10話 突如始まる料理対決 前編
「やっぱり来てたのね」「げぇ!?恵子?!」「こんばんは恵子ちゃん」
駐車場まで行くと、何故かソコには恵子ちゃんが居た。とりあえず僕が挨拶をすると、恵子ちゃんは軽く会釈をしながら「こんばんは」と言う。その後ニコニコしながら「ずっと恵子ちゃん呼びでお願いしますね♪」なんて言いながら僕の横をすり抜け、沙織の方へと向かっていった。
「な、なんでちょっと怒ってんの?別に耕にぃと暮らしたって良いじゃない?」
「それは三歳君に迷惑でしょ?!」「許可は得たモン!」「「うぁ...」」
そんな恵子さんに沙織は後ずさりしながら、家の鍵を取り出して突き出してくる。そのキーホルダーには
【Ishigami Saori】
と記載されており、ソレを見た僕は恵子さんと共に思わず呻いた。更に恵子さんは僕越しに三歳君を視ているようで...
「三歳君?」『分かるだろ?違うからな?』『『そうだったかしら?』』「三歳君?」
恵子さんの分も含めて本当に許可なんて出したのかを確かめる事に..
そして三歳君は違うと言うが、セシルとリアは三歳君の言い訳を否定する。
「そ、そんな事よりさぁ...恵子はなんでみっくんのマンションに居るの?」
僕と恵子さんが三歳君に気を取られている間に、沙織はいつの間にか僕の背後に回っていた。
そんな沙織に恵子さんは指を突きつけながら
「アナタが迷惑かけてるって思ったから来たんじゃない!」
「弟の家でもあるのよ?お姉ちゃんなんだから良いじゃない!?」
「二人とも?近所迷惑になるから、とりあえず車に乗ろうか?」
あの頃のように口喧嘩を始める。懐かしく思うが...
流石にそのままには出来ないので、僕は車の鍵を開けながら二人に乗車するよう促した。
「耕にぃ?今は鍵穴使わなくても開けれるわよ?」
「こんな風にね♪」ピ―――!ピッピッピッピ…
すると沙織が僕の手の中にある鍵を指差しながらソレが無くても開けれると言い、恵子さんがソレを実践してみせる。
「そうだったね」「あっ!?そう言えば前に見て知ってたわね」
二人の言葉を受けて、僕が三歳君の車の鍵を見ながら
(多分このボタンがそうなんだろうな)
と思いながら答えると、恵子さんが前に運転した時の事を言い出した。しかも
「買い物に行くんでしょ?私も付き合うわ」
と言って自分の車に乗るよう手招きする。僕が沙織の方を見ると
「しゃぁ〜ない。デートは明日にしますかぁ〜」
ニッっと白い歯を見せながらそう僕に告げると、沙織は恵子さんの待つ車の後部座席へと乗り込んだ。
仕方ないな...そう思いながらロック釦を押した後三歳君の車の鍵をポケットにしまい、恵子さんの方へと歩いて行く。
「さぁどうぞ♪」「いや、なんでよ?!」「えぇ...?」「ハイハイいいから♪」
ボンネット前を歩き、恵子さんの横を通り過ぎようとしたら...
何故か助手席へと誘導され、拒否しようとするも腕を捕まれ助手席に放り込まれた。
「じ、自分で出来ますよ!」「まぁまぁ♪」「ちょっと恵子ぉ?!」
しかもシートベルトを取り付けられてしまう。何故そんな事をされたのか不思議に思っている間に、恵子さんは運転席へと移動し手早くエンジンを始動させる。
「近所のスーパーで良いのよね?」「「......」」『それで良いぞ』「あ、はい」
車を発進させながら聞いてくる恵子さんに、俺も沙織も言葉を失っていた。まぁ沙織の方は不貞腐れてるだけのようだが...
そんな僕たちを見かねたのか三歳君が声をかけてきたので、待つには長い沈黙を破るべく僕は慌てて返事をする。恵子さんは僕の返事を聞くと同時に「OK♪」と言いながら左右の安全を確認し、マンションを後にした。
「耕助さん?」「はい?」「セシルさんたちは今何してるの?」「う〜ん...出歯亀?」『なんでだよ!』「はぁ?!コッチ観てんの?」「えぇ!?どゆ事?」
信号待ちでコチラを見ながら、恵子さんが僕に質問して来ので率直に答えると...
たちまち、てんやわんやの大騒ぎである。
「まぁちゃんと見れるのは、セシルか三歳君のどちらかだろうけど...」
「どゆ事よ?二人同時には見れない?」「あぁ、多分」「多分なんだ?もう一人は?」
落ち着いてから僕は、恵子さんの質問に答えた。するとまた質問が飛んできたので、確証は無いがなんとなく感覚で答えていく。
「リアは思考が深く読めるってだけで、視覚は疎か五感そのものが共有出来ないよ」
「そうなんだ!じゃあセシルさんみたいにコッチに来て、お話とか出来ないのね」
恵子さんの問いに「そうだよ」と答えながらも、思考は読めるから僕やセシル...三歳君を挟んでの会話なら出来るよと伝えた。
『ソレをやる必要はなかろう?セシル一人で充分じゃわい』「そうかい?ホムンクルスでいるのって、どんな感じなの?って質問されたら、セシルでは答えられないんじゃないの?」「おー♪今のが思考を読んでのやり取りって訳ね」『改めて言うが...必要なかろう?』「...そうだね」「分かるけど、解んないね」
そうしたらリアが面倒だからセシルに任せるみたいな事を言い出す。僕はソレにワザと無理やりな質問をぶつけてみたが、そのやり取りを見た恵子さんの感想を聞いて...やっぱりリアの言う通りだと納得した。
「今の会話、噛み合ってるけど噛み合ってないでしょ?」
「沙織は分かったのかい?」「なんとなくね」「えぇ?!なんかズルい!」
そんな箸にも棒にもかからない会話をしているうちに、目的地のスーパーに辿り着く。
車を駐車場に止め、三人とも降りると
「今夜は何を作るのかな?」
と恵子さんが言ってきたのを聞いて、僕はちょっとした悪戯を思いつく。
「二人の得意料理って何?」
何気なく思いついたフリをして、僕がそう聞いてみると...
言った瞬間、思った以上に喰い付いた二人の眼が光ったような気がした。
「恵子...ドッチが美味しいもの作れるか、勝負してみない?」
「望む所よ!私だって主婦として、頑張ってきたんだから!」
そう言えば...
僕の記憶では恵子ちゃん、いや...恵子さんは食べる専門で、料理はしていなかったが
「昔の私とは違うって所を見せてあげるわ!」
「そうね...最近手抜き気味だったけど、久しぶりに本気で作ってあげようじゃない!」
主婦として家族を支えてきた自負もあるのだろう。その眼には、学生時代には見られなかった自信が見て取れる。
「「耕にぃ?ちゃんと審査してよ?!」」
「ははは...楽しみだな」「「任せて!」」
眼の前で火花を散らす二人には申し訳ないが、僕は美味しいものが食べれる歓びを密かに噛みしめるのだった。
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