16話 油断も隙もない話
「さて!解決した所で午後の作業に移りますか♪」
「「えぇ〜!!」」「ちょっと!?その〝えぇ〜〟はどういう意味よ?!」
いつもの事じゃが、コヤツらは毎回毎回どうしてこうも騒がしいのじゃろう...
まぁそんな事はさておき、我には進めておきたい事がいくつかある。
「セシルよ、我はちとやる事がある故席を外すぞぇ」
「何をするのよ?」「ソレは見てのお楽しみじゃ♪」
そう告げて、我は新たに接続した未知なる世界に足を向けた。
アヤツから何か言いたげな感情が読み取れたが、今はまだ我もその全容を掴んでおる訳ではない故不確実な事は言えぬ。
セシルだけでなくランシェやクレアの視線も背中に受けながら、戦艇の中央通路を足早に歩く。そして目的地である機関室に到着すると、我は精霊魔導核に接続されたスマホなるモノをモニター越しに見上げながら
「こういったモノが庶民の手にある文明か...正直恐ろしいの」
我は何故、耕助や三歳があのような気持ちになるのかに思いを馳せた。
「その答えを人は知るべきではない」
そう独り言を零しながら、我はゲビックにスマホを使う事を告げ生体保全維持筒に入る。
「そう言えば出会って間もない頃、三歳はその事に触れ我に答えを求めていたのぅ」
その時我はそんなモノの答えはないと跳ね除けたが、アヤツは尚も食い下がり多角的なパターンを示してその可能性を模索しろ...みたいな事を我に押し付けてきおった。
「三歳は...人の世がそろそろ終わると、考えておるようじゃな」
我は先程自身で言った事と、三歳がうすうす感じておる事が同じである事に憐れみを感じながら
「せめてクランディアでは、人類に同じ轍を踏ませぬようにせねばの」
無事帰還した時に備える必要性を考える。それでもセシルが社会の秩序を整えただけでなく文明レベルを加速度的に進めてしまった事が、却って人類の可塑性を加速させてしまった事に気付かぬ事を祈りつつ我は電脳世界へと足を踏み入れた。
「さて、色々準備は必要じゃからの♪」
先ずは三歳のアカウントを利用する。コレは別にハッキングと呼ばれるような事をしている訳ではなく、既に三歳が用意してくれているモノを使わせてもらうだけじゃ。何、許可など別に要らんじゃろう。
『なんで要らないと思ったんだよ』「三歳!?」
どうやって我と...いや、繋がった瞬間全てを理解したが
「ほんに油断も隙もあったモンではないのぅ」
『『いや、ソレは三歳の台詞でしょ!?』』
アヤツらに突っ込まれてしもうたわい。どうやら三歳が用意したスマホを使用すると、アヤツのスマホに通知がいくらしい。それでセシルから我へと連絡を寄越したみたいじゃが
「気にするな。コレから配信者とやらをやるのに必要なモノを揃えるだけじゃ。さすれば三歳の手間も省けるじゃろう」
我は今からやろうとしていた事を三歳に伝え、納得させた。じゃが
『それなら先に言っておいてくれ。後、勝手に使うのは許可出来ん』
「ぶぅ〜」『〝ぶぅ〜〟じゃない』『リア?最近無茶が過ぎるわよ?』
三歳からスマホを使う時は毎回打診しろと言われ、セシルからは厳重注意まで出されて...
我は仕方なく「分かったのじゃ⤵」と呟きながら、渋々従う事にする。
やがて二人が去った気配を感じてから
「さて...労働意欲は下がったが、やることはやらんとの」
再び作業に取り掛かるのだが
「結果的に三歳と連絡を取った事が功を奏したわい」
無事にセシルのアカウントを作成出来た。勿論世間的には三歳がセシルの演技をしている事になるので別垢と呼ばれる状態なのだが、ソレを知るのは我らだけである。
そうして我は実際に配信者として活動する上で必要...といっても三歳の方で準備している仮初の肉体等ではなく、今作成した広報用のモノ以外で衆目とのやり取りを可能とする質問箱(セシルへの相談窓口のようなモノ)やブログ(セシルの人物像をいつでも観賞出来る公開日記)を作成したのじゃが
「コレではまだ箱しかないではないか...」
そう、使いたくとも現実の我らをそのまま使用する事は出来ない。そのアバターとやらが完成するまでは
「仕方ない。設定として、我らの事を書き込んでいくかのぅ?」
そうして我は日記とやらに、我らの事を三歳が書く小説に準えながら記していった。
『リアが何かしたみたいだね』
そう耕助が聞いてきたので
「あぁそう言えば魂の回廊だと意識を向けないと、念話が届かないんだったな」
『肉体側が魂の回廊に気付けないんだよ』
俺が答えると逆だと指摘された。確かに魂の回廊にいる時三人の意識は分かるが...肉体を操る側が魂の回廊に意識を向けてくれなければ、肉体側は魂の回廊側を認知出来ない。
そこでちょっと気付いた...と言うか今更なんだが
「耕助」『聞きたいの?』「そんなリアみたいな事をするならもう答えてくれ!」『了解』
俺やセシルが耕助に気を向けてない時、どうしてるのか聞こうとしたら先手を打たれた。
俺はもう破れかぶれな気分で答えを聞くと
『...って感じだよ♪』「だよなぁ〜」
当たり前だがガッツリ観察されていた。だがリアの時と同様俺とセシルが互いに向き合っていなければその両方を同時に視る事は出来ないそうだ。
「そう言えば...俺とセシルは初めて魂の回廊で孤独を感じた時、どうにも抗えない恐怖を感じたんだが」
俺がソコで言葉を切って言い淀んでいると
「そうだろうね。僕は不思議と何とも無かったんだけど、ソレには理由があったんだ」
耕助がコチラの言いたい事を汲んで答えだし、その上何故怖くないのかまで話しだす。
「クランディアで僕の意識が殆ど無かったのは知っているよね」
「あぁ」「でも全く感覚が無かった訳じゃないんだ」
そういって耕助が語りだしたのは、少しづつ自我を失っていく話だった。
最初は...赤ん坊だった為、何も出来ないのかと思った。
だが違った...何故気付いたのか
それは、自分の意思であらゆる行動が取れなかったからだ。
思うように動けなくても、息をしたり瞬きするくらいは出来るだろう。
だが出来なかった。というより、勝手に身体が動いていた。しかもお漏らしする時など、何の前触れも無しに突然やらかし始めるのだ。そこまで尿意を感じていないのに...なんなら便意すらもたいして感じていないのに、イキナリ気張り出すのだ。
「だからもう僕は正気を保っているのが辛くなってきて、気付いた時には...」
『何の話をしてるのよ!?』『おわぁ?!ビックリしたー!』
自我を手放すように、意識を心の奥へと沈み込めていったのだ...
と言おうとした所で、セシルに邪魔された。
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