第29話 変人の夏祭り
夏祭りの会場である来栖高校の校庭は大勢の人で賑わっていた。
サッカーコートが全部入りきらない程度の広さしかない校庭が、端から端まで人で埋め尽くされている。敷地を全て巡るのは簡単だが、人探しをするには骨が折れそうだ。
「どこにいるんだ……?」
さっきから朱美に電話をかけているのだが繋がらない。単に気づいていないだけか、あるいは俺からの電話を取る気はないということなのか。
いずれにせよ、直接この目で見つけ出すしかないようだ。俺は無数に建ち並ぶ屋台の間を駆け抜け、見知った後ろ姿を探す。
「────あっ」
その最中、大勢の人に紛れて挙動不審な動きを繰り返す少女の背中が目に入った。
「ど、どうも……」
彼女も俺に気づいたようで、気まずそうにペコリとお辞儀をしてくる。
周りが皆夏らしい浴衣を着ているというのに、コートを羽織ってマフラーを巻いていやがる。そんな奇抜な服装をするのは犬山三春ただ一人だ。
「お前、こんな祭り来るんだな。てっきり人混みを嫌がるタイプかと思ってた」
「ひ、人混みは……嫌いです……でも、高校二年生の夏は……一度切りですから……」
犬山はおどおどした口調で青春の最前線みたいなことを言う。もしかしてこいつ、意外と前向きな性格なんだろうか。藁人形に釘打ち込んでそうな雰囲気なのに。
「今日は……彼女と一緒では……ないんですか?」
「彼女?」
「前に……一緒に映画を見に行っていた……」
ああ、合歓木先輩のことか。そりゃ犬山を納得させるために偽装デートをしていただけだからな。あの日だけの一日彼女だ。一緒に祭りへ来るわけもない。
「まあ、色々あったんだよ」
「色々……ですか」
犬山の口角が、顔の下半分を埋めるマフラーから突き出るくらいに吊り上がる。
「別れたんですか……?」
「そんなとこだよ」
やけに嬉しそうだな。人の別れ話がそんなに面白いのか。
「それは……お気の毒ですね。可愛らしい方だったのに……どちらから別れを切り出したんですか……? やはりお相手の方ですか……?」
「どうでもいいだろ、そんなこと……」
「なるほど……言いたくないと。それならそれでもいいです……また新しい恋に向けて頑張ってください……応援してますから……もし私にできることがあれば言ってください」
「何だよ。やけに協力的だな」
「私は恋愛が成就する寸前のぎこちなさとか……別れた直後のもどかしさとか……そういうムズムズするような人間関係が好きなんです……お祭りではそういうのがたくさん見られて……眼福です……うひ、うひひ、うひひひ、うひひひひひひひひひひ」
「ああ……そう……」
何とも言えない変な趣味だが……本人が楽しそうなので良しとしよう。というかあんまり深く関わりたくない。笑い方が怖い。
それより、俺はこんなところでこの変人と雑談なんかしている場合ではないのだ。一刻も早く朱美を探し出さなくては。
「あ、そうだ。お前、朱美がどこにいるのか知らないか?」
「え、朱美様……ですか?」
その名前を出した途端、犬山は奇妙な笑いを止め、目つきを猛禽類のように鋭くする。
「今度こそ朱美様と付き合うつもりですか?」
「い、いや、そういうわけじゃない。ただ……ちょっと用事があって探してるだけだ」
「……そうですか。それなら探すまでもないと思いますよ」
「え?」
そう言って犬山は、校庭の一角にある一際大きなテントを指さす。
「あの下には来賓席があるんですが……朱美様はそこにいます。ただ、会いに行くのは難しいと思いますよ……? あそこには相当な人だかりができていますから」




