32話 再戦前
アビス深度1エリアから深度2エリアに繋がるルートの1つにて冒険者のタッグとモンスターが会敵した事により戦闘が開始した。
その事だけなら良くある普通の事だが、唯一普通でないのは、冒険者のタッグのうち片方が狼の姿をしている事だろう。
シアンフロッグの群れに四足歩行の灰狼が、一直線上に突っ込む。それを待ち構えるシアンフロッグは、カウンターにと一斉に酸液を吐き出す。
酸液の餌食になろうとしていたにも関わらず、回避ではなく灰狼は迷わず突っ込んでいく。重力に従い酸液が灰狼の真上に迫った次の瞬間突風が吹く。
酸液は風によって跳ね除けられるだけでなく追い風となり、灰狼の移動速度を上げシアンフロッグ達との間合いを完全に詰め姿をたちまち変える。
灰狼は一瞬で狼から灰髪の少年へと姿を変えて、目の前にいるシアンフロッグに向かって拳を打ち込む。
彼から繰り出された拳に込められた一撃の威力は凄まじく、一打で1匹のシアンフロッグを撃破していく。10秒後シアンフロッグの群れは瞬く間に全滅させられていた。
灰髪の少年は両目を動かして周囲を確認する。周りに転がっているシアンフロッグの身体は、徐々に崩壊を始めエーテルへと還っている。
確認が終わり、討ち漏らしがない事が分かると「ふぅー」と灰髪の少年ことカイは、息を吐き出して一息つく。すると彼方も戦闘が終了したのか、後ろからカイを救った風を吹かした赤髪をセンター分けヘアにして動きやすい魔術師の格好をした青年ハジメが近づいてくる。
「お疲れ、流石だな」
「そっちもな。風のフォローありがとう」
「まったくだ。こっちも戦ってたってのに」
「ハハハ、ごめんごめん」
ハジメが来た方向には数匹のレヴィバットが地面に転がっており、エーテルに還っていた。ハジメは自身も戦闘しながらカイのフォローもしていたのだ。
2人は未だ組んで一月も経っていないが、阿吽の呼吸と呼ばれる程の練度には達してはいないが、かなりの練度で連携を取れる様になっていた。
「スキルの調節はどうだ?そろそろ慣れそうか?」
「んー、まだ戦闘中に変化率を1%単位で変化させて、維持するのは難しいなぁー」
スキル発現から2週間、カムイと名付けられたこのスキルを使いこなそうと、日々特訓をしているカイだが、未だその力を完全に使いこなせていなかった。
先程の戦闘で分かるように人と狼の姿への変身はスムーズに出来る様になったものの、未だジャイアントスパイダーを倒した人狼の姿に変身し、尚且つその状態をキープするのは難しいのだ。
「そうか、じゃあジャイアントスパイダーとの戦闘での活用は難しいか?切り札になると思ったんだが…」
「いや、時間さえ稼げればお前の言ってた人狼の姿にはなれるぞ」
「本当か?!」
自分の命が掛かっているのだ、使える物は何でも使う気のハジメは、カイの冷静な自己分析を聞いて落胆するが、使えない訳じゃないと言われて自然と声が大きくなる。
「ああ、現に昨日凛にタイムを測ってもらいながらやったら慣れた。ただー」
「やるじゃねぇか、よし時間稼ぎは任せろ」
「話は最後まで聞けって、ただあの状態かなり比率の調節が難しいから、戦闘中2分も無防備になる上に失敗すると深度2エリアに出るコボルトみたいになるし」
カイは、最後の方は余程嫌な記憶があるのか、顰めっ面で尻すぼみになりながらリスクの話をする。しかし、ハジメはそんな事を考慮する気はない為、煽る事でやる気を出させる彼なりの発破をかける。
「なんだそんな大した事のないリスクにビビってんのか?」
「ビ、ビビってねぇよ。ただ2分もお前1人で時間を稼げるのか心配なんだよ?!」
内心を見透かされて誤魔化す為に、慌てて言いったカイの発言は意外と的を得ており、現実的に第1位階の身体能力ではジャイアントスパイダー程のモンスターの足止めはかなり難しいのだ。しかし、ハジメの表情は痛い所をつかれた人間の表情ではなく、寧ろよくぞ言ったと言わんばかりのドヤ顔であった。
「じゃあ何にも問題ねぇじゃねぇな、俺は最近新たに時間稼ぎ用の防御魔術を考案したぜ」
「えっ、それ本当か?!見せてくれよ!!」
「ああ、奴との戦いの時、お前が俺を信用して前を任せてくれるならな」
「…でもお前は、」
「わかってる今の俺じゃ噛まれただけでお陀仏だろうよ。でもこれが闘いだ、冒険なんだ。覚悟を決めろ無傷でアイツに勝つには、2人の全力をぶつけるしかねぇ」
心配する気持ちや不安が、信じるべきではないと言うが、ハジメの強い意志の籠った目を見て、言葉を聞いて覚悟を決める。
「わかった。俺も覚悟を決める。前は任せた」
「任された。死ぬ気で守ってやるよ」
漸く覚悟を決めたカイはハジメの作戦に同意する。その後も2人は何度か小休憩を挟んでジャイアントスパイダーへと続くであろう道を並んで歩き始めた。




