第百四話 「疑い」
翌朝といってもダンジョンでは昼夜の区別はない、体内時計で朝だと判断してフルーツ缶詰とクッキーで味気ない朝食をとると早速歩き出す。
一時間くらい歩いて二十畳ほどの広間に出た。
「あれ? さっき通ったような…… 」
恒夫が首を傾げると後ろでラグが大きな欠伸をしながら口を開く、
「寝惚けてるんだにゃ、眠いから同じように見えるんだぞ」
「眠いのはラグだろ、俺は寝惚けてないからな」
厭そうにこたえるとまた歩き出す。
暫く歩いて分岐点になっている広間に出た。
恒夫が辺りを見回す。
「やっぱりおかしい……さっき通った場所に見える」
「うにゅん、あたいもそう思うぞ、ここさっき通ったにゃ」
「気のせいでしょ、同じような壁ばかりで分からないわよ」
菜穂はダンジョンにうんざりといった様子だ。
「確かに変じゃの、壁に印でも付けておけラグ、もう一度通れば分かるじゃろ」
スギナに言われてラグは爪を伸ばすと壁に軽く切りつけて印を付けた。
所々にラグが印を付けながら進んでいく、三十分程して恒夫が止まる。
学校の体育館ほどの広間に通じる通路だ。
「やっぱり同じ場所だ」
広間へ出る直ぐ脇の壁にラグの付けた印があった。
スギナが確かめるように印を手でなぞる。
「どういう事じゃ? 三度に一度の確率でハズレが出るとは言ってもイカサマサイコロを使えば確実に正しい道を通っておるはずじゃろ、じゃったら何故迷う? 」
マジ顔で恒夫を見つめるスギナの隣で菜穂が疑いの目を向ける。
「恒夫くん、わざと間違ってるんじゃないでしょうね」
「そんな事するはずないだろ、俺だってイベントクリアしたいんだからな」
慌てて否定する恒夫の腕をラグが引っ張る。
「危ないにゃ! 」
広間の向こう側、三つある通路の右から炎の塊が飛んできた。
「なんだ!? モンスターか? 」
ラグに抱きかかえられるようにして倒れた恒夫が広間の奥を見た。
菜穂が前に立つ、
「違うわよ、この魔法の感じはあの女エルフよ」
「フィフィさんか? 」
倒れたままの恒夫の直ぐ後ろで秀樹が菜穂を見つめる。
「わかるのか? 」
「魔法でわかるのよ、私には魔法の才能があるってケリウスさんも言ってたでしょ、一度戦った魔法の感じと同じだから間違いないわよ」
驚く秀樹に菜穂が自慢気にこたえた。
バッと起き上がるとラグが鼻をヒクヒクさせる。
「匂いが同じだぞ、間違いないぞ、あの女エルフだぞ、バカ鼠もいるぞ」
「鼠でなくモグラじゃぞ、彼奴らまだ懲りんみたいじゃのぅ」
スギナが先頭に立つと両手を構えた。
爪を伸ばしたラグがスギナの隣りに立つ、
「今度こそ決着つけてやんぞ」
「モグラがいるなら私たちに任せてよ」
「ああ、モグラは俺と菜穂でやるぜ、次はヘマしないから安心してくれ」
菜穂と秀樹が魔法の杖を取りだした。
「僕は秀樹たちを援護するから恒夫はラグさんとスギナちゃんを頼むよ」
魔法銃を握り締めて言う栄二を見て恒夫が慌てて起き上がる。
「ちょっ、待ってくれみんな、こんな所で戦っても何の得もないだろ」
スギナとラグを掻き分けるようにして前に出ると恒夫が大声を出す。
「フィフィさんだろ? 止めてくれ、戦いなんて時間の無駄だ。それより宝玉を探した方がいい、今日入れてあと二日だ。モグラの獣人がいるなら迷路関係なく直進してダンジョンを抜け出せるだろ? それなら2日間丸々宝玉探しに使えるだろ、戦って怪我したり死ぬ事考えたら宝玉探しをした方がいい」
広間の向こうの通路から大笑いが聞こえてきた。
「モフフフフッ、お前たちを殺さないとおらたちの気が収まらないだど」
