34 援軍
「………。」
私の発言に黙った男は、リンたちに向けていた鎖と、私を攻撃しようとした鎖を消す。
敵意を無くしたのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。
もう一度、鎖を生成して、私に攻撃を仕掛ける。今度の鎖は6本。それとは別に足元に魔力の塊。恐らく隠している本命の鎖。合計7本。殺意の分だけ数が増えた鎖が、私を狙う。
全ての鎖を無視して、男の方へ。
歩いて距離を詰める。
飛んでくる鎖が私に当たる直前、停止する。
遅れて足元から来る鎖は手で掴んだ。
魔力を纏った手で鎖を掴む力を強めると、鎖は魔力の通り道を塞がれ、ボロっと砕けた。
「案外もろいんだね。」
歩みは止めない。じわじわと距離を詰める。
男が、ロンだけを掴み、後方へ下がる。
鎖の沼がロンごと引いた。空中で縛られていたイースとリンが地面に落とされるように解放される。
「ぐっ…。」
力が入らないようだ。イースはその場から立ち上がれない。一方リンはしっかりと着地して、私の方へ駆け寄る。
そのまま私に耳打ちする。
「増援は呼んだ。多分もうすぐ。」
そんなやりとりの最中、仮面の男は、ロンをつかみ、鎖の沼ごと、地面に沈んでいく。
間に合わない。走って駆け寄るが、男が沈みこむ速度には敵わない。既にロンの顔が半分まで地面に沈んでいた。
せめてもの抵抗に魔力を伸ばし男へ向ける。
瞬間。
黒い稲妻が空から降り注ぐ。
私の魔力ごと、男が斬れた。
地面には、黒のナイフが突き刺さっている。
上から降ってきたそいつは、弾き出されるように鎖の沼から解放されたロンを担ぐ。
「……。逃げられたな。」
仮面ごと斬られた男を見て、そいつは、クロは溜息を吐く。
打ち倒された男のズレた仮面の中には、最初に追いかけていた、壁にめり込んでいたはずの男の顔が入っていた。
男がいた壁には、傷跡以外何も残されていない。
身代わりにして逃げた。方法は分からないが、それだけは分かった。
クロはロンを降ろして私に近づいてくる。
降ろされたロンはイースの名前を呼びながら側へ駆け寄って行った。
リンが私の隣に並び、2人でクロと正対する。
クロは私を一瞥して口を開いた。
「お前は何者だ」
この状況での第一声とは思えない。警戒は切らさずに返答する。
「以前自己紹介はすませたはずだけどね」
リンが隣で、私の服を強く掴むのを感じる。
「…まぁいい。ついてこい」
クロはそれだけ言うと、後ろを向き、斬った男を引きずるように持って何処かへ向かう。
私は、何処かへ向かうクロを見送ってすぐにイースの方へ駆け寄った。
リンも少し動揺した後、私の後に続いた。
イースは、まだ動けない様だ。意識はあるようで、側で泣くロンの頭を、撫でるように手を動かしている。
彼女が動けない原因は魔力が減りすぎたせいだろう。以前、魔女の家でリンが同じような状態に陥っていた。
で、あれば、私に何とかできる案件だ。
「私に任せて。ロン、少し離れて貰っていいかい?」「おい、貴様何をしている」
早速魔力をイースに供給しようと思った矢先、背後から襟元を、猫のように引っ張られた。声の主は、先ほど何処かへ向かったはずのクロだ。引きずっていたはずの男は、既に手元にはいなかった。
「離してくれるかな。これから大事なとこなんだ」
「ついてこいと行ったはずだ」
「手荒なことはしないで。」
イースに手を伸ばす私を掴むクロに向けて手を伸ばすリンという、何とも不思議な構図が生まれる。
なかなか降ろして貰えず、ジッとクロを睨んでいると、リンが、沈黙を破るようにクロに質問した。
「何処へ向かう気?」
「冒険者ギルドだ」
「…誰かからの依頼?」
「…違う。俺の独断だ」
淡々と話す2人に痺れを切らした私は、2人の会話に割ってはいる。
「とりあえず離してもらえる?イースの状態が良くないんだ。リンが良いのなら後でついていくよ。…そういうことだから」
伝えたいことを伝えて、身体を振るように揺らす。クロもこのまま話し込む必要はないと思ったのか手を離した。
地面に着地した私は、リンに任せたと言うように目で伝えてイースの方へ向かった。
残された2人は会話を続ける。
「…本当に何者だ。アイツは」
「アイリだよ。私の…友達。」
「…まぁいい。手を貸せ。その瞳が必要だ。」
「お前が呼ばれる程の案件?」
「そうだ。このままにしておけば、この街『アールイ』は地図から消えることになる。」




