6話 墓での誓い
数多くある立派な木から差し込む木漏れ日が、眩しい。この場所を管理している人にお辞儀し、去っていく彼を見送った後、死んだ母が眠る樹木に向き直る。
樹木葬それは樹木をシンボルとしてその下に遺骨を埋葬するお墓のことだ。
なんで樹木葬なのかと聞くと母と縁を切った俺の祖父母は、一族の墓に母さんを入れたく無かったらしく、安上がりなこの埋葬方法を選んだのだと、小野寺 凛に聞いたらそう答えられた。
「来るのが遅くなってごめん。…母さん。俺今日アビスに潜るよ」
母が眠る樹木の前で手を合わせながらあの世にいる母に伝わっているといいなと願いつつ語りかける。
まだ日が登ってから1時間しか経ってない早朝に、俺は父親が命懸けで冒険した大穴アビスに挑む前に母親の墓参りをしている。
自分の父親含め多くの探索者を殺したアビスに挑むのだ。死ぬ気は毛頭ないが、死ぬ可能性が無い訳ではない。「母さんに挨拶したい」と社長の小野寺凛に伝えると「わかった」と言い、今日のまだ日も出て無い薄暗いの時間に叩き起こされ、車で此処まで連れてきてもらったのだ。
「やっぱり血かな。俺もアビスに潜るなんてさ…」
あまり言葉が出て来ない。来る前はもっと言いたい事があった。無理心中するぐらいならなんで相談してくれないんだ?とか、3億稼ぐまで死ぬ危険がある場所で働かないといけなくなったとか。
あの時はしょうがないとも思ったが、自分1人残され大変な思いを重ねるうちに恨み言の1つでも吐いてやろうと考えていた。だが、いざ目の前に来てみると虚しいだけというのが、正直な感想だった。
死人は口無し、埋められた母に向けて物言わぬ地面に毒を吐く気にはなれなかった。
自然と涙腺が緩む。母親が死んだと言う現実感が漸く湧いてきたのだ。入院していて葬式にも出れなかったからちゃんとしたお別れが出来なかったのが理由かもしれない。溢れ出る感情を抑えられず目から涙が出る。
目を閉じれば自分が覚えてる限りの母との思い出が蘇る。小さい頃からつい最近の事、嬉しい思い出や悲しい思い出イラつく事もあったが、今振り返れば懐かしいで済ませられるのだから不思議だ。
いくら時間が経っただろうか、数分だったかもしれないし数十分だったかもしれない。
漸く涙が枯れ、自然と気持ちが落ち着いてくる。自分が、死んだ母に何を言うべきなのかも頭の中で明瞭になっていく。
「…俺は、生きるよ。生きて、生きて、生き続けて幸せな人生だったって言えるぐらい生きるから…」
何となく1番言いたい事が言えた気がして立ち上がり、母が眠る樹木に背を向けて凛が待つ駐車場に向かって歩き出す。
生きる。この誓いが揺らぎそうになる時はこの日この場所で母の墓に誓った事を思い出すのだろう。アビスに挑む覚悟が、今しっかりと俺の中で固まった気がした。
「良いのか?」
「ああ」
助手席のドアを開けると凛の問にしっかりと目を合わせて答える。見間違いだろうか悪魔女が一瞬微笑んだ様に見えた。きっと幻想だろう。
車に乗り込むと、凛に「買っておいたから、食っとけ」そう言ってハンバーガーとポテトが入った紙袋を渡され朝食べ始める。
墓参りの後のジャクフードは、少ししょっぱかった。