「モググググッ、ベベベの言う通りだで、あんな屈辱を受けたのは初めてだで、あの場でおらたちを殺さなかった事を後悔させてやるだど」
「まあまあ二人とも…… 」
興奮した様子のモグラ男たちを宥めるとフィフィが続ける。
「恒夫くんが仲間になってくれれば引いてあげるわよ、女王様でも何でもなってあげるから私の元へいらっしゃいよ、恒夫くんの望む事ならなんだってしてあげるわよ」
「何でも……俺の女王様に………… 」
恒夫がゴクッと生唾を飲んだ。
「私は賢い男が好き、種族は関係ないわ、頭の切れる男なら人間でも好きよ、だから恒夫くんが好き、何でもしてあげるわよ、恒夫くんの望むままどんなプレイでもオッケーよ、私の元へ来て、二人で愛し合いましょうよ」
大人の女といった妖艶なフィフィを思い出して恒夫の顔が緩んでいく、
「フィフィさんと愛し合うか…… 」
デレデレする恒夫を見て菜穂が怪訝な顔で口を開いた。
「恒夫くん、まさか裏切ったんじゃないでしょうね」
「なっ、何言ってんだよ、俺が裏切る訳ないだろ」
「じゃあ何で同じ場所をグルグル回ったの? イカサマサイコロがあれば迷うはずがないでしょ、あの女エルフの仲間になったから私たちが邪魔になったんじゃないの? 」
「何言ってんだ! そんな事するはずないだろ、わざと迷う訳ないだろが」
声を荒げる恒夫をスギナがマジ顔で見つめる。
「何を怒っておるんじゃ? 裏切ったかどうかは性急じゃが道に迷った説明が無いなら疑われても仕方あるまい」
「そうにゃ、あいつらが出てきたタイミングもバッチリだぞ」
険しい顔をしたラグが恒夫に向かって腕を構える。
「違う……信じてくれ………… 」
恒夫が必死に言い訳を考える。
何故同じ通路をぐるぐる回ったのか、それがわからない、イカサマサイコロを使う事でダンジョンを簡単に抜けられると考えてマップを作っていないのが裏目に出た。
「イカサマサイコロのハズレにしちゃ長すぎるよな、同じ通路を2回も通った感じの場所もあったし」
「そうだよね、ハズレが出た後は当たりが2回続くんだよね、でもここへ来るまで3回サイコロ振ってるけど全部ハズレって感じだったよね」
秀樹と栄二も疑うような目で恒夫を見ている。
「女エルフの事を本気で好きそうだったもんね」
犯人を見るような目で菜穂が睨んだ。
「違うから、本当に俺じゃないからな」
言い訳を思い付かない恒夫は否定する事しか出来ない。
「俺じゃないってどういう意味? 誰かがやったって事? 誰かが態と道に迷ったって事よね、誰も知らない間に道に迷ったんじゃなくて誰かが罠に嵌めたって事じゃない、そんな事が何で恒夫くんにわかるの? 」
菜穂の話しでその場が凍った。
「恒夫お前マジで裏切ったのかよ」
「本当なの恒夫」
険しい顔の秀樹の横で栄二が信じられないという驚き顔だ。
「違う…… 」
青い顔をして否定する恒夫の体に植物の蔓が纏わり付く、
「疑わしきは罰せずというが儂は反対じゃ、罰を与えるのではないぞ、疑わしいものは監視下に置くという事じゃ、何もせんという事には反対という事じゃ」
恒夫を縛り上げながらスギナが言った。
「スギナちゃん……わかったよ、監視でも何でもしてくれ」
言い訳しても無駄だと悟ったのか恒夫が素直に従った。
「疑いは直ぐに晴れるじゃろう」
おとなしく従った恒夫を見てスギナの顔から険が消えた。
「あたいも今は信じてやるぞ、でも本気で裏切ったら承知しないからにゃ」
ラグが伸ばしていた爪を引っ込めた。
秀樹たちの話が終わったのを見計らうかのようにフィフィたちが広間に姿を現した。
「あらっ、もうバレちゃったの? そうよ恒夫くんは私の仲間よ、恒夫くんこっちへいらっしゃい、そこに居たら殺されるわよ」
