Eps.014 新歓
『学祭実行委員、新歓やってまーす』
『ちょっとだけでもいいので、ぜひ寄ってってくださーい』
騒がしい声を潜り抜けて、僕たちは食堂に入る。
「なんか、盛り上がってるね」
「流石、学祭実行委員って感じやな」
火曜日。ついに学祭実行委員の新歓の日になった。
新歓とは言いつつ、今日はお話を聞いたりお菓子を食べたりする程度らしいが。
しかも、学祭実行委員は大学と関係が深いこともあってか、本来は営業を終えて閉まっているはずの食堂を貸切って開催している。……流石、学祭実行委員。
夜の暗さと静けさの中で、いつもとは違って光を放っているレンガ造りの建物は、なんだか壮観だった。
「ってか、咲良さんはどこにいるの?」
中のスタッフの誘導に従い、食堂の中を進みながら僕は優真に尋ねる。
小夜はというと、結局一人で行くことにしたらしい。
まあ、優真が一緒にいるのが、若干気が引けたのかもしれないが。
「あー、きいとらんかったんか。咲良なら小夜ちゃんのこと、個別で案内するゆうて消えてったわ」
優真は「咲良がおるから」と先に食堂に来て僕を待ってくれていたので、その時に話したのだろう。
「ゆうても、小夜ちゃんに会う前に別れたから、まだどんな子なんかは知らんねんけどな」
「まあ、きっとどっかで会うさ」
小夜が男子に苦手意識があることが黙っておく方が良いだろう。
一旦笑ってごまかしておく。
そういえば、咲良さんはその話を知っているのだろうか。
だからこそ、優真と会う前に別れた説もあるが……。
何せ、小夜がただでさえ不思議ちゃんというか、ミステリアスというか、底知れない部分がある子なので、交友関係についても全く読めないのは心配ではある。
聞いている限りだと仲は良さそうなので、とりあえずは心配しなくていいのだろうけど。
ただ、何かあったときに相談出来る相手が近くにいてほしいな、と思う。
そんなことを考えながら進んでいくと、今日の僕たちの座席に案内された。
机の上にはお菓子が並んでいる。
とはいえ、時刻が19:00とお菓子を食べるにはあまりに微妙な時間だ。夜ご飯もまだだし、微妙に食べる量に迷う。
「まあ授業終わって、準備してやったら仕方ないんやろなぁ」
机のお菓子をまじまじと見つめながら、ちょうど僕と同じようなことを考えていたらしい優真が呟く。
「そうだよね。何ならお菓子なくてもいいけど」
「まあ、ジュースがあるから、我慢しなさいな」
ちょうど僕の返答に応えるように、知らない女の子の声がした。
「お、咲良」
優真が咲良と呼んで手を振るのを見る限り、この子が彼女の咲良さんだろう。
あの時はちゃんと顔が見えていなかったとはいえ、確かにこの前食堂で見た少女と似ている。
咲良さんは可愛らしく小さく優真に手を振り、微笑んだ。
反対側の手には、2Lのペットボトルに入ったジュースがある。
「一応、お茶会の体やからね。楽しんでおくれやす」
「そんな言い方いつもせーへんやろ」
夫婦漫才のように、咲良さんに優真がツッコミを入れた。
「どうも初めまして、嵐咲良です。よろしくね」
「こちらこそ、天道大輝です、よろしくお願いします」
「学年は違うけど、同い年なんやから、あんま気にせんでね。タメ語で大丈夫やから」
「いいの?ではお言葉に甘えて」
無事自己紹介を済ませてわかったことだが、咲良さんは何というか、ふわふわした小夜とは違ってしゃっきりしたタイプなように思えた。それでも、サバサバというほど冷たくはなく、温かみがある。
優真の彼女さんぽいというか、元気なところもそっくりだ。
「小夜ちゃんはどうしたん?」
優真が咲良さんに聞いた。
「小夜ちゃんはさっきまでお話してて、お菓子渡して帰ってったよ。今日は用事があるみたいで」
「なるほどな。それやったらしゃーないか」
「そんなことより、私は大輝くんのこと、もっと知りたいんだけどなぁ」
ジュースを机に置き、真正面の椅子に座った咲良さんは、好奇に満ちた目で僕を見つめてくる。
ちなみに、優真は僕の右隣に座り、机の上にあったカップを手にとっては、さっそくジュースを飲み始めていた。
「小夜ちゃんの幼馴染?らしいじゃん。どんな子なのかなって」
あまりに抽象的な問いに僕が窮していると、優真が助け舟を出してくれた。
「まあ、とりあえず俺と同じで心理学部の1回生や。浪人してたのも一緒やし。高校の頃はなんかしてたんやっけ?」
「えっと、学祭実行委員に関係あることで言うと、生徒会をやってたかな。生徒会で文化祭の運営とかしてて楽しかったから、大学でも携わりたいなぁって」
「いいねいいね。そういう意欲的なところ、大歓迎です」
満足そうに咲良さんが笑う。
「あとはなんやろな、もうネタないわ」
引き続き会話を回してくれようとした優真だったが、案外一瞬でネタ切れた。
まあ正直、新歓で話す会話なんて、サークルと学部と高校の時の話くらいだ。それを話してしまえばなかなか話すネタがない。
「じゃあ……、もう大輝くんは大学慣れた?」
うまく咲良さんが会話を繋いでくれる。ありがたい。
「はい、だいぶ慣れました。優真と一緒の授業も多くて、心強くて」
「そうよね、それはよかった。……てか、タメ語でいいってば」
ふふっと笑いながら、咲良さんはいたずらっ子のような表情を浮かべる。
そしてその表情は、なんだか優真に似ている気がした。
……特に、この実行委員に誘ったときの顔に。
思った以上に咲良さんは優真に似たタイプなのかもしれない。
そんなことを考えつつ、僕が可笑しそうに笑っていると、咲良さんが「そういえば」と話を切り出した。
「歓談はこれくらいにして、本題の学祭実行委員のお仕事を説明するわね」
「おう、頼む」
僕は返事をする代わりにこくりと頷いた。
「まず、うちの学祭は……」
20分くらいかけて、お菓子やジュースも交えつつ、説明を聞いた。
話を聞く限り、保健所や企業に電話したり、外から有名人を招いたり、そもそもの規模が高校の時とは段違いのようだ。
それでも非常に面白そうだったので、このまま入ろうかな、と思う。
それは優真も同じだったようで、一緒に入ろうなと僕に笑いかけてた。
「入会フォームは、ここのQRコードから。今日はお話聞きに来てくれてありがとね」
咲良さんが右手でスマホを操作しつつ、左手で机の紙を指さして言った。
「こちらこそ、ありがとう。これからもよろしくね」
「うんうん、こちらこそ。あとこれ、私の連絡先だから」
右手のスマホの画面を僕に差し出す。QRコードを読み取り、無事連絡先の交換を済ませる。
「また小夜ちゃんの話、聞かせてね。他の事でも、困ったらいつでも私に頼ってくれていいから」
優しそうに笑う彼女は、やはり優真によく似ている気がした。
9/3に投稿予定の第15話ですが、9/3は終日予定があり、投稿時刻が夜遅くの21:00頃以降やお休みを頂くかもしれません……!楽しみにして頂いている方には申し訳ないですが、宜しくお願いします。




