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イチノセ・イチカ 3-① 告白

 窮屈な人生だな、と思いながら生きてきた。


 ママもおばあ様も、ひいおばあ様もエフィアを持って生まれ、イチノセ家の嫡女として鑑定士として生計を立てるための知識を詰め込まれ、子どもを残して、家を守るだけの人生を送ってきた。


 伝統、しきたり、慣習と呼ばれるそれを、わたしも同じように背負わされている。受け入れる以外の選択肢なんて、この世に生まれ落ちた瞬間からなかった。


 幼い頃から耳にタコができるくらいにエフィアの価値とやらを説かれてきたし、金銭的にも何不自由ない生活をさせてもらってはいるけれど、年齢を重ねるにつれて押さえつけられてきた小さな反発心がわたしの中で大きく膨らんでいくのを感じていた。


 パパへの、いや、イチノセ家への反抗方法として思いついた手段は、イチノセ家の正統継承者を途絶えさせること――つまり、子どもを作らないことだった。


 わたしたちが背負ってきた重圧や危険を、自分の子どもには絶対に背負わせたくないと思ったから。


 こんな我儘、絶対に口に出してはいけないとわかっている。だからこそ表向きは、パパに言われるがままに見合いの数だけはこなしてきた。


 二十歳のリミットまでに誰かを好きになって金色の瞳になり、イチノセ家の象徴として振る舞うために、努力をしている振りをした。


 だけどそれはあくまでフェイクだった。実際に瞳の色が変わってしまえば、エフィアを狙われる確率を自ら上げてしまうだけに過ぎない。だからわたしは、特定の人を好きにならないと心に決めていた。


 あれはいつだっただろうか。ケイに聞かれた好きな異性のタイプに「腹黒い人」だと答えたのは。わたしを利用し、わたしを裏切るくらいの人の方が、アプローチを受けても罪悪感を抱かずに断れると考えていたからだ。


 婿候補を少しでも増やしたいパパの意向で、十五歳になったその日から、わたしと一番顔を合わせる機会が多い直属ボディーガードには決まって器量の良い男性が配属された。


 わたしは一番身近にいる人間を、自分がこの先決して持つことのできない()()と仮定して接してきたから、彼らからしてみれば気持ち悪い女でしかなかっただろう。だけど、付き合わせてしまって申し訳ないと思いつつもやめられなかった。


 今までたくさんのボディーガードが仕えてくれたけど、今現在、わたしの護衛をしてくれているタカヒト、ケイ、ノエル……年齢も出身も性格も全く違うこの三人には特に感謝している。命の危険が伴う仕事で制限も多いのに、文句を言わずに全うしてくれているからだ。


 それに、内心どう思っているのかは置いておくとして、わたしの気持ち悪い家族ごっこにも嫌な顔一つせずに付き合ってくれる。


 だからこそ、いつももらってばかりのわたしは、いつかは彼らのために何かしてあげたいと思っていた。


          ◇


「知ってたよ」


 わたしの一言がそんなに意外だったのか、ノエルは戸惑い、狼狽しているように見えた。


「え……? し、知っていた、とは……?」


「全部、知ってたんだよ。ノエルが本当はS・P・F所属の会社員じゃなくて、紅蓮一家のメンバーだってことを。それに、ノエルだけじゃなくてタカヒトもケイも、皆わたしのボディーガードをしながらエフィアを狙っていることも、ずっと前から知っていたんだ」


 ノエルの顔色はより一層青白くなり、何かに怯えるように頭を抱えながら声を上げた。


「そっ……そんなの嘘です! エフィアを狙う連中に優しくできるはずがありません!」


「嘘じゃないって。自分で言うのも変だけど、おまえたちは世界七璃を甘く見すぎている。直属のボディーガードなんて、最もわたしの近くにいる人間だよ? 配属される前の身辺調査は世界一厳しい機関にチェックされているよ。それがたとえ警察とも蜜月関係にある紅蓮一家でも、報告を欺いたりはできないよ」


 三人にはそれぞれ皆、隠している出自や過去がある。それらをすべて知ったうえで、わたしは彼らを採用しているのだ。


「……な、なぜですか……? あなたの瞳を狙っているとわかっていながら、どうして私たちを採用し、側に置いたのですか……?」


 隠してきた秘密を自分から話してくれたノエルに対して真摯でいたいと思ったわたしは、彼には知られたくなかった情けない事情を包み隠さず話すべきだと思い、息を吸った。


「……卑怯かもしれないけどさ……複雑な家庭環境下で育てられて、わたしと同じように家族に飢えていそうな人だったら……わたしの家族ごっこを、すんなり受け入れてくれるんじゃないかって思ったんだ。ボディーガードの採用はわたしに一任されていたからね。権限を利用して、好き勝手選ばせてもらったよ」


「好みの人を自分で選びたいから」とパパには伴侶を選ぶ気満々の素振りを見せておいて、裏をかいたのだ。まさかエフィアを積極的に狙ってくる男を側に置くなんて自殺に等しい行為に及ぶとは、パパも予想できなかっただろう。


「そこまでして家族を求めるのかって、引いたよね? ……それでも、おまえたちには気を遣わせてしまったとは思うけど、わたしは幸せだった。共に過ごす時間を重ねるごとに、知らない部分を知れたり、感じたことを共有したり……わたしにとっては本当に、三人は家族だったんだよ」


 振り返れば、楽しかった記憶ばかりが思い出される。彼らのためなら、目の一つや二つ惜しくはないというものだ。


「だから、この目はノエルにあげるよ。知らない連中に持っていかれるよりも、三人のうち誰かに獲られるなら本望だ」


 ボディーガードからエフィアを奪われたと知ったらパパは、「鑑定士のくせに人を見る目のない、イチノセ家の面汚しめ」とわたしを罵倒するだろう。


 だけどわたしは反省するつもりなんてない。まあ、自分勝手な性格だけは謝罪しようとは思っているけれど。

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