第百三話 「誘惑」
治癒魔法を終えた菜穂がフッと息をつく、
「これでよしっ、感謝しなさいよね、敵を治すバカなんてそうそういないわよ」
「礼は言わないだで、フィフィ様との取引だど」
ベベベがムクッと上半身を起こす。
菜穂の治癒魔法で火傷はすっかり治っていた。
「あのねぇ、取引とか約束とか関係ないでしょ、助けて貰ったらありがとうって言うのが当たり前じゃない、まったく」
呆れるように溜息をついた菜穂の後ろにフィフィがすっと現われた。
「ありがとう、お礼に人質にしてあげるわ」
「炎の結界、セラノブロック」
振り返りもしないで魔法を唱えた。
菜穂を捕らえる寸前、床から立ち昇った炎の壁がフィフィの前を塞いだ。
「なっ、くそっ 」
フィフィがバッと後ろに跳んで炎を避ける。
菜穂がくるっと振り返る。
「残念でした。私は恒夫くんのようにいかないわよ」
自慢気に笑う菜穂の後ろからベベベが襲い掛かろうと両手を上げた。
「操蔓! 打根」
スギナの手から伸びた大きな根っこがベベベをぶっ飛ばした。
「モゲェ~~ 」
床に転がったベベベに秀樹が魔法の杖を向ける。
「タバスコファイヤー 」
魔法の杖から伸びた炎がベベベの体に纏わり付く、
「モガァ~~、モゲゲェ~~ 」
炎に包まれたベベベが呻きを上げて床を転がり回る。
「よく燃えるモグラね、もう治療はしないわよ」
転がり回るベベベを見て菜穂が嘯いた。
「後はお主だけじゃぞ」
スギナがじろっとフィフィを睨み付けた。
「あたいの本気を見せてやんぞ」
隣でラグが手から爪を伸ばしてニヤッと笑った。
そこへ恒夫がやって来る。
「ちょっ、もうその辺でいいだろ、フィフィさんも謝ってくれ、それでこの場は治めようよ」
どうにか執り成そうとする恒夫にフィフィが振り向いた。
「もう少しだったのに……人間のくせに………… 」
悔しげに恒夫を睨むフィフィを見てラグが鼻を鳴らす。
「にゃふふん、ツネは只の人間じゃないぞ、ドヘンタイだぞ、強いんだぞ、何をするかわからにゃいからにゃ」
「ヘンタイはわかったけど強いですって? 神様に力を貰っても所詮は人間でしょ」
フィフィのバカにした目付きにラグが食ってかかる。
「にゃに言ってんだ。ツネは凄いんだぞ、宝玉だってツネが見つけたんだからにゃ」
フィフィの目がギラッと光った。
「宝玉を見つけた? その人間が? 」
「そだぞ、イカサマサイコロ使ってツネが見つけたんだぞ、ヘンタイだけど頼りになるんだぞ」
「そうなの……うふふふふっ、役に立つんだ」
艶っぽい目で見つめられて恒夫の頬が赤く染まっていく、
「にゃ、にゃに色目使ってるんだ! 」
怒鳴った後でラグがバッと振り返る。
「ツネも何赤くなってんだ! 浮気したらハゲ毟って頭の皮も剥いでやるからにゃ」
「違うから、俺は別に……浮気とかじゃないから」
薄い頭を押さえながら恒夫が必死で言い訳だ。
フィフィが妖艶な笑みを恒夫に向ける。
「あらっ、違わないわよ、私は恒夫くんが気に入ったわ、殺されそうになっても余裕なんて度胸のある証拠だし、何より頭の回転が速いわ」
「フィフィさんが俺を? 」
嬉しそうにバッと顔を上げる恒夫の薄い頭をラグが掴む、
「にゃに喜んでるにゃ? 」
「違う、俺は別に……褒められると誰でも嬉しいだろ」
必死で言い訳する恒夫を見て『ふ~ん』と鼻を鳴らすとラグがフィフィに向き直る。
「髪の毛は余裕無いけど度胸あるのは認めんぞ、それとハゲだから毛が邪魔にならないから頭の回転は速いんだぞ」
「ハゲじゃねぇ! 頭の回転に毛なんか邪魔になるか」
「黙ってろハゲ、今のツネに何も言う権利は無いにゃ」
怖い顔で怒るラグを見て恒夫がしゅんとして黙り込む、
二人のやりとりを見てフィフィが目を細める。
「ハゲなんて酷いわねぇ、本当に好きならそんな事言わないわよ」
「にゃに言ってんにゃ、お前がツネを誘惑したからだぞ」
「怖い猫ね、これじゃあ恒夫がかわいそうだわ、猫なんて止めて私の彼にならない? 」
睨むラグに構わずフィフィが恒夫に色目を使う、
「フィフィさんの彼氏に? おれと付き合ってくれるって言うのか? 」
恒夫がバッと身を乗り出した。
「うふふっ、恒夫が望むなら女王様でも何でもなってあげるわよ」
「マジか! 縄で縛ったり鞭で叩いたり踏ん付けたりした後で優しく抱いてくれるのか? 」
こいつマジでヘンタイなの?
