11話 突如始まる料理対決 後編
「耕にぃは座って待っててねぇ〜♪」
帰宅するなり沙織にそう言われ、僕は「分かったよ」と返事をしてソファに座る。すると
「耕助さんは、私の手料理って初めてよね?」
と恵子さんに聞かれたので、僕は
「そうだね?多分」「そりゃそうでしょ!アンタが料理覚えたのは尚弥さんと付き合ってからじゃない!」「ちょっと?!今旦那の話はしないでよ!?」
多分そうだろうと答えた。すると沙織が突っ込みを入れだし、恵子さんがその話はしないで欲しいと言い出す。だが僕はその尚弥と呼ばれた恵子さんの旦那さんに興味を引かれたので、どんな人なのかを聞く事にする。
「えぇ?!どんなって言われても...」
「恵子には勿体無いくらい優しい人よ」「へぇ〜」
そしたら恵子さんが言い淀んでいる内に、沙織が優しい人だと告げた。そして恵子さんもソレに同意する。
「しかも凄い泣上戸なのよねぇ」
「確かに。すぐもらい泣きしちゃうモンねぇ♪」
そんな二人のやり取りを聞くに、どうやらその尚弥さんとやらはそうとうなお人好しらしい。
「恵子さんは凄いね。子育ても、ちゃんとしたんだよね?」
「凄いかどうかは分からないけど、それなりには」
そうなんだ...と、思いながら買ってきた缶コーヒーに口をつけた瞬間
「「まぁオムツ替えは三歳君で済ませたようなモンよね♪」」
『ゔふぅ―――!!!』『汚っ!』『ちょっと!?』
三歳君に身体の自由を奪われた。
『どう言う意味だよ?!』『あら、おかえり』『あ!みっくん知らないんだ!』
そうして始まった三人の過去話。
「へぇ〜!そんな前からの付き合いだったんだ!?」
「我は知っておったがのぅ」「そんな事まで視れるのかい?!」
沙織と恵子さんが三歳君へ話した内容に、リアが僕らにも分かるよう頼んでもいないのに補足説明をしてくる。
「それにしても...異世界を含めたら無限にも思える広さだろうに」
「それはそうね、とっても不思議だわ」「ソレは因果律の問題ではなかろう」
一通り話が終わり、料理も終盤に差し掛かって来た。とても良い香りが三歳君の鼻を通じて僕にも伝わってくる。こんな事を沙織に言ったら大泣きするだろうから言えないが、恵子さんが揚げた牡蠣フライがとっても旨そうだ。そう感じながらそろそろ交替したいなと思った矢先に、リアが気になる事を言い出す。
「説明は代わってからでも良いじゃろ?」「...分かった」「何か不満げね」「別に、リアとだけ話す事だって出来るからね」「お主...要らん事ばかり覚えおってからに」
そんなやり取りをしつつ、三歳君と入れ替わろうとすると
「一口、一口だけ!さお姉のは食べないから」「ちょっとみっくん?!ソレはどういう意味かなぁ?」「あはは!なんか可愛いわね♪(ほぃ!)」「んぐっ!はふはふ...熱っ、でも...旨っ!」「やったぁ♪(前哨戦は)私の勝ちね!」「なんだとぅ?!」「(Good♪⤴)」
拒否られた。そして一つ減ってしまった...が、ふとココであの事を思い出す。
三歳君はあの時関係無かったので、僕は改めてセシルにだけ釘を刺す事にした。
「セシル...どんなに僕が美味しそうに食べていても、味覚の略奪はしないでくれ」
するとセシルは人聞きの悪い事を言うなとでも言いたげに反論して来たが、僕は三歳君にも理解してもらう為敢えて蒸し返す。
「しないわよ!?」「ラーメンの時は餃子まで指定してきたじゃないか!」「うっ!男のクセに細かい『セシル、ソレ今の時代では禁句』そうなの!?」「細かいって言うけど次はスープを飲めとか味変するなとか言ってきたセシルは細かくないのかい?」『そんな事まで言ったのか』「今確認したが、確かに言っとるのぅ」「リア?!わざわざ(記憶を)読まないでよ?!」
そして...三歳君の意識がセシルに向いたのを見計らって、僕は身体の主導権を取り戻した。
「あの女、どんな古臭い事を言ったの?」「うおっ!?」「うふふっ♪おかえりなさい」
すると沙織と恵子さんが目の前に居た為、驚いて後ろに仰け反ってしまう。
それでも二人はお構いなしに僕の眼を覗き込みながら
「本当だ...入れ替わる時に、眼の色が変わるわね」「アンタ分かるの?!」「ふ、二人とも...近いよ」
どんどん近づいてくるので、沙織の肩を抑えながら恵子さんの方へと追いやった。
そして二人の居る方とは反対側に出て距離を取る。すると...パン!
