第二十八話「無限ガチャホール『運命』」
>視点座標:nの次元 NCity 無限ガチャホール「運命」
>話者:複数(来場者)
>記録取得方法:来場記録および賭博台帳からの直接抽出
——一「来場者・NCity在住個体Aの記録」
入口に列があった。
どこまで続いているか見えなかった。
並んだ。
入った。
台が並んでいた。
ガチャの台が、どこまでも並んでいた。
全部の台が稼働していた。
全部の台に、誰かがいた。
台の前に着いた。
説明書きがあった。
読んだ。
——二「賞一覧・掲示物より採取」
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無限ガチャホール「運命」
排出物一覧
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通貨:寿命・才能・記憶・来世・現在 のいずれか一単位
投入した通貨は返却されない
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【上位レア帯】 合計排出率:九七%
レア(排出率:一五%)
七つの大罪のうちひとつに対応した恩恵が付与される
(「傲慢」:全ての存在に対して上位に立つ認識が確定する)
(「強欲」:触れたものの所有権が自動的に移転する)
(「色欲」:対象を問わず相手の感情を書き換えられる)
(「憤怒」:怒りがそのまま物理的破壊力に変換される)
(「嫉妬」:他者の才能・幸福・寿命を自分に転写できる)
(「暴食」:あらゆるものを摂取して自分の力にできる)
(「怠惰」:何もしなくても全てが勝手に最適化される)
恩恵は永続。取り消し不可。
スーパーレア(排出率:一三%)
レアの恩恵+チートスキル一つが付与される
(例:無限蘇生、物理法則の書き換え、過去の改変、
未来の確定、記憶の全消去と再書き込み、
他者の寿命の任意操作、概念の創造と消滅)
ウルトラレア(排出率:一一%)
上記全て+チートスキル三つ+
居住する世界線の完全な支配権
シークレットレア(排出率:九%)
上記全て+隣接する百の世界線の支配権
ゴールドシークレットレア(排出率:八%)
上記全て+一万の世界線の支配権+
全世界線住民への命令権
プレミアムゴールドレア(排出率:七%)
上記全て+百万の世界線の支配権+
世界線の生成と消滅の権限
ホログラフィックレア(排出率:六%)
上記全て+全多元宇宙への認識権限+
時間軸の任意操作
ウルトラシークレットレア(排出率:五%)
上記全て+多元宇宙の再編成権限+
物理法則の根本からの書き換え
プリズマティックシークレットレア(排出率:四%)
上記全て+nの次元へのアクセス権+
M社のシステムへの部分的な介入権限
20thシークレットレア(排出率:三%)
上記全て+M社のシステムへの完全な介入権限+
全世界線の因果律の書き換え権限
KCウルトラレア(排出率:二・五%)
上記全て+存在の概念そのものの定義変更権限
MIRACLEカード(排出率:二%)
上記全て+「奇跡」の概念の独占使用権
セレミアムシークレットレア(排出率:一・五%)
上記全て+全時間軸・全多元宇宙に跨る
完全な全知全能の付与
マスターレジェンド(排出率:一%)
上記全て+引いた者が新たな「神」として
独立した多元宇宙を創造する権限
プリズマティックシークレットレアパラレル(排出率:〇・五%)
上記全て+平行世界の全ての自分が
同一の権限を同時に取得する
10000シークレットレア(排出率:〇・五%)
上記全て
+全世界線・全時間軸・全多元宇宙における
完全かつ永続的な絶対支配権
+M社を含む全ての上位存在への命令権
+存在・非存在・概念・虚無の全てに対する
創造・破壊・編集の完全な権限
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【レア帯】 排出率:二%
Foilカード(排出率:一%)
光る。それだけ。
パラレルレア(排出率:一%)
特になし
ただし平行世界の自分も同じものを引いている
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【ノーマル帯】 合計排出率:〇・〇九九%
ノーマル(排出率:〇・〇五%)
特になし
コモン(排出率:〇・〇三%)
特になし
アンコモン(排出率:〇・〇一九%)
特になし
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【ハズレ帯】 排出率:〇・〇〇一%
ハズレ(排出率:〇・〇〇一%)
直前のハズレ発生時点から現在までに
このガチャホールで排出された全恩恵の累積コストが
引いた一個体に集約される