一瞬顔を曇らせたがフィフィは笑顔を作って話を続ける。
「ええ、本当よ、恒夫が望むならどんなプレイだってしてあげるわ、私の体を好きにしていいわよ、だから、ねぇ、私のチームに入ってくれない? 」
「マジかよ! チームに入ればフィフィさんとあんな事やこんな事が出来るんだな、どんなプレイでも思うまま……フィフィさんと……女王様~~ 」
バッと走り出そうとした恒夫の首根っこを後ろからラグが掴んで引っ張る。
「何処行く気だ? にゃにをするつもりだ? 」
恒夫が振り返るとラグが怖い顔で目を吊り上げていた。
それまで黙って話を聞いていたスギナが口を開く、
「聞き間違いじゃと思うんじゃが、あの女チームに入るとか何とか言っておらんかったか?」
怖い顔で睨むラグと並んでスギナが怪訝な表情だ。
「離してくれ、心配無い」
恒夫がマジ顔でこたえるとラグが掴んでいた手を離す。
「チャンスを逃すな! 俺は常々こう思っていた。そのチャンスが今目の前にあるんだ」
恒夫のマジ顔が崩れていく、
「美人エルフが女王様になってくれるチャンスを逃す手はないぜ、夢にまで見た束縛生活、毎日フィフィさんに縛ってもらえるんだ」
恒夫がバッと手を振る。
「じゃあ、そういう訳で」
走り出そうとした恒夫をスギナが蔓でグルグル巻にした。
「何がそういう訳じゃ、何を考えておるんじゃお主は」
「この浮気者! お仕置きにゃ」
ラグが恒夫の薄い頭を引っ掻いた。
「いでぇ! 痛てて……止めろ、頭は止めてくれ」
叫ぶ恒夫を見て秀樹と栄二が顔を見合わせる。
「まったく、ヘンタイは時と場所を選んでくれ」
「冗談にも程があるよ、変態がしたいだけって理由で裏切ったりしないよね」
弱り顔の秀樹の隣で栄二が怖い顔で恒夫を見つめた。
「冗談なの? マジに見えたわよ、吃驚したぁ」
ほっと息をつく菜穂に恒夫が顔を向ける。
「冗談だ。だからこの蔓を解いてくれ、縛られるのは好きだがどうせならフィフィさんに縛られたい、フィフィさんと女王様プレイをしたい」
「冗談じゃ無いじゃない、まったく反省してないじゃない」
呆れる菜穂を見つめて恒夫がキリッとマジ顔になる。
「俺は常々誠実でありたいと思っていた。欲望に誠実に生きたい、だから解いてくれ、俺はフィフィさんと鞭と飴のドロドロの毎日を過ごしたいんだ」
「何が誠実だヘンタイめ! 」
「欲望全開じゃない、何考えてるのよ」
怒鳴る秀樹と菜穗の横で栄二が弱り顔で口を開く、
「僕たちをヘンタイに巻き込まないでよ」
「俺の願いが叶うんだ。やっと俺の女王様になってくれる人に出会えたんだ。その為なら世界がどうなろうと知った事じゃない、俺は世界よりフィフィさんとの愛に生きる」
「ヘンタイの世界系かよ」
怖い顔で睨み付ける秀樹に恒夫が向き直る。
「ヘンタイじゃねぇ、純愛だ。亀甲縛りで結ばれた俺と女王様との純愛だぜ」
「何が純愛じゃ、そのような汚らわしい純愛など聞いた事がないわ」
スギナがサッと手を振った。
「ぐぅ、ぐぐぅぅ…… 」
グルグル巻になっている蔓が締め付けられて恒夫が呻きを上げてぐったりする。
「冗談はもういいよ恒夫、それ以上言ったら僕も怒るからね」
マジで怒っている栄二を見て恒夫が顔を引き攣らせる。
「あはっ、あははっ、冗談だからさ…… 」
「冗談なの? 私は本気よ恒夫くん、恒夫なら私の全てをあげるわ」
可愛い顔で聞き返すフィフィを見て恒夫の顔が嬉しさに歪んでいく、
「おおぅ、フィフィさんの全てを……黄金水プレイも有りって事だな」
「おっ、黄金水って…… 」
満面の笑みで喜ぶ恒夫の前でフィフィが顔を強張らせる。
