春眠暁を覚えず
「…眠い」
目もとを擦りつつ、そう呟いた。その声に反応を示すものはいない。
時計を見ると、短針が9を指そうとしていた。
若葉は既に学校、父さんと母さんも働いている時間。…どうりで物音ひとつ無いわけだ。
それはそうと、完全に遅刻だな。
状況整理が頭の中で行われたのち、私はようやくこの事実を受け入れる。
ため息を一つ吐いてから、学校に遅刻する旨を電話で伝えることに決めた。
電話前にポットで沸かしておいたお湯を、カップラーメンの容器へと注いだ。
そして、太陽の見えない曇り空を窓越しに見つめてから、冷蔵庫の中にある飲み物を探す。中には、凹んですらない昨日のスポーツドリンクが入っていた。
それを見て、昨日の一件がフラッシュバックする。
また一つ、ため息を吐いた。
お茶を取り出した私は、バタンと冷蔵庫を閉める。そして、コップと共にリビングのテーブルまでお茶を運んだ。
休むって連絡しとけば良かったかな。
ふと、そんなことが頭によぎる。今日はどうにも授業に集中できる気がしない。体だるいし。
二分に設定されていたアラームが鳴り響いた。なんとなく、今日は柔らかめの麺が食べたいなと思い、蓋を開けずにもう少し待つことにした。
「やっぱり、カレー味が一番だな」
そう独り言を呟いた私は、テーブルを片付けてからお茶を冷蔵庫に戻す。欲を言えば、白ごはんが用意できればもっと良かったのだが、まぁ仕方ない。
リビングのソファに寝転がった私は、何かが重くのしかかっているような感覚を感じつつ、目的もなくスマホでネットニュースを眺める。
学校は、もうすぐ1時間目が終わる頃だろうか。
そんなことを考えてしまう生真面目な自分が、どこか憎たらしい。
下へ下へとスワイプしていくと、"柚山 直"という文字が書かれた見出しが目に止まった。反射的にスマホの電源ボタンを押してしまう。
画面が消えたスマホをじっと眺めて、ソファにポイと投げつける。
それは、かつて同じチームだった投手の名前だ。
女子中学最強投手と呼ばれていた彼女は、当然中学でも1番を背負っていた。だから、私の登板は踏み荒らされたマウンドを譲ってもらう形が基本となる。
つい、あの夏の日の断片を思い出した。任せたよと、震えた声でそう呟いた彼女を鮮明に。
いつの間にか、ソファに腰掛けてスマホを手に取っていた。顔認証が反応しないことにじれったさを覚えて、パスコードを入力する。
そのインタビュー記事にはカギカッコでこう書かれていた。
「レギュラーの次は、優勝を勝ち取るつもりです。」




