4話 武器屋へ
新宿そこはかつて東京都の特別区として都庁や繁華街を擁する日本屈指の都会の一つだった。しかし変革の時を迎えてからは、その様相を何度も変化させていた。
底の見えない大きな穴アビスの所為だ。中には深く潜れば潜る程強いモンスターが数多く出てくるアビスは1世紀たった今なお世界に需要が高い鉱石や植物が採取できる金山だ。
アビスが生み出す宝を採取し、売り捌く探索会社は効率よくアビスを探索する為、新宿付近に会社を構える事が殆どだ。
そんな彼等を客としてサポートしている会社や店も新宿近くに会社を構えていた。今や冒険者の客を想定した街づくりが進められ、今や新宿とその周辺はアビスに関わりが深い産業の総称、アビス産業に関わる店が多い都会へと変化したのである。
そんなアビスと関わりが深い店が犇めく新宿の街中を、ひときわ目を引く艶やかな黒髪美女とお供の灰色髪のクソガキの一行は武器屋を目指して歩いていた。
「なぁ、武器屋ならさっきから何度も通り過ぎてるぞ。入らないのか?」
「安くて、良いの揃えてる穴場の名店を知ってるんだよ。黙って、いやなんか面白い話をしながら私について来い」
「無茶振りすんな」
「ちっ、」
「舌打ちすんじゃねぇよ?!」
「今度美女の隣を歩く時は笑える小話用意しとけよっと、ついた」
「ん?ついたのか?って本当に良い物揃えてんのか?」
灰がそう言うのも無理はない。凛が足を止めた店は、先程通りかかった大手の武器屋の様な規模でも無く、とてもじゃ無いが綺麗とは言い難い外観をしている。少し煤けた矢沢武器店という看板が、店の経済状況を良く表していた。
自分がこれから当分の間使う武器の事だ、灰は渋い顔を浮かべるが、そんな事を気にするでなく凛は店内へと入っていく。灰は溜め息を吐きながら出来れば良い武器があります様にと心の中で願いつつ自分も店に入る。
先ず灰の視界に入ってきたのは壁一面に飾られた様々な銃だった。命を奪う道具を売る店という、今まで入った事のない店の空気に呑まれ足を止めかかっていると見兼ねた凛に尻を蹴られる。
「いっ?!」
「おいビビり、ビビってないで私に付いて来な」
蹴られたうえに煽られ灰はいつかぶっ飛ばすと心に誓いつつも彼女の背を追いかける。
店内を進むと銃から銃火器そこから剣などの刃物が、置かれている。高そうな得物はショーケースに入れられている。凛はレジのカウンター前まで進むと大声でカウンターの奥に控えている男を呼ぶ。
「店主ーいるかー」
「おー凛ちゃんいらっしゃい」
店の奥から出て来た男は丸メガネかけ、無精髭を生やしたままにした180半ばの高身長の見た目30代ぐらいの強面の男性が出てくる。
「そのガキンチョがSNSで呟いてた新入社員か?」
「えっ、お前私のアカウント監視してんの?キモっ」
「若い子のその発言はおじさんの心を抉るからやめて!!」
(なんでこの女の知り合いは、こう個性的な奴が多いんだ?)
灰は凛の辛辣な言葉にその場から崩れ落ちる店主のおじさんを見ながらそう考えていると、凛に頭を叩かれ「何ボーッと突っ立ってんだ、挨拶しな」と叱られる。灰は取り敢えず崩れ落ちている強面店主の前まで行き頭を下げながら挨拶をする。
「狼原灰です。よろしくお願します」
「ああ、宜しく。俺は小倉喜一郎だ。美女以外には厳しいから甘えんじゃねぇぞ。クソガキ」
「なんでお前もクソガキ扱いしてくるんだよ」
「クソガキ扱いがいやなら、俺の売る武器が似合う冒険者だって事を証明してみろ」
先程までの情け無い雰囲気を一変させた喜一郎は飾られていた鞘付きの刀を灰に手渡す。
「抜いてみろ」
「あ、あぁ」
灰が喜一郎に言われた通りに手渡された刀の刀身を半分まで外に引き抜く。初めて生で見た鈍い光を放つ美しい刀身に息を呑み鞘から最後まで引き抜こうとした所で冷や水を浴びせる様におじさんに止められる。
「もういい、しまえ」「え?」「お前の相棒はその形をしてねぇ」
そう言って喜一郎は、今度は別の棚に飾られたナイフを取り出して灰に手渡す。そして今度もナイフを引き抜かせ少ししたら灰から取り上げ全く別種類の武器を当てがっていく。
「…モーニングスターも違うか、ちょっと待ってろ他にないか倉庫を見てくる。」
そう言って喜一郎が店の奥に消えていったのを確認してから、訳もわからず飾ってあった武器を一通り手に持たされ困惑気味の灰は凛に説明を求めた。
「なぁ凛?」
「ん?」
「こういうのって俺が合うのを判断して、武器を選ぶんじゃないのか?」
「普通はそうだな」
「だよな?ならなんであいつが選んでるんだ?」
「アイツはそうゆうスキル持ちなんだ。手に持たせる必要があるが、使い手に最適に近い武器かどうか判別できる」
「!!」
灰は凛のその言葉に驚きの表情を浮かべるが、無理もない。スキルそれは、変革の時以降人間に起こった変化の1つであり、肉体の位階関係なく十分な経験、技量、意思が、合わさり溶け合うことで発現する能力だ。
人によってそれ等の3要素は違う。その為位階は低くとも物によっては大きな富を築く事が出来る特異な物が発現する事がある。今や有用なスキル持ちはどの企業も喉から手が出るほど欲しがられているのは社会の常識だ。
「なんでそんなすげースキル持ってんのに、此処の店はボロいんだ?」
灰の疑問はごく当たり前であり、自身の生死が掛かっているのだ。その筋で有用なスキル持ちがいる店は自然と人が集まる。なのに現在店内に客として来てるのは灰と凛の2名のみという現状を不思議に思ったのだ。
「おいクソガキ、言ってくれるじゃねぇか」
「あっやべ!!」
「チッ、まぁいい。そんなに気になるなら教えてやる。」
「えっ、そこまで気になったわけじゃないし長くなりそうならいいよ」
「手に入れたスキルを活かそうと、その手の大企業には勤めてた事はあったさ」
「私も初めてじゃないから知ってるけど此処から長いぞ」「えー」
「だがな俺の勤めてた大企業ってのは人の命より売り上げを優先する守銭奴の集まりだった。そいつに合った武器より少しでも高い武器をってな。本当に使い手を思って売り出す奴は求められていなかったし、いても数字を追い求める奴には結果で追い抜く事は出来なかった。だから、スッパリ辞めて、俺がやりたかった本当に使い手の半身になる武器を仕入れて売る事を心情にこの店を出した訳よ」
「お昼何する?」「おれ、軽めがいい」
「って聞けよ?!上司と部下揃って冷たい奴等だな!!」
「だってさ、出会ったばっかのオッサンの過去とか興味ないもん」
「いいか灰、興味ある様に見せて相槌を打つのも大人の必須技能だ」
「辞めろお前等、おじさんのライフはもうゼロだ」
結局その後も気分が沈んだままの店主のおじさんが奥から持ってきた色んな種類の武器を握るが、どれも違うと言われる続ける。
「おまえ、武器使う才能ない、けえれ」
「なんで片言なんだよ」
「どう言うことだ小倉さん説明してくれ」
気を取り直した喜一郎はドサっとレジカウンターの椅子に座ると深い溜息を吐いた後説明を始める。
「俺のスキル、『適眼』は使い手が持った武器を扱う才能と武器の性能を引き出す使い手の技量が、武器が発する光の色でわかるんだ。赤なら適正ありで本来なら赤が出たら此処から光の加減で武器を選んでいく。青なら適性なし、だから他の武器に変える。そして、このクソガキはどの武器を持たせても黄色だった」
「ん?黄色だと何が不味いだ?」
凛の質問に喜一郎は苦々しい表情を浮かべながら説明を続ける。
「黄色は武器が使う才能があるが、武器を使うより素手で戦った方が合ってるって言ってる様な感じだ。戦う才能というより武器を使う才能がねぇなさ」
「「マジかよ」」
こうして灰は身一つでモンスターと戦う悲しきルーキーとなった。
第2位階とはいえ、どんなに浅い場所でも流石に身一つでアビスに潜るのは危険な為、凛と喜一郎が相談を重ね同情割の2割引で紺のガントレットグローブと丈夫なブーツ、アビスで取れた植物から作られた防御力を備えた服を購入した。




