25 脱出
あれから、どれくらいの衣装を着たのだろうか。何度も脱いでは着て、脱いでは着てを繰り返す。気づけば日はすっかりと落ちて、綺麗な星空が窓から顔を覗かせに来ていた。
星空すら観客となるファッションショーはいよいよ終わりを告げる。
「…今日はここまでかしら。」
ジジの一声で片付け、撤収作業が始まる。長かったファッションショーはようやくお開きとなった。
ソファでうつ伏せに倒れ込む私に、
リンがジュースを片手に話しかけにくる。
「お疲れ様。アイリ。これ、飲む?」
そう言って飲んでいたジュースのストローを私の顔の前に持ってきた。
私は顔だけを動かしてストローに口をつける。甘く果汁の少し残ったフルーツジュース。
この街に来て初めて飲んだ飲み物だが、今までで一番美味しかった。
「…これ、美味しいね。」
「でしょ。」
リンはとても自慢げに胸を張った。そんなやり取りをしている私たちに元気そうな声がかかる。
「お疲れさま!プリンセスたち!気に入ったお洋服はあったかしら?」
ジジが何着か洋服を持って近づいてくる。
「はい!リンちゃんへの報酬ね!3着だけだけど、良かったかしら?」
差し出された洋服を確認してリンが頷く。
「ありがとう。ジジさん。うん…いい。」
そういってリンが一着一着広げて確認していると奥から店員さんが紙袋を持ってきてくれる。
リンが店員さんにお礼を言って服を袋に入れているのをよそに、ジジが横たわる私と目線を合わせるようにしゃがんで話かける。
「初めての子にしては飛ばしすぎたかしら?ごめんなさいね。アイリちゃん、疲れが見えなかったの。
ほんとにお、となしい子ね。あと、普段着が欲しいのよね。今回のはパーティ用ドレスがほとんどだったから、あまりお目当てはなかったわよね。数着用意させてもらったから、好きなのを着て帰っていいわ。残りも持って帰って。さ、こっちよ。」
比較的配慮された嵐に優しく手を取られ、そのまま流れるように奥の別室へ連れていかれた。されるがままを受け入れていたら、ものの数秒で着替え終わった私は、姿見の目の前に立った自分を見ていた。
白いハイネックのリボンブラウスにグレーのハイウエストなロングスカート。上品な印象を受けるが、足元だけは、頑丈そうなブーツで、長旅でも耐えられるようなしっかりとした作りとなっていた。
他の洋服や下着類を包みながらジジが、姿見の前で自分を見る私に話しかける。
「どうかしら?少しシンプルすぎるとも思ったけど、あなたの素材を生かすなら下手な装飾はかえって邪魔だと思って。リンちゃんの友達ってことは冒険者なのでしょう?できるだけデザインより機能面を優先したわ。もちろん、もっと可愛いのもいっぱいあるから試してみるかしら?」
「うん。これがいいよ。本当に素晴らしい。ありがとうジジさん。本当にお世話になりました。」
ファッションショー第二幕の予感がしたため、すぐさまジジの方にお辞儀をして、早口で感謝を告げる。
そのまま流れるように部屋をあとにしようとしたところで、手を引かれる。優しい力にも関わらず、一切の抵抗を許さないそれに自分の身体が180度回転する。ジジと向き合う姿勢になったところで、
「忘れ物よ。」と大きな袋を渡された。お礼を忘れず言って部屋をでる。
そこには帰る支度を整えたリンが受け取った袋を持って待っていた。
「いいね。可愛いよ。」
そういって私にブイを作った指を向けてくるリンの背中を押すようにしてお店を後にした。
暗い夜に二人が店の外へ出ていくのを、スタジオの別室から眺めながら、ジジは独りごとを呟く。
「彼女のお風呂を担当した子から聞いてたけど、まさか、ねぇ。」
彼女の表情の変化に乏しい顔を思い出す。真紅の瞳に黒い髪。整った顔立ちをした少女。
彼女の着替えをしているときに気づいた違和感。
「お人形さんみたい。か…ま。可愛いなら私は全然問題ないと思うわ!」




