Eps.019 表裏
次の第20話は9/18の21:00頃更新予定です!
遅くなりすみません……
木曜日。
今日は「地域地理学」のある日であり、つまりは小夜と同じ授業の日だ。
結局あれから小夜とは会えず、目の前で泣いてしまって、慰められて、やや気まずい雰囲気で夕食を食べて解散したっきりになっている。
いつもより少し遅れて教室に入ると眼鏡をかけて桜の花のついたピンをした見慣れた少女が目に映った。
恐る恐る近づくと気配でも察したのかちらっとこちらを見たが、小夜はすぐに目を逸らしてしまう。
その仕草を見て、僕は今更ながら大学モードの小夜のことを思い出した。
これでは今話しかけるのは得策ではないだろう。
とりあえず後ろの方の彼女からは離れた席に座ることにする。
(……仕方ないかぁ)
でもとりあえず早めに話をしておきたい。
一旦、小夜に今日どこかで会えないかとラインしてみることにした。
そう思ってスマホを取り出すと、ちょうど小夜から連絡が来ている。
『今日の夜、おうち行ってもいい?』
ん、いいけど部屋が片付いてない。
『部屋掃除してから、7時くらいからなら』
『うんわかった』
一瞬で既読が付きすぐに返信が来た。
話をすると言っても、この前優真と話した話を小夜にするというだけだ。
小夜の過去や気持ちをもっとちゃんと知りたい。
何を考えているのか、わかりたい。
儚くて消えそうで。
ミステリアスで不思議で。
そんな少女のことをもっと僕はわかりたい。
言いにくいことは言わなくていいし、触れられたくないと言うなら触れなかったらいいし、それは直接聞けばいい。
ちゃんとお互いを知るためにはまずは口にしないと。
そんな事をぼんやり考えているといつの間にか授業は始まっていた。
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「ただいま」
僕が家のドアを開けると、相変わらず我が家のように彼女は僕の家に入る。
「おかえり」
「今日はね、チーズケーキがあるの」
何やら後ろに手でもっているなとは思っていたが、チーズケーキだったようだ。
「どうしたの?それ」
「元気のない大輝くんに、プレゼント」
デザートだよ、と少し首を傾げて可愛く微笑む彼女に思わず胸が跳ねる。
無邪気に笑う彼女の瞳は子供っぽく純粋な少女そのもので、キラキラしている。
その上で儚さというのか綺麗さというのか大人っぽさのある振る舞いをするのでなんというか、ずるかった。
「ありがとう。冷蔵庫入れとくね」
そうやって僕が離れようとすると彼女は僕の袖口を引っ張って僕を止め、背中から抱きついてくる。
ん、と僕が困惑しているとまもなく彼女は手を離し、僕が振り向くとありがとねと手を振ってキッチンへ向かう僕の姿を見届けた。
(相変わらず、急に抱きつくよなぁ)
先程小夜にドキドキさせられたばかりなのに、抱きつかれては困る。
元々の距離感とはいえ、この年になった幼馴染の距離感にしては近すぎる、そんなことを思いながらリビングに戻った。
「今日はオムライスを作りたくて、作り方教えてくれないかな」
「ん、いいよ。珍しいね自炊」
少しだけ目を丸くした小夜にじっと見つめられる。
「そろそろ自分で作らないと」
結局簡単な料理はするようになったとは言え、自分の好きなものを作れているかと言われると微妙なところだ。
正直、野菜炒めなどでお茶を濁しているフシがある。
だからそろそろ小夜に料理を教わりたい。
これまでは作ってもらうことが多かったが、僕も作らねばと腹をくくる。
小夜は感心したように僕を見つめ「じゃあ、一緒に作ろっか」と手を引いてキッチンに僕を連れて行った。
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「うー、なんとも微妙な出来」
「まあまあ、破れてても、卵は美味しいから」
肝心のオムライスは、小夜に教えてもらいながら作っったものの微妙に失敗してしまった。
卵が破れ、中のチキンライスがありありと見える。
「それはそうかもだけど……」
「また、教えてあげるから」
励ますようにぽんぽんと僕の頭を叩くと「じゃあ食べるよ」と小夜はスプーンを手に取った。
「「いただきます」」
味はと言うと見た目に反してずっとずっと美味しくて、かなり満足できるものだった。
これで見た目が綺麗だったら完璧だろう。
卵に包まれている(はずの)チキンライスも、ケチャップの酸味が効いていて非常に美味しい。
「美味しい」
小夜が僕をじっと見つめながら、すごく多幸感にあふれた表情で笑いかけてくるので気恥ずかしくなって思わず目を逸らす。
「ん、ありがとう」
「また、つくってね」
そう言って彼女はまた僕の頭をぽんと叩いた。
なんとも、子供っぽくて可愛い幼馴染だなと改めて思う。
大学ではあんなに感じはよいが距離のあるオーラを放っていると言うのに。
彼女のそうした二面性もまた、きっとこれまでの経験から来ているんだろうな。
「あのね」
オムライスを食べながら僕は話を切り出す。
「突然ごめんなんだけどさ、前から思ってたことがあって」
堅苦しく話す僕を不思議そうに小夜は見つめる。
「僕はね、小夜のことをもっと知りたい」
ある種突然の告白に小夜は一瞬ピクリと止まって、それから瞬きをしたかと思えばすぐに俯き、またしばらくフリーズした。
その硬直を解くように僕はゆっくりと口を開く。
「だからね、少しずつ聞いてもいいかな。話したくないことは話さなくていいし、拒んでくれてもいいから」
優しく優しく、僕は話しかける。
彼女の瞼が微かに震えるのが見えた。
目の端がほんの少し光っている気がする。
「いいなら、昔のこととか、今の気持ちとかさ」
頭を撫でようと手を伸ばしかけたが、今は嫌かなと思って途中でやめる。
しかし、戻そうとした手を彼女は掴んで自分の頭の上に乗せた。
撫でてくれ、ということだろうか。
僕は静かに彼女の頭を撫でた。
オムライスのないお皿の端っこに滴が落ちる。
「寂しい」
彼女は声を震わせて呟いた。
「そばにいてほしい」
うんうん、と相槌をしながら頭を優しく撫でる。
その間にも1つ2つと水滴がお皿に落ちていた。
「きいてくれて、いいよ」
顔を上げた彼女の目は赤く腫れていた。
綺麗な瞳が、涙のせいで余計にキラキラしている。
「だから大輝くんも、私に、教えて」
そう言って小夜は僕の手を彼女の頬に当て、そのままぎゅっと顔を押しつけるのだった。




