14話 山嵐のジレンマ
「酷い目にあった」「ぼ〜っとしているからですよ」「アナタに言われたくないわよ!」
一通り予定していた所まで土を撒き終えた私たちは、戦艇に戻って休憩を取る事にした。
それにしても、普段から私より沢山の悪魔族を使役して念話しているランシェにはぼ〜っとしてるなんて言われたくないわ...
「ソレはお互い様じゃろうて」
「そうね、アナタも居るのを忘れてたわ」
なんてくだらない事を考えていたら、リアに睨まれた。
「オヤツと紅茶をお持ちしましたよぉ〜」
「ありがとうクレア」「いえいえ〜♪」
睨んできたリアを睨み返していたら、給仕台車を押しながらクレアがいつものように明るい声で食堂に入ってくる。
不毛な事をしていても仕方ないので、大人しくお茶請けを頂こうとすると
シュバッ!シュババッ!!
リアが私より先にクッキーを横取りし、次々に頬張っていく。
もきゅもきゅとでも言いたくなるような可愛いお顔になっているのだが、眼だけはどうだと言わんばかりの...言わんばかりの
「いや、普通に可愛いわね」
『どうしてじゃ?!折角の嫌がらせじゃというのに?!』
可愛いが勝ってしまった。本人は私の思考を読み、先々にクッキーを奪う事で嫌がらせをしたつもりなのだろうが処理が間に合っていない。結局最後に取った二枚のクッキーは両手に収まったまま口に入れる事は出来ず、何故か目の前でゆらゆらさせているのだった。だがそれがまた...
「「きゃあ〜♪大精霊様今日はどうしたんですかぁ?」」
めっちゃ可愛い。その愛らしさに思わず声が出てしまった二人...クレアも然る事ながら、ランシェに至っては眼が♡である。
『お主も似たようなモンじゃぞ』
『ソレはそうかもしれないわね』
照れながら満更でもなさそうに言うリアに、私は微笑みながら頷いた。
どうやら毎回帰宅して昼食を取るつもりのさお姉を送り出しながら、俺は部屋の中を見渡す。
「コレ...俺が片付けんの?」『代わろうかい?』「いや、いい」
テーブルの上に残った昼食後の有様に、俺は少し気が滅入りかけたが
「一応ご相伴に預かっちまってるからな」
『ソコは気にしなくても良いと思うけどね』
食わせてもらってる以上片付けくらいはやろうと思い直した。耕助は気にしなくて良いと言うが、俺にとってはやはり義理の姉なのだ。
『ソレを言ったら僕にとっても義理の妹だよ』
「そうだった...ってややこしい関係だよな」『そうだね』
何故だろうか?今回もふと疑問に思ってしまう。俺はセシルが前世だというのは割とすんなり受け入れられたのだが、耕助も同じ魂だという事に何故か違和感と言うか妙な引っ掛かりを覚えていた。
今も洗い物をしながら耕助と話していたのだが、セシルと話している時に感じるような同期する感覚みたいなモノがあまり無い。
『ソレを言うなら僕だって君とシンパシーとやらは感じてないよ。セシルとは感じてるけどね』
ん?
俺には感じないのにセシルとはある?
どういう事だと考えていると
『クランディアに居た時はしょっちゅうだったよ?危険に晒された時なんかは特にね』
耕助が思いがけない事を言い出した。
「ちょっと待てよ?!耕助アッチでは眠ってたんじゃ『夢心地で居たって言わなかったかい?』ソレはそうだけど...」
ココでかなり気になった事がある。だがソコに意識を持っていくと変に身構えられても困るので、俺はなるべく平静を装って耕助に質問をした。
「しょっちゅうって今言ったよな?例えばどんな危険に晒されたんだ?」
『あ〜...そうだな』
そう言って耕助が切り出してきた話は...
俺の知っているモノもあれば、知らないモノもある。特に
「なぁ?今言った大海龍?を倒した頃の話って、セシルがまだ冒険者になる前なんだよな?」
『ん?あぁそうだね』「その頃ってまだ、リアは目覚めて無いんだよな?」
リアがホムンクルスの身体を手に入れる前の事が気になった。なぜなら
『そうだね。あの頃の彼女は、まだ片言しかモノが言えない...そんな感じだったよ』
今耕助が言ったようにリアはその当時、まだ不完全な状態だったらしい。ソコからどうやって今のリアっぽくなったのかは知っているので、俺は改めて自我が強くなる前のリアがどんな感じだったのかを耕助に聞いた。
『彼女は意志ある魔石...最初はそんな感じだったよ』
ココにリアが居たら(石ではない!核じゃ!!)とでも言うだろうなと思いつつ、俺は耕助が話す言葉の続きを待つ。
セシルからも聞いてはいたが、リアに関しては肝心な所でいつも(ソコは深く知る必要はなかろう)とか言われていつも聞けず仕舞いだったのだ。
そうして彼女の復活から肉体を入手するまでを耕助の視点で改めて聞くと
「当たり前だけど、セシルとほぼ同じだな」
『ソレはそうだろうさ』
俺の言葉を聞いて耕助が答える。だが俺がセシルから聞けなかった事に耕助が答えた事で、最初に気になった現象を改めて聴く。
「なぁ耕助、お前の言うシンパシーを感じた瞬間...」
ソレは共感ではなく扇動に近い感覚ではないのか?
セシルから聞いた話で、俺はそう感じていた。
勿論耕助が狙ってやった訳では無いだろう。
ただ結果論として、そう見える構図が出来上がってしまった...
『言われてみれば、そうかもしれないね』
「意図してやったんじゃないってのは分かるけどな」
だからソレはセシルから見れば共感では無く、どちらかと言えば共鳴...しかも自分がではなく、耕助側から齎された一方的なモノになる。
『でも...ソレが無かったら今頃僕たちは、日本に居ないんじゃ無いかな?』
コレだ...
たまに感じる、言葉に出来なかったモヤっとした感情。
押し付けがましく感じるも、反論出来ないこの感覚...
結果が伴って無ければまだ反論の余地はあるが、イヤ...その場合でも、代替案を即時出せなかったその状況を以て自身を正当化するだろう。
だが...
(この感覚は良くない)
コレをぶつければ人はそうならない為に、今度は行動以前に提案そのものをしなくなる。
(俺自身がそうなったように)
だが、コレからの付き合いを考えれば、耕助のこの物言いは俺やセシルの精神衛生上良くない。
『要するにモノの言い方を変える努力をすれば良いのじゃろ?』
「リア!?」『ソレは難しいね』
どうやら深く思考を巡らせた所為で、アチラに伝わったらしい。
『理屈で考えれば、どうしてもこうなってしまうよ』
『ソコで思考停止するからじゃ!言われた側の気持ちを考えてから、言い回しを変えれば良いと言うとるんじゃ』
そんなリアの気遣いを耕助は無下にするが、リアは耕助の言い分を一刀両断した。
(ヤバいな...山嵐の葛藤だわ)
俺がやろうとした事をリアが代弁してくれたが、耕助の言い分も理解した上でどう伝えるか悩んでいただけに...
俺はなんとも言えなかったが、その窮地を脱したのはセシルのトンデモ発言だった。
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