「いっ、いいわよ、恒夫が望むならどんなプレイだってしてみせるわよ」
「よしっ、決まった。俺は…… 」
恒夫の頭をラグがガシッと掴む、
「黄金水プレイの前に流血プレイがしたいらしいにゃ」
「そんなに黄金水が好きなのじゃな、では血便が出るほどのプレイをしてやろうぞ」
恒夫を見てスギナがニタリと不気味に笑った。
「ちっ違う、俺は美女の黄金水が好きで自分のはちょっと……流血プレイもちょっと…… 」
顔を引き攣らせる恒夫を見てフィフィがこれでもかという可愛い笑みを向ける。
「かわいそうな恒夫くん、怖い女たちに脅されてるのね、私はそんな事しないわよ、一緒に来てくれるわよね? 」
「いい加減にしろ! これ以上バカを誑かすな」
スギナがサッと手を振ると植物の蔓がバッと伸びる。
「おっと、ヤバいヤバい」
フィフィがサッと姿を消した。
伸びた蔓をしまうとスギナが辺りを警戒するように見回す。
「逃げたか」
「匂いが消えてるぞ、もうこの広間には居ないぞ」
鼻をヒクヒクさせながらラグが言った。
「ああ……フィフィさんが……フィフィさんとの爛れた性生活が………… 」
蔓にグルグル巻にされて横たわる恒夫が惜しそうに叫んだ。
スギナとラグが同時に振り向く、
「お主という男は…… 」
「浮気はお仕置きだって言ったよにゃ」
二人に睨まれて恒夫が秀樹に手を伸ばす。
「冗談、冗談だからさ、なぁ秀樹、栄二ぃ~、助けてくれ」
「冗談じゃなかったぜ」
「うん、一度本気でお仕置きしなきゃダメだよ」
二人がダメだとわかると菜穂に助けを求めた。
「菜穂は助けてくれるよな、お前を信じてるぞ、だから…… 」
「何言ってんのよ、散々怪しいって言ってたじゃないの、仲間を裏切るなんて私より恒夫くんの方が怪しいじゃないのよ」
ここぞとばかり言い返す菜穂から目を逸らすと恒夫がラグとスギナを見つめる。
「謝るから、もうしないから、だから……愛してるよラグ、なっ、だからさ、だから…… 」
「言いたい事はそれだけにゃ? 」
「言ってもわからん動物には体で教えるしかないからのぅ」
ラグもスギナも目は怒っているが口元は笑っている。
怒りが頂点に達して不気味な笑みになっていた。
「ひぃ……助けて………… 」
「問答無用じゃ」
「地獄で鬼にでも謝るにゃ」
泣き出す恒夫に構わずラグとスギナがボコボコにしていく、
「いでっ、いてて……いぎゃ~~、止めて……助けて…… 」
暫く恒夫の叫びが聞こえていたが直ぐに何も聞こえなくなった。
「自業自得だな」
「今回ばかりは僕も助けないからね」
「うわっ、痛そう…… 」
恒夫がボコられていくのを険しい顔で見ている秀樹と栄二の隣で菜穂が痛そうに顔を顰める。
ラグとスギナが手を止めた。
「今回は毛は勘弁してやるにゃ、でも次は本気で毟ってやるからにゃ」
「これで少しは懲りたじゃろう」
恒夫はとっくに気絶していて何も言わない。
「まったく…… 」
溜息をつく秀樹の横で栄二が倒れているモグラ男を見回す。
「モグラはどうするの? 二人ともまだ生きてるよね」
「モグラはムカつくけど気絶してる相手を殺すなんてあたいはヤだぞ、チャトラン族の戦士はそんな卑怯な事しないからにゃ」
「放って置け、それより儂らも先に進むのじゃ」
スギナが恒夫のポケットからイカサマサイコロを取りだした。
「そうだな、リーダーのラグちゃんに従うぜ」
「それより恒夫くんはどうするの? ここに置いていくの? 」
秀樹の向かいで菜穂が倒れている恒夫を指差した。
「心配無用じゃ、儂が運んでやる。バカじゃが仲間じゃからな」
スギナの手から蔓が伸びて気絶した恒夫を包み込む、