「さぁ!食べましょ♪」
「そうね、冷めたら美味しくなくなっちゃう」
恵子さんは両手を叩いてから立ち上がり、続けて沙織も「どっこいしょ」と言いながら起き上がる。
そんな沙織に「オバサン臭い」と恵子さんが告げると、沙織は「何よぅ」と不貞腐れながら睨んだ。
僕はソレを見て不覚にも笑ってしまう。すると二人は...
僕を見た後一瞬見だけつめ合ってから微笑むと、そのまま立ち上がりキッチンへと向かった。
そうしてテーブルにはある程度配膳を終えていたようで
「耕にぃ座ってて〜」「あと少しだけ待って下さいね♪」
二人がそう言うので僕は遠慮無く椅子に座ると、沙織が麦茶を持ってきて
「ふふん♪楽しみにしててね♫」
「私のだって!三歳君からは褒められたわ♪」
恵子さんは先程三歳君に食べさせた牡蠣フライを持って、何故か僕の隣へとやって来る。
「ちょお!恵子!?なんでソコなん?!」「え?だってさっき三歳君にあ〜んしたから、今度は耕助さんの番かなって」「あ〜そうか...ってならないわよ!?」「なるわよ、ねぇ?耕助さん♪」
そして繰り広げられる...懐かしいけどちょっと誇張されたようなやり取りに、僕は呆れながら笑った。
「さぁ食べましょ!沙織の作ったやつはもう冷めてるんじゃないの?」
「ムカッ!良いんだモン!コレは冷めた方が美味しいヤツなんだから!」
そのまま恵子さんは本当に僕の隣に座り、先程言った事を有言実行する。
因みに...恵子さんの一言に負けじと言った沙織の言葉は、本当だった。
「はい♪あ〜ん♫」「えぇ...」「次は私の番でしょ?!」「(モグモグ)旨っ!コレ本当に冷めても美味しいよ!」「そうでしょ〜♪エスカベッシュって言うんやで♫」「くっ!沙織のクセにそんな洒落たモノを」「まだまだ有るんですよ〜だ!」
恵子さんのあ〜んに若干引きながらも、僕は2つの事に驚く。イメージ的には恵子さんの方がスタイリッシュで沙織の方が家庭的だったのだが
『暇な時いつもレストランでしか食べないようなモンをレシピ本や動画を見ながら作ってたぞ』
「そうなのかい?」『結構女の子してたのね』『不憫じゃのぅ』「憐れまないでくれよ」
そういった僕らのやり取りを二人は勘違いしたようで
「ええやんか!耕にぃが生きてたら、手の凝った料理食べさせたら喜ぶかなって思ったダケやんか!?」
「仕方ないじゃない!仕事が終わった後、なるべく簡単で早く作れるモノばかり調べて食べさせてきたんだから...こうなっちゃうのよ!?」
半泣きで幼児退行してしまった。その所為で僕たちは交替で味見をしながら、しどろもどろに言い訳をする。だが返って来た答えは、とても当たり前なもので
「味覚の略奪はしないって」「そうでした」
セシルが反省の言葉を口にして
「みっくんはさっき食べないって言ったのに」「ご尤もで」
三歳君も右に倣った。
「「耕助さんにだけ、食べて欲しかった」」「二人とも美味しかったよ」
そんな二人に、僕はどっちも美味しかったと微笑みながら頭を撫でるが...
セシルと三歳君は魂の回廊で猛省するしかなかった。
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