第65話 最悪の相手
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手紙を手に持ったまま、マウロが少し狼狽しながらつぶやいた。
「なんてことだ……」
「ん?ど、どういう事?マウロ」
俺もつられて不安になる。こんなに余裕のなさそうなマウロは見た事がなかった。
「最悪の相手に目をつけられた。太一、これから君の身に何か恐ろしい事が起こるだろう……」
マウロはそう答え俺は本格的に怖くなってきた。
「最悪の相手って、もしかしてマウロの仕事仲間だったアイツか?――たしかハムっていう」
マウロがここまで恐れる相手というのはそいつ以外俺は思い当たらなかった。
「ああ、この字は間違いない。ハムは気に入った相手に目をつけるとハイドで誰にも気付かれないまま近寄っていき……そしてその相手を地獄につき落とす」
「――い、いや怖すぎるんだが」
そこにいた全員が深刻な表情で俺を見ている。俺はマウロにもう少し詳しく聞いてみた。
「というか、ハムは何がしたいんだ?俺を殺したいのか?」
「……分からない、だけど最終的にはそうする可能性はある。ただ、分かっていたとしても止めようがないんだ。――例えば今ここにハムがいて君をナイフで刺そうとしていても誰も認知出来ないんだからね!」
ここでもウェイバーは冷静に分析する。
「だが今すぐ太一をどうこうしたいわけではなさそうだな。もしそうであればすでに太一の身に何かが起きてるハズだ。奴の目的が何なのか分からんが、今決めるべきはハムの誘いに乗ってヴォイニッツ洞窟に行くか、それとも無視して別の対策を考えるかだ」
なるほど、誘いに乗らないという手もあるのか……しかし俺はすでに即決していた。
「行くよ!あの子が捕まってるんだ。ほっとけないだろ?」
「太一……」
香織が心配そうに俺を見つめる。皆も同じような視線を向けている。
マウロも俺の考えに同調する。
「今までも似たようなことはあったんだけど、仮にハムの言う事を聞かなかった場合――皆、例外なく即殺害された。ハムにつまらない人間だと判断されてね。……だからもはやアイツには従うしかないんだ!」
語気を強め拳を強く握りそう語るマウロだった。普段は冷静なマウロだけに事の深刻さが伝わった。
「結局行くしかねえってことかよ。しっかしよりによって太一と香織か……『通信』が出来ねえのは痛えな」
ジャンタンは頭をかいた。しかしその通りだと思った。俺はともかくなんで香織まで?
「よし、分かった。今日はもう色々あったし一旦解散して皆寝よう。一応ハムの件の対策は各自考えておいてくれ、明日早朝からまたここに集合な。太一、香織、とにかくお前らは寝ろ!不安だろうがとにかく休め」
ウェイバーはそう言ってまとめてくれた。不安すぎてしょうがないという俺達の心境を汲み取ってくれて少し心が軽くなった。
「ねえ」
群馬に帰ろうとした俺達に声をかけたのはシャロだった。
「あんた達今日はここで泊まって行きなよ。日本の境界まで結構時間かかるでしょ?」
そう提案された。俺は全然構わないが香織は親が心配するだろう。
「あ、ホント!?私今日友達のとこに泊まるかもって言ってるから丁度良かったー」
おお、準備がいいな。じゃあそうさせてもらおう。
「それにしてもさ、タイチ。あんた最初に会った時より大分カッコよくなったわねー。オーラが違うわ」
そう言われて俺は満更でもないという顔になった。
「ホントか!なんか最近は自分でも生き生きしてるなーって感じてたんだよな。そうかーやっぱお前から見てもカッコ良く見えるのかー」
それを聞いたエノキが俺を指差し、つっかかって来た。
「は!?タイチがカッコいいって?そんなワケないだろ!こいつは強いかも知れないけどカッコ良くはないぞ!!調子のんなよーーー?」
相変わらず生意気な奴だ……とりあえず言い返しておく。
「うるせえーアホ!お前こそもっとこう……クロエみたいに女の子らしく出来ね―のか?せっかく見た目はすげー可愛いのに」
「か、か、かわぃい!?な……な、何だよー!」
俺がそう言うとエノキはどんな顔すればいいか分からないようで困惑してあたふたし出した。やっぱコイツおもしれー。
「も、もうウチは寝るっ!じゃーな!!」
そう言ってさっさと自分の部屋へと帰っていった。
「アハハッ。あいつ面白いわね」
シャロも香織も苦笑していた。
「じゃ、案内するわ二人とも」
シャロに連れられた俺と香織はホテルの一室のような部屋へ案内された。
「じゃ、明日に備えて変なことしないでしっかり寝るのよ。ふふ」
シャロは意味深な笑いを残して去って行った。おい。
「シャワー浴びてくるね」
「お、おう」
不思議な事に俺はさっきまであれほど感じていた危機意識が薄らいでいた。なんでだろう?
