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Eps.008 子供と大人

第7話の続きからになります……!

未読の方はぜひ前話も先にお読みくださいませ。

「ほんと……?」


 不安そうな顔をして、小夜は僕に尋ねる。

 相変わらず、声が震えていた。


「ほんとに、嫌いにならない……?」


 不確かな言葉を手繰り寄せるように、僕が離れてしまうことを恐れるように、また同じ質問を繰り返す。


 ……さっきは「ちょっとだけ」と言っていたが、本当はすごく不安だったのかもしれない。


「大丈夫だよ。ほんとに嫌いにならないから」


 しっかり目を見つめながら、僕は小夜に語りかける。


 さっきよりも小夜の瞳は潤んでいる気がした。

 あと少しで、目の縁から雫がこぼれ落ちそうだ。


「頭、撫でててほしいな」


 抱えきれなくなった雫が、ソファに落ちていく。


 寂しそうに、少しだけ頬を緩めて微笑みながら、小夜は僕に強請った。


 彼女の要望に応えるよう、優しく頭を撫でる。

 そして、10秒くらい撫でているうちに、小夜は目を閉じて表情を緩めた。


 少しは安心してくれたのかもしれない。


 相変わらず、サラサラとして撫で心地のいい髪だ。


 昔からそうだった気はするが、やはり全体的な雰囲気も相まって、髪からは若干の大人っぽさを感じる。


 とはいえ、今の小夜は随分と怯えていて、そして僕に甘えていて、まだまだ子供っぽいような気がした。


 暫く頭を撫でていると、小夜は再び目を開けて、また腕に頬を当てる仕草をする。

 しかし、少し僕の腕が高かったせいで、若干もたげていた首が苦しそうだったので、僕は腕を下げる。


 すると、満足したように小夜はまた少し笑った。

 相変わらず、幼くて可愛らしい仕草だ。


「大学ではね、あんまり異性と、関わらないように、しててさ」


 暫く静かに撫でられていた小夜だったが、安心してくれたからだろうか、徐に口を開いて話し始めた。


「だからね、大輝くんとも、話さないように、しなきゃなって」


「ふむふむ」


「……でもね、なんかやっぱり、違うなって」


 じっと僕の顔を見つめ、切なそうな顔をしながら、彼女は僕に訴える。


 少々沈黙が続いた。


 小夜は言葉を選ぶように、ゆっくりと話しているようだ。


「……でもね、どうしたらいいか、わかんなくてさ」


 相槌を打つかわりに、頷いたり、頭を撫でたりして、ちゃんと聞いていることを伝える。


 そして再び沈黙が続いたが、小夜は「難しいね」といって、悲しそうに笑ってみせた。


 ……うーん、どうしたらいいのだろう。


 どうして異性と関わりたくないのか、なぜ様子が違っていたのか、など、わからないことは山積している。


 聞くべきなのか、聞かないほうが良いのかもわからない。


 ただ、人の事情は下手に触れるべきではないだろう。

 僕にできることは、せいぜいこうやって頭を撫でることくらいだ。


 そんな事を考えていると、ふと疑問に思うことがあった。


「今の僕は、いいの……?」


 僕も少し不安になって、小夜の様子を伺いながら尋ねる。


「大輝くんはね、異性というより、幼馴染だから。子供っぽいと思うかもだけど、お母さんに撫でてもらってる、みたいな。そういう感じ」


 なるほど。そういうものなのか。


 ただ、その言い方から察するに、僕がいいのは異性の部類でないからのようだ。

 大学では関わらない、とは言っていたけれど、そもそも異性自体に苦手意識があるのかもしれない。


 そしてそれで言うなら、大学でも僕が幼馴染であることに変わりはない。

 故に、特段避けなくてもいいような気はする。


「大学でも、普通に、接したいんだけどね」


 寂しそうに小夜はつぶやく。


 僕は接してくれても大丈夫だよ、と口に出しそうになって、その言葉に大した意味はないことを悟る。

 そして、ふと思いついたことを聞いてみた。


「他の子に見られるのが、あんまり良くないの?」


「……そうだね」


 小夜はそう言って、僕の撫でる手が止まったタイミングで上を向き、天井を見つめた。


「子供っぽい、わがままでごめんね」


「大丈夫だよ。小夜の望むように、僕は接するから」


 小夜の望むように、とはいいつつ、本音では彼女も大学では関わりたそうであるので、本当に全てが望むがまま、とは行かないのだろう。

 ………若干、言葉選びを間違えたかもしれない。


 そんな不安を拭うように、彼女は話しだした。


「……やっぱり私は、大学でも、大輝くんと、普通に接したいな」


 安心するし、と呟いてまた僕の方を見る。


 そして手を伸ばし、僕の頭を撫でた。


「幼馴染の、貴方と、そばにいたい」


 そう言うと、小夜は体を起こし、床に足をついた。

 彼女が立てるように、僕も少し下がって立ち上がる。


 すると彼女はそのまま立ち上がり、僕に抱きついた。


 ふわりと、いい匂いがする。

 優しく小夜らしい、儚い匂いだ。


 香水のようにきつい匂いや、大人っぽい匂いではなく、包み込むような、安心感のある匂い。


 シャンプーか柔軟剤の匂いなのだろうが、僕にはよくわからなかった。


 ふふっと悪戯っぽく笑って、僕の胸に顔を埋める。

 サラサラとした髪が首に当たって、少しくすぐったかった。


「きっと、大人にならなきゃ、いけないけどさ」


 僕を包んでいた腕を解いて一歩下がり、僕の目を見て小夜は言う。


「でも、大輝くんの前では、子供で、いいよね」


 無邪気に笑ってみせる彼女は、本当に子供らしくて、この幼馴染をずっと守りたいと思った。



 結局、その後焼きそばは小夜が一人で作ってくれた。

 時間がなかったこともあり、そのほうが速いと判断したためだ。


「残った野菜は、野菜炒めにしたらいいよ」と小夜が教えてくれたが、野菜炒めの作り方が分からない。


 彼女にそう言うと、はぁ……とわざとらしくため息をついて、「仕方ないから、また明日も来てあげる」と言って僕の頭をぽんぽんと叩いてきた。



 小夜が帰った今の部屋は、なんだかすごく静かで、寂しく感じる。

 もうあとは寝るだけだというのに、寂しさでなんだか寝付けない。


 別に小夜がいたときも、大した声量では話していなかったが、自分一人だけというのは思ったよりも物寂しい。


 そう思うと、僕もまだまだ子供なんだなと思う。


 儚くてミステリアスな幼馴染も、撫でられるのが好きだったり抱きついてきたり、まだまだ子供っぽいことが多い。


 ……そこが可愛らしくて、守ってあげたいところではあるのだが、僕も人のことは言えないようだ。


 なぜ異性が嫌なのか、詳しいことはよくわからないけれど、そばで僕がそんな小夜を守れたら、と決意を新たに眠りにつくのだった。

小夜の言う「大人にならなきゃ」とは何なのか、また少しずつ触れられたらと思います……!


あと、活動報告を現在毎日更新しております!

もし興味のある方はたまに覗きに来てください。

(今日何話投稿しました〜と余談を少し話しているくらいですが……)

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