7話 アビス
1世紀前に新宿に開いた底の見えない大きな穴アビスそれは、多くの資源を餌に人々を飲み込む偉大な存在。未だかつてその底には誰も辿りついた事は無いという。
そんな神秘的で危険な所に今日1人で挑むルーキー狼原灰は、アビスに蓋をする様にして建てられた高層ビル、名を天空ビルの駐車場で社長の小野寺凛と潜る前に最後のミーティングをしていた。
「この前渡した深度1エリアの資料をちゃんとよんだか?」
灰は頭の中でこの5日間を勉強した知識を思い出す。
(『深度』それは人間がアビスをマッピングに成功したエリア内でレベル別に分けた事を指す業界用語の1つ。また、アビスには下に潜るほど空気中の『エーテル』という魔術師が、魔術を使う上で密接な関わりを持つ濃度が高なる為、アビスは深く潜れば潜るほど高濃度のエーテルで構成された強力なモンスターが 多くいる。)
これらの業界用語や意味、帰りの地図の見方やモンスターの知識など、戦闘力だけでは足りない生きて帰る為に必要な知識を覚えるために数日凛と胡桃の監視の下勉強漬けの5日間を送った灰はいい笑顔で応える。
「おう。バッチリだぞ。この日の為に地図も頭に入れたし、特に警戒するモンスターもな。降ってくるスライムに気をつけろだろ?」
「そうだ。過去頭上の死角から降って来たスライムに窒息死させられた件がいくつもある。アビスはいつ来るかもわからない敵に全方位警戒して進まなければならない事を忘れるな」
「わかった」
「支給した簡易時計で時間は小まめに確認しろ6時間以内に出てこない場合捜索願いを出すからな」
「わかった。じゃあ行ってくる!!」
「まだ話の途中だ」
「ぐぇ?!」
車外に出ようと灰は元気良く助手席のドアを開け出ようとした所、この前喜一郎のところで買った紺の戦闘服の襟を掴まれヒキガエルの様な声を出す。
「これらの納品依頼があるから、無理のない範囲で出来るだけ集めろ。後バックパック忘れてるぞ。」
「…今度こそ行ってくる」
「しっかり採るもの獲って来いよー」
生きるか死ぬかの戦場に出るのだという緊張からテンパリ気味の灰の様子をしっかり見抜いていた凛だったが、(まぁ第2異界だし深度1エリアのモンスターなら死にはしないだろ)という理由から特にケアする事なく見送ったのだった。
スカイビルの内部は最新鋭設備だけでなくカフェスペースやコンビニだけでなく様々な物があるが、灰の目にはアビスに続く駅の改札口の様な場所に向かう多くの武装した人々しか映らなかった。
(あれが冒険者かーみんな俺より貫禄あるなー。後あそこでアビスに潜る事が出来るんだな)
灰は名も知らぬ先輩の後に続き改札口の様な場所に並び自分の番を待ちながら前方を眺めていると、皆少し古びているが、この前自分も発行した登録者証をパネルにかざしているのが見え慌ててバックパックから取り出す。
こうして名も知らぬ先輩達に習う形でアビス入りを果たした灰を待っていたのは、壁伝いに底まで伸びる幅15メートル程の螺旋階段だった。
(これが、資料に載ってたアビス深度1への唯一の入り口、実際に見るとやっぱり迫力あるな)
別名地獄の口とも呼ばれる巨大な穴に息を呑み足を止めて大穴を眺めていると、背後からやって来た冒険者が続々と階段を降りていくのを見て灰も冒険者達の跡に続いていく。
灰が5分程降りた先にあったのは岩肌の色が違う巌窟迷宮だった。穴が幾つも空いており、多くのパーティが、それぞれの違う穴に消えていくのを見送りながら灰は、アビスの生み出した天然のランプに驚いていた。
(凄い奥までハッキリ見える…本当に光る苔があるんだ…スゲェーーーーーーー)
光が入って来ていない巌窟の奥までハッキリと見えるのは、このエリアで至る所で生えている光苔のお陰だ。直外界での養殖は成功していない為、冒険者や1部の学者しか見られないアビスの自然の神秘の1つに数えられている。
そんなアビスの神秘の一端に触れた灰の胸中には緊張など無くなり、未知への興奮に満ちていた。
(死んだ親父もこんな風に未知に心踊らせていたのかな…っていけね、仕事仕事)
そんなことを考えつつ凛の顔がチラつき仕事の内容を思い出し渡された納品依頼が来ている深度1エリアの採取物を確認する。
モンスタードロップ
・石鱗リザードの石鱗×100
・シアンフロッグの皮×200
・ジャイアントスパイダーの糸×5
・スライムのかけら×160
採取物
・黄色輝石×3
(モンスタードロップばかりだな…っていうか本当に来月末までにこれ全部俺が集めて納品しないと違約金が発生するんだよな。遊びじゃねぇんだ。頑張ろ)
モンスターは討伐すれば身体は、崩れエーテルへと変わり、再びアビスにへと還るのだが、個体によっては2、3割の確率でエーテルに変わる事なく、1部の部位を落とす。これをモンスタードロップと言い灰の紙に書かれたの物のほとんどがこれだ。
もう1つの採取物は、エリア内で取れる自然の恵みを採ら事であり、物によって様々な使い道がある。
紙に書かれた納品数を見て多すぎだろと愚痴りつつも気を引き締めた灰は、既に奥へと消えた冒険者達と同じ様に自分もアビスの奥へと足を進めるのだった。




