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魔法の使えない魔法使い  作者: 只野 凡


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26 合言葉

 

 リンの背中を押すように店を出る。


 外はすっかり真っ暗で、遠くから日が昇ってもおかしくない時間帯だ。

ここで、私はだいじなことを2点を思い出す。


1つは、この街に来てすぐに襲われたクロという男のこと。今は賑やかだった街もすっかり寝静まっている。クロにとっては絶好のタイミングだろう。


2つ目に私は今日どこで寝泊まりしようかということだ。その2点の相談をリンへ持ちかけようとした時、リンから先に声をかけられる。


「分かってる。いこう。私もそれについては考えていた」

まだ何も伝えていないというのに、彼女は全て理解したようだ。荷物を抱えた手とは反対の手で私の腕を掴み引っ張ってくる。


泊まっている宿がある方か、はたまた仲間と落ち合う予定地だろうか。どちらにせよありがたい。リンに引っ張られるまま、彼女の背中を追いかけるようについていった。


「着いたよ。さ、入ろう」

目的地に到着したようだ。道中も襲撃を受けることはなかった。疑うこともなく、中に入る。長いカウンターの奥に、タキシード姿の男性が一人、グラスを拭いている。

大きな暖炉に、数個のテーブルと椅子がまばらに配置されている。

テーブルの上にはロウソクが一本ずつ灯り、ゆらゆらと優しい光がほんのりと照らしていた。バーのようだ。仲間と落ち合う場所か、それとも宿が併設されているのか。


きょろきょろと辺りを見渡していると、リンがスタスタとカウンターの椅子についた。

それに倣い、隣に座る。


リンが店員らしき人物に声をかける。

「マスター。ミルクと今日のやつを」

「かしこまりました」

マスターと呼ばれた男は、

そう言って次に私の方を見た。


先ほどのは合言葉のようなものだろうか。

ただ注文をしたようにも思えるが、そんなはずはないだろう。余計な事はしないように黙って顔を背けると、リンが「彼女も同じ」

とフォローをくれた。


それを聞いたマスターは小さく頷き、カウンターの奥へ移動する。また2人になったところでリンに尋ねる。

「皆来てるの?」


リンは背伸びしながら答える。

「ん〜そう。ここにはみんなでよく来る」


なるほど…であればここは合流場所か。さっきの注文のようなやりとりが、きっと仲間へ招集をかける合言葉のようなものだったんだろう。冒険者とはここまで凄いのか。


お店のように見えるここも、彼女たちの隠された拠点であるというわけだ。

彼らに感嘆していると、奥から戻ってきたマスターが、氷を入れたグラスにミルクを入れて私たちの前に差し出す。


「あぁ。ありがとう」

マスターも彼らの仲間ということ。しっかりと感謝をしなくては。


『…には感謝の気持ちは絶対に伝えなさい。』


 頭の中でまた、声が聞こえた気がした。

懐かしい声だった。誰に言われたのか、覚えていない。それでも、大切なことであった。


 頭のなかの声に意識を奪われているうちに、目の前には骨付きの肉が置かれていた。ジュージューという音と、スパイスの香りが充満する。焼きたてだ。

「…これは?」

お肉を指差してリンに聞く。


「今日のおすすめ。スペアリブ」

ナイフとフォークを使い綺麗に肉を切り取ったリンは、一口含み、顔を綻ばせた。


「美味しい。アイリも早く食べな?」 



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