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悪役令嬢は仁義で殴る  作者:


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8/13

幕間「筋を通せんやつは、どこいったって同じや」

その夜、エリゼは自室の窓際に座って、夜空を見ていた。

アルノルドが四人と向き合ってきた。全員が目を逸らした。しかし、全員に言葉が届いた。


 (ちゃんとやれてる)


胸の中で、静かに呟いた。

それからなぜか、遠い記憶が浮かんできた。


◆◆◆


 前世の話だ。


高校の頃、エリゼは地方の暴走族の頭をやっていた。怖いものなど何もなかった。

喧嘩は強かったし、仲間もいた。自分たちの掟があって、それを守ることが全てだった。


しかし長くやっていると、色々な人間を見た。


一人目は、入ってきた頃は素直だったやつだ。

真面目で、一生懸命で、先輩の言うことをよく聞いた。しかし力をつけるにつれて、変わっていった。後輩に横暴になった。気に入らないやつを理由もなく弾いた。自分が一番偉いと思い始めた。


そいつに聞いたことがある。


「お前、なんのためにここにおんねん」

「……仲間のためっすよ」

「ほんまか? 最近お前のやってること、自分のためにしか見えへんけど」


そいつは黙った。

結局、そいつは族を抜けた。抜けた先でも同じことを繰り返して、どこにも居場所がなくなったと後で聞いた。


(自分が力を持ったら横暴になるやつは、どこいったって同じや)


二人目は、掟に従わなかったやつだ。

族には族のやり方がある。筋を通す。相手に敬意を払う。自分勝手に動かない。単純なことだ。

しかしそいつはそれを「古い」と言った。自分が正しいと思ったことをやればいい、と。

そいつが動くたびに、あちこちでトラブルが起きた。その度に頭を下げて回ったのは、エリゼだった。


「なんで俺が怒られなあかんねん。俺は正しいことをしただけや」


そいつはいつもそう言った。

(自分が不利益だ、自分には力があるから優遇しろってやつは――全部、自己中や)


族のためと言いながら、全部自分のためだった。仲間の顔を見ていない。仲間の痛みを見ていない。見ているのは、いつも自分だけだった。


エリゼはしみじみと、夜空を見上げた。


レオナルドのことを思う。クラウスのことを思う。ガイウスのことを、セシルのことを思う。

悪いやつらじゃない。それはわかる。

ただ、自分の目の前にある甘い景色しか見えなくなっている。

それは前世で見てきた、横暴になったやつや、掟を破ったやつと、根っこは同じだった。

自分が見たいものだけ見て、見たくないものから目を逸らす。


(自分がやりてぇことを、相手の目を見て語れへんやつは――どこいったって中途半端になるもんや)


王太子には王太子としての役割がある。従者には従者としての筋がある。騎士には騎士としての誇りがある。聖職者には聖職者としての信仰がある。


それを自ら投げ捨てようとしている。たった一人の、甘い声に引き寄せられて。


(あかんよ、そんなんじゃ)


エリゼは窓を閉めた。


夜風が、すっと遮られた。

布団に入りながら、最後にもう一度だけ思った。

前世で見てきた、横暴になったやつも、掟を破ったやつも――誰かがちゃんと向き合って、耳の痛いことを言ってやれば、変われたかもしれない。


その時の自分には、それができなかった。


(でも今は、できる)


アルノルドがいる。

あいつが筋を通しに行った。耳の痛いことをぶつけに行った。全員の目を、正面から見た。


(よう頑張ったな、推し)


エリゼは目を閉じた。

夜が、静かに更けていった。

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