13話 土壌作り
「もう一度言うけど...日本の大気を吸うと予想とは違った状態ではあったけど、死ぬ事に変わりは無いからね」
「分かってます!吸う以前にペシャンコのサラサラ〜じゃないですか!?」
そうなのだ。このサイズ差による弊害がどの程度なのかを知る為にマウス実験を行ったのだが、その結果は恐ろしいモノだった。
サイズ差によって大気圧をまともに受け圧壊、そして急激な乾燥によって塵となる。
幸い艇内と機体操縦席周りの断熱機構が熱の伝導率を絶っていたおかげで私たちは生きているが、もしコレが無かったら日本に転移した瞬間私たちは死んでいただろう。
「魔力障壁のおかげで助かった事も忘れちゃいけませんぜ」
「そ、そうね」
私がランシェに何故今まで死なずに済んでいたのかを説明すると、ゲビックが転移直後の事を示唆してきた。
あの時魔力障壁を展開していなかったら、間違いなく水面に当たった瞬間その衝撃で木っ端微塵になっていただろう。
水の表面張力に勝てずに...
だがその話をした途端、妹はニヤリと笑った。
「そういえば、お姉様はコチラの世界の水を使えていると思っていたのですよね?」
「ぐっ、アレは三歳が...ゲビックも教えてくれてなかったじゃない?!」
そう...この世界の水は、使えないのだ。私は知らなかったのだが、三歳が使えと置いた水...
ソレを使おうとゲビックたちが汲みに行ったら、どんなに頑張っても掬えないゼリーのような物質だったのだ。
「正確には表面張力が凄まじくてお手上げじゃったわい」
「ソレが魔力を込めた魔具を使えばあら不思議...スルスルスルーっと」
何故か魔力を纏わせながらだと摩擦がおこらなくなり、表面張力が働かなくなる。その為細いパイプにすら入ってしまうので、ゲビックはそのまま冷却チラーに使用したのだ。
その過程を知らず結果だけ見た私が、見事に勘違いをするのは仕方がない事ではないか?
そう言い訳していると
「風呂にも使うとらん。注ぐ以前に俺らの世界の空気に触れた途端大爆発じゃねぇか。今使うとる水は排熱時に出た水蒸気を集めて冷えたモノを普段使いのモンに混ぜとるだけじゃ」
ゲビックが私の勘違いの原因部分を教えてくれた。
冷却パイプの中に流れる水が日本のモノでも、外で発生する水蒸気は私たちの生活空間に流れている空気と同じなので分子構造に問題は無い。
因みに何故ゲビックがこの現象を解決...サイズ差からくる摩擦力で表面張力が段違いな為、私たちでは扱えない筈の水をこうもアッサリ使えたのかと言えば...先程言った転移後に私たちの戦艇が風呂に入水出来た経緯を直ぐに思い出したからだそうだ。
そして水を汲み上げるのに、給水ポンプのホースに魔力を流し込みながら先端部分を入水させる。すると給水を開始した瞬間...ホースが破裂した。
最初は傷んでいたのかと思ったらしいが、予備は疎か新品でも同じ現象が起きた為コレも物理現象だと気付いたゲビックは真空状態にしてから挑戦したらしい。
その時にゲビックは、他にも色々気付いたのだ。
その気付きをリアに相談し、リアがスマホ経由で検索してみたら...
私たちが如何に幸運だったのか知れたらしい。
もし艦橋の窓が魔力を帯びた水晶板ではなく、通常の強化ガラスだったなら...
(私たちは一瞬で被爆したような状態になり)
断熱処理に真空材を使用していなければ...
(密度による熱の伝わり方の違いで蒸発していた)
そもそも魔力障壁が無かったら...
(水の表面張力に勝てず損壊...いや損壊と同時に爆散していただろう)
戦甲翔の外部カメラも水晶を用いたモノで、ソコに投影された映像が搭乗席の水晶板に映し出されている。その自動的に焦点を合わせる機構が無ければ、私たちはココが異世界だと知る事すら出来なかっただろう。
そしてコレら全てが魔道具であるという事
(まぁそれだけではなく私たち人間も含め、アチラの世界のモノには全て魔力...厳密に言えば魔素が内在しているので、無機質な物なら直接触れても大丈夫らしい)
『それでも生物はダメじゃぞ?』
「分かってるわよ!私だって実験する所は見てたんだから!!」
妹の些細な報復に私が脳内で考察していると、ソレを読み取ったリアが分かってて茶々を入れてくる。
私はそんなリアに反論しながら、次々にアチラの世界の土を撒く。この土にも魔素が含まれる為、サイズ差による衝撃を受けない。そのおかげでこの土の上に居れば...なんと三歳たちの衝撃を受けないのだ。
といっても音の衝撃はまだ受けるのだが...(それでも風呂桶に浮いていた時とは段違い)
そうやって少しづつだが、生活環境が整ってきた喜びを噛み締めていると
『お〜!おはよ。やってんなー』『三歳おはようなのじゃ♪』
三歳が起きてきて挨拶してきた。それならあの女も起きているのか...いや多分
「あの女は寝坊でもしているの?」『まさか、起きて朝飯作ってるよ』『なんだか本当に既成事実を狙っておらんかぇ?』『リア、夜眠れなくなるからソレは言わないでくれ』『大丈夫じゃ!我が(耕助を)見張っておくからの♪』『毎日見張られるのは嫌だな』『『お前起きてたのかよ?!』』『ははっ♪黙ってるといつまでも気付かれないみたいだね』「私は気付けるわよ?」『...だろうね』
呑気に鼾でもかいてると思ったら、居候の自覚はあったようだ。
そんなどうでも良いやり取りをしていると、耕助が起きてきて私たちの会話に参加する。
そこで耕助は三歳とリアを誂うが、私が耕助の嘘を指摘すると彼はちょっと不機嫌そうに同意した。
私の感情を読める三歳とその気になれば深層意識まで読み取れるリアも、今のやり取りで耕助のくだらない嘘に気付く。
『耕助?代わってくれ』『どうして?』『さお姉の相手を頼む』『...分かった』
そんな三歳の心の機微を多少は理解出来る筈の耕助は、三歳のお願いに素直に従った。
『やはり難儀なヤツじゃの』『それは仕方ないさ』『三歳は大人じゃのぅ』『そうでもないよ』
ふぅ...と私は心の中でため息を吐く。正直耕助に心を覗かれているより三歳の方が何倍もマシ...いや、三歳の方はストレスにならないとすら思える。ドチラが他人かと問われれば、間違いなく三歳と答えるだろうに...
『ソレはお主の場合、身内の方が気を置かねばならぬ人物が多かったからであろう。逆に臣下の方が気楽であった為、余計そう思わせるのじゃよ』
私の葛藤にリアが寄り添うような言葉を投げかけ、三歳は何も言わないがリア同様静かに心を寄せてくれている気配が感じられた。
「ちょっとお姉様?さっきから手が止まってますよ?」
「あぁゴメンね。ちょっと念話してたのよ」
ランシェの言葉で眼の前の作業を思い出した私は、再び作業に没頭する。
気付けばそこにはさっきまで無かった土を入れた袋が、まるで土嚢のように積み上がっていた。
しかも何故か妹は楽しそうに鼻歌まじりで、私を取り囲むようにしてソレを積み上げていく。
『いや...土を詰めた袋は、土嚢だろ?』
「そうだけど!そうじゃないのよ!?」
しかも三歳まで楽しそうに意地悪なツッコミをし、こんな他愛もない事なのに...
笑上戸のリアはまた、いつものように声も無く笑っているようだ。
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