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魔法の使えない魔法使い  作者: 只野 凡


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32 救出


 「待ちなさい!」

イースが屋根上から、路地を走る人影に声を荒げて呼びかける。空を飛び追いかける私たちも、やっと目的の人影を視認した。


すれ違った男で間違い無さそうだ。顔に袋を被せられ、縄で縛られている少年を抱えて走っている。服装からしてさっきの少年に間違いないだろう。すでにイースが男の真上にまで来ていた。


 冒険者で相当稼いでいるイースから、人を抱えた状態で逃げ切るのは不可能だった。

イースは走る勢いのまま、男の行方を塞ぐよう前に降り立つ。


「その子を返して!」


「くそっ…!」


行く手を塞がれた男は、少年を抱えていない方の手で、懐からナイフを取り出し、少年の首にあてがった。


「…ち、近づくな!一歩でも動いたらコイツの命はねぇぞ!分かってんのか!」


往生際の悪い男だ。仮に人質を殺してしまったら絶対に無事では済まないというのに。


しかし、男の悪あがきは効果があるようだ。イースは臨戦態勢のまま動かない。

悔しそうな彼女の表情がどれだけ有用な手であるかを示している。恐らく、それだけ彼女にとって大切な人なのだ。


イースと挟み込むような位置にリンと着地する。男は同様に私たちに向けて警告をした。


「お前らもだ!少しでも魔法を発動したらこいつを殺す!俺は本気だぞ!」


そういうと、ナイフを少年の首に強く押し付ける。皮膚の表面が切れ、うっすらと血が滲んだ。


「ロン!」

イースが叫び男に飛びかかろうとするが、

男は少年を盾にするようイース見せつけることで、いま一歩踏み出すことができない。


その時だった。顔を覆った袋からうめき声が聞こえた。恐らく気絶していた少年が目を覚ましたのだろう。

首の痛みからか、イースの叫びによるものか。どちらにせよ、急に身動きを始めた少年によって男に大きな隙ができる。


「はぁっ!」

「くそっ…!」

踏み込みの態勢を整えていたイースは、

一歩で男の至近距離まで詰め寄る。


狙うのは左手のナイフ。


地面スレスレの低い姿勢から掌底を繰りだして男の腕ごとナイフを弾き飛ばす。


そのまま少年と男との間に潜り込むように背中を向け、後ろ足で男の顎を蹴り飛ばした。


「ぐあっ…!」

うめき声と共に男は路地の壁に叩きつけられる。その間にイースは少年を抱いたまま私たちの方へ引いてきた。


「…すごい。」

余りにも素早い身のこなしに口から感嘆の声が漏れる。あのクロという男と同じくらいの速度だったが、その動きには繋ぎ目のない舞のような美しさがあった。



「ロン!もう大丈夫よ、安心して?」

イースとリンが協力して少年の拘束を外す。

被せられた袋をとって、涙目で必死何かをに訴える少年を宥めながらイースが猿轡を解いていく。


無事解決したのだと胸を撫で下ろす。

少年の身体の拘束が順調に解かれる中、身体の縄を解くリンの動きが止まる。


「僕から離れて!」

猿轡の外れたロンが叫ぶ。



リンが少年の叫びを聞いてイースを少年から引き剥がすように後ろに飛ぶ。

少し離れていた私も数歩後ろに下がる。


しかし、飛ぶように少年たちから距離を取ろうとしていたリンたちの身体が、空中で不自然に止まった。


「…やられた。」

「なによ…!これ!」

少年から伸びた黒い鎖がリンとイースをその場に縛り付けた。




膂力の強そうなイースでも振りほどけない程の強度だ。ガッチリと絡め取られ身動きが取れない。リンの瞳が深紅から青に変わる。

「…魔力が。」


 鎖を視る。鎖の中心。少年の足元に2人の魔力が集まっていく。

…魔力を吸い取っているようだ。


みるみる2人の身体の中の魔力が小さくなっている。少年はなんともないようだが鎖で口を塞がれており、イースは宙吊りにされた手足に力が入らないようだ。意識は辛うじて保っているが、時間の問題だ。

リンはまだ動けそうだが、魔力が常に流れ出している状況で魔法は使うことができるのだろうか。



今、動くことができるのは私のみ。


すぐ皆に駆け寄ろうとしたところで、自分の足元に魔力が集約されていことに気が付いた。嫌な予感がしてその場から離れるように後ろに下がる。

ちょうど下がった瞬間、先ほどまでいた足場から黒い棘が生え出てきた。


恐らくあのまま立っていたら串刺しだった。

冷や汗が身体を伝う。


壁にめり込んだ男を視るが、気絶しているようだ。こいつがやった可能性は低い。


周囲を警戒していると、捕まった2人の魔力が集まっている場所。少年の足元から人影が出てくる。


「感のいいやつだ。」


地面から仮面をつけた男が這い出てきた。







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