Eps.025 お迎え
お待たせしました……!
次の第26話は月曜日の夜頃に投稿予定です!よろしくお願いします<(_ _)>
「今日もお疲れ様〜!」
長い日曜日のシフトが終わる。
咲良さんは嬉しそうな顔で、腕をあげては身体を伸ばしていた。
「今日はお互い一日中だったもんね」
今日は僕も咲良さんも朝の10時から夜の10時までの勤務だったので、随分疲労を感じている。
何せ、ただでさえ人の多い京都だ。
日曜日は無論余計に人が多い。
「ほんまになぁ。よう頑張って偉い!」
大輝は成長してる!と弟でも見るように言う咲良さんは少し小夜のような雰囲気があった。
「てか、いつの間に呼び捨て」
「えー?だめやった?別に私も外では咲良でいいよ」
「考えておく……」
別にいいのだけど、女子から名前を呼び捨てにされることに慣れていない。
急に距離を詰められた気がして少しびっくりしたが、もう同じバイトになってから一ヶ月以上経つし、なかなかの関係性なのは間違いないのだ。
それはそうとて、こちらが呼び捨てにするかは別問題。
「咲良でいいのになー」
からかうように笑いかけてくるこの先輩はなんなんだ。
「ちょっとふざけてるでしょ」
「いやー?仲良くなりたいのになーって」
……。
それがどこまで本気なのかは置いといて、実際嫌な絡み方ではないと思っている。
ふざけてはいるけれど、ナンパとかからかっているというよりはじゃれ合ってるというか。
「君は線を引くから、これくらいがちょうどいいんだよ」
ふんっと胸を張っているが何を言ってるのか僕には微妙にわからなかった。
他の店員さんたちに挨拶をした後、僕らは二人で店を出る。
今日の忙しさを愚痴りつつ、僕らは自転車置き場で駄弁ることにした。
「明日からまた大学やねぇ」
「別に大学嫌いじゃないからいいけど、明日は1限だからそれが嫌なんだよねぇ」
「大輝は大学好きなんや。いいことだ。いいことだ」
誰目線なのだろうと思いつつも、茶目っ気たっぷりに笑ってうんうんと頷いているのが微笑ましくて思わず表情が緩む。
少し違うタイプだとは思うけれど、やはり小夜と咲良さんは雰囲気が似ている気がした。
小夜はおとなしくて儚いタイプだけれど、咲良さんはかっこいい雰囲気を纏いつつも冗談とかをよく言う明るいタイプ。
それでもどこか根幹に似通ったものがあるというか、価値観や好み、僕への絡み方がそっくりだ。
「逆に咲良さんは大学嫌なの?」
「いーや、全然。結構好きな方やと思う」
「まあ私も朝弱いから、1限は苦手だけど」と付け足しつつ、明日は2限からなので無問題~と真顔でピースを決めた。
「まあ私は結構好きな勉強しかしてないから。もちろん単位は取ってるけど」
「咲良さんって何が好きなの?」
僕がそう尋ねたとたん、「咲良ね」と鋭く僕を睨んだ。
「ええっと、じゃあ、咲良……」
「よろしい。続きをどうぞ」
「咲良って何が……」
「咲良!?」
聞きなじみのある少女の声が聞こえる。
今日は店の前にいなかったから来ていないと思っていたが、まさか自転車置き場の方に来るとは。
「小夜、どうしてここに」
声の主の方を見ると、案の定白いブラウスに黒いパンツという少し大人びた格好をしている少女がいた。
「咲良ちゃんが、今日は自転車置き場にって、言うから……」
なんだ、この人が犯人だったのかと咲良の方をちらりと見ると、いたずらが成功したという感じでにまにまと笑っていた。
ー最近、小夜がよくお迎えに来てくれるようになったのだ。
大学が忙しくなり、バイトも結構な頻度入るようになったせいで、僕は小夜とほとんど会う時間が取れなくなった。
それでは寂しいという風に小夜が言うので、先週くらいからバイトの帰りに話して帰るようになったというわけだ。
ちなみに小夜はわざわざ家からこちらに来ているのではなく、塾講師のバイトがこの近辺であるためにその帰りに合流している。
その結果いつも決まって少し大人っぽい恰好をしていて、これまた小夜によく似合っていた。
「そんなことより、いつの間に、そんな仲良く」
ううー、と小さな声で唸りながら僕と咲良の方を交互に細い目でじっと見つめており、なんだか不満そうだ。
「バイト同じだから、多少はね」
咲良さんがよしよしと小夜の頭を撫でてご機嫌を取り、こそっと何かを耳打ちした。
僕には聞こえなかったが小夜は瞳を丸くして黙り、もじもじと恥ずかしそうに下を向いたのでどうせ変なことを言われたのだろう。
「何言ったの」
僕は小夜から離れて僕の方に近づいてきた咲良に聞く。
「ん?私には優真がいるからって」
ーなるほど?
それでなぜ小夜が恥ずかしそうにしているのかわからないが……、まあいいや。
気づけば小夜は顔を上げ僕の方を見ている。
「早く、家、帰るよ」
それから僕らは一緒に帰路についた。
全力で漕いでしまうと話がしずらいのでゆっくりと夜の京都の道を自転車で走っていく。
いつも通りお互いのバイトがどうだっただの、大学がどうだのといった他愛ない話をして気づけばもう家の前だ。
「じゃあ小夜ちゃんも大輝くんもまたね」
咲良の家はもう少し大学側にあるらしい。
よって僕らとはここでお別れだ。
「うん、お疲れ様」
「また明日ね、咲良ちゃん」
二人で手を振って自転車に乗って走り去っていく咲良を見送る。
彼女が見えなくなったくらいで僕たちは自転車置き場に自転車を直し、一緒にエレベーターに乗り込んだ。
「そういえば、咲良は何をしてるの」
……。
しばらく沈黙があって小夜は「昨日までは、咲良ちゃん、だった……」と頭で僕の胸を軽く小突いた。
ん、ごめん。嫌なら咲良ちゃんって呼ぶよ。
そう言おうとしたとき、小夜が口を言いにくそうに口を開く。
「仲良くなるのは、いいけど。私にも……」
「……ごめんね、小夜とも、仲良くしたいよ」
「ほんと?」
小夜は顔を上げ僕の目を見つめるが、如何せん元から距離が近かったので顔が近くて照れくさい。
すると、目が近くて嬉しかったのかさらにもう一歩近づいて僕の瞳をじっと覗き込んだ。
「やっぱり、大輝くんの瞳、好き」
「人の目のこと、ビー玉か何かだと思ってるでしょ」
「そんなことないよ。ずっとこの瞳に、救われてきたから」
そういって小夜は一歩下がり一瞬切なそうに微笑んでは、「だから、一人に、しないでほしい」と小さな声で呟き、取り繕ってまた笑った。