満面の笑みでフィフィが手招いた。
「何言ってんだ! 変な事言うな! 」
怒鳴った後で恒夫が振り返る。
「違うから、信じてくれ俺は裏切ったりなんかしてない」
「モフフフフッ、もう演技はいいだで、恒夫の計画通り旨くいっただど、後はそいつら始末すれば恒夫はフィフィ様とラブラブできるだど」
フィフィの左でベベベが愉しそうに笑った。
バッと恒夫が前に向き直る。
「ふざけた事言うな! 俺を嵌める気か! 」
怒鳴った恒夫に後ろからラグが飛び掛かった。
スギナの蔓でグルグル巻にされている恒夫は避ける事も出来ずに倒れていく、
「うにゃ! 信用してたのに裏切ったにゃ」
倒れた恒夫にラグが馬乗りになる。恒夫の襟首を菜穂が掴んだ。
「女エルフと何があったのよ! いつ話しをしたのよ、裏切りなんて許さない」
「捕まった時か? フィフィに羽交い締めされて捕まってた時に話したんだな」
「あの時か……そういや恒夫は妙にフィフィを庇ってたよね」
倒れた恒夫を秀樹と栄二が疑いの目で見下ろす。
スギナが険しい表情で頷いた。
「有り得るのぅ、直に話さんでもテレパシーのようなもので話しはできるからの」
「信じてたのに……ラブラブだったにょに……もうチーム解散だぞ」
ラグの涙声が聞こえて恒夫が必死に首に掛かる菜穂の腕を解いた。
「違う、本当だ。信じてくれ」
「そうね、チーム解散ね、このイベントは各自がポイント貰えるから解散しても問題ないわね……でも裏切った事は許さない、殺しはしないけど気絶くらいして貰うわよ」
必死な形相の恒夫の前で菜穂が魔法の杖を構えた。
「止めんか! 恒夫の事は後じゃ、先にエルフどもを始末するぞ」
魔法を使う寸前でスギナが止めた。
ラグがぐいっと涙を拭う、
「あの女エルフが恒夫を誑かしたんだぞ、恒夫の始末の前に彼奴らを先に片付けるにゃ」
「わかったわよ、あの女エルフには私もムカついてるからね」
菜穂は立ち上がるとフィフィたちを睨み付けた。
今まで様子を伺っていたフィフィとモグラ男たちがバッと動いて広間に散らばる。
「栄二は恒夫を見張ってろ、俺と菜穂はさっき逃がしたモグラ男をやるぜ」
「わかった。何かあったら援護できるようにしとくよ」
マジ顔で命ずる秀樹に栄二がこたえた。
ラグがスギナに向き直る。
「女エルフはあたいがやるぞ、ぶっ飛ばしてやるにゃ」
「了解じゃ、儂は残りのモグラをさっさと片付けてお主たちの援護に回ろうかの」
頷くスギナを見てラグと秀樹と菜穗がそれぞれ走って行った。
スギナの前にモグラ男のジジジ、ラグの前にフィフィ、秀樹と菜穂の前にモグラ男のベベベが立った。
体育館ほどの広間の真ん中でラグとフィフィの戦いが始まる。
高速で動いて姿を消したフィフィがラグに殴りかかる。
「振動波! 」
ラグがひょいっと身を捻ってかわす。
「にゃんだ。そんなもの昨日の戦いで見切ってるぞ」
「音と匂いと空気の流れだったわね」
ラグの後方5メートルほどの場所にフィフィがフッと姿を現わした。
「ハラペーニョファイヤー 」
低級魔法の炎をラグがバッと横に跳んで避ける。
直ぐ後ろにフィフィが現われた。
「振動波! 」
「うにゃ! 」
ラグが体を反らして紙一重でかわす。
「プラズマボール! 」
無理な体勢をしているラグにバチバチと雷光をあげる電気の塊が飛んでいく、
「炎の結界、セラノブロック」
ラグが出した炎の壁が電気の塊を防いだ。
くるっと回ってラグが体勢を整える。
「言ったはずだにゃ、昨日の戦いで見切ってるってにゃ」
ニヤッと笑うラグを見てフィフィがフッと笑い返す。
