↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/18

Eps.003 秘密

タイトルのみ初投稿時から変更しております!(2026/08/27)


内容の変更はありませんのでご安心くださいませ。

「わーい!広い、広い!」


 まだ段ボールの積み上がった僕の家で、すべての部屋を見て回った小夜は、まるで我が家のように部屋の広さを喜んだ。


 終始楽しそうな彼女は、ついにはベランダに飛び出し、「景色もいい……!」とキラキラした目を僕に向けている。


「よかったね、小夜」


 あまりに無邪気に喜ぶ彼女に、僕も思わず笑ってしまう。


 一方で小夜も、くすくす笑う僕を見て、なぜか満足そうに笑っていた。




「家がなくならないうちに、契約しないと」


 景色を堪能し、ベランダから中に戻ってきた小夜は、さっそく隣の家を借りられないか、不動産会社のサイトを調べ始めた。


 そんなに衝動的でいいのか……と思いつつも、この家を随分と気に入ったようであるし、それなりの理由があるのだろうから、とそっと見守る。


「ほら、このサイトの……ここから、内見予約できるよ」


 小夜がどこを見ればと困っていたので、一緒にサイトを見ていく。


 幸い、隣の部屋はまだ契約されていないようだった。


「明日にでも内見行って、今週中には、買おうかなぁ……」


 右頬を少し膨らませつつ、左手に人差し指をあてるという、謎の可愛いポーズをしながら、しばらく小夜はうんうんと唸っている。


 そして、そういえば、と僕の方を見る。


「大輝くんは、なんでこっちの家にしたの?」


 ーなぜ隣の部屋にしなかったのか、ということだろう。


「ああ、エレベーターから近かったのと、若干こっちの方が部屋が広いみたいで」


 それを聞いた小夜は、なるほど、と納得したように呟いたものの、未だ少し上の空のようだった。


 左頬にあてていた人差し指はいつの間にか他の指に混じり、今度は顎に軽く閉じられた左手があてられている。


 そっと彼女を眺めていると、小夜は、むうぅと唸って難しい顔をし始めた。

 そんな幼馴染が愛らしくて、思わず軽く頭を撫でる。


 さらさらとした髪はとても撫で心地が良い。


 ひゃあ、っと声を出した小夜は、じーっと目を細めて僕を見上げつつ、僕をやんわりとにらみつけた。けれど、冗談だよと言わんばかりにすぐに表情を緩めては、はにかむように笑う。


「君は、すぐ、そういうことをする」


「だって、なんか困ってそうだったから」


 困ってそう、という言葉に反応して小夜の瞳が揺れる。


「ありがとね、大丈夫だよ。……ただ、大輝くんに、甘えすぎかなって」


 小夜が少し申し訳なさそうに言うので、僕も大丈夫だよと言いながら、もう一度頭を撫でた。


「……まあ、大輝くんがいいなら、いっか。じゃあ、隣に住むよ」


 その言葉に僕が頷いたのを確認し、ついに決心したらしい彼女は、早速内見の予約を入れ始めた。



 もっと甘えてくれたっていいのになぁ、と心の中で呟く。


 中学生からしばらく見ない間に、昔以上に可愛らしくなった彼女は、時折確かに女の子なのだなとは思うものの、それ以上に大切な幼馴染であった。


 目を離せば危なっかしい、儚げで華奢な少女。

 ミステリアスだけれど、温かみがある、優しい少女。


 それが僕にとっての幼馴染、小夜であった。


 ……まあ、時折可愛らしい仕草をするのだけはやめてほしい。幼馴染なのにドキッとする。



 そんな愚痴を考えていると、その間にもう手続きを済ませたらしく、小夜は「できた」と呟いた。


「明日、内見はできそうだから、今週末には、隣に住むね」


 嬉しそうに目をとろんとさせて、甘えたように言う。


「うん。明後日から大学だもんね」


「そーなの、もう、始まっちゃう……」


 さっきまで折角いい笑顔をしていたのに、少し顔をしかめては嫌そうに言う彼女の様子が可笑しくて、僕はまた彼女の頭を撫でた。


「小夜は大学好きじゃないの?」


「ううん。勉強は好き、なんだけどね。ゆっくりできるなら、ゆっくりしたいし」


 マイペースな小夜らしい意見だな、と思う。


「そういえば、大輝くんは、どこの学部に入ったの?」


「心理学部、かな」


 ほほう、と興味深そうに、小夜は僕を眺める。

 そして、僕の瞳をじっと見つめては、「さすが、綺麗な瞳をしているだけあるね」と嬉しそうに笑った。


 なんで彼女が嬉しそうなんだ……とは思いつつ、なぜ心理学部にしたのか、と聞かれそうで、内心ヒヤヒヤした。


 というのも、僕が心理学部にしたのは、そのほとんどが彼女の影響であるからだ。


 ずっと(……と言っても、中学生までではあるが)彼女の傍にいたけれど、未だに彼女のことは理解できている気がしない。


 心理学部に行けば、少しは彼女のことがわかる。そんな気がした。


 特にあの、浪人期の再会は、多分に僕の背中を押してくれたと思う。


 だから、心理学部にした理由を彼女に正直に話してしまうのは、少し気恥しい。



 そうやって一人で考え込んでいると、小夜は、おい無視するな、と言いたげな目で僕を見つめ、袖をぎゅーぎゅー引っ張ってきた。


「どしたの」


「どしたの、じゃない。私は何学部なのー?の、流れだった」


 とんだ無茶ぶりを言う彼女に、一瞬僕は反応に困ったものの、素直に彼女の言うことに従う。


「小夜は何学部なの?」


 よくぞ聞いてくれました、と目を輝かせ、小夜は誇らしげに「文学部です」と答える。


 それに対し、僕がふーん、と薄い反応をしてしまったので、彼女は再び拗ねて不満げな表情をしてみせた。


「文学部ってなにしてるの?」


 少しでも機嫌を直してもらおうと、話を続けてみる。


「うーん、いろいろしてる。でも、私がやりたいのは、地理学とか、歴史とか、文学、とか……?かな」


 表情を元に戻して、指でひとつふたつと数えながら彼女は教えてくれた。


「京都好きだもんねぇ」


 よくご存じで、と感心した目で眺める小夜に、僕も、幼馴染ですから、と応戦する。


 彼女は祖父母の家が京都にあり、その影響で京都に触れる機会が多かったためか、昔から自身の京都愛を熱弁していた。それ故に、彼女が文学部、というのは、僕的にはかなり腑に落ちるものだった。





「……でもね、」


 言いづらそうに彼女は口を開く。



「大学で会っても、冷たくしちゃうと、思う」


「え、どうして……?」


 僕の問いかけに彼女は一瞬口を開きかけたが結局は答えず、「ごめんね」と言って誤魔化すように笑った。

 続けて間髪入れずに、彼女は時計を眺める。


「そろそろ、帰るかぁ……」


 小さな肩掛けの可愛らしい鞄を手に持って、彼女は玄関の方に足を進め始めた。




 玄関に着くと、彼女は足を止め、僕の方を振り返っては「仕返しだ」と言って僕の頭をわしゃわしゃと撫でる。


「じゃ、また、大学で会ったらね。今日は、ありがとう」


「うん。また大学でね」


 ドアに手をかけて、振り返りながら優しく左手を振る彼女の表情は、僕には少しだけ曇って見えた。

4話目にして初登校……!(次話はツンツンした小夜が見れます……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。