Eps.018 疎遠
投稿時間遅くなりすみません!
いつもよりわずかに長めですがお付き合いくださいませ……
朝、窓にひどく雨が打ち付ける音で目が覚める。
夢見が悪かったのはこの雨音のせいなのか、それとも昨日のことがあったからなのか。
ただ一つ確かなのはあの日もこんな雨だったと言うことである。
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これは今から6年ほど前の話だ。
朝インターホンの音で目が覚めると、外は土砂降りの雨で酷い音がしていた。
こんなに雨だし外にトラックも止まっていないのだから、きっと聞き間違いだろうと思って二度寝しようとすると、また確かにインターホンの音が鳴る。
(なんで誰も出ないんだろう)
寝起きのぼやけた頭で冷静になって考えると、今日は春休みで両親は仕事に出かけていることに気づく。
(急いで出ないと)
焦りながらインターホンも見ずにパジャマのまま外に出るとそこには小夜がいた。
しかし小夜は俯いていて、僕が急いで飛び出してきたことに驚く余裕すらないようだ。
「ど、どうしたの……?」
聞いてみるがしばらく返事がない。
玄関の屋根に激しく雨が打ち付ける音だけが響いていた。
そんなことを考えていると、小夜がついに口を開く。
「私ね、明日、引っ越すことになったの」
……。
あまりに突然のことに僕は言葉を失う。
引っ越す……?どうして急に……?
しかし、何も聞く間のないまま小夜が言葉を続けた。
「これまで、ありがとう。また会おうね」
そう言い残すと、彼女は手元のびしょ濡れの傘を差しとぼとぼとどこかに歩いていった。
「ねえ、急にどうしたの」とか、「どこに引っ越すの」だとか、聞きたいことは山ほどあったはずなのに。
ただ突然のことに、消えていく彼女に、頭がぐるぐるして僕はずっと彼女の離れていく姿を眺めることしかできなかった。
しばらくしてハッとなると、ふと僕の首筋が濡れていることに気づく。
続いて目元と頬が濡れていることに気づいたが、屋根の下にいるはずなのに、と的外れな考えが頭を過った。
当然、泣いていたのであるが。
そこからしばらく急に失った友達の喪失感に苛まれながら、僕は変わってくれない生活を過ごした。
春休みが終わり、学校が始まる。
学校が始まると担任の先生から、小夜が転校したのは親の都合だったと聞かされた。
そしてもっと後に、突然小夜から年賀状が届いたことがあり、そこでその詳細を知った。
厳密には親の都合というより、両親が事故で他界し、そのまま父方の祖父母に引き取られてたために引っ越しとなったらしい。
しかし、年賀状には新年の挨拶と突然消えたことの謝罪、それとその旨だけが書かれていて、送り先の住所を含めた連絡先は何も書いておらず、結局連絡の取れないままとなった。
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それからまた数年が経ち去年の夏にたまたま再会して、更に半年が経ち今に至る。
久しぶりに再会した僕らであったが、そのことについて小夜に聞くのは正直怖かった。
当時は「大丈夫かな」とか「嫌われてしまったのかな」とかいろいろ思ったものであるし、今でも思うことはあるけれど、聞いていいものかわからない。
けれど昨日のようにちらちらと過去のことが垣間見える瞬間があって、確実に今の小夜の行動に影響し、今の彼女を形作っている。
だから彼女のことを知ろうとするほど、その過去からは逃げられないということを僕は悟らずにいられなかった。
だからこそ昨日は踏み出したのだ。
ずっと気になっていた異性が苦手だという話を。
例え幼馴染だとしても僕も異性であることに違いない。
そのことがきっかけで傷つけてしまうなんてことも論外である。
「だから、どうしてか聞きたかったのにな」
また少しだけ涙で視界が霞む。
これが独りよがりでしかないこと、きっと彼女にとっては迷惑でしかないのだろうということも僕はわかっているつもりだった。
でもきっと優真が言いたかったのは、そうやって思い込まずに聞いてみてもいいんじゃないかいうことだろう。
そんな昔話に頭を抱えながら雨音の中で僕は身支度をした。
今日は日曜日だったので大学はなかったが、優真と会う予定があった。
予定、と言っても学祭実行委員の加入申込書を書くだけのものだけど。
小夜に会ったらまた傷つけてしまいそうで怖い。
そんなことを思いつつ待ち合わせていた大学近くのちょっとしたカフェに急いで向かう。
そうして走ったこともあり、雨が激しくて膝のあたりまでズボンがびしょびしょになってしまったが、10分くらい歩きなんとか待ち合わせ時間に間に合うことができた。
「お、来たやん。おはよう」
「おはよう。お待たせ」
「全然待ってへんよ、俺の家の近くやし。こんな雨の日にすまんよ」
そんなことを言いながら彼も肩のあたりが濡れていた。
そんなことは何でもないように、相変わらず彼は優しく笑いながら「はいろっか」と重そうな木製の扉を開ける。
カランカランとドアベルの音がした。
店内に入ると若い店員さんが奥のテーブル席を案内してくれる。
店内の雰囲気は外の豪雨とは対照的にすごく落ち着いており、今の僕にはちょうど良い落ち着ける空間だ。
「そういえば、ちょい浮かない顔してるけどなんかあったん」
メニューを眺めている優真が突如そんなことを言い出す。
「え、よく、わかったね」
なんと観察眼のある子なのだろうか。
まだ知り合って一週間ちょっとというのに、人の表情の変化なんてよくわかるものだ。
「まあ君は割と表情変わりやすい方やと思うよ。あとはよくいる人をよく見ておくのは大事やからなぁ」
無理すんなよとでも言いたげな、慈愛に近い優しい表情とトーンで彼は告げた。
「いや、昨日小夜とね」
彼に話したのが正解だったのかはよくわからないが、僕は一旦昨日会ったことを簡単に優真に伝える。
これには彼の意図を確認する意図もあったのだけど。
結果的にそれは正しかった。
彼が言いたかったこととしては僕の思っていた通りだったらしい。
ただ……。
「今最後にゆってくれたみたいなそういう昔思ってた話も含めてさ、一回話してみたらいいやん。逆に君が『触れられたくなかったかな』とか気にして小夜ちゃん自体を避けてたら元も子もないしな。別に今じゃなくてもいいけど、とにかくそれで避けるのだけはよくない」
僕が小夜に会いづらいと思っている話まで伝えると、彼はなかなかに厳しいことを言った。
本当にその通りだとは思う。
そしてまた優しく微笑みながら、でも少し寂しそうに「そういう子ほど、一人で抱え込んじゃうからな」と付け足した。
「まあとにかく、君がそばにいてあげるんが大事やと思うよ。きっと君が思う以上に小夜ちゃんは気にしてないやろうし、何なら泣いてた君のことを心配してるかも知れへんし」
「うん、ありがとう」
きっと、怖がっている場合ではない。
彼の言う「側にいてあげなきゃ」というのは若干疑問符が残るがそれは一旦いい。
避けてしまっては大切な彼女と離れてしまうだけだし、それは僕も避けたい。
(ちゃんと会って話したいな)
そう思って僕はクリームソーダを注文するのだった。