「うちのバカモグラとは違うって事ね、獣人なんてみんなバカと思っていたわ、子猫ちゃんも私のチームに来ない? そしたら恒夫と一緒に居られるわよ」
「にゃに言ってる! 行くわけないぞ、ツネを誑かしたお前は許さにゃいからにゃ」
牙を剥いて怒鳴るラグの前でフィフィがサッと姿を消す。
「残念だわ……じゃあ、ここで殺すしかないわね」
姿を消したまま声だけが聞こえてくる。
大体の場所はわかるらしくラグのピンと張った耳がクリクリ動いていた。
「殺す? あたいをか? いい気ににゃるにゃよ」
ラグの顔から笑みが消えた。
「振動波! 」
左、3メートルほど離れて現われたフィフィが振動波を飛ばす。
「ウォーターニードル」
ヒョイッと体を捻って避けたラグに続けて魔法の水で出来た針が無数に飛んできた。
「こんにゃもの」
バッと上に飛んで避けるラグの直ぐ後ろ、同じように跳び上がってフィフィが姿を見せる。
空中では流石のラグも避けられないと考えての攻撃だ。
「振動波! 」
フィフィの拳がラグに迫る。
「いい気ににゃるにゃよ」
ラグがフィフィの拳をガシッと受け止めた。
「バカな…… 」
フィフィがバッと離れて着地する。
向かいでラグもくるっと地面に降りる。
「バカな……どうして? 」
何のダメージも受けていないラグを見てフィフィが思わず大声を出す。
「何故? 振動波を受けて何故平気なの? 手が使えなくなっているはずよ」
「お前の振動にゃんてあたいの気で包み込んで怪力のパワーで握り潰せるぞ」
ラグの両手が光の手袋をしているかのようにぼんやりと白く光っていた。
ラグの左ではスギナとモグラ男ジジジが戦っている。
「モグラ1匹など儂の敵ではないぞ、死にたくなければ降参して女エルフと一緒に消えろ」
じろっと睨むスギナの前でジジジが大きな両手を床に突き刺した。
「降参などしないだど、これでも喰らえ」
ジジジが掬うように腕を振ると床の煉瓦が捲れてスギナへと飛んでいく、
「繰蔓! 二重壁」
スギナがサッと手を振ると足下から植物の蔓が伸びてきて壁を作り煉瓦を防いだ。
「まったく、そんなものが効くわけなかろう」
やれやれというように言うとスギナが片手を向ける。
「操蔓! 打根」
スギナの手から大きな根っこが伸びていく、
「なんじゃ? 」
ぶち当たると思った瞬間、ジジジがばっと右に走って避ける。
「なんの! 」
スギナが腕を振ると伸びた根っこが逃げたジジジを追って行く、
「モフフッ、こんなもの怖くないだで」
暫く逃げるとジジジはくるっと後ろに向き直る。
「大岩崩し! 」
大きな手で根っこを叩き落とした。
険しい顔をしてスギナが口を開く、
「儂の打根を叩き落とすじゃと……それ以前に追いつけんとは、お主も俊足の力を貰ったんじゃな、逃げ回って威力が落ちた所を狙って叩き落としたんじゃな」
「モググググッ、昨日はおらの力を見せる前にやられただど、今日はやられないだで、岩をも砕くおらのパワーに俊足が合わさって無敵のモグラになっただど」
大笑いするジジジをスギナがじっと見据える。
「成る程のぅ、足の速いモグラという事じゃな、じゃがその程度では儂には勝てんぞ」
「モググググッ、昨日のように捕まらなければお前など怖くはないだで」
笑いながらジジジがバッと走り出した。
「捕まえられるものなら捕まえてみろだど」
スギナの周りをグルグル回り出す。
「女エルフのように姿を消す事は出来んようじゃな、普通じゃな、普段のラグと同じような速さじゃぞ」
回るジジジをスギナが冷静に観察している。
「余裕なのも今のうちだで」
「なんじゃ、足下が変じゃ…… 」
ふらついたのかスギナが足を踏ん張った。
「地獄落とし! 」
くるくる回っていたジジジが止まるとドンッと床を踏ん付けた。
