33 仮面の男
少年の足元から出てきた男は、少年の背後から覆いかぶさるように現れる。
必死に抵抗を試みる少年ではあるが、黒の鎖によって口を塞がれており、声を上げることすらできない。
何とかしなくては。得体のしれない仮面の男。勝算なんて分からないが、このままではお世話になった2人も死んでしまうかもしれない。それは余りにも目覚めが悪い。
とりあえず、鎖にだけは捕まるべきではない。足元には最大限注意を払う。
そして、イースかリン。どちらかを救出する。人任せで申し訳ないが、どれだけ弱っていても、私よりは戦えるはずだ。
私の武器は動かせる魔力だけ。
こんなことなら宿にこもって魔法書を読みこむべきだった。
背中から大きなリュックを下ろしながら心のなかでぼやいた。
仮面の男は、動かない私から視線を外し、壁の方に叩きつけられた男を見る。既に意識はなく。ぐったりと壁に寄りかかっている。
「余計な手間を増やしてくれたな無能」
意識のない男に向けて手を向ける。魔力が腕に集約された瞬間。
腕から伸びる黒い鎖が意識のない男の胸に突き刺さる。
不可解な行動に質問する。
「仲間ではないのかい?」
男から魔力を吸いながら、こちらを見て仮面の男は答える。
「ただの駒だ。…面倒な奴らの前に呼び寄せやがって。運が悪かったな。お前らも」
魔力が空になった男が、鎖によって打ち捨てられる。恐らく、死んだのだろう。鎖は次の獲物を狙うように、身動きのできないイースたちに襲いかかる。
私はとっさに手を向けて、魔力を鎖の進行方向。イースたちの前に盾のように展開する。まっすぐ伸びる鎖は、魔力の塊に突き刺さるように止まった。
一先ず、彼女たちが殺されるのは防ぐことができたが、魔力の壁は溶かされるように縮んでいく。長くは持たないだろう。
「…?何をした」
魔力の見えない者には、急に鎖が停止したように見えるだろう。向こうは魔法使い。もちろん魔力については熟知しているはずだが、もしかしたら、魔力のまま操る行為というのは余りメジャーではないのかもしれない。
相手にとっては未知。
もちろん…こちらも相手の手の内は読めていないが。お互い知らない、分からないことだらけだ。互いに何をしてくるか分からない状況。男も、迂闊に手を出せないでいる。
『知識は命。生とは知識の探求。だからこそ未知とは恐怖で…』
「おもしろい」
誰の言葉だろうか。脳裏に突然よぎる聞いたことないはずの声。なぜだか自然と口が動いた。奇妙な出来事だが、嫌な気持ちはしなかった。危機的状態であるのに口元が緩む。
「…。」
仮面の男は新たに鎖を2本生み出し、私にめがけて飛ばす。
先ほどと同じように魔力の壁を展開する。
鎖は壁に突き刺さり、動きが止まった。
対処できる。
目の前で止まった鎖を視る。黒い魔力で覆われた鎖だ。
男から生み出されている鎖からは、絶えず男から魔力の供給がされているのが分かる。
私の魔力で防げることは分かっている。
手を魔力で覆い鎖を掴む。
「…!」
男の動揺が視える。
覆った魔力は薄くなっていくが、私の身体には何も問題は発生していない。長くは持ちそうにないが、耐えられる。
ちゃんと視れば、分かるじゃないか。
鎖から手を離し、全身を魔力の膜で覆う。
もっと知りたい。未知を。解き明かしたい。
この状況に相応しくない欲求かもしれない。
「…何者だ。貴様」
先ほどまでとは違い、明確に私への敵意が向けられる。ここからはお遊びでない。そんな気がした。
相手は私を脅威であると認識した。
私を、未知を恐れたのだ。
ならば、勝算はある。
「私のことかな?」
得体のしれない私を恐れている。
理解の及ばない存在。なりきってみせよう。
「私はね…魔女さ。」




