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Life 夢の軌跡  作者: 伊藤ヲカシ
第1章
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35話 命懸けの時間稼ぎ

 ハジメの『風穴』という言葉をトリガーに荒れ狂う風が発生する。その風は方向性を持って流れ、やがてハジメとトオルの周りを渦巻く風は中を空洞にした風の柱を形成する。


「第1位階の肉体でこの制御力…素晴らしいですが、時間稼ぎをするにしても貴方では役不足では?」


 トオルから見た先程迄の2人のやり取りは、とてもどちらかを犠牲にして、1人を逃す感じには見えなかった。ならばこそこの魔術の意図は明白であり、実際トオルは直ぐに見抜いた。


「役不足かは、終わった後にわかる事だ」

「生意気ですね…直ぐに身の程を教えて差し上げますよ!!」


 トオルが腰を落とした鋭い踏み込みで距離を一瞬で詰めようとした瞬間予想だにしない衝撃が、トオルを襲う。


「第3位階やべぇな、普通なら気絶もんだろ」


 今はハジメのぼやきも気にならない。トオルは、死角である背中と後頭部をまぁまぁ、の速さの硬い物を撃ち込まれた感覚を覚え膝を折りかける。彼が、痛みで反射的に振り返ると足元には拳一個よりやや小さい石が転がっていた。


「成程…嫉妬するほど素晴らしい制御力ですね」

「チッ、1発で効果バレかよ…」


 『風穴』はただ、自身の周りを渦巻く風魔術『渦巻き』を応用し、効果範囲を広げ内外を遮断する魔術である。では石をぶつけたのはどうやったのか。


 答えは簡単ハジメは、風穴で発生させた風を一部使いもう1つの魔術を使用していたのだ。それは内外で浚えるだけの石を利用した死角からの投石攻撃。


 それをトオルは、始末屋としての対人戦闘の経験と知識から、おおよそ今の死角からの攻撃の仕組みを理解し、緻密に風の流れを操る者にしか実現出来ないその魔術の制御力に嫉妬する。


そして、ハジメの方はブラフの可能性もまだあるが、言葉の端々から既に攻撃のカラクリを見破られた事に気づき、思わず舌打ちと愚痴を溢してしまう。


「そう悲観せず、むしろ誇ったらどうです?貴方は、曲がりなりにも位階に2つも差がある私に一撃入れたのだから」

「ハッ!!、今誇ってどうすんだ?それは、家に帰って家族にするから、い・い・よ!!」

「未だ生きて帰れる気でいるとは…舐めるな!!」


 プライドを刺激され怒りを露わにしたトオルは目の前の生意気なガキを即惨殺するべく距離を詰めよう駆け出そうとするが、それを阻止すべくあらゆる角度から急所狙った投石が、風に乗って猛スピードで飛来する。


 トオルは予備のナイフを引き抜きナイフ二刀流スタイルで石を全弾砕きにかかる。第3位階の名は伊達ではない。強化された五感と反射神経は凄まじく死角から来ると理解したトオルは、投石を捌きながらも着実に距離を詰める。


 このままでは近づかれてやられてしまうと、ハジメは切られて痛む身体のサインを無視して頭を回す。


(クソッ、強ぇぇ足止めしきれねぇ。どうする?どうすれば足止めできる?こいつの弱点はなんだ?俺の不良時代に狙われた所は大体全部試した。あとは…あとは…あれだ!!)


 焦りを覚えながらも今も無数の投石を捌ききるトオルを見て、咄嗟に閃いたアイディアを実行する。風で砂利を攫い投石と一緒に顔の周りに運ぶ。すると効果覿面であり、トオルの表情が苦悶に歪む。


 閃いたアイディアとは目潰し。いくら第3位階であっても砂が目に入れば当然視覚を奪う事ができる。視覚は情報取得の大部分を占める。その為、視覚を一時的にでも失ったトオルは、迎撃する事も出来ず無数の投石の的となる。


 トオルは急所を守る様に丸くなり、ひたすらに続く投石攻撃を浴び続ける。ひたすらに耐える姿勢を取るトオルの姿を見てハジメは手応えを感じる。


(抑え込めてる。やれる!!このままっ?!)


そう思った矢先ハジメの右肩に激しい痛みと衝撃が襲う。ハジメが、痛みの発生源を反射的に見ると、肩に見覚えのあるナイフが深々と刺さっていた。


 ハジメは思わず全ての風の制御を手放す所だったが、カイと自分達を阻む風穴だけはなんとか手放なさず、耐えて前を向く。


「ふむ、肩ですか…眉間を狙ったつもりなんですがね。まぁ、漸くうざい投石も止んだ事ですし良しとしましょう」


そう溢したトオルの顔には泣いた後があり、ハジメは直ぐに砂を涙で洗い出した事を察する。


「ハッ、よく見ないで俺にナイフを当てれたな」

「まぁ、制御に集中しすぎて動けない人に当たるなんて見なくとも造作もありませんよ」


(こいつ、俺をわざと油断させる為にヘッドダウンした状態で投げたのか?!)


 ハジメは喧嘩で対人戦闘は慣れているつもりであったが、目の前の殺す為に磨かれたその緻密な対人戦闘の計算づくの行動にまだまだだ自分は未熟だと思い知らされる。


 肩で息をするハジメの前にトオルが立つ。戦闘直前に相対した時の綺麗なスーツを着た余裕に満ちた和やかな表情では既になく。スーツは所々裂け血も流しており、始末屋として冷徹な表情を浮かべている。


「ここまでか…」

「ああ、じゃあな。君の才能を若いうちに摘めて良かったよ」


 始末屋として最大の賛辞を述べながらナイフで首を切り裂こうと腕を振るう瞬間。『風穴』の外側から灰色の何かが超スピードで侵入して来る。


トオルがギョッとして、動きが少し鈍った次の瞬間トオルですら視認出来いてもガード出来ないスピードで顔面を殴り飛ばされる。


 後方から凄い勢いで現れたのにも関わらずハジメには驚きがない。絶対に間に合うと何となく分かっていたからだ。


「バトンタッチだ」


人狼姿のカイは起き上がれない相棒を背に交代を宣言した。

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