人に男が二人で戦うのは卑怯じゃないのかな? 」

「なっ、ぐぐ…… 」


 図星を疲れてリザードマンは言い返せない。

 栄二の戦いを見ていた菜穂が安心顔で呟く、


「あっちは任せてオッケーね、じゃあこっちも行くわよ」


 中級魔法使いのリザードマンに菜穂がマジ顔を向ける。


「二人掛かりで散々やってくれたわね、たっぷり返してあげるわよ」

「ストームアックス」


 菜穂が魔法の杖を振ると10本の白い蒸気のようなもので出来た斧がグルグル回りながら向かって行く、正面でリザードマンが魔法の杖を構える。


「クリスタルガード」


 キラッと光を反射する透明な板に当たると蒸気の斧が消えていった。


「やるわね、流石にキツいな」


 上級魔法を使い過ぎて肩で息をつく菜穂にリザードマンが魔法の杖を向けた。


「クリスタルアロー 」


 疲れて動きが遅れる菜穂にキラキラ光る透明な矢が襲いかかる。


 バシッ! 矢が菜穂に当たった瞬間、魔法の鎧が光り輝いて弾き返した。


「なに!? 」

「あはっ、本当に防いだ」


 驚くリザードマンの前で菜穂が息を整える。


「プラズマボール! 」


 低級魔法の電気の塊を放ちながらリザードマンに近付いた。


「クリスタルガード」


 リザードマンが電気の塊を簡単に防ぐ、その直ぐ脇に菜穂がいた。


「サンダースピア! 」


 菜穂の手から雷光が伸びる。電気で出来た槍だ。

 リザードマンが咄嗟に手を足下に向ける。


「ファイアーボム」


 炎の塊が床で弾けてリザードマンと菜穂が前後に吹き飛んで転がった。


「くそっ! 上級魔法使いめ」


 忌々しげに言いながらリザードマンが立ち上がる。

 上級魔法を防げないと咄嗟に判断して地面を爆発させてその風圧で菜穂の電気の槍を避けたのだ。


「痛てて……自爆するなんて何考えてんのよ」


 腰を摩りながら菜穂も立ち上がる。


「それは? 魔法の鎧か……それで俺の魔法が効かなかったんだな」


 焦げて穴の空いた服の隙間から見えるシャツのような魔法の鎧にリザードマンが気付いた。


「バレたか、そうだよ魔法の鎧だよ、これがあれば中級魔法なんて怖くない、私はガードしなくてもいいから攻撃だけに集中できる。トカゲの魔法なんて初めから怖くないんだよ」


 ドヤ顔の菜穂を見てリザードマンがバカにするようにフッと笑った。


「回数制限のある魔法の鎧でいつまで戦える? そんな鎧など直ぐにぶち壊してやるぜ」

「それがなんなの? さっきは必死に自爆までして逃げたくせに偉そうに言ってんなよ」


 ニヤッと笑って言い返す菜穂を見てリザードマンの顔から笑みが消えた。


「そんなに死にたいか! 」


 激高したリザードマンと菜穂との激しい戦いが再開された。

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