閑話 上のステージ
カイとハジメがジャイアントスパイダーを倒す数分前、深度2エリアの正道ではちょっとした騒ぎになっていた。
「うわっ!!アーサーじゃん。遠征帰りかな?」
「いや、皆んなオーラ凄いよ!!やっぱ率いる奴が違うとメンバーにも貫禄が付くのかな」
「それは俺が頼もしくないって言いたいのか?」
「「冗談すよリーダー」」
「お前らぁ…」
アーサー・ガルシア、未だ33歳にしてアビス探索でトップランクの業績を叩き出している探索会社エクスの社長をしており、自身も探索チームの隊長としてチームを引っ張り上げ今の地位を築いた人物。
そんな人物によって率られている数十人の遠征隊の面々も若手が多いのにも関わらず、周りの探索者が畏怖する程の歴戦の戦士の空気を纏っている。
中間どころの冒険者達は畏怖し自然と道を開け、憧れと羨望、或いは嫉妬の眼差しを向ける。
(((彼等にとっては深度2エリアなんて脅威になんてならないのに、あの集中力流石はトップクラスの冒険者達だ)))
「あー、早く帰って飲みに行きたいなぁー」
「アーサー、そうは言うがお前、帰ったら溜まった仕事を片付けなきゃ秘書の子が怒るんじゃないか?」
「う、それを言うなよなクリフ脚が重く感じる」
深度2エリアと深度1エリアの境目である赤い岩壁フロアに入って直ぐの事だ。
他の冒険者がいなくなった途端、帰還後にお酒を飲みたいと、未だアビス内にいるにも関わらず能天気にそんな事を宣うアーサー。
しかし、アーサーは右後ろを歩く30代後半の中年男性のクリフに釘を刺されオーバーリアクション気味に項垂れる。
チームのメンバーから尊敬を多く集める隊長と副隊長の気の抜けた雰囲気に影響されてか、気を張っていた彼等の後に続くメンバー達からも次第に笑顔や冗談が飛ぶ様になる。大体の人間は上司が頑張っているのに目の前でふざけられないのだ。
もう直ぐ赤い岩壁を抜け深度1エリアに入る為、もう自分達の命を脅かす様な事は起きないだろうと皆地上へ帰還した後の予定を口にしていると、1人ブルーベージュの長髪を靡かせながら少女が最後尾から小走りでアーサーの所までやってくる。
「あの、リーダー」
「ん?どうしたアリスお前も飲みに行きたいのか?酒はまだダメだお前はまだ未成年の高校生だからな」
「あ、飲みにはいきたくないです」
「つ、冷たい、これが新世代か…はっ?!まさか有給申請か、いいだろう羽を伸ばすがいい」
「それもちがいます」
「なんだ違うのか、じゃ何だ?」
「2人程あっちで死にかかってますけど、どうします?ほっときます?」
「「ハヨ言えぇ?!」」
アリスの予想の遥か斜め上の報告にアーサーと横で笑って話を聞いていたクリフまで思わず突っ込む。
規模が小さい会社ならともかくアーサー程の冒険者になると、こうした浅い階層での人命救助は義務みたいなものである。
「クリフ、あとは頼んだ!!医療班!!悪いが何人か付いてきてくれ!!アリス案内頼むぞ」
「「「はい」」」「わかった」
アーサーは副隊長の役割を担っているクリフに本隊を任せ、急いで隊から何人か自分につけてアリスの案内に従って救助に向かう。
「しかし、よく気付いたな。感心だ」
「マナを読むの得意なんです」
「ハハ、若者の成長は嬉しいな」
アリスの先導の下カイやハジメの進行速度とは比べ物にならないスピードで巌窟の迷宮を踏破していく。数分後アリスが脚を止めた先には、モンスターを大量に引き連れた赤髪の魔術使いがいた。
「アリス片付けろ」
「了解」
アーサーの端的な指示を短い言葉で了承したアリスは帯刀していた刀を抜き去りモンスターの大群をものの10秒程で全て斬断する。
「ハァハァ…すげぇ、ハァハァ、ってカイ?!」
助けが来たとわかって気を緩めてしまったハジメは足がもつれて転んでしまう。這い蹲って息を切らし汗を垂らしながらも先程の光景を見ていたハジメは、思わず心からの言葉を漏らすが、直ぐに仲間の安否を確認しようと慌て始める。
「安心しろ。もう大丈夫、俺の仲間が診ている。相方が何にやられているか分かるか?」
「ジャイアントスパイダーの毒だ。ハァハァ、早く病院に連れてかねぇと」
アーサーはハジメを安心させる様に言い深呼吸させる。診断を受けているカイを見て落ち着いたハジメは、今にも倒れそうになるのを根性で我慢しジャイアントスパイダーの毒に侵されている事を伝える。
「これ程の傷と毒を貰って生きてるなんて、駆け出しなのに凄い生命力だな……隊長」
「あぁ、今すぐ解毒薬を打ってやれ、アリスそのまま地上まで道を切り開け、殿は俺が担当する。急いでこいつらを病院に連れて行くぞ」
「「「了解!!」」」
ーーーーー
数時間後、クリフが帰りの足が無いだろうと、送ってくれた迎えの車に乗り込んだアーサーはアリスと会社に向かっていた。
「助かりそうで良かったですね」
「あぁ」
「リーダー機嫌良さそうですね。そんなにあの冒険者が気に入ったんですか?」
「…達だな。」
「へぇ、」
余裕の笑みを浮かべるアーサーは、窓の外に広がる地上の景色を楽しみながら新たな時代に思いを馳せるのだった。




