9話 繋がる想い
ガチャガチャ...バタン
トットット...
「ただいまぁ〜」「おかえり」『おかえり...なんだ』『受け入れおったか』
さお姉がお昼に帰って来た時と同様に、自分で鍵を開けて入ってきた。
「麦茶もらうねぇ〜」「あぁ」「みっくんも要るぅ?」「じゃあ頼むよ」「はぁ〜い♪」
そして自宅で寛ぐかのように冷蔵庫を開け、麦茶を注ぎだす。
コトン...「はい、どうぞ〜♪」「ありがとう」
更に当たり前のように俺の前に座り、麦茶をグビグビと飲みながらテレビの電源を入れた。
『実況中継はしなくて良いわよ』『いや、流れるように自然に振る舞うなって』『そんな事より、突っ込まんで良いのかぇ?』
別にセシルたちに実況中継するつもりはなかったが、太々しいよりも...いっそ清々しささえ感じるほど、さお姉は当たり前のように過ごしている。だがまぁ...一応聞いてみるか。
「なぁさお姉?」「なぁに〜?」「なんで合鍵持ってんだ?」「それはねぇ〜」
俺が両肘をテーブルに頬杖を付きながら聞くと、さお姉はニヤッと笑いながらポケットから合鍵を取り出し
「仕事に行く時、鍵を拝借して合鍵を作ってきたんです♪」
わざわざ立ち上がり、その鍵を頭上に掲げながらドヤってきた。
『うあぁ〜...ハートのキーホルダーに名前が書いてある...』
『新婚気分でも味わってそうじゃのう』「やめてくれ」「どうしてよぅ」
セシルの言葉も相まって、俺は思わず頭を抱えながら思った事が口に出てしまう。
当然さお姉の顔は見る見る曇っていき、やがて泣きそうな顔になり...
「すまん!いや、違うんだよ...鍵はどうせ必要になるから良いんだけど、名字よ!何で石上にしたの?」
「ぐすっ...だって石上家の鍵だもん」
俺はしどろもどろになりながら、良く分からない聞き方をする。
するとさお姉からも良く分からない回答が返って来た。
『必要になる、ねぇ?』『勝手に作る事を予測しておったじゃろうに』
『とりあえず黙っててくれ!』『『(じぃ―――…)』』
(俺の事より耕助の方を気にしろよ)
コイツらの気を違う事に回せないかと思案した瞬間、耕助の事を思い出したら
『任せよ!ソッチも観測しておる♪』『この、優秀な奴め』『なんの事よ?』
リアはドヤり、セシルは困惑する。まぁ念じなければ言葉にならないので、セシルには伝わらなかったのだろう。
そんな事より...
「さお姉」「なぁに?」「何してんの?」「ん〜口づけ?」
俺が二人に気を取られている間に、何故かさお姉がにじり寄っていた。
「どうしてそうなるの?!」「だってお返事が無いんだもん!」
身体を後ろに反らせさお姉の口づけを回避しながら聞くと、さお姉は座り直してからソッポを向き拗ね始める。
「まぁ...作り直すのも手間だし良いけど、他人に見られた時に何て言うの?」
「結婚したのって言う♪」「ダメだろ、ソレは」「冗談よぅ〜」
仕方なく名字の件は不問にする事にして、俺は鍵を他人に見られないようにして欲しいって意味でどう扱うかを聞いたのだが...
さお姉は更に有り得ない珍回答を披露する。
「ところで...帰宅したのに手荷物とか無さそうだけど、夕飯はどうするつもりなの?」
「んふぅ〜♪買い物行こ♫」「マジかぁ...」「でぇ〜と♪デート♪買い物デート〜♫」
そんなさお姉が帰宅時何も持ってなかった事を思い出し、俺は晩飯をどうするつもりなのか聞いてみると...