「へぇ、草で出来た担架ね」
「自動で歩く優れものじゃぞ」
驚く菜穂を見てスギナが自慢気に胸を張った。
恒夫を乗せた担架の下から伸びた蔓がモゾモゾ歩くように動き出す。
「んじゃ、出発進行~~ 」
元気なラグの一声で秀樹たちがダンジョンの出口を目指して再び歩き出した。
途中三度の分岐点があったがスギナがイカサマサイコロを使って出口に近い方向へ向かって歩いて行く、
「ハズレじゃったか」
狭い通路でスギナが足を止めた。
「どうした? 何かあったのか」
最後尾で訊く秀樹にスギナが振り返る。
「同じ場所を通っておる気がする」
スギナの後ろ、気絶した恒夫が横たわっている蔓で出来た担架の上で恒夫を跨ぐようにして座っているラグが耳をピンッと立てて辺りを見回す。
「やっぱりにゃ、あたいもこの道通った気がするぞ」
担架の後ろを歩いていた栄二が口を開く、
「イカサマサイコロ3回目だったからね、ハズレで迷ったんだよ」
「だな、敵と出会わなかっただけマシだぜ」
「ハズレの後は当たりが2回続くんだから安心していけるってものよ」
最後尾の秀樹に菜穂が賛成するように言った。
「そうじゃな」
スギナが頷いてから担架の上で気絶している恒夫を見つめる。
「こういう時は此奴が役に立つんじゃが…… 」
「そうだよね、恒夫は目端が利くからね」
栄二が言うと一緒に担架に乗っていたラグが気絶している恒夫の薄い頭をポンポン叩いた。
「叩き起こすにゃ、起こして馬車馬のように働かせるにゃ」
「寝かせておけ、儂らがお仕置きしただけではない、お主を助けるのに治癒能力を使って気力も体力も弱っておる」
スギナに言われてラグが頭を叩く手を止めた。
「んじゃ、出発だぞ」
担架の上でラグが手を振った。それを合図にまた歩き出す。
暫く歩いていると恒夫が目を覚ました。
「うぅ……うっ、うん!? 」
目を覚ました恒夫の薄い頭をラグがポンポン叩く、
「やっと起きたか、三十分くらい寝てたぞ」
「ここは? 」
担架の上で恒夫がガバッと身を起こす。
「出口に向かって進んでおるところじゃ」
先頭を歩くスギナが振り返って教えてくれた。
「そうか……ラグとスギナちゃんにボコられて気絶してたのか」
「酷い言いようじゃな、お主がバカをするから仕置きをしたまでじゃぞ」
顔を顰めるスギナの後ろでラグがガシッと恒夫の頭を鷲掴みだ。
「そだぞ、浮気した罰だぞ、次はマジで毛を毟り取るからにゃ」
怖い顔で睨むラグの前で恒夫が青くなっていく、
「毛は無事か! 良かったぁ~~ 」
バッとラグの手を払い除けると薄い頭を確かめるように撫でた。
「次はマジで全部毟り取るからにゃ」
ラグの怖い目に恒夫がブルッと震える。
「勘弁してくれ、冗談だ。全部冗談だから……フィフィさんの仲間に入る素振りを見せたらその場でプレイして貰えるかなって……鞭の代わりにスギナちゃんが出した蔓でビシバシ叩いて醜い豚って罵ってくれるかもって思っただけだから………… 」
青い顔で言い訳する恒夫の後ろを歩いていた菜穂が嫌そうに見つめる。
「マジのヘンタイじゃない、私たちを巻き込まないでよね」
隣で栄二が乾いた笑いをあげる。
「あははっ、でも良かったよ、やっぱり本気じゃなかったんだね」
「まぁな、でも半分本気だったぜ、美人エルフのお姉様が恋人だぜ、しかも俺の望むプレイをしてくれるんだぞ、こんなチャンスもう無いぜ」
惜しそうに言う恒夫をラグが怖い顔で睨み付ける。
「あんな女にツネを渡すくらいなら頭の毛を全部毟り取って殺してやるからにゃ」
「勘弁してくれ、そんな殺され方だけは嫌だ」
