23話 迷子
昨日採った黄色輝石に続いて他の素材を目標数集める為、カイとハジメは深度1エリアの中でも震度2エリア近くに巣を張っているジャイアントスパイダーを除き1番収集数が悪い石燐リザードを率先して狩っていた。
いつも都合よく接敵するわけではない。時には奇襲を冒険者から仕掛ける事もある。カイとハジメは通りの角を曲がって行った石燐リザードの跡を追う。
ハジメの魔術の足止めが、上手く行き追いついたカイの蹴りが石燐リザードの命を奪う。エーテルへと還った石燐リザードが居た場所には、数分の追走の甲斐もあり、モンスタードロップした石燐があった。
「カイやったな」
「ああ、これで70枚突破だ」
今まで持ち帰った石燐と現在バックパックに入っている石燐、そして最後に現在カイの手にした石燐を合計すると丁度70個になる。
「そろそろ帰るか」
「だな、ツルハシの振りすぎで筋肉痛も酷いしな」
「確かあっちだったよな」
「…あぁ多分な」
帰るまでが遠足という様に、帰還までが探索だ。狩りは一見順調に進んでいるかに見えたが、実際には深追いして、正確な現在地を見失わせていた。
マッピング技術も無く、最近業界を騒がし始めているマッピング用の高級機器も無いのに欲を出し過ぎてモンスターを蹴散らしていたのが問題だったのかもしれない。
暫く来た道を戻ったが、2人して記憶が飛んだのか足を止めて、お互いに顔を見合わせる。
「なぁ、これ」
「言うな。まだ決まったわけじゃ無い。きっと気のせいだ」
ハジメの言葉を信じ、気を取り直してそのまま辺りを行ったり来たりしてみるが、2人の顔色は一向に良くならなかった。2人はもう一度顔を見合わせる。
「なぁ、ハジメ」
「言うな。虚しくなる。」
この時漸く冒険者カイとハジメは、自分達がアビス内でまさかの迷子になった事を自覚した。対処法は経験と知識が無さ過ぎて分からない。
「正道を探そう」
「まぁ、それがセオリーか」
壁に多少の傷を与えても暫くすると再生されてしまう為、印を付けて攻略するのは得策ではないという胡桃の教えはしっかりと覚えていた2人は、国が公開した正規のルート『正道』目指して足を前に出す。
しかし現実はそんなに甘くない。彷徨う事、1時間一向に正道にでれない。正道探しの過程で多くのモンスターと対峙した2人は目標数を大きく更新するが、表情は暗くなるばかりだ。
無理もない。折角手に入れたとしても生きて持って帰らねば意味がないのだから。
「ハジメ、汗凄いぞ。少し水飲むか?」
「あ、あぁ俺は大丈夫だ」
(この状況が続くなら貴重な水は気軽に飲めないな)
ハジメはそんな事を考えていると、ゴクゴクと音が聞こえ嫌な想像をしながらもカイの方を向く。
「ん?」
予想通り、カイは勢いよく運動部が使う様な大きな水筒を両手で抱え、中の水で口一杯に膨らませていた。ハジメは飲み終わったカイの頭を強めに叩きながら叱りつける。
「このバカー?!迷子の今水はとても貴重なんだぞ!!何ゴクゴク飲んでんだぁ?!」
「しょうがねぇだろ、動き回って喉乾いてんだよ?!帰り道見つける前に脱水症状で倒れるわ?!」
「俺は、量の話をしてるんだよ!!」
「ゲロ」
「「…」」
そのまま暫く2人のじゃれあいにも見える喧嘩が続くかと思われたが、モンスターという意外な仲裁者のお陰で正気に戻る。
「…早く正道探そうぜ」
「…だな」
喧嘩の怒鳴り声で集まって来たシアンフロッグを始めとした多くのモンスターを掃討した2人は、再び正道を目指してアビスを彷徨う。
「右だ」
「わかった」
「今度は左だ」
「…わかった」
「良し、真っ直ぐだな」
「……ハジメ」
「ん、どうした?」
「これ道、本当に合ってるのか?」
最初は年長者の俺に任せろと言ったハジメを信じ、彼の指指す方向に向かって進んでいたが、いくら進んでも正道に出れない事から、カイは疑念の目を向ける。
「まぁ、今に見てろ。お前の望んだ結果はもう直ぐそこだ」
「本当かなーなんか段々下に降っている様な気がするし心配だ」
「気のせいだろ。ほら行くぞ
「…心配だ」
2人がそのまま進んでいくと周り岩壁の色が段々と赤味がかった通路に辿り着く。流石にハジメもこのまま進んでも正道には出れないと思い、道を間違えたと素直にカイに謝ろうと振り返る。後ろに居たカイは冷や汗を流しながら臨戦体制になっていた。
ハジメはそれを訝しんで、訳を聞こうとした瞬間寒気がする程の凶暴な気配を第六感が捉え自分も杖を構える。
洞窟の奥から八つの赤い目が現れる。そして、糸を吐き出しながら現れたその姿を見て2人は、モンスターの正体を知る。カイ達が意図して避けていた深度1エリア最強のモンスター、ジャイアントスパイダーだった。
ジャイアントスパイダーの出現エリアから大体の場所がわかった2人は自分達が、深度2エリア近くまで潜っていた事を知る。
「その…ごめんな」
「もう2度とお前に道を選ばせない」
カイの有無を言わせない宣言と同時に戦闘が始まる。