次の瞬間、スギナの足下の床が崩れていく、
「繰蔓! 」
スギナは咄嗟に腕から蔓を伸ばすと天井に突き刺してぶら下がる。
「成る程の、流石モグラじゃ、穴を掘るのはお手の物じゃな」
床にぽっかり空いた大穴の向こうへスギナが飛び降りた。
「モグググッ、捕まえたで」
俊足で移動したジジジが背後からスギナを押さえ込む、蔓から飛び降りていたスギナが気付いた時にはジジジの腕の中である。
「早く離した方がいいぞ」
「モググググッ、離すわけないだで、このまま潰してやるだど」
背後から抱えるようにしてジジジがスギナを締め付ける。
「ぐぅ…… 」
スギナは苦しげに顔を歪めるがその口元をニヤリと歪ませた。
「繰蔓! 金鯱」
「グワァアァ~~ 」
悲鳴を上げるジジジの体を鋭いトゲが何本も貫いていた。
「ギヒィ~、モググゥ…… 」
締め付けるどころではない、ジジジは必死でスギナを引き離した。
「なんじゃ、捕まえたのではなかったのか? 」
ポンッと飛び降りるように離れるスギナの背から鋭いトゲが何本も伸びていた。
「なっ、何だ。このトゲは…… 」
折れて刺さったトゲをジジジが必死で抜き始める。
「じゃから言ったじゃろ、離した方がよいとな、金鯱という毒の無いサボテンじゃから安心せい、じゃが次は手加減せんぞ」
悪戯が成功した幼女のようにニヤッと愉しそうにスギナが笑った。
「サボテンか…… 」
刺さっていたトゲを全て抜くとジジジが肩で息をついた。
「獣人はタフじゃのぅ、人間なら死んでおるぞ」
愉しそうに笑うスギナを見てジジジの顔が青くなっていく、
「おらじゃダメだで、Aクラスにおら一人じゃ敵うわけないだど」
先程開けた大穴にジジジがバッと飛び込んだ。
「なんじゃ? 逃げるのか? 」
「逃げるわけないだど、土の中ではおらが有利だで、土中でおらに敵うものはいないだで」
大穴を覗き込むスギナに声だけが聞こえてきた。
体育館ほどの広間の右側では秀樹と菜穗がモグラ男のベベベと戦っている。
「ハラペーニョファイヤー 」
牽制するように炎魔法を使うとベベベが床に大穴を開けて潜っていった。
「なん!? あんなに速く潜れるのか」
「煉瓦の床を砂を掘るみたいにして潜っていったわよ」
驚いた二人が顔を見合わせる。
神様に怪力能力を貰ったベベベは元から持っていたモグラの力に怪力のパワーを合わせて普通のモグラ獣人の3倍以上早く潜る事が出来た。
二人の後ろの床がボゴッと音を鳴らして崩れていく、
「ウォーターニードル」
穴から顔を出したベベベが低級魔法で攻撃だ。
「炎の結界、セラノブロック」
秀樹が炎の壁を出し水で出来た針を防ぐ、
「プラズマボール! 」
菜穂がベベベに向かって魔法の杖を振る。
「モフフフッ、当たらなければどうって事ないだで」
ベベベがサッと穴に潜って避けた。
「またモグラ叩きかよ、切りが無いぜ」
秀樹が腰のホルスターから魔法銃を取り出す。
「暫く俺が相手するから菜穂は隙を見てモグラを上級魔法で蒸し焼きにしてくれ」
「了解、潜っても無駄だって教えてやるわよ」
菜穂が魔法の杖を握り締めた。
咄嗟に出せる低級魔法と違い上級魔法は気合いを込める時間がいるのだ。
ベベベが左の床を崩して顔を出す。
「ハラペーニョファイヤー 」
「水の結界、ウォータードロップアーマー 」
秀樹が防御魔法で炎を防ぐと同時に魔法銃をぶっ放す。
ポンッと軽い音を立てて飛んでいくとベベベの居た穴の周辺にバチバチと雷光が走った。
電気魔法のデン弾だ。
「くそっ、また潜りやがった」
ベベベが居ないのを見て秀樹が愚痴りながら魔法銃の弾を込める。
今度は右からベベベが顔を出す。
