Eps.011 彼女
「ほーう、つまり俺の彼女と、君の知り合いの子が友達やったと」
次の日、2限が心理学部の必修で同じ授業だった優真と、食堂で昼ご飯を食べながら話す。
今はちょうど、昨日小夜から聞いた話をしていたところだ。
「そうみたい、びっくりしたよ」
「その知り合いの子の話はたまに聞いとったけど、まさか大輝の知り合いとはなぁ」
「ほんとにね」
人の縁とは不思議なものである。
「あ、てか、僕ら同い年だったんだね」
「ん……?あー、俺が浪人やからってこと……?大輝も浪人生やったんか」
そう、彼が高校の同級生と付き合っていて、小夜がその子と同級生ということは、優真も浪人生なはずなのである。
「うんうん。なんだか共通点が多くて嬉しいね」
素直に思いを口にすると、優真は少し可笑しそうに笑った。
「君はやっぱいい子やな。咲良が気に入りそうなタイプや」
「咲良……?」
「あぁ、俺の彼女の名前な。小夜ちゃん?の親友っていう。よう咲良も、親友やーってゆうてるけど」
なるほど。
女子の友達事情はよく分からないが、聞く限りは相当仲がいいらしい。
なんだか父親のような発言ではあるが、大学で小夜にも友達がいることを改めて実感して安心する。
「ちなみに、咲良さんはどういう子なの?」
「うーん、どういう子って言われてもむずいなぁ。割としっかりした子ではある気がするし、元気なタイプやと思う。あと、大輝に関係ある話で言うと、学祭実行委員にも入ってるな」
「あ、そうなの?」
「俺の場合は、学祭やってみたいと、咲良がいるからが半々くらいで入りたい感じやから。けどしょーみ、折角やるならちゃんとやりたいし、男子の友達も欲しかったから大輝を誘たって感じや」
まあそれは、僕にとってもありがたい話であった。
僕もサークルには入りたかったけど、どこにするか悩んでいたし、そこに確実に友達がいるのもありがたい。
あと、彼女の咲良さんがいるということは、おそらく変な団体でない可能性が高いだろう。
その点も非常に安心できた。
「それはそうと、逆に小夜さんはどんな子なん?というか、どういう関係さ」
「ざっくりいうなら幼馴染かなぁ。幼稚園の頃によく公園でたまたま一緒に遊んでて、小中が一緒で。小学校はクラスが少なかったのもあってずっと一緒のクラスだったし、中学校は1年生の時は一緒のクラスだったかな」
「なるほどな。逆に高校は別々やったってことやんな?」
「うん。小夜が中学2年生の頃に転校しちゃったからね」
「お、ってことは運命の再会やったんや」
そういわれると、なんだか照れくさいものである。
うん、とも、違う、とも言えずに、照れて笑いがこぼれた。
それに対し、優真は興味深そうにそんな僕を眺めている。
「こんなことを聞くのも野暮なんやろうけど、別に彼女とかではないんよな」
ん、と少しの間フリーズする。
いや、違うことには間違いない。お互い、恋情の関係ではないのは確かなはずだ。
でもなんだか、否定する言葉がすぐには出てこなかった。
「違うよ。特に仲のいい幼馴染、って感じ」
それにしては随分間があったけど、とぼそっと優真は呟いた。
ほんとに、彼女ではない。
恋愛的に、好きなわけでもない。
でも普通に、幼馴染、というには少し距離が近いのはわかっていた。
これを他者から見た時、どう評価されるものなのかはわからない。
でも、僕らにとってはこの関係が一番だ、とは思う。
小夜は昔から寂しがりで、よく泣いていた。
両親の仕事が忙しかったり、家にいても厳しい人だったりと、愛情に触れる機会が人より少なかったのかもしれない。
それに対して、僕が頭を撫でたり、ぎゅっと抱きしめてあげたりしていた。
彼女もそうして欲しいと言っていたし、お互いに他意はなかった。
けど、大きくなった今、それに別の意味が生じる行為となってしまっただけだ。
そんなことを考えながら無言でご飯を食べていると、ふと、おーいと優真に呼びかけられていることに気づく。
「おーい、大丈夫かぼーっとして」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事を」
「なんか余計な事ゆうたんやったらごめんな。でもまあ、大切な人っぽいし、大事にしてあげてくれ」
誰目線やねんって感じやけどな、と付け足す。
でも少し、引っかかることがあった。
「大事な人……?」
「いや、咲良から、『小夜の大事な人』って聞いてたし、今の大輝の顔見てても、大事に思ってるんやなというか、優しい顔やったから」
なるほど、そういうことか。
小夜にとっても大事な人でいられているなら何よりだ。
「ああ、そうそう、ついでに言おうと思ってたんやけど」
スマホを取り出しながら、優真は話しだす。
「次の火曜の放課後に、学祭実行委員の新歓があるらしいんよ。空いてたりする……?」
僕もスマホを取り出してカレンダーを確認する。
今のところ、特に放課後予定がある日はなかった気がする。
念のため確認してみたが、やっぱり予定はなかった。
「うん、いけるよ」
「よかった。じゃあ、その日に行こか」
うん、と言いかけて昨日の小夜の話を思い出す。
「そういえば、小夜も行きたいって言ってた」
「あー、そうなん?それやったら、また小夜ちゃんにも確認して教えて」
「うん、ありがとう」
小夜に一応LINEしておく。
実行委員、どんなところだろう、と期待が高まりつつ、思ったよりも関係のある人が多そうな現状に、僕は騒がしさを予感するのだった。




