Eps.005 大学生らしいこと
『では、本日の講義を終わります。お疲れ様でした』
90分の講義が終わり、教授が授業を締める。
初めて受けた大学の授業。言語科学は言葉に興味があったから履修したが、思ったよりも馴染みない内容で奥深そうだった。今後が楽しみだ。
そうやって遂に始まった大学に感動していると、前の席の男子ー御門優真が席を立ち、僕の隣に歩いてきた。
「大輝は次、何の授業なん……?」
「えーと、次はドイツ語かな」
「お、ドイツ語なんや。これまた一緒やな」
「そうなんだ。優真と一緒なら心強いや」
そう言って僕が笑うと、彼は「俺もだ」といって親指を立てた。
なんともカッコいいやつである。
大学では第二外国語というものがあり、英語の他に新たに外国語を学ぶ必要がある。
僕らの大学では第二外国語は全部で8種類くらいあるらしい。そして入学時の資料曰く、心理学部ではドイツ語、フランス語、中国語の3つが主流のようだった。
また、学部ごとに授業が振り分けられるため、同じ第二外国語を選択しているとそのメンバーでコミュニティができるとのことだ。
折角見つけた友達と接する機会が多いのは、非常にありがたい。
「教室の場所わかったりする……?共用F号館みたいだけど」
カバンを背負って教室を出つつ、次の教室に移動するために再びアプリを開きながら、僕は尋ねる。
「お、任せな。このキャンパスは棟の順番が時計回りになっているんだ」
「時計回り……?」
「おう。ここがA号館で、向かって右がB号館。それから隣り合わせにアルファベットが続いていて、左奥に見えるのがK号館やな」
建物を出た後、優真が周りの建物を指差しながら教えてくれた。
「じゃあFって結構離れてるのね」
「そうやなぁ。急いで行ったほうがいいかもしれん」
時計を見ると次の授業まであと10分を切っていた。
建物のなかで迷子になる可能性も考慮して急いで歩く。
しかし、優真の案内もあったおかげで、F号館にはそこまで時間を掛けずに辿り着くことができた。
教室の場所も結局わかりやすい位置にあり、迷わず辿り着く。
教室に入るとすでに多くの生徒が着席していた。
うちの学部は一学年が100人程度と、やや規模の小さい学部なので、同じ学部かつ同じ外国語選択となると、選択する人の多いドイツ語でも25人程度のようだった。
よって教室も狭く、先ほどの授業と同様、かなり席が埋まっていた。
とはいいつつも、席は後ろの列を中心に埋まっており、最前列はまだ空いている。ここなら隣で座れるだろうと優真を誘ってそれらの席に座った。
ドイツ語の初回授業は発音練習から始まり、簡単な挨拶を学習して終わった。
思った以上に発音が難しく、多少苦労したがなんとか90分を乗り切れたので良しとする。
やっぱり大学の授業ってすごいなぁと思いつつ右を見ると、優真が頭を抱えて唸っていた。
「んー、むずすぎやろ。外国語無理すぎる」
「難しかったねドイツ語」
「ほんまになぁ……。日本語選択にしよかな」
「日本語はもうネイティブだよ」
そう言って笑うと、優真も嬉しそうに上手く乗ってくれたなぁと笑った。
「そういえば、今からお昼やけど一緒に食べれたりする?なんか用事ある?」
「大丈夫だよ。食べに行こっか」
うちの大学は、午前中に2つと午後に3つの計5個の授業で一日が構成されている。
そしてその午前と午後の授業の間に1時間ほどあるのがお昼休みだ。
「食堂って大学生ぽくって早く行ってみたかってんなぁ」
教室を出て、教養ブロックの中心部にある食堂に向かって歩きながら優真は言う。
「確かに。総菜とかを選んで取るんだっけ」
「らしいなぁ。アプリ見たらメニューも見れるらしいで」
スマホで食堂のアプリを見せながら、優真は誇らしげに笑った。
僕もそのアプリを開き、メニューを確認する。
メニューにはサバの味噌煮やハンバーグなどの主菜と、冷奴やポテトサラダのような副菜、あとはご飯や丼もあるようだった。
しかもそれらのメニューは週替わりで変わるらしく、例えば今週の丼は三色丼だった。
そうこうしているうちに食堂の入り口にたどり着く。
教養ブロックの真ん中にあるからか、建物はドームのような、かまどに似たような、独特の形をしていて、レンガ造りの全体的に丸みを感じる見た目をしている。
入り口も複数あって、外から見る限りの建物の造りとしては、円形の飲食スペースを取り囲むように食品を売るスペースがある、という形になっているようだ。外からでも、先ほど挙げたようなメニューがそこに並んでいるのが見える。
「キッチンカーもあるみたいやなぁ」
優真の指さす方向を見ると、確かに食堂の奥の方にはずらりとキッチンカーが並んでいた。
「ほんとだ。しかもこれ、大学の近くの店みたいだね」
近づいて見てみると、キッチンカーの看板には大学の近くの大通りにあるカフェや中華料理店の名前が並んでいた。外のお店が構内に売りに来ているようだ。
果物をふんだんに使ったらしいソーダやホットドッグ、ごま団子などが売られており、魅力的なものばかりである。また食べに来よう。
「まあとりあえず、今日は食堂行くか」
名残惜しげにごま団子を見つめつつ、そう告げた優真は、なんだか大きな子供みたいで微笑ましかった。
近くにあった入り口から中に入ると、皆が各々喋りながら食事を楽しんでいた。
思っていたよりも騒がしく、大学生らしい活気を感じる。
ご飯を買うために、一度席を取ってから外側の列に戻ると、どこもかなりの人が並んでいて、スタッフが列の誘導を行っていた。
特に主菜の列は人気らしく、とりわけ長い行列になっている。
「うーん、主菜は時間かかりそうやから今日は丼にするか」
「そうだね。今日は三色丼みたいだよ」
「三色丼……!いいやんいいやん、いこいこ」
5分くらいだろうか、そこそこ長い列に並び、遂に三色丼を受け取る。
たまごと鶏そぼろ、ほうれん草がご飯のうえに乗せられていて、鶏そぼろの非常にいい匂いが食欲をそそった。
そのままレジに並び会計を済ませてから、先程取っておいた席に戻ると、優真はスマホを取り出して何やら企んだ顔をしてみせる。
「ご飯食べながらでええんやけどな」
さっきまで優しそうだった青年が途端にニヤけ出し、咄嗟に良くないことに誘われそうな気配を感じ取る。
「ちょっと考えてほしいことがあって」
「う、うん……。どうしたの……?」
「いやいや、そんなに緊張せんでもええって」
顔は笑っているが目は笑っていない。
「大学生らしいこと、してみいひん?」




