30話 レアドロップ
パキラ緊急会議の翌日カイ達はバイクを停めた駐車場近くの公園でアビスに潜る前の恒例となりつつあるニコのお手製オニギリを食べながら刺客について話をしていた。
「刺客ってどんな奴なんだろうな」
「急にどうした?」
「いや、単純な興味でなんとなく」
「物好きな奴だな…まぁ、人1人殺してそうな目をした奴なんじゃねぇかな」
「人殺しの目?」
自分の急な疑問に対して、ハジメは人殺しの目という言葉を使うが、それがなんなんのか分からずカイは、首を傾げる。
ハジメはオニギリに齧り付きながら昔を思い出す様な遠い目をしながら応える。
「お前もそういうのに会えば分かるよ」
「ふーん」
抽象的であまり言葉以上の意味を理解出来なかったカイは、ニコ特製のシャケオニギリを食べながら遠からず自分達の命を取りに来る敵の顔を夢想するのだった。
数十分後日課の間食を終えた2人はアビスへと続く長い階段を周囲を警戒しながら下っていた。
これからは、モンスターだけでなく刺客として送られて来た人間にも注意しなければならない為、まだモンスターが現れないこの段階でも前や背後にいる同業者に対して気を張らねばならないのだ。
2人には刺客の所属や顔、性別も知らない為、全てが刺客に見えており、いつ仕掛けてくるのかタイミングは彼方側が握っているというこの状況に極度な緊張はしていないが、集中力をゴリゴリ削がれていた。
「…今日から暫くはハードな探索になりそうだな」
「うへぇ、」
嫌そうな顔をしながら溢したハジメの嘆きにカイはダレタ声で返答し、階段を降り切ると給料の為にモンスターを狩りに奥へ潜っていった。
2人は未だお粗末な出来だが、地図ぽく見える紙を広げて右の通路を選択をする。この紙、実はカイとハジメの2人がコツコツ書いたマッピングデータを胡桃が清書して作ったおニューの自社製地図なのだ。
ノウハウも経験もない為、日々苦戦しているがちょっとずつ書き溜める事で多少穴があれど、今迷わずにルート選択できるのは、日々の書き溜めた成果だろう。
暫く進むとモンスタードロップが食材として使われる事で有名なアビスダケというキノコ型モンスター5体と会敵する2人。
風と拳で蹴散らした2人の表情は先ほどまでと打って変わって笑顔だった。何故なら途轍もなくレアな物が手に入ったからだ。
「おいハジメ、これってまさか」
「あぁ高額で取引されてると噂な茶色のアビスダケだな!!」
そうアビスダケとはアビス内なら基本何処にでもいる激弱モンスターである。その為、供給率は高く値段はそこまで高くない。
しかし、それは普通のアビスダケならの話である。通常アビスダケのモンスタードロップは赤いが、カイが手にした茶色のアビスダケは違うその希少性が値段を変え、価値を跳ね上がるのだ。
しかも通常より上品な美味さがあるらしいともっぱらの噂である。アビスダケ界の松茸を手に入れた2人は嬉しさのあまり表情筋を緩めまくる。
「よっしゃー!!これ一個で今日来た価値があったぜ」
「今日は社長と胡桃さんにいい報告が出来るな。いい金になりそうだ」
「バッカお前これ食べたくないのかよ!!帰ったら今日の夕飯行きだ」
「お前がバカだ、高級食材なんだぞ?!テレビとかですごい値段で出されてるあれだぞ?売る以外何がある?キノコが食べたいなら帰りに八百屋でもスパーでも寄ってやる」
「は?だからこそだろうが、こんな高級食材、今食べずしていつ食べるってんだよ?!」
食べるか売るかという究極の2択で、歪み合う2人
お互い譲歩する気など無く、最早取っ組み合い寸前の所まで来ていたその時モンスター達の凶暴な声が次第に大きくって聞こえて来る。
「「「ブロがアぁ!!」」」
「「!!」」
正常な判断能力を残した冒険者なら明らかに違う種類のモンスターが、こうも大群になって襲いかかってくるものかと、疑問に感じるのだが此処には頭に血が上った冒険者しかいなかった。
「おい、」
「ん」
「どちらが多くモンスターを倒せるか勝負しないか?、買った方がアビスダケの処遇を決める権利を得られる」
「へぇ、面白えやってやるよ」
少しだけ大人の理性を残していたハジメが持ちかけた勝負に喧嘩腰な態度でカイが乗る。既に波のように押し寄せるモンスターとの距離が15メートルを切っている。
この数では受身にならざるを得ない厳しい状況にも関わらず2人の顔は笑顔だった。
カイは飛び上がり空中で一回転すると、得意の踵落としを先頭を走っていた石鱗リザードの脳天に落とす。エーテルに還っていく石鱗リザードを踏みつけカイは笑顔で次々と飛びかかって来る相手に殴りかかっていった。
「次!!」
「俺も負けらんねぇ!!」
魔術の準備が完了したハジメの闘争心剥き出しの爆風がアビスに吹き荒れ周囲のモンスターを吹き飛ばす。
その後の探索に於いても度重なる小さなイレギュラーをお互い競うようにして突破した数時間後、パキラオフィス内では、とても上機嫌なハジメの姿と絶望感に苛まれたカイの姿が見られた。風魔術の範囲攻撃は数を競う上でとても有利だったのだ。
「よっしゃー」
「くそっ、まけたぁー」
だが試合に勝っても勝負に負けたという言葉があるようにただハジメの1人勝ちでは終わらなかった。凛の鶴の一声で状況は一変する。
「そんな希少素材を売る予定なんてまだねぇよ。しかもそれ1個しかないんだろ?腐る前に食用に決まってるだろ」
「「えっ?!」」
後日この時の事を胡桃はこう語る「同じ言葉でも込められた感情はまるで違って面白かったです」