そしてオルターに来る前のことを思い出す。そう言えばyu_tubeチャンネルはどうなってんだろ?圏外なここでは確認しようもないか。
いや、それよりもハムの事だ。
あいつは俺と香織に洞窟に来いといっていた。皆と一緒に行ったら俺は殺されるんだろうか?
誰にも姿が見えないってのは確かに厄介だな……いや、厄介どころじゃない、ある種最強ともいえる能力かも知れない。
それから俺が色んな事を考えていると結構な時間が経っていたらしく、香織が浴衣姿で現れた。
おおっ。俺は思わず見惚れた。少しほてって赤みがかかった顔、色気、艶やかさ――最高だ。
しかし当の香織の顔は物憂げだった。
「次、太一入ったら?」
やはり低いテンションでそう促す香織。
「あ、ああ」
とだけ言って俺も風呂に入った。俺の入浴は早い。高速で体を洗い流しものの5分で風呂から上がった。
――さて、この後は香織と仲良くするぞ――などと、いつ殺されるかもしれない状況にも関わらずこの性欲の強さ……我ながら欲望に忠実だぜ。
俺はベッドの端に縮こまって座っている香織を見て、ゆっくり隣に座った。香織はうつむいたままだった。
「香織?」
俺は反応のない香織にちょっと戸惑っていたが、やがて香織の方から話をしてきた。
「……オルターに来てから色んなことがあったね」
「ああ、ほんとだなー。こんな事になるなんて小屋作ってた頃は思いもしなかったよな」
そしてまたしばらく沈黙が訪れた。こういうしんみりした雰囲気は苦手なんだが……。
「ねえ、太一は……怖くないの?何されるか分からないのに……」
「いや、そんな事はないけど、なんかイマイチ実感がないって言うかさ――うん。ぶっちゃけ何とかなるだろって思ってる!」
「……私、自分が死ぬのはもちろん嫌だけど、太一が死ぬのも絶対に嫌!きっと耐えられない!!」
香織は抑えていた気持ちを吐き出すようにそう言って涙を流した。
この時、俺は何とか香織を安心させようとして手を握ってこう言った。
「俺は死なないし香織も殺させない。ここに来て最初に言っただろ?絶対に守るって」
「太一……ありがと」
「……うん」
香織は俺に身を寄せて、俺も香織を抱きしめた。
そして俺達はお互い抱き合ったまま横になり、そのまま深い眠りについたのだった。
――翌朝。昨日のメンバーが皆揃った状態で軽く作戦会議が始まった。もちろん部屋の中にハムがいる可能性もあったので、最初に部屋全体を火の魔法で炙ってある。
「とにかくヴォイニッツ洞窟には太一と香織以外近づかない方が良いと?」
ウェイバーがマウロに確認する。
「ああ、奴は殺しに全く躊躇がない。その上に飽きやすい性格だ。興を削がれただけで簡単に太一を殺すかもしれない。洞窟に誰かが同行するのはリスクが高すぎる」
シャロもマウロに聞いた。
「同じ理由でドローンも洞窟内では飛ばさない方がいいかしら」
「ああ、凄く危険だと思う」
「遠くから魔法攻撃出来れば良いんだけどなー。洞窟だから雷魔法は打てないしあの洞窟自体結構デカいからハムがどこにいるかも分かんないし……んーどうすんのコレ?」
エノキも首を捻って困り顔である。
そこでジャンタンが恐らくベストな案を出してきた。
「一つ思ったけどよ。ドローンからカメラだけ抜き取ってそれを太一が首から下げて映像を中継するってのはどうよ?」
それを聞いた皆はちょっとだけ間を置いた後、やがてその方法なら行けるんじゃないか?という気配を醸し出した。
「ソレ……いけるんじゃない?」
シャロは笑顔になってジャンタンの案に賛同する。
ウェイバーもニヤッと笑った。
「ナイスアイデア、ジャンタン!シャロ、ジョージ、早速改造頼めるか?」
「オーケー」
「任しといて!今からいい感じに仕上げるから」
「頼むぜ」
俺はその間、ハムという人物について詳しくマウロに聞くことにした。
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