弱り顔の恒夫をスギナが見上げる。
「性悪女の何処がよいのじゃ? 年上好みなら儂の方がもっと年上じゃぞ、この姿が気に入らんのならあの女くらいの姿になってやってもよいぞ」
「年上って言ってもスギナちゃんは…… 」
途中で言葉を止めると恒夫が身を乗り出す。
「マジで? スギナちゃん大人の姿にもなれるのか? 」
担架が揺れてラグが恒夫の頭をポカッと叩く、
「危にゃいだろ、起きたのなら自分で歩け」
「ああ……ごめん、そうだな」
恒夫が担架から飛び降りた。
「それで本当に大人の姿になれるのか? 」
「出来るが頼まれてもやらんぞ、今の姿が一番楽じゃからな、お主のヘンタイに付き合うのは御免じゃからな」
恒夫の期待するような目付きにスギナがとぼけてこたえた。
「えへへっ、そんな事言わずに…… 」
作り笑いをしながら頼もうとする恒夫を見て秀樹が大声を出す。
「ダメだぜ、お前ちっとも懲りてないだろ、スギナちゃんにまでヘンタイしたら殴るからな」
「本当だよ、僕にも我慢の限度があるからね」
迷惑顔で言うと栄二がスギナに向き直る。
「スギナちゃん、恒夫は付け上がるタイプだから頼まれてもやっちゃダメだよ」
「了解じゃ、ヘンタイの矛先が儂に向いたら困るからのぅ」
断るスギナを見て恒夫が悲しそうに叫ぶ、
「えぇ~~、スギナちゃんの大人姿見たかったのに~~、今でも可愛いから絶対美人になるのがわかってるのに……俺の女王様になって貰おうと思ったのに」
「じゃから嫌なんじゃ、只の恋人ならともかくヘンタイプレイはお断りじゃ、まったく…… 」
顔を顰めたスギナが大きな溜息をついた。
「ほんとに最低ね」
菜穂が一睨みすると先頭のスギナを見る。
「ヘンタイは放って置いてさっさと行きましょうよ、虫いっぱいのダンジョンなんてさっさ終わらせてホテルでシャワーを浴びたいわよ」
「そだにゃ、あたいも肉食いたいぞ、肉食べ放題に行きたいぞ」
「そうじゃな、こんな所で問答しておっても始まらんな」
スギナが懐からイカサマサイコロを取り出す。
「ほれ、イカサマサイコロは返しておくぞ」
「んじゃ、出発進行~~ 」
担架の上で元気な声を出すラグをスギナが見上げる。
「お主も降りんか、担架を仕舞えんじゃろが」
「えぇ~~、あたいはこれに乗ってくぞ、歩かなくていいから楽ちんだぞ」
「ダメじゃ、他の技と違ってこの蔓は儂の体の一部みたいなものじゃ、第一そんなものに乗っておっては戦えんじゃろが」
「居心地良かったのににゃ~~ 」
プクッと頬を膨らませながらラグが飛び降りた。
「スギナちゃんの特製か……それでか、疲れがすっかり取れてるよ、俺を乗せながら治癒してくれたんだな」
「そういう事じゃ、仕置きは仕置き、仲間を助けたお主には感謝しておるからの」
植物の蔓で出来た担架をスギナが仕舞う、
「ありがとう、スギナちゃん」
優しく微笑むスギナに恒夫がペコッと頭を下げた。
「じゃが無茶をしおる。逃げる時にフィフィが振動波を出したらどうするつもりじゃ、頭が無くなっておるところじゃぞ」
「俺はどうなってもいい、ラグの涙を見てたら怒りが収まらなくなった。俺のせいでラグを、スギナちゃんやみんなを泣かせたくない」
マジ顔で言った恒夫の頭をスギナがポコッと叩いた。
「バカを言うな、お主が死んだら比べものにならんくらい泣きおるぞ、ラグだけではないぞ、儂も秀樹も栄二も菜穂もじゃぞ、じゃからバカな真似だけはするな」
「ごめん……気を付けるよ」
項垂れる恒夫を見て栄二が優しい顔で口を開く、
「反省してるようだからそれで許してやってよ」
「そうだにゃ、許してやるぞ、でも次は毟るからにゃ」
