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9/19

Eps.009 翌日

牛乳と食パンという、簡素な朝ごはんを済ませて家を出る。


今日は大学が2限からだったので、朝は比較的余裕があった。

十分眠れたうえに、洗濯もきちんと済ませて家を出たので、褒めてほしいくらいだ。


そんな事を思いつつ、5分ほど歩いて大学に着く。


教室の場所は、昨日優真が校舎の配置を教えてくれたおかげで、特に迷わなかった。

教室に入り席を見渡すと、昨日よりずいぶんと座席が空いていた。


迷ったら怖いからと、少し早めに家を出た甲斐があったのだろう。


授業が始まるまでしばらくスマホを眺めていると、前の席に見慣れた長い黒髪が現れた。


ん……、と少しの間フリーズする。


小夜である。……どう見ても、小夜である。

メガネをかけているし、大学モードではあるが。


大学では異性と関わらない、といっていた小夜はどこに行ったのだろう。


……いや、確かに厳密には「関わって」はないのか。



というか、そもそもなぜ同じ授業なのだろう。


確かにこの授業は教養の授業であるため、2年生で他学部の小夜が取っていることはおかしくない。

そして、授業名は「地域地理学」。主に京都を中心とした近畿の地理について扱うらしい。



よく考えれば、同じ授業なのはどちらかというと僕が原因な気がした。別に悪いことじゃないし、むしろ嬉しい。


ただ、小夜が僕と同じ授業を取ろうとしたとかそういうことではなく、僕側が小夜の関心に近い授業を取っていただけだ。


しかも、近いと言うか、たぶんちょうどその分野だろう。

初めて僕の部屋に来た時の話からして、ぴったりな気がする。


正直、授業が被るなんて全く想像していなかったので、驚きも相まって思い上がったことを考えてしまった。


そして、そんなことを考えていると、前の席の小夜がやや後ろに大きく伸びをし始めた。


「んーー」


彼女の手が、僕の顔のすぐそこまで届く。


……やっぱりわざとなのだろうか。

なんだかアピールされている気がしなくもないが、僕には何もできる術がない。


さすがに幼馴染とはいえ、ここで頭を撫でたりするのは距離が近すぎるだろう。

別に僕ら同士は嫌ではないが、他者からどんな視線を向けられるのか、想像が容易い。


そしてなにせ、小夜には異性と関わりたくないそれなりの事情があるのだ。

彼女は離れたくないと思っているとしても、近くにいる方法というものがあると思う。


そんなこんなで小夜のことをスルーしていると、彼女は椅子を強く後ろに引いて僕の机を小突いてきた。


しかし、ちょうどそのタイミングで先生が入ってきたため、小夜は椅子をすぐに元に戻し、真剣に話を聞き始めた。


授業が始まってから軽く辺りを見回すと、教室はほぼ満杯で、しかも元の教室自体が広いため、かなり多くの受講生がいることがわかる。

話を聞いているとすごく面白いし、人気があるのも頷ける気がした。


大学二日目で改めて感じることだが、大学の授業は先生によってだいぶスタイルが違う。


教室前方の黒板やホワイトボードに板書する先生もいれば、専用のサイトに授業資料をデジタルであげてくれる方もいる。


話し方や内容も、こちらの様子を見ながら話してくれる人もいれば、おいてけぼりでどんどん進めていく先生もいる。


なんか、大学っていいなと改めて思った。



2限の授業を終えると昼休みである。


授業が終わって荷物を片付けてから教室を出る。


一瞬小夜に話しかけようかと悩んだが、彼女の方が授業終わりすぐに消えてしまったので、話しかけずに終わる。


仕方ない、一人で食堂に向かおうと、昨日も行った例のレンガ造りの食堂に向かう。


食堂の中は今日も人でいっぱいだった。


なんとか空いている席を見つけて、席を取っておく。


この食堂は席取りのためのプレートがあって、それを置いておくことで席を確保できる。


盗難防止のためらしい。非常に助かる。


授業が延長し、来るのがやや遅くなったためだろうか、料理を注文する列は昨日よりやや空いている気がした。


昨日は丼を食べたから今日は麺類にしようと、きつねうどんを注文する。


受け取って会計を済まし、座席に戻ろうとしたとき、道中で優真の姿を見かけた。


3列程向こう側で、2人掛けの席に座っており、彼の向かい側には女の子が座っている。


同じ学部の子だろうか。


だとすれば挨拶をしてみてもいいのかもしれない。

仲良くなるなら、きっと今のうちだろう。


そう思い、席に近寄ろうとしたが、あと一列といったところで足を止める。


……よく考えてみれば彼女かもしれない。


いや、まだ大学が始まって二日目だ。

彼女じゃない可能性だって高いだろう。


でも、もし彼女なら申し訳ない。

そっとしておこうと一人で席に戻った。


そういえば、と小夜のことを思い出す。


彼女が僕と親しげにしない理由は、やっぱりああいうふうに見えるのがよくないのだろうか。


小夜は綺麗だし、可愛いと思う。

幼馴染だからなかなか異性として意識してこなかったが、おそらく客観的に見ればそういう評価になるだろう。


モテたりするのだろうか。


言われてみれば、中学校の時は確かに男子からの評判が良かったような気がする。


可愛いよね、とクラスのなかでも言われていた。


ということは、今はもう既に彼氏がいたり……?


いや、それは多分ないだろう。

男子のことを好いてはいないみたいだし、もしいるなら、僕の家に入って寛ぐようなタイプでもない。


なんだか妙な勘ぐりをいれてしまったが、そう思うとやはり僕はまだまだ小夜のことを知らないんだろうなと思う。


泣いている顔も、昔はよく見たけれど昨日は久しぶりに見た。


僕と疎遠になって、彼女が一人でどれほどの傷を背負ってきたのか、僕にはわかる由もない。


ずっと寂しがりだったもんな。

ここまでずっと頑張ってきたのだろう。


何か力になれたらいいな、と思いながら、少し冷めてぬるくなったきつねうどんを啜った。

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