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Life 夢の軌跡  作者: 伊藤ヲカシ
第1章
38/44

37話 激戦

 獲物が無くなった全身傷だらけのトオルと右腿にナイフが深く刺さったカイの生死を賭けたノーガードのラッシュの打ち合いが始まる。


 トオルもあらぬ方向に曲がった腕も駆使して、左腕メインにカイに打ち込む。また、カイも右脚の踏ん張りが効かないがらも、躊躇なく使える両手というアドバンテージを活かし、手数勝負に持ち込む。


 両者共に相手の一撃を当てるだけで勝負を決定づけられる急所の顎や内臓、鳩尾を狙って拳を繰り出すが、お互い拳をぶつけて逸らしたり別の部位で受けるなど、血みどろの打ち合いが1秒経つにつれて激化していく。


 両者身体の芯に響く様な痛みを受けながら全力で拳を握り打ち出す。カイもトオルも本能の部分が薄々感じ取っているのだ。余力などもうお互いない事に、この打ち合いを制した方が生き残ると。


カイは、顎に来た拳を避けようとして頬で受け、口の中を血の味にしながら鳩尾を狙った全力の拳を打ち込む。人狼の姿になり、敵が相当なダメージを受けていたとしても彼の相手は第3位階である。


 トオルによって受けたダメージが、もう限界寸前の所まで蓄積しており、彼は半ば意識を飛ばしながらも寸前の所で踏みとどまり、生還を目指して拳を繰り出す。


(生きたい!!俺はまだ、生きたい!!まだ死ねねぇんだ…倒れろぉぉぉ!!)


一方トオルは向かって来る拳をもう殆ど上がらない右腕を盾代わりに受け切り、頭を支配するかの様な痛みを感じながらも声を張り上げ無理矢理拳を打ち出す。


 痛みとは裏腹に段々と視界が薄れていき、朦朧とする意識のの中で尚攻撃の手を緩めないトオルの頭の中には、始末屋として受けた仕事としての認識は既になく、今彼を奮い立たせているのは、冒険者の先達としてのプライドだった。


(負けたくないっ!!…絶対に負けたくない!!死ぬ事は怖くない。怖いのは今までの自分を否定される事!!)


 トオルは、今も尚自身と打ち合う傷だらけの天才に未だ受け入れ難い違いをまた突きつけられまいと、声を張り上げ力を絞り出すように拳を打ち出す。


「「アぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 既に限界に片足突っ込んだ状態の身体を奮い立たせる為、張り上げた声が重なり打ち合いが更に激化する。


 その光景を少し遠くから見ていたハジメは、何とか止血をしたものの、血を流しすぎた事で動け無くなり朦朧とした意識の中でその死闘を見守っていた。


「頑張れカイ」


 相棒の応援も虚しく数秒後、永遠に続くかと思われた互角の打ち合いの均衡は突如崩れる。崩れた理由はとうとうダメージが限界に達し、意識が薄れたカイが人狼状態のキープを出来なくなったことに他ならない。


人の姿に戻ってしまったカイとトオルの差はお互い手負い状態な事もあり、位階差が如実に現れる結果となる。つまりフィジカル差による一方的な暴力である。


 だが、勝ちが見えて来たとしてもトオルに余裕はなかった。肩で息をし今にも倒れそうな程の傷を負いながら、慎重に格段に遅くなった拳に合わせてカウンターを入れる。


 カイは起死回生を狙った一か八かの攻撃を仕掛けるが、人状態の今格好のカウンターの良い的となってしまい強烈なカウンターが、打ち込まれる。


 完全に入ったトオルの拳がカイから離れた瞬間、カイは前のめり倒れ伏す。トオルは、倒れ伏すカイを暫く眺めた後天井を見上げ歓喜に打ち震える。


「やった…勝った…天才に勝った!!やったぞお??!」


 トオルが矜持を守り切り歓喜に打ち震え、ほんの一瞬カイから目を離した瞬間を狩人は見逃さなかった。トオルの横顔を1匹の灰狼が通り過ぎる。そして次の瞬間その首の肉がごっそり灰狼によって削り獲られ鮮血が舞う。


トオルは歓喜に打ち震えた顔のままゆっくりと自身の身体を見た後、その場に仰向けに倒れ伏す。


 右後ろ脚を引きずりながら灰狼状態のカイと血を失い過ぎて顔色が悪いハジメはどちらが言い出す事もなくトオルの顔近くに近寄る。


 2人が覗き込む様にして明らかな致命傷を受けたトオルを眺める。彼はボロボロの状態であっても纏っていた力強さの様な物が無くなっていた。


「フフっ、勝ったから気を抜いてしまうなんてね。…笑ったらどうです?」

「殺して勝ちなんて言えるかよ…」

「あぁ、出来れば生かして罪を償わせたかった…俺達の負けだ。」

「何を甘いことを…やはり天才は嫌いだ。ヒューヒュー…これを」

 段々と弱ってきたトオルは最後の力を振り絞って自身の小さなバックパックから綺麗な糸を幾つも取り出す。


「これって、ジャイアントスパイダーじゃないか?!やっぱりあんたが、刈りまくっていたんだな」

「…殺し前に不確定要素は消しておきたくてね。ヒューヒュー、このエリアに来たって事は、これを取りに来たんだろ?持っていけ」


 ハジメは大量のジャイアントスパイダーの糸を受け取り、その糸を力一杯握りしめ、顔を歪めて俯いてしまう。


「おっさん」

「ヒュー、ヒュー、クソガキ、最後に一つ聞かせろ私は強かったか?」

「ああ、俺が今まで戦ってきた誰よりも強かったよ。」

 

矜持を守る事に固執した男は、生きる為に矜持を捨てた者に負け、カイの言葉に満足したのかトオルは満足そうな笑みを浮かべてその人生に幕を下ろした。


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