Eps.022 先輩
大変長らくお待たせいたしました……。
次のお話(第23話)は明後日9/25の夜(21:00から23:00頃)に投稿予定です。
お待たせして申し訳ないです……。
数日が経ちついにバイトの初日になった。
店長の森下さんに案内され裏口から店に入ると、制服と靴を渡され更衣室に案内される。
とりあえず今日はキッチン業務を行うらしい。
素早く着替えてキッチンに向かうと店内の様子がよく見えた。
普段バックヤードに入ることなんてないので中々に新鮮である。
繁華街の中にあるお店と言えど飲み屋ではないということが相まってか、平日夜という時間の割には比較的お客さんは落ち着いているようだった。
「まあ今日はチュートリアルというか、店の雰囲気とか洗い場の感じとかわかってくれたらいいから。とりあえずホールに出てる人に挨拶してもらってそこからキッチンの人に挨拶していこうか」
若いながらもすごくテキパキした人だなと改めて思う。
「はい!承知しました」
「また何かあったら僕は今日は裏で事務作業してるから声かけてね」
そう言って森下さんはバックヤードに消えていった。
先ほど裏口から入ったときに事務作業スペースっぽい所があったのでおそらくそこに消えたのだろう。
言われた通りホールにいた店員さんに自己紹介を済ましキッチンに戻る。
キッチンの人にも順に挨拶していき最後の一人となった。
「初めまして、今日入った天道です」
「初めまして、嵐です」
ん、嵐って聞き覚えがあるなと思って失礼ながら少しまじまじと顔を見ると、なんだか見覚えのある顔である気がしてくる。
「天道君って、優真のお友達の?」
「はい、そうですけど……」
なんでここで優真の名前が、と思いつつ嵐という名前をどこで聞いたのか思いだす。
そして、やっと。
「あ、彼女さんの」
「うんうん、やっと気づいてもらえた」
咲良さんがいたずらっ子っぽく笑う。
普段、咲良さん咲良さんと言いすぎてすっかり苗字を忘れていた。
そもそも一回しか会ったことが無いのに加え、髪をまとめているために以前会った時ともずいぶん雰囲気が違う。
どうか許してほしいところだ。
「今日は私が教えるよう言われてるから、よろしくね」
「はい、お願いします」
それからまずはお店の店員さんの配置についてや洗い場の洗浄機の使い方、食器の直し方などの最低限の基礎知識を教わる。
そしてラストオーダーの時間までとりあえず洗い場をやってみたところでまた咲良さんに声を掛けられた。
「今から締め作業について教えます」
「締め作業……?」
聞きなじみのない言葉だ。
「締め作業っていうのはね、名前の通りお店を閉める前にやる作業なんやけど、キッチンで言うと食材を直したり清掃をしたりするのがメインになるかな」
「なるほど」
「締め作業は結構工程が多くて大変やから、今日は私が代わりにやりつつ天道君には隣で補助してもらうね」
「わかりました!」
そうこう言っているうちにホールやキッチンから今日まだ見たことのない洗い物たちが届き、すごいスピードで溜っていく。
中に少し残っているものを見ると、うどんのだしの容れ物や天ぷら用のバット的なもののようだった。
「こういうのは大体そのまま洗浄機にかけてくれて大丈夫やし。あ、でもこれは油しつこいから一回洗ってもらった方がええかも」
次々来る洗い物を手早く捌きつつ必要に応じてワンポイント補足してくれるので非常にありがたい。
とりあえず来た洗い物を咲良さんに渡し、洗い物が終わったものを言われた通りに返してを繰り返すうちにあっという間に一時間ほどが経った。
「お疲れ様。あとはゴミをまとめて捨てたら終わりやから、その説明だけして終わるね」
最後にゴミのまとめ方と分別法、置き場所等を教わって今日の仕事を終える。
業務用のゴミの出し方は家庭用と違うとは聞いていたが、計量をしないといけなかったり若干ややこしかった。
それ以外にも今日教わったことを思い出してメモ帳に転記しつつ、安堵したとたんに襲ってきた疲労感に足を踏ん張る。
気を抜くと倒れそうだ。
三時間ほどの勤務ではあったが慣れない環境と作業に、ずっと立ちっぱなしというのが意外に辛かった。
更衣室で着替えを済ませ終礼的なものを済ませてから店舗を出る。
自転車で来たものの、この店はビルの一角にある都合上借りている駐輪場が少し離れたところにあった。
面接のとき案内があったので何とか迷わずに停められたが、それでもややこしいところにあるので他の自転車組についていくように歩く。
その中には咲良さんもいた。
同じ大学だし、方面は大体一緒だろうから想定の範囲内ではあるけれど。
「咲良さんは家どっち方面なんですか?」
「結構大学の近く。小夜ちゃんのお家の近くやから、多分大輝くんの家とも近くやね」
そう言ってまた咲良さんは大人っぽく笑う。
先ほどまで天道君という呼び方をしていた彼女はすっかりオフモードに入ったのか話し方を崩したようだった。
心なしか雰囲気も少し柔らかい。
「それにしても大輝くんが来るなんて。優真からも小夜ちゃんからも聞いてへんかったんやけどなぁ」
「確かに、誰にも言ってなかった気がします」
言ったらええのに、と咲良さんは可笑しそうに笑った。
相変わらず大人っぽくはあるのだけれど素っぽい反応というか、壁を作られている感じはしないので随分と話していて心地よい。
「あと、敬語じゃなくてええんよ?まあ店内では体裁的に敬語の方がいいかもやけど、外では全然」
「ありがとう……」
ございますの「ご」まで出かかりそうになったが、なんとか音にはならずに済んだ。
「やっぱり仕事見てても話しててもいい人やなぁ。優真や小夜ちゃんが気に入る理由がよくわかる」
「そうですか……?」
ふと気が抜けて敬語に戻ると「やからタメ語でいいって」と笑われた。
しかも、この流れはなんだか既視感がある。
さては前話した時にも同じことをしたっけ。
「うん、小夜ちゃんも大輝くんの前では素になれるんだってふにゃってたし」
「ふにゃってたって」
僕が可笑しそうに笑うと、咲良さんも「でもわからへん?」と笑った。
「わかる、けど」
多分あのふにゃっと頬の緩み切った顔のことを言っているのだろう。
女の子の顔を形容するのに使っていい言葉なのかは非常に怪しいところだが、気を許してくれているのが明らかな顔というか、小夜はそういう顔をするのだ。
「側にいてあげてね。彼女のトラウマを解いてあげられるのは、きっと君なんじゃないかなって思ってるから」
ん、トラウマ……?
そう聞き直そうと思ったタイミングで咲良さんは自転車に乗り込む。
「さ、早くいくよ」
う、うんと慌てて返事をして僕も自転車に乗り込む。
結局その話の続きはできないままに僕は帰宅することとなった。




