第27話 ある家族の話
うちの家族は仲が良かった。
飯は可能な限り四人全員で一緒に食べるし、夜は四人でテレビの前に並んで同じ番組を見た。休日には毎週のようにどこかへ出かけ、山のように写真を撮ってアルバムにした。
誕生日やクリスマスには必ずプレゼントが貰えた。母の日や父の日には必ずプレゼントを用意した。卒園式や入学式には両親ともに来てくれた。お祝いの日は家でちょっと豪華な料理を食べた。
今思えば、それはあまりにも窮屈な日々だった。きっと父さんも、母さんも、姉さんも、そして俺も、家族全員が家族全員のことを好きだったことは間違いないんだと思う。
だが、好きであるという感情はどうしても相手に期待を押し付けてしまうものだ。
好きな人から誕生日を祝われたら嬉しいだろう。だったら自分も相手の誕生日は忘れずに祝わなくてはならない。
父さんが毎週仕事の疲れも見せずに家族サービスをすれば、母さんだって文句を言わずに父さんを労わなくてはならない。
母さんがお祝い事の日に豪華な料理を作れば、父さんだってその日は仕事をどうにか切り上げて一緒に祝わなくてはならない。
姉さんの授業参観日には、二人ともどうにか仕事に都合をつけて出席した。だから姉さんだって父さんが遊びに行こうと言えば友達との約束を断ってまでついて行ったし、母さんが美味しいものを食べに行こうと言えば部活の大事な大会前であろうと一緒に出掛けた。
全員が全員を愛していて、お互いのために頑張っていたはずだった。それがいつの間にか呪いのようになっていて、家族は家族のために幸福であることが義務付けられていた。
その異様な空気を、まだ幼かった俺ですら感じ取っていたのだから、他の三人が何も感じないはずはない。
結果、誰もその呪いを解くことはできないまま、家族は空中分解した。誰が悪かったわけでもない。ただ俺たち家族にとって、家庭は心休まる場所ではなかったんだ。
両親は離婚し、俺たち姉弟は母さんに引き取られた。しばらくの間は三人で暮らしていたが、一人になってしまった父さんに気を遣ったのか、次第に一緒にいる時間は短くなっていき、姉さんが成人した今では月に一度顔を見せる程度になっている。
父さんとも数か月に一度会うかどうかだ。母さんも父さんも、俺たちに会う時は何かしらプレゼントを用意してくるので、こっちも相応の準備をして出迎える。
そうやって無駄な手間をかけて、相手に気を遣わせる癖は家族全員未だに変わっていない。だが俺にはわかる。そうやって相手に尽くさないと、不安で仕方ないのだ。だから俺たち家族はバラバラになるしかなかった。
別に寂しいとは思わない。俺は今の生活に満足している。親がいないと不都合なことは多々あるが、それだって姉さんがどうにかしてくれるので大きな問題はない。だからこれは別に悲劇でも何でもない、ありふれた人間同士のすれ違いの話だ。
ただ、俺はこう思う。
もし家族の仲がもっと悪ければどうなっていただろう。
お互いのことが嫌いだったら?
いちいち気なんか遣わず好き勝手振る舞っていたら?
常に本音で語り合うような仲だったら?
人から好かれたっていいことなんかない。人から嫌われ、避けられてこそ、快適な人生を送ることができる。
不良でもいい。問題児でもいい。
それで一緒に居られるなら、そっちの方が俺は良かった。




