レフト 一瀬桜花
夙河女子高校
1、一 三谷 響(3年)
2、二 甘城 四季(2年)
3、三 月 樹(2年)
4、右 七篠 瞳(3年)
5、捕 双葉 咲(2年)
6、中 七篠 凛(1年)
7、投 笹原 さやか(2年)
8、遊 甘城 六花(1年)
9、左 一瀬 桜花(1年)
ベンチ 重垣 唯(3年)
試合の始まるほんの少し前、私は笹原さやかさんの投球練習を外野から眺めている。
ばらつきのあるフォームや、萎縮していることが丸わかりなその背中は、彼女が投手として経験不足であることを叫んでいるように思えた。
体がプルプルと小さく震えた。
太陽の位置さえ教えてくれない曇り空が、異常なほどの蒸し暑さで脳裏に浮かんだ最初の理由を否定してくる。
…それでも、決して野球が楽しみだから体を震わせているわけではないと、私自身は断言できる。
左手につけたグローブについ目線を送った。その中に、おもむろに右拳を突っ込む。
小さい頃、若葉とゲームの取り合いをした記憶が現状と重なった。…きっと、これはその類の醜い感情。
また、笹原さんのそれを眺めてみる。体の震えが、ソワソワとする感覚が、さらに強くなった気がした。
"私と代わってよ"
幼い私の声が、脳裏から強く響いた。
「…投げるって、言えば良かったのかな」
小さな私の声は、グラウンドに響くはずもなかった。
審判の声が聞こえた。そこから一呼吸ほど置いて、小柄で左打ちの先頭打者相手に笹原さんはボールを投げる。
初球は、外角に大きく外れたボール球のストレート。そして、ほぼ同じコースにもう一球。次に、外角ギリギリのボール球を一つ。
…ずいぶんと呆気なく追い込まれたな。
「落ち着いてこー!」
キャッチャーである双葉さんのそれを皮切りに、内野手も総出で彼女を安心させるよう呼びかける。
それに対して、笹原さんも何かしらの返事をしたようだ。それは、外野の私には聞こえないほど小さなものだったが。
「ストライク!」
外角ギリギリのボールを見て、審判はそう叫んだ。しかし、双葉さんが構えていたコースは、超をつけても良いほどのど真ん中。どうやら、球威もコントロールもかなり微妙なようだ。
…いや、全球外角に投げてるあたり、むしろコントロールは良いのかも知れない。
現役の野球人に対して失礼すぎることを考えていると、ふと打席に立っているバッターと目があった。
心の内を読み取られたのではないか。そう錯覚してしまったタイミングだったが、その目つきから私は一つ確信を得た。
彼女からの目線が外れたのを確認し、つま先をトントンと左右交互に叩く。昨日の雨の影響か、湿った砂がジャリジャリと返事してきた。
そこから数秒が過ぎ、五球目。審判のコールより先に、キーンと高い金属の音が響いた。
少し甘く入った外角の球をきれいに流した打球は、跳躍した三塁手月樹さんのほんの少し上を超える。そして、レフトの守備位置にいる私の方へと鋭く飛んでくる。
落下地点は、私の守備位置とファールラインのちょうど間ぐらい。ここから一直線でそこに向かえば、ボールへと向かう私とファールラインの二つで、数学でよく見かける"直角に交わる線"のようになるだろう。
ボールの軌道を見つつ、歯を食いしばりながらそこへ全力疾走。
…ギリギリ間に合うな。
ギャンブルプレーは好みじゃない。だが、あまりに予想通りすぎる展開が私を得意にしたのだろう。
ともかく、私はその場所へ足から滑り込むことにした。グローブを付けた左腕を、目一杯伸ばす。
パシっというような、あからさまな音は出てこなかった。しかし、硬球の重みは左腕全体でハッキリと感じられた。
ボールの入ったグローブを、塁審に見えるように軽く掲げる。コールを確認した私は、中のボールを同級生の方の甘城へと送った。
手持ち無沙汰になってしまった私の右手は、体の前面を通ってジャージの左太ももの付け根辺りを触る。
摩擦熱の温もりと、湿気った砂の冷たさの両方を破けた部分から感じた。
ずいぶんと弱い材質だ。…このジャージは。
つい、私以外が着ている白を基調とした野球のユニフォームと、私が着ている紺色の学校指定ジャージを見比べる。
今更ながら、強い疎外感を覚え始めた。
追記、キャラの名称を変更