ニヤッと悪い笑みをするとラグが元気に手を振る。
「んじゃ出発だぞ」
恒夫とラグを先頭にして歩き出す。
暫く歩いて十二畳ほどの広間に出た。
分岐点では無い、通路は入ってきた場所と向かいの壁に一つあるだけだ。
最後に広間に入ってきた秀樹がリュックを降ろして怠そうに肩を回す。
「今日はここで休もうぜ、色々あって疲れたからな」
「そうだね、あと二日もあるから急ぐ必要はないよね」
賛成する栄二の隣で菜穂が不安顔で口を開いた。
「もう少し歩かない? 少しでも先に進んどく方がいいと思うんだけど、さっきのフィフィみたいな事があると困るし…… 」
広間を見回していたスギナが菜穂に向き直る。
「菜穂の言う事は尤もじゃがこの先に安心して休める場所があるとは限らんしの、ここなら出入り口は二つじゃから儂が昨日使った食獣蔓で通路を塞げば安心して眠る事が出来るぞ、回収した食獣蔓は残り三つじゃから通路が三つ以上ある場所じゃと見張りを立てねばならんぞ」
「心配するなよ、明日にはゴールできるぜ」
リュックから水筒を出して水を飲む恒夫に菜穂だけでなく秀樹たちも注目した。
「何でわかるのよ? 」
「また勘か? 変に喜ばすなよ」
怪訝な顔付きの菜穂の横で秀樹がじろっと恒夫を睨む、
「イベント期間は四日間、その間に宝玉を見つけてゴールしなきゃダメなんだぜ、それから推測するにダンジョン自体はそれほど広くはない、単純にゴール目指すだけなら二日もあれば済むだろう、それに宝玉を探すのに二日だ。合わせて四日間、イベント期間ピッタリだ」
恒夫の話を聞いてスギナが大きく頷いた。
「成る程のぅ、儂らは昨日宝玉を見つけて今日一日出口へ向かって進んだ。途中フィフィとの戦いはあったが確実に出口に近付いておる。他のチームはともかく儂らはイカサマサイコロを使って最短距離が取れる。じゃから明日一日あればゴールできるという意見には賛成じゃ、アクシデントがあったとしても二日あればクリアできるじゃろう」
「成る程ね、そういう事なら私も賛成よ」
「流石スギナちゃんだぜ、イカサマサイコロ使ってるのは俺たちと中津たちくらいだろうからな、前のゲームでも呆気なくゴールできたからな」
安心した様子の菜穂の隣で秀樹も表情を緩めた。
「俺が言ったんだけどな……お前ら俺の事はまったく信用してないだろ」
「当たり前じゃない、ヘンタイプレイがしたくて裏切ろうとする人なんて信じられるわけないでしょ」
「だな、恒夫がマジ顔で言うと何か下心があるって考えるよな」
厭そうに言う恒夫に二人が即答だ。
「お前らなぁ~~ 」
嘆く恒夫を見て栄二とラグが大笑いする。
「あははははっ、仕方ないよ、さっきあんな事したばかりだからね」
「にゃははははっ、毛と一緒で信頼も薄くなってんぞ、信頼もハゲてきたんだぞ」
「ハゲじゃねぇ! どうせ俺は裏切り者ですよ」
水筒を仕舞うと恒夫が向こう側の通路へと歩いて行く、
「俺は見張りしてるから飯の用意は任せたぞ」
「待たんか、食獣蔓を植えてやる」
拗ねる恒夫をスギナが追って行くのを見て秀樹たちが笑いながら夕食の用意を始める。
「わかっておるじゃろうが不用意に近付くなよ」
通路の奥に食獣蔓を仕掛けるとスギナが広間に戻っていった。
恒夫は通路の壁にもたれて座るとリュックから乾燥肉を出して咥える。
「フィフィさんか……俺を利用するつもりなんだろうけど……色んなプレイをしてくれるなら利用されてもいいな………… 」
広間で料理の支度をする秀樹たちを見ながら呟いた。
食事が終わると少し談笑した後でスギナが作ってくれたベッドに各自横になる。