さお姉は台所に有るものを物色するように睨め回し、買い物に行こうと言い出した。
どうやら調味料込で、買い足しに出たいらしい。
まぁ、本人はウキウキで家事をしたそうにしてるので...この際家賃代わりに家政婦してもらおうか。
『いや、コレは家政婦では無く新妻のつもりではないかぇ?』
『俺が家政婦扱いすれば新妻じゃ無い』『屁理屈だわ!』『なんとでも言え』
心の中で諦める為の儀式を済ませ、俺は車の鍵を手に玄関を出る。すると後から出て来たさお姉が腕を組んできたが...
どうせ見られる事に変わりはないと、コチラも諦めて俺は歩き出す事にした。
「ソレで...さっきまで何してたの?」
「あ〜ソレは...」
エレベーターまでの通路を行く間、俺はさお姉にさっきまでの経緯を話す。
俺の魔力を使って戦甲翔の機動性を上げた事
その時に某アニメのノリで楽しんでたいた事
何故そのアニメを知っているのか聞いたら、耕助がさお姉と見ていたと言い出した事
その時に身体が入れ代わったのだが...そうしたら突然耕助がクランディア語で話し出し、アチラ側で大騒ぎになった事等...
それらの説明が終えた頃、俺達はエレベーター前に到着した。
「へぇ〜...あのアニメみたいに、ケーブルを繋いで動かしてるんだ」
「その整備を主にやってるのが、ドワーフのゲビックなんだよ」「ドワーフ!」
タイミング良く耕助がドワーフ達に何故、自分が軍事に明るいかを説明しだしたのでその事をさお姉に告げると
「耕にぃって軍事オタクだったからねぇ...」
さお姉は懐かしがりながら、エレベーターの下降ボタンを押す。
俺はエレベーターの回数表示灯を見ながら、耕助が今何を話しているのかをそのままさお姉に伝え続ける事にした。
そうして耕助が自衛隊に興味を持ちつつも、自身を蝕む薬害肝炎の所為でその役目を十全に果たせない事に言及しだした。すると向こうではマルヴェラが耕助を気遣い、コチラでもさお姉がまた言ってる...みたいな空気を醸し出す。
チーン!……
エレベーターが到着したので、俺とさお姉は中に誰も居ないのを確認して乗り込んだ。
行き先ボタンを押して扉が閉まるのを見つめながら、俺は耕助の自問自答に思わず強めの声音で答えてしまう。
「時期がすれるだけで、死んでいた可能性が高いんだろ?なら...分かった」
「耕にぃはなんて?」「自衛隊に入っていたら、もっと早く死んでいたかもって」
俺が思わず口にした言葉に、不安げな顔で質問して来たさお姉。俺がソレに答えると、さお姉は「そう」と手短に...でも何かを思い出すように返事をする。俺はそんなさお姉を見ながら、続けて耕助が今逡巡している事をそのまま口にした。するとさお姉の眼が大きく見開き、俺の中の耕助を捉える。すると
ドン!
『そんなアホな事考えんといてや!』
さお姉は俺...いや、正確には俺と入れ代わった耕助を思い切り突き飛ばした。その後さお姉は耕助に抱きつきながら、引きつり泣く。
『沙織...』『あ、阿呆ぅ〜...耕にぃの阿呆〜ぅ...』
さお姉の震える身体に、そっと耕助が手を添えようとするが...その手は途中で止まってしまう。
「『いつまでかは分からぬが、今しばらくは沙織の為に生きれば良かろう』」
そこにリアが続けて声をかけると、先程のさお姉の言葉と共に...傷付いた耕助の魂に、ゆっくりと染み込んでいくのが分かった。
『そうか、この為に僕は...』『耕にぃ?』
どうやらやっと耕助にも、生きる為の覚悟が定まったみたいで...
『他人事では無くなったみたいね』「そうじゃの」「これで少しはマシになるだろ」
これからの耕助の在り方に、俺達三人は少しだけ安堵する事が出来た。
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