負債の規模は累積排出量に比例する
引かれたレアが多いほど負債は大きくなる
引かれたレアが少なければ負債も小さい
負債は寿命・才能・記憶・来世・現在の全てを超えて
存在の根本から差し引かれる
支払いが完了した時点で次のサイクルが始まる
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合計:一〇〇%
※ノーマル帯を引く確率はハズレを引く確率の九十九倍
※ハズレを引く確率は〇・〇〇一%
※一回引けば九七%の確率で何らかの上位レアが出る
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——三「来場者・NCity在住個体Aの記録・続き」
一覧を読んだ。
引かない理由がなかった。
寿命を一単位投入した。
腕を引いた。
マスターレジェンドが出た。
独立した多元宇宙の創造権限が付与された。
また引いた。
10000シークレットレアが出た。
また引いた。
——四「来場者・NCity在住個体Bの記録」
一覧を読んだ。
ハズレの内容を確認した。
無限世界線の全住民への恩恵付与の負債が一身に集約される。
引かないことを選んだ。
台から離れた。
スタッフが来た。
「次の台に案内します」とスタッフが言った。
次の台に移動した。
また一覧があった。
同じ一覧だった。
引かないことを選んだ。
また次の台に移動させられた。
七十三台目で、計算した。
レアの最低排出率は三五%。
ハズレの排出率は〇・〇九九%。
レアを引く確率の方が、ハズレを引く確率より約三百五十三倍高い。
引いた方が合理的だった。
台の前に立った。
腕を引いた。
——五「来場者・別の世界線からの迷入者・人間・男性・三十一歳」
気がついたら中にいた。
一覧を読んだ。
「10000シークレットレアが排出率三五%」と書いてあった。
三回に一回以上の確率で、全多元宇宙の絶対支配権が手に入る。
「ハズレが〇・〇九九%」と書いてあった。
千回に一回の確率で、無限の負債を一身に負う。
計算した。
引けば引くほど、期待値は圧倒的にプラスだった。
引かない理由がなかった。
引いた。
10000シークレットレアが出た。
全多元宇宙への絶対支配権が付与された感触があった。
また引いた。
また出た。
また引いた。
また出た。
百回目を引いた。
10000シークレットレアが出続けた。
百一回目を引いた。
一覧を読んだ時には気にしなかった何かが、頭の隅にあった。
千回に一回。
百一回目を引いた。
ハズレだった。
——六「台帳記録・本日分」
本日の総投入数:計測不能
ノーマル・コモン・アンコモン排出数:
本日、三件確認。
三件全員が「なぜノーマルが出たのか」と困惑した。
三件全員がすぐに再挑戦した。
ハズレ排出数:本日、確認中。
引いた個体の消息:確認中。
確認が完了しない理由:
負債の集約が始まると、
引いた個体に対してあらゆる観測が困難になるため。
本日のハズレ引き後の観測可能だった記録(一件のみ):
迷入者(男性・三十一歳)の百一回目の直後、
その個体が静止した。
静止した個体の周囲で、光が逆流し始めた。
無限の世界線から、無限の恩恵の維持コストが
一点に向かって集まり始めた。
集まる速度が増した。
以降の観測は不可能。
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補充記録No.028
分類:NCity施設記録(無限ガチャホール「運命」)
記録管理:NCity施設台帳
施設の設計思想:
参加者の大多数が圧倒的な恩恵を得る。
恩恵を得た参加者は追加で引く。
追加で引くほどハズレに近づく。
ハズレを引いた一個体が、
それまでに配られた全ての恩恵の負債を引き受ける。
全体として見ると:
無限の住民が無限の幸福を享受した分の
コストが、一個体に集約される。
集約された一個体が消えると、
また新しい参加者が引き始める。
新しい参加者が引き始めると、
また恩恵が配られ始める。
また恩恵が配られると、
また負債が積み重なる。
循環する。
終わらない。
ノーマル・コモン・アンコモンについて:
合計排出率〇・〇〇一一一%のため、
引いた者は自分が稀少なものを引いたと感じる。
感じた者は記念に追加で引く。
ハズレの負債規模について:
無限世界線×全住民×全恩恵維持コスト×永続期間
=計測不能
一個体が負うことができる負債の上限:存在しない。
なぜなら存在の根本から差し引かれるため。
存在が消えた後も、負債は残る。
残った負債の行き先:記録しない。
在庫切れ、なし。
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