Eps.021 バイト
投稿少々遅くなりすみません!
次の第22話は9/23に投稿予定です!
→追記 急用と体調不良で再度投稿日を変更しております。ご迷惑おかけしてしまい申し訳ないです。(2026/9/21)
「うーん」
財布の中のお札と、スマホ上の銀行口座の残高を見比べつつ僕は唸る。
ー流石に使いすぎたかな……
この前の小夜とのデート(小夜曰く)はすごく楽しかったし、最後手を繋ぐ謎イベントが発生してしまったが全体を通して良いものだったのは間違いない。
なんだかんだ大学に入ってから小夜と二人で出かけるのは初めてでかなり新鮮だった。
そして手を繋いだ件に関しても……。
小さいころもしかしたら一度や二度くらいあったかもしれないが、少なくとも小学校の後半や中学生の頃にそんな記憶はないし、せいぜい腕を掴む程度であったので相当驚いた。
し、あんな夜の光に照らされて笑う小夜に何も思わずにいられるはずはない。
綺麗な女の子に手を繋がれて夜の街を歩いているなんて、それがたとえ好きな女の子に限らなくても意識せざるを得ないというものだ。
とはいえ幼馴染としての関係値と小夜の相変わらずの距離の近さを勘案すれば、それは単にこちら側の意識過剰であって勝手にドキドキしていると思った方が良いだろう。
その割には妙に照れるのをやめてほしいところだが、別に僕はこの思いを恋だとは思っていないし普段の小夜には幼馴染以上の思いを抱くことはない……はずだ。
まあ微妙に言い切れれないのは最近そういう小夜の不用意な行動が多いせいである。
是非とも反省していただきたい。
っと、そんなことを考えている場合ではないのだ。
さっきから財布と残高を眺めてわかったこと。
ー僕にはお金がない。
正確に言うと、普段の生活ではそんなにお金を使っていないし生活に必要な食費や光熱費に関してては有難いことに親からの仕送りがあるから特に困っていない。
けれどそれ以上にお金を使うとなると話は別だ。
バイトも何もしていない僕には収入源がない。
入学祝いやお年玉の貯金、昔のお小遣いの貯金などを切り崩して使ってきたわけだが次第に底が見えかかっている。
このままではまずい。
「何かバイト探さないとなぁ」
そんなことを言ったって僕にはバイトの経験が全くないのでどうやって探せばいいのかもよくわからないし、どんなバイトが自分に合っているのかもわからない。
誰かに相談しようかな……とも思ったが、小夜は今日咲良さんと遊びに行くらしいし、優真は前に「まだ俺はバイトしーひんよ?」と何故か誇らしげに言われた記憶があるので無駄だ。
他の人脈もないことはないが流石にバイトの相談を気軽にしても良さそうな人はと言われると難しかった。
諦めてとりあえずはネットの海に正解を探しに行く。
そして調べてわかったこととしては、取り合えず同じ大学の人たちは飲食店か塾関係の仕事が多いらしい。
いやそんな情報がなぜネットに、というのは僕も聞きたい。
まあ出てきたのだからとりあえず信じるとして、その情報曰く塾関係は大体時給がいいそうだ。
特にオンライン家庭教師とやらは今時でしかも給料も良いのでオススメと書いてあった。
「別にいいんだけどなぁ」
別にいいのだ、塾でも。しかし僕は勉強が好きな身ではない。
大学の勉強は好きだし好んでやるのだけれど、受験勉強はなぁ……。
浪人していたし自信もない。一旦後回しにしよう。
対して飲食店という選択肢もある。
飲食店は時給がそこまで高くないところも多いが、大抵は長く働けるのがメリットらしい。
確かに塾というと学校が終わってから夜までになりそうだけれども飲食店は店によっては24時間やっている所すらあるだろう。
滅茶苦茶稼ぎたい、というわけでもないが、それ以上に塾が今のところ気が引けるのでとりあえず飲食店の方向で決めることにした。
それからまた時間をかけて求人を調べる。
なるべく近いところがいいなと思いつつも、あまり近すぎると友人と接触して気まずい気がする。
程よい距離を考えあぐねているとちょうど三条通の近くに自分の好きなうどん屋さんがあることが分かった。
うどん屋さん、といってもチェーン店だから直接そのお店に行ったことはないのだけれど。
それでもまあ大丈夫だろう。
少なくとも地元のお店ではパートの従業員さんらが楽しそうに話しながらお仕事をしていたのが印象に残っている。同じ雰囲気であることを祈るばかりだ。
それからとりあえずそのお店に面接の予約をすることにした。
求人のサイトから情報を入力し、向こうからの連絡を待つ。
そしてちょうど3日くらいして店から連絡がきた。
いきなりだが明日の夜にどうか、という連絡だ。
特に予定がないのを確認して希望の時間を送る。
それからまた数時間後に返信が来て「店でお待ちしております」と丁寧な文章で返答が来た。
面接当日。
店に行くと自分の母親くらいの年のパートの方々が僕を出迎えてくれた。
面接に来たことを伝えると、そのうちの一人が奥から若い男性店員を呼んできてくれる。
「いらっしゃいませ。面接とお聞きしたのですが、お間違いないですか?」
「はいそうです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。さあさあ奥にどうぞ」
そう言って男性店員は僕をバックヤードの方に案内した。
「店長の森下です。よろしくお願いします」
「天道です、よろしくお願いします」
なんと、随分若いと思っていたが店長だったらしい。
確かにきちっとした雰囲気で如何にも仕事ができそうな雰囲気を纏っているから違和感はないのだけど。
それから志望理由や大学の話、出勤希望など色々な話をして面接を終える。
「それでは、採用とさせていただきたいのですがよろしいですか?」
森下さんが物腰柔らかに尋ねてくれる。
この場で採用とは想定外だったので少々びっくりしつつ、断る理由もないので有難く承諾した。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「すごくしっかりしておられますし、バイトの子たちもいい子たちばかりなのできっと馴染めると思いますよ。同じ大学の子もいますしね」
「そうなんですか?」
「ええ。京都は大学が多いですから色んな大学の子がいますけど、天道くんと同じ大学の子が数人いますね」
それはなんとも心強い話だ。仲良くなっていっぱい教われるといいのだけど。
「まあまた何かあればいつでも声をかけてください。困ったことは遠慮なくご相談くださいね」
朗らかに笑う森下さんの姿にバイトへの不安もほぼ消え去り、もはや初めての出勤に期待が高まっていた。




