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魔法の使えない魔法使い  作者: 只野 凡


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35 抱擁

 クロから解放された私は、倒れているイースに近づく。ずっと、イースの側にいたロンが不安そうな顔で私を見つめてくる。


私は、ロンの頭を撫でながら声をかける。

「ロン。イースは大丈夫だ。私に任せてくれ。よく頑張ったね」


先ほどまでとんでもなく危険な状態にあったにも関わらず、それでも他者を思いやれる子だ。とても優しい子だと思う。

しかし、こんな出来事の後だ。まだ私のことだって本当に信用していいか分からず、不安を抱えているはずだ。


私に出来ることは、少しでも彼を安心させる。そして、イースを回復させることだ。


私の気持ちが通じたのだろう。彼の表情は一変し、ただ一点に私を見つめる。そこに不安の色は見えなかった。


彼の横に座り、イースの胸の下辺り。魔力の中心点に手を当てる。

彼女の魔力の濃さと合わせようとするが、リンにするように、直接流せるような調節が難しい。密度がまるで違う。

彼女に流れる魔力と見比べる為に、手のひらから魔力の糸を生み出し、細く薄く伸ばしていく。


魔女の家でエイルを治療した時のことを思い出した。…あの時彼を助けることができて本当に良かったと思う。そうでなければ、

今頃私は何をしていたのだろうか。

もしかしたら、まだ部屋にこもって本を読んでいたかもしれない。

外へ出るタイミングを無くし、外への、未知への恐怖に怯え、一歩も踏み出すことができず、長い時間その場から動けない。

そんな可能性を考えると、彼女たちとの出会いは、本当に幸運であると思う。


 調節し、問題ない濃さになった魔力の糸を、 彼女に慎重に垂らしていく。

身体に入る瞬間。少しイースの顔が顰められるが、問題は無さそうだ。

そのまま魔力の糸を彼女の魔力に編み込むように入れていく。


少しずつ彼女の魔力が増えているのが分かる。このまま流していれば問題ないはずだ。



一瞬。視界が揺らいだ。

魔力の糸が切れそうになったが、すんでのところで押しとどまる。流石に魔力を使いすぎたのだろうか。


思えば随分と鎖の男に魔力を吸われてしまっていた。そのまま流し続けるが、少しずつ目の前が暗くなり、身体が十全に機能しなくなってくる。魔力の糸が切れた。もう一度魔力の糸を生み出そうとするが、身体から出てくる気配はない。

魔力の限界は私にもきていたようだ。


呼吸が少し荒くなる。

揺れる頭を抑えようとするが、身体が思うように動かない。イースに覆いかぶさるように倒れる。


「あっ、あの!」

ロンが心配そうに私に声をかけてくる。安心させるために声をかけようとするが喉から音はでなかった。


動けない私の頭に手が置かれる。想定外のことに一瞬思考も止まった。

固まって動けない私に声がかかる。

「ありがとうございます。魔女様。もう、大丈夫です」


目を覚ましたイースが、上半身を軽く起こして私の頭を撫でていた。


「イースお姉ちゃん!!」

ロンが嬉しそうに彼女に近づく。私は何とか上体を起こして後ろに下がる。


私に遠慮していたのだろう。ロンは、私が立ち上がってすぐ、イースに抱きついた。

イースがロンをやさしく受け止め声をかける


「無事で良かったわ…皆の為に頑張ったのよね。ロンは私たちのヒーローよ」


ロンは、ずっと抑えていた感情が限界に達したようで、ダムが決壊したかのごとく、今までの感情を、吐き出すように、激しく声を上げて泣いた。


今度こそ一件落着だ。


安心しきった私は、そこで意識を失った。


意識を失う直前、最後に感じたのは、

冷たい地面ではなく、暖かい抱擁だった。



「お疲れ様。ありがとう…アイリ。」







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