Eps.020 デート
投稿遅くなりすみません!
第21話は明日21:00頃更新予定です!
「デートなのです」
僕の右手首を掴みずんずんと河原町通を進んでいく小夜は幼い子供そのものだった。
河原町通は京都にある大きな通りの一つである。
三条通と四条通というこれまた大きな通りと交差しており、その間の区間は特に飲食店が多くおしゃれなお店も少なくない。
本日の小夜のお目当てはそのエリアにあるラーメン屋さんと、少し外れたところにある抹茶パンケーキのお店だった。
「デート、なの?これ」
小夜の姿にほほえましさを感じつつ僕が尋ねると、小夜は立ち止まり「デート」と言って顔を近づけた。
気づけば鼻と鼻がくっつきそうな距離だ。
まじまじと目が合う格好となり、さすがに気恥しい。
それはやってきた側の小夜も同じだったようで、「うっ」と言って一瞬目を見開くと恥ずかしそうにすぐ目を逸らした。
「文句、あんのか」
言葉こそ聞くとトゲトゲしいが、ツンデレのツンなところが出ているだけなのが顔でわかる。
慌てて振り向いた反動で顔に掛った髪を耳にかけ直したことで見える赤く染まった耳。
少し下を向いて瞼をぴくぴくさせているのもその証拠だろう。
そんな小夜があまりにもじれったくて、ほぼ無意識に耳に触れると「んっ!」と叫んで振り返りこちらをじろりと睨んだ。
(熱かった……)
そんなに熱くなるんだというほどに耳が温まっている。
「撫でるなら、髪に、してよ」
ぷいっと前を向き、小夜が少し速度を落として歩いていく。
「ごめんよ」
ご機嫌直してくださいな、と僕は撫でやすい速さで歩く小夜の髪を撫でた。
今日の小夜は大学モードというよりは普段の格好に近い姿をしていたが、周りにバレないようにか見たことのない眼鏡をしている。
部屋のインターホンから彼女の姿を見た時に一瞬誰だか分らなかったので、うまく変装できていると言っていい。
とは言え、付き合ってもいない僕らが外で仲睦まじくしすぎているのは良くないだろう。
流石にわきまえねばと頭を撫でるのをやめると、小夜が一瞬ちらりとこちらを見てほんの少しペースを上げた。
三条通の側から歩いて5分もかからなかったくらいの時間で目的のラーメン屋に着く。
ここはチャーシューが美味しいお店らしく、メニューを見るとラーメンや丼にたくさんのチャーシューが添えられていた。
しかもラーメンに載せるチャーシューの数も選べるそうで、食べ盛りの学生には嬉しいシステムだ。
「ここ、来たことあるの?」
「うん、行きつけ。去年、開拓しました」
えっへんとドヤ顔でカッコつけたかと思えば、すぐにふにゃりとした笑顔に戻り、相変わらず表情が忙しい。
小夜おすすめのラーメンを頼み、ラーメンが届くのを待った。
小夜はチャーシュー丼も頼んでいたが、彼女曰く「大輝くんも食べなよ」とのことだったので元から二人で食べるつもりなのだろう。
お互いスマホを触ること数分、体感的にはほぼ待たない内にラーメンたちが届いた。
『いただきます』
早速ラーメンのスープを頂くと、魚介の味が良く効いていて癖になる味をしている。
小夜も美味しそうにスープをレンゲで口に運んでは、続けて遠慮なく麺を啜っていた。
「美味しいね」
口に物がなくなったタイミングで僕は小夜に話しかけたが、彼女はまだ食べている最中であったために目元だけで反応する。
嬉しそうに目を細めてみせるその表情が見れただけで十分だ。
「ほら、チャーシュー丼」
僕の口に物がなくなったタイミングを見計らって小夜はレンゲを僕の前に差し出す。
レンゲの上にはチャーシューがごろりと入った美味しそうなご飯。
思い返してみればこうして口に運んでもらうのも入学式のとき以来かもしれない。
「ありがと」
素直に口に運ばれて食べてみると見た目から予想していた通り非常に美味しい。
ラーメンのチャーシューは薄切りであるのに対し、こちらのチャーシュー丼は小さなサイコロ状のためまた違った肉の旨味を感じられた。
「美味しい……!」
「でしょでしょ」
また嬉しそうに目を細め首をこてんと傾けた小夜は、「また来ようね」と優しく笑った。
ラーメンを食べ終えて店を出ると、続いても小夜お目当ての抹茶パンケーキのお店へ向かう。
こちらのお店は河原町通から少し離れたところにあり、少し細い路地に入っていった。
店に着くとなんとも若い女性たちが多いおしゃれなお店で僕には若干場違いだろうと思わずにはいられなかったが、小夜が袖口をきゅっと掴んでいるので怖気ずに席まで歩く。
メニューを開くと抹茶パンケーキや抹茶わらび餅のような抹茶スイーツのほかに、レモンソーダなどのドリンクもあり小夜も機嫌よさげに選んでいた。
結局、小夜は当初のお目当ての抹茶パンケーキとミルクティーを頼む。
僕も他に頼むものも思いつかず小夜と同じものを頼んだ。
こちらもまた比較的すぐに届く。
小夜は「これは、食べたことないの」と目を輝かせながら写真を撮っていた。
届いたパンケーキは想像していたよりもやや大きめで生クリームが横に載せられている。
「いただきます」と二人で手を合わせて食べると抹茶の苦味が聞きつつも甘みもあって、また甘ったるくない生クリームが合わさって非常においしい。
小夜もまた非常に満足そうに味わっていた。
お互いにあまり喋ったりはしなかったが、小夜が少し自分の世界に浸りながら幸せそうにしているのでそれが一番だと思う。
二人食べ終わると店の外に出て再び河原町通を北上していく。
外はすっかり日が落ちていて通りの明かりが眩しい。
河原町通は店がいっぱいあることもあって、もはや夜であることを感じさせない明るさだ。
ただ夜となっても人が減らないのが流石京都の繁華街と言ったところで、最早昼間よりも小夜とはぐれてしまいそうな人の数である。
「はぐれないようにしないと」
少し先を歩いていた僕は後ろを振り返って小夜に話しかける。
「大丈夫」
ん、?大丈夫……?
余裕そうに胸を張っているがさっぱり意味が分からない。
「なに、」
が、と言い切る間もなく小夜が僕の方に一歩踏み込み近寄る。
そしてその瞬間手に柔い温かみを感じて小夜の顔がいたずらっ子ぽい目を浮かべた。
「ね、大丈夫でしょ」
手を、というより指から強く引かれながら、僕は小夜を追いかけるのだった。




