6月1日
「双葉さん、自分で良ければ助っ人をさせて貰えませんか?」
彼女の教室に出向いていた私は、一方的にそう告げた。
「…うん!うん!いいよ大歓迎!」
大喜びしながら私の手を握って、彼女はそう言った。下から見上げてくる目線から、私は顔を少し逸らす。
「それなら、部長と先生には私から伝えておくから、その日はよろしくね。桜花ちゃん」
「そういえば、一つ聞きたい事があるのですが」
用事があるのか、いそいそと教室に戻ろうとしたであろう彼女を呼び止める。
「私の弟と、いつ知り合ったんですか?」
「それは…。内緒にさせて欲しいかな」
困ったように笑い、彼女はそう言った。
昼ごろの出来事を、昨日キャッチボールをした公園を横切ろうとした時に思い出した。
"野球が、試合ができる"、その記憶はそう言っているように思えた。同時に、"もう後戻りはできないぞ"とも。
高揚感と不快感が入り乱れた心に対して、私はこう唱える。
当然だ、"私"は野球が好きだから。
そして、好きな物事を楽しみにしてしまうのは、抗えない自然の摂理だ。
しかし、"私"は野球を手放したいらしい。
だから、土曜日の試合で全ての決着をつける。そうすれば、少なくともこの苦しい思いから解放されるはずだから。
蹴り飛ばした石ころが、コロコロと側溝に落ちていった。
私はそれから視線を外した。なぜか、その石ころが側溝から這い上がってこようとしているような、そんな気がしたから。
「はぁ」
不快感のみが、より一層強くなった気がした。
「よろしくお願いします!」
私を含めた複数人の声が混じり合ったその音は、この学校の校舎まで届くほど大きいものだっただろう。
ともかく、その日はすぐに訪れた。