「ウォーターニードル」
「炎の結界、セラノブロック」
秀樹がサッと魔法の杖を振る。
炎の壁が魔法の水の針を防いだ。
同時に魔法銃を撃つがポンッという音と共にベベベはサッと潜って消えた。
「くそっ、切りが無いぜ」
同じような攻防を3度ほど繰り返す秀樹の目に床に空いた穴に近付いていく菜穂が映った。
「準備できたようだな」
秀樹が言うと菜穂が無言で頷いた。
後ろからベベベが現われて魔法攻撃を仕掛けてくる。
秀樹が防御魔法で防ぐと同時に魔法銃をぶっ放す。
ここまでは先程までと同じだ。
菜穂が穴に向かって魔法の杖を振り下ろす。
「フラッシュオーバーファイヤー 」
轟々と音を立てて穴の中に魔法の炎が流れていく、上級魔法の炎だ。
低級魔法しか使えないベベベに防ぐ術は無い、床の彼方此方に空いた穴から炎が吹き出す。
「モゲェ~~ 」
別の穴から叫びながらベベベが飛び出してきた。
秀樹がサッと魔法の杖を向ける。
「炎の檻、タピチェケージ」
体に付いた炎を慌てて消しているベベベを中級魔法の炎の檻が取り囲んだ。
「旨く捕まえたぜ」
「やったね秀樹くん、今度は逃がさないわよ」
菜穂がニヤッと意地悪顔で笑った。
「モフフフッ、穴を掘って…… 」
「無駄だぜ、今作った炎の檻は地面の下も塞いである。同じ失敗はするかよ」
「モググ………… 」
穴を掘って逃げようとしたベベベが悔しげに秀樹を睨む、
「覚悟なさい、上級魔法で灰も残さずに焼いてあげるから」
魔法の杖を構えた菜穂の足下、煉瓦作りの床に矢が突き刺さった。
「それは困る。モグラ男は我々も必要だからな」
「ウォータースピアー 」
水の槍が炎の檻に突き刺さる。
同じ中級魔法同士なので中和して双方バッと消えた。
「ベベベ今のうちだ」
「モフフッ、助かっただで」
ベベベがサッと地面に潜って逃げた。
「中級魔法かよ、何者だ! 」
秀樹と菜穗が辺りを見回す。
スギナはジジジと戦っているしラグはフィフィと戦っている。
「フィフィとモグラ以外に誰が居るのよ? 」
菜穂が険しい顔で魔法の杖を構え直す。
「フフフッ、ここだ」
体育館ほどの広間に通じる通路の一つからリザードマンが現われた。
「お前ら…… 」
「なんであんたたちがモグラを助けるのよ」
イベント参加者のリザードマン三人組を見て秀樹と菜穗が顔を顰める。
リーダーらしき首に青いスカーフを巻いているリザードマンが返事をする。
「我らはフィフィ殿と手を組んだ。宝玉を手に入れるためにな」
「なんですって…… 」
驚く菜穂の横で秀樹が魔法の杖を向ける。
「プラズマスラッシュ! 」
電気の刃がリザードマンの居る通路へと飛んでいく、
「問答無用か、フフッ、面白い」
リザードマンたちがバッと通路から飛び出した。
「何言ってやがる。行き成り攻撃してきたのはお前らだろが」
怒鳴る秀樹を見てリザードマンのリーダーがサッと会釈をした。
「それは済まない、モグラ男を死なせるわけにはいかなかったものでな」
リザードマン三人組が横に並んだ。
「挨拶がまだだったな、我らは辺境に住むリザード族だ。フィフィ殿との取引によりお前たちを倒す。悪く思わないでくれ」
「てめぇで見つけられないからって俺たちから宝玉を奪うつもりかよ」
「そんな事させない! 」
怒鳴る秀樹の横で菜穂が魔法の杖を向ける。
「タバスコファイヤー 」
飛んでくる炎をリザードマン三人組はバッと四方に散って避けた。
「姿を見せずに倒す事も出来たんだがな」
「我らは戦士なんでな、卑怯な戦いはしない」
「もっとも人間相手に卑怯な戦い方などする必要も無いがな」
三人のリザードマンが順繰りに言